第1204話:パワーカードの可能性
「美少女精霊使いユーラシア他五名参上!」
「御主人!」
「よーし、ヴィルいい子!」
行政府大使室に転移してきた。
飛びついてきたヴィルをぎゅっとしてやる。
プリンスがニコニコしながら挨拶してくれる。
「やあ、こんにちは」
「新聞記者さん達を連れてきたよ」
「ありがとう。おや、君ピット君だろう? フーゴー殿の孫の」
「そうです。覚えていてくださって恐縮です」
「ドーラに来たかったみたい。フーゴーさんにも頼まれたんだ。友達いないから遊んでやってくれって」
「そんなんじゃないですよ!」
「ハハハ。精霊使いに連れ回されて腰を抜かさないようにな」
何と失礼なことを。
腰抜かすまで遊んでやれとゆーフラグかな?
「記者諸君、こちらへ来てくれるかな」
「「「はい!」」」
応接スペースの方で記者トリオと話か。
プリンスとドーラの将来に関わってくるかもしれないから、じっくり語ってください。
ちょっと時間がかかりそう。
あたしはピット君連れて出かけてくるベ。
「公爵一行がパッフェルに着いたら、一度様子見てこようと思ってるんだ。パッフェル面白いところかなー」
「そうか」
パウリーネさんからの手紙がないと察してシュンとするプリンス。
我慢してなよ。
同行者がいるから、口に出しては言わんけど。
「じゃ、あたしとピット君は昼頃戻ってくるから、御飯食べさせてくれる?」
新聞記者が嬉しそうに言う。
「レストランドーラ行政府ですね?」
「あっ、それここで言っちゃダメだろーが!」
「ダメだぬ!」
アハハと笑い合い、転移の玉を起動し一旦帰宅する。
◇
フイィィーンシュパパパッ。
イシュトバーンさん家にやって来た。
「こんにちはー」
「やあ、精霊使いじゃないか」
「おっ、ノア。美少女番を任されるようになったとは、出世したね」
気負いもないし、馴染んでるじゃないか。
『ララバイ』みたいな結構な固有能力持ちがグレるとえらいことだ。
納得してお仕事してるのはいいことだね。
「ところでそちらは?」
「帝都のスイーツ料理人と『ケーニッヒバウム』のボンボンだよ」
「ほう?」
ノアの前髪で隠れてない方の目が好奇心を湛える。
あ、イシュトバーンさんが飛んできた。
「こんにちはー」
「旦那様。精霊使い殿他二人お客人がお見えです」
互いに紹介する。
「おお、待ってたぜ。レシピの解明は正直行き詰まってるんだ」
「帝都のグルメ女王の推薦なんだ」
「期待してるぜ。で、こっちの小僧がフーゴーさんの孫か」
えっちな目付きで遠慮なく眺めまわすイシュトバーンさん。
「あんまり似てねえな?」
「ピット君、研究者っぽいんだよねえ」
「そうですか?」
研究者っていうのはかなり配慮した言い方だ。
ぶっちゃけ小悪党っぽい。
イシュトバーンさんはあえて言わないが、抜け目なさそうなところが前面に出過ぎてるんだよな。
商人として悪くはないものの、大店の跡継ぎとしてはどうだろう?
「フーゴーさんに、ドーラを見聞させてやってって頼まれてるんだ」
「おう。行ってこい」
「イシュトバーンさん、カンがいいね」
「あんたのやりそうなことはわかってるぜ」
イシュトバーンさんがついてくるって言わない。
ピット君を魔境ツアーの強制参加者にすることに気付いたらしい。
イシュトバーンさんは好奇心旺盛な人だが、魔境に行こうとはしないんだよな。
以前あたしの言った、魔境に捨ててくるってのを警戒してるのかしらん?
「じゃーねー」
ピット君にはドーラ発のファッションのことを少し話してある。
まずセレシアさんの店だな。
◇
道すがらピット君が聞いてくる。
「イシュトバーンさんは飛行魔法の使い手なんですね?」
「いや、違うんだ。こういうものがあるの」
ピット君に『遊歩』のパワーカードを見せる。
「……これは? 最近帝都にも入っている『ウォームプレート』に似てますね」
「さすがはピット君だな。『ウォームプレート』を既にチェックしてたか。あれと同じ仕組みのものだよ。パワーカードって総称するんだ」
「パワーカード? 『ウォームプレート』は所持者の魔力を流し込むことで起動するって聞きましたけど」
「うん。身近なもので言うと『光る石』みたいな理屈なんだよね」
『光る石』は素材の一種で、手持ちの照明器具としてかなり普及している。
厳密に言うと『光る石』は体内のマジックポイントを僅かに消費するが、通常のパワーカードは起動のみではマジックポイントを消費しないという違いはある。
理屈はよくわからんけど、パワーカード自身にちょっとしたマジックポイント自動回復みたいなもんが備わってるのかなと思ってる。
「この『遊歩』のカードは『ソロフライ』っていう一人用飛行魔法が自動で発動するってやつなんだ。しかもマジックポイント自動回復付きだから飛び放題」
「……とだけ聞くとすごそうですね。普及してないのは理由があるんでしょう?」
「飛行魔法ってレベル依存なんだよ。だからこの『遊歩』もレベル二〇くらいはないと使えないの」
「そういうオチでしたか。値段の問題なら交渉しようかと思ってましたが」
「ドーラでの価格は二〇〇〇ゴールドだよ。移動に便利だから、高レベルの人は喜んで買ってくね」
驚くピット君。
「二〇〇〇ゴールド? 安い!」
「だよねえ」
標準的なパワーカードの価格一五〇〇ゴールドって、無茶しなきゃ壊れないことを考えるとかなり安い。
「パワーカードって元々装備品でさ。精霊でも使える武器防具としてあたしも採用してたんだけど、使ってる内にいろんな可能性があることに気付いたんだ。武器防具じゃ帝国に輸出できないじゃん? 日常に使えて便利なものなら売り物になるかなと思って」
「ははあ、なるほど。その成果が『ウォームプレート』ですか」
「まあそう。ピット君興味ある? あとでパワーカード職人のところにも行ってみようか。実現できそうな面白いアイデア出してくれたら、帝国向けは『ケーニッヒバウム』に独占的に卸すことだってできると思うよ」
「本当ですか?」
「うん」
ピット君喜んでるけど、アイデア料と相殺って意味だぞ?
『ケーニッヒバウム』くらいデカい店で扱ってくれるなら、独占でも一向に構わんし。
しかしそうなると、パワーカード職人の数が欲しいなー。
増やし過ぎもよくないってわかってはいるけど。




