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第1212話:閣下と悪魔と遠征と

「ごちそーさまっ! おいしかった!」


 レストランドーラ行政府で昼食を御馳走になった。

 ちゃっかりうちの子達も連れてきている。


「今日の午前中は随分働いちゃったよ」

「ハハハ。御苦労様」

「施政館行ってね、帝国騎士爵と特級聖女勲章っていうのもらったんだ」

「特級勇士勲章ですよ」


 新聞記者がいらん訂正をしてくる。

 聖女勲章がいいなあ。

 帝国政府が認めた聖女ってゆーと箔がつくのにな。


「記者さん達はいい記事書けそう?」

「バッチリです。ユーラシアさんが特級聖女勲章にならないかな、モテなくなりそうって言ったところまでしっかり書きます」

「ええ? 何のためにドーラまで来たんだよ」


 笑ってる場合じゃないよ。

 プリンスルキウスの話した内容はちゃんと載せてよ?

 帝国のプリンスファンの要求に応えるためにも。

 

「これであたしも帝国のお貴族様だね」


 プリンスが言う。


「ああ、それは少し違うんだ」

「違うの?」

「貴族扱いになる、ってことなんだ」

「……何が違うのかよくわかんない」


 帝国で貴族とは、あくまで代々皇帝に仕える高位の領主を指すらしい。

 一代騎士爵は、扱いは貴族に準じるが貴族というわけではないそうな。

 聞いてもわからん。

 領地がなければ真の貴族ではないってことかな?


「ふーん。帝国のレトリックはトリッキーだな」

「パーティーの招待状は届くんじゃないでしょうか」

「困ったなー。ドレスなんか持ってないよ。そもそも一〇歳超えてからスカートを穿いたことない」

「騎士爵持ちの親睦会は、くだけた集まりだと聞きますね。皆ユーラシアさんには興味あると思いますよ」

「そっちのが楽しそうだね」


 騎士爵関係でも色々イベントありそう。

 あれ? 招待状ってどこに届くんだろ?


「で、誰かさんがあたしをいかがわしい目で見てくるんだけど?」


 プリンスは目を逸らしたけど、パラキアスさんはやってしまえって顔してる。

 新聞記者トリオは大体知ってるぞ?

 フーゴーさんにも事情知ってて欲しいからピット君にも話しておけって?

 了解。


「じゃーん。大悪魔登場!」

「ハッハッハッ、吾を崇めるがよい!」

「バアルさん、こんにちは」

「うむ、苦しゅうないである」


 ピット君ビックリ。

 新聞記者は挨拶してるけど。


「また悪魔、ですか」

「バアルは主席執政官と組んで対ドーラ戦争を引き起こそうとしたほどの、スケールの大きい悪魔だよ。その計画は麗しの美少女精霊使いによって阻止されたけど」

「歯噛みするほど悔しかったである。しかし吾が主が相手であれば仕方ないと諦めたである」

「バアルはそんなあたしが認めるほどの大悪魔だよ」

「照れるである」


 漫才じゃないよ?

 単なる紹介だから。


「バアルに質問だよ。主席執政官閣下はドーラ遠征が失敗したあと、軍事面ではどう考えていたのかな?」

「武威を示さねばならぬと考えていたである。ドミティウス自身の思惑はもちろんあったであるが、政権の維持運営の必要性からも一部海軍将校の要望もあったのである」

「で、新たな海外遠征が企画されたのか。バアルも煽ったんだよね?」

「戦争による悪感情の収集は吾の利益であるからして当然である」


 部屋の気温が下がった気がするけど気にしない。


「ドーラ独立後は内政や外交に力入れりゃよかった気もするけど、何で主席執政官は戦争したがるのかな? バアルが煽らなくても戦争になると思う?」

「ドーラ戦が不発に終わったため、軍の不満が大きかったである。しかしドミティウスの意向も海外遠征であったであるぞ。戦争は避けられぬである」


 パラキアスさんが頷いている。

 帝国軍の事情は承知してたらしい。


「どこが遠征の対象になりそうだったの?」


 小首をかしげるバアル。


「海外植民地に反乱を起こさせて制圧するか、あるいは小国を征服するかという両方で検討が進められていたである。それ以降のことはわからぬである」

「以上です。現場から大使室にお返ししまーす」


 現場も大使室だった。

 ピット君がつぶやく。


「現帝国政権の勢威を示すために、戦争での勝利が必要。先ほどの魔王と関わりあるソロモコが攻められそうという話に繋がるのか……」

「そゆこと。ソロモコはバアルに直接関係のないところだけどね」

「ユーラシアさんユーラシアさん」


 記者トリオ何?


「現在タムポート港に停泊している軍艦の数が、平時より多いです」

「あっ、教えてくれてありがとう。新聞には書けないことだろうに、ジャーナリストっぽいねえ」

「いえいえ、事後になれば記事にできますし。こちらこそ遠征があることについて、前もって教えていただいてありがたいです」

「……」

「うーん。ピット君はもう少し商売人としてポーカーフェイスを磨いた方がいいね」

「な、何を……」

「わかっちゃうってば。でも守秘義務があるでしょ? 言わなくていいよ」


 ピット君も海外遠征について何かを知ってるようだ。

 おそらくは艦載物資についてだろう。

 『ケーニッヒバウム』が納入してるんだな。

 新聞記者が聞いてくる。


「ソロモコ遠征は失敗するんですか?」

「本当にソロモコが標的になるならね。人類対魔王なんて対立構図になったら迷惑極まりないからお帰りいただく」

「どうやって?」

「その辺はあたしが任された。どうにでもなるから心配しなくていいよ。司令官が頭の固い人じゃなきゃいいんだけど」


 話し合いで追い返せるかはあたしの説得力にかかってる。

 気を引き締めないと。

 

 クリークさんが言う。


「おそらくツェーザル・フィッシャー中将だ。ドーラ戦でも艦隊総司令官だったから、再戦の意味合いが強いなら起用されるはず」

「どんな人?」

「堂々たる体躯の猛将で、生来の軍人であると自ら豪語して憚らない。しかし計算のできる緻密な頭脳を持った方だ。政治家個人との繋がりは薄いと思う」

「戦争やりたがる人だと困るんだけど」

「ドミティウスは単細胞の軍人を好まぬであるぞ」

「ドーラ独立に際しても、帝国の全権委任状を持っていた将軍だ」

「軍人なのに広い視野を持ってると思われてる人なんだねえ。オーケー。だったら人的被害は出ないな。説得してお帰りいただこう」


 プリンスもパラキアスさんも満足そうだし、お開きだな。


「じゃ、帰ろうか。ヴィル、『ケーニッヒバウム』のフーゴーさんと連絡取ってくれる?」

「わかったぬ!」

ピット君の反応から、第一皇子の喪が明けたら遠征という説の根拠が補強された。

おそらくソロモコ遠征で、ツェーザル中将という人が司令官らしい。

話の通じる人みたいだからありがたいな。

遠征前に一度どこかで会えれば嬉しいが……。

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― 新着の感想 ―
[一言] ユーラシアの、かゆい所に速攻で4本くらい届く神の手、衰え知らずですね!そして閣下とのジャブの応酬はどきどきしながら読みました。 一方で小説を拝見するときのもうひとつの楽しみなのですが、今回は…
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