第1207話:ピット君とバーナード君のレベル上げ
「く、空気がどんよりしている」
「重い感じがあるよねえ。魔力濃度が高いせいだと思う」
とゆーかピット君とバーナード君、おっかなビックリなのはしょうがないけど、もうちょっと早く歩きなよ。
クララより遅いってどういうことだ。
「腰が引けて恐々歩いてるとうまそーに見えちゃうから、魔物が寄ってくるかもしれないぞ? いや、その方がレベル上げは捗るかな?」
ハハッ、背筋が伸びたわ。
カクカク歩くのは変わんないけど。
「一番魔境通いしてるのはうちのパーティーだと思うよ。でもまだ魔境の専門家とは言えないんだよね。季節による変化はまだまだこれからチェックしないといけない」
「ん? 強い魔物にチャレンジするとかじゃないのかい?」
「何でだ。あたしは戦闘狂じゃないわ。得にならないことはやらない」
「実入りが多い魔物にはチャレンジするんですよね?」
「当然もちろん当たり前」
笑い。
ちょっと雰囲気柔らかくなった。
「魔境は強い魔物がいるってだけの場所じゃないんだ。場所場所で環境の変化が比較的大きくて、いろんな植物が生えてたりするんだよね」
「有用な植物という意味ですか?」
「うん。採取してドーラの発展に役立てたい」
『永久鉱山』と同様魔力濃度が高いから、素材も得やすいしな。
魔境は経済的な意味でも非常に重要なのだ。
「あちこちに魔物が見えてるでしょ? 勝手なことすると危ないから、戦闘になったら防御体勢ね」
「「はい」」
「ヴィル、二人のお守り頼むよ」
「わかったぬ!」
まあ奇怪な行動取らなきゃ大丈夫だけどな。
「あ、オーガだ。魔境では最も弱いランクの魔物だよ。気は進まないけど倒しておこうか」
「気が進まないというのは?」
「ドロップの確率がすげー低いんだよね。役に立つ素材も得られないから儲からない」
まあでも踊る人形くらいの経験値はあるから。
レッツファイッ!
普通に倒す。
「リフレッシュ! どう?」
「うん、身体が軽い気がする。これがレベルアップの効果か」
バーナード君が満足そうだ。
「もうちょっとレベルが上がってくると、天気予測の効果がハッキリするんじゃないかな」
「レベルって、一上がっただけでこんなに違うんだ」
「一だけじゃないぞ?」
「「え?」」
キョトンとする二人。
「魔境に生息する魔物は経験値が総じて多いんだ。二人とももうレベル三、四くらいはあるはずだよ」
「そうなのかい?」
「うん。まーでもレベルは高くなるほど上がりにくくはなるから。もうちょっと経験値取得効率高いやつを倒しに行くよー」
ザコを倒しながら、より魔力濃度の高い方へ。
「よし、いたいた。デカダンス。あいつは魔宝玉を落とすし、かなり経験値が高いよ。お勧めの魔物」
通常攻撃で普通に倒す。
「透輝玉と、まさか黄金皇珠?」
「おっ、ピット君勉強してるね。デカダンスは必ず透輝玉をドロップ、黄金皇珠はレアドロップだよ。今回はラッキーだった」
今日はレベルアップが目的なので、ダンテには『豊穣祈念』でなくて『実りある経験』を使わせている。
『るんるん』を装備しているといえ、レアドロップは意識してたわけじゃない。
「グリフォンに会わせてやりたかったけど、今日は来ないな」
「「グリフォン?」」
「デカダンスみたいな人形系魔物の亡骸が大好きなんだ。いつも欲しがるから、あげて手懐けてるの」
ピット君が言う。
「ユーラシアさんのやることですから、何らかの意味があるんですよね? 何のメリットがあるんです?」
「おっ、ピット君鋭いね。グリフォンは羽毛を取らせてくれるんだよ」
「羽毛?」
「グリフォンの羽毛は最高の布団材料なんだってよ。いずれお貴族様向けに輸出されると思うからよろしくね。詳しくはベンノさんに聞いて」
バーナード君が唸ってる。
「食性の特徴か……」
「バーナード君はそーゆーの調べたりするの好き? ロック鳥やガルーダも人形系が好きだから、大型の鳥魔物に共通の特徴だと思うよ」
同じようにビクついてる魔境ツアー参加者でも、視点が違うのが面白いなあ。
「バーナード君、どう? もうレベル二〇は軽く越えてるはずだから、固有能力の効果が現れてるんじゃない?」
「ええ。二、三日後の天気まで頭に浮かびます!」
「よーし、バッチリだな。ピット君はどう? 変化あった?」
「身体が信じられないくらい動くようになりましたよ」
「そんだけだったか。ピット君も何かの固有能力持ちなんだけどな。スキル覚える能力じゃなかったみたいだね」
「えっ?」
やっぱ知らなかったようだ。
ピット君ほど有力者の一族であっても、帝国では固有能力を調べないものなんだな。
もっともレベル上げの手段がないんじゃ、固有能力調べてもほとんど意味がないと思われる。
「ボクが固有能力持ち?」
「うん。珍しいタイプじゃなさそうだけど、実用的な固有能力だと思う。ただあたし『鑑定』能力持ちじゃないから、詳しいことわかんないんだよね。あとで調べてもらおうか」
「はい!」
ハハッ、ピット君嬉しそう。
「さて、ボチボチ帰ろうか。……アイスドラゴンがいるね。最後に倒していこ」
「「えっ!」」
何だよあんた達今更。
アトラクションって言葉を知らないのか。
サービスだよサービス。
「ドラゴンってあのドラゴンでしょ? 倒すと『ドラゴンスレイヤー』って呼ばれる」
「そーだよ。『ドラゴンスレイヤー』になっても特別メリットないけど。倒すと『逆鱗』っていうレア素材が手に入るよ」
「ドラゴンって強力で凶悪でおぞましい魔物なんでしょう?」
「だから違うとゆーのに。まあでもレベル五〇くらいのパーティーじゃ八割方全滅するかなってくらいには強力ではある」
「レベル五〇で全滅……」
「神様ヘルプ神様ヘルプ神様ヘルプ……」
もーうざいなあ。
舐めて軽はずみなアクション取られるよりいいか。
「一発くらい攻撃食らうかもしれないけど、あんた達のレベルなら耐えられるから、しっかりガードしててね」
レッツファイッ!
爪攻撃をアトムが食らったけど雑魚は往ね!
「はい、終わり。どうってことなかったでしょ?」
呆然とするピット君。
「もう終わりなんですか? もっと苦労してくれないと、『輝かしき勇者の冒険』っぽくない」
「何を要求してるんだよ! 有害図書じゃなくて『精霊使いユーラシアのサーガ』を読め!」
マジで『輝かしき勇者の冒険』は帝国人皆読んでるな。




