第1230話:雨上がりの朝空に
――――――――――二〇八日目。
「晴れた。気持ちいい!」
雨上がりの朝の、水滴の輝く景色が好きだ。
もーそれだけで今日がいい日だと確信できる。
今日は凄草植え替えの日。
雨降ったら嫌なだけだろって?
まあそんなことあるけれども。
バアルが言う。
「主は朝が好きであるか?」
「うん、好き。太陽がわざわざあたしを称えるために迎えてくれるんだからね」
「さすが吾が主である。自分勝手な思考に尊敬するである」
「褒められてるんだか貶されてるんだかわからんなー」
「その割にユーちゃん、起きるのは遅いじゃねえか」
「楽しみは取っておくタイプだからだね」
「ええ、ウッソだろ? 楽しみにはすぐ飛びつくんだろ?」
「バレたかー」
アハハと笑い合いながらカカシに言う。
「ゼムリヤでもらってきた作物は、またよろしくね」
「ああ、任せとけ。シーアスパラガスは異質だが……」
塩気のある湿地や潟湖に生育する植物だそうな。
常識外れの野菜だが、今まで畑として使えなかったところも使える可能性がある。
変わったタイプの植物なので期待は大きいのだ。
クララのアドバイスに従い、とりあえず海岸の潮だまりになる区域に植えてきた。
もっと適した場所を見つけられればいいのだが。
「塩水の池造ったとしたら、カカシは塩分の調整もできるの?」
「できるぜ。しかし……」
うむ、カカシの手が足りない。
今でも目一杯働いてもらってるもんな。
カカシがもっと働けるようになるためには……。
「ちなみに凄草はカカシの手を離れると、どれくらいでダメになっちゃうのかな?」
「枯れないだけなら一〇日近く持つと思うぜ? ヘタらないようにということだったら、半日が限界だ」
「カカシをパワーレベリングしよう」
「「は?」」
呆気にとられるバアルとカカシ。
「カカシはうちの畑番としてすげえ一生懸命やってくれてるじゃん? レベルが上がったらもっと楽に働けると思うんだ」
「なるほど、賛成である」
「バアルもそう思う?」
カカシの異能は何かの固有能力なのか、あるいは固有能力ではない独自の力なのかはわからない。
でも大体何でもレベルアップによる恩恵があるからな。
「依り代タイプの精霊をレベリングするという発想が吾が主なのである。誰も思いつかぬである」
「ハッハッハッ、あたしを崇めるがよい!」
カカシも乗り気っぽいし、試しに今度魔境行きだな。
「近い内だよ。どうせ長い時間はまずいんだから、どこかで時間できたら魔境行こうね」
「楽しみにしてるぜ!」
◇
「サイナスさん、おっはよー」
「やあ、いらっしゃい」
灰の民の村にやって来た。
「これお土産。お肉とゼムリヤでもらった作物。育ててみてよ」
「いつもすまないね。お父ちゃんがどうのこうのって言い出すなよ?」
「やだよ、お父つぁんったら。それは言わない約束だよ」
「強引に来るなあ」
アハハと笑い合う。
うちでは麦は育てていないので、全部灰の民の村にお任せすることにした。
「今からショップ行くの?」
「ああ。君も行くんだろ? その木は何だい?」
「サトウカエデ。これもゼムリヤでもらったんだ。樹液が甘いんだって。煮詰めるとシロップになるんだそーな」
「面白い木だな」
「黄の民に増やしてもらおうかと思って」
クララによると木材も有用とのことだ。
黄の民ならうまいこと使ってくれると思う。
「行こうか」
純粋な友好の広場ことJYパークへ。
◇
「おーい、フェイさーん!」
黄の民のショップに来たら、フェイさんが何か指示出してる。
大工仕事かな?
「おお、精霊使いではないか」
ニコと挨拶してくるフェイさん。
あたしがこの表情を真似すると、大体怖がられるからなあ。
何故だ?
「取り込み中ごめんね。これあげる」
「これは? カエデか?」
「サトウカエデ。帝国の北の方でもらったの。樹液が甘くて、向こうでは高級甘味料として知られてるんだ」
「ほう? 結構なものだな」
喜ぶフェイさん。
「もちろん材木としてもいいって言うから」
「うむ。カエデ材は加工は難しいが美しいのだ。装飾材としてよく使われる」
「そーなの?」
建築より家具向けってことかな?
あたしじゃよくわからんけど、木のことはやっぱり黄の民に一日の長があるな。
「甘味料が取れるという性質は実に面白いな」
「黄の民は植樹も精力的にやってるって聞いたからさ。使えそうなら増やしてよ」
「すまんな。礼をしたいが」
「礼なんていいんだよ。邪魔して悪かったね。さいならー」
あたしはドーラにいろんなものが増えると嬉しい。
自分でやるばかりじゃなくて、皆に働いて欲しいのだ。
だから他所で手に入れたものは、向いてそうなところに持っていく。
これもまたあたしの掲げるウィンウィンの思想だね。
青の民のショップへ。
◇
「おっはよー。あれ?」
ディオ君が誰かと話してる。
この人確か……。
「緑の民の絵師さんだよね?」
「おはようございます。ユーラシアさんに注文いただいた旗の絵ですけれども、緑の民に外注しようかと思いまして」
「いいねえ」
得意分野は振ってあげるといいよ。
それが皆のためになる。
「で、何で困り顔してるの? 眉尻を下げれば可愛く見えるってのは大間違いだぞ?」
美少女だけの特権なのだ。
苦笑する二人。
眉毛どうこうの問題ではなかったらしい。
じゃあ何だ?
「仮面の絵を描いてくれってことだったが、とてもこれだけの芸術性を短時間で表現しろってのはムリだ」
「えっ?」
「簡素な造りなのに、じっと見てると圧倒される存在感がありますよね。目が離せないというか」
いや、芸術性をまんまコピーしろってことじゃないんだが。
ただの白旗だと寂しいから、何か描いてくれってだけなんだよ。
でも適当でいいよって言いにくい雰囲気じゃないか。
どーもあのお面は芸術家の魂に火をつけてしまうものらしい。
「注文がアバウトだったのはごめんよ。遅れるとこっちが困るんだ」
「じゃあどうすりゃいい?」
「フクロウの神様を信仰している国で使うんで、このお面じゃなくてもフクロウの絵ならいいんだけど」
「そ、そうかい? 甘えさせてもらおうかな」
あたしも認識が甘かったわ。
フクロウのお面を甘く見てたよ。
見る人が見るといいものなんだなあ。
「じゃ、よろしくお願いしまーす。ディオ君、行こうか」
「はい」
転移の玉を起動し一旦帰宅する。
ドーラでは大麦と小麦以外の麦は見たことない。
もちろん商品価値とゆー面では大麦小麦に他の麦が勝ると思わんけど、変わった使い道があるかもしれないしな。