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6.王国サイド

残された王国視点です

 




 モンポット王国の建国記念パーティーはその場で中止となった。




 それもそうだろう。

 王子の暴挙に始まり、かのドクマール魔帝国皇太子と真の聖女である皇太子妃の登場、はては古い物語に伝わる取り替え子の事実。


 自国の民どころか、他国の貴賓達も混乱した。

 当事者であるエイダン、ジェナス、キティの三人に至っては、自己弁護のような暴言を吐き続ける。この場のトップとして場を整える事も何もしない。

 それからは、伝達の魔法道具で指示を受けた臣下達により、速やかに処理が行われた。


 国王夫妻とカーマイン公爵は、王都より馬車で小一時間かかる所にいた。

 国の主な収入源である貿易に関わる重大な案件で、どうしても先延ばしにできなかったのだ。

 例年、建国記念パーティーは平和に終わっている。その慢心と王子の資質を改めて見るべく、ベテランの臣下を多く残して王都を出た。




 その結果がこの惨状。怒りに肩を震わせた三人は、元凶を牢に入れる様に指示を出し、日が昇ると共に城へと戻ってきた。









「この、馬鹿者共が! 何をしたか分かっておるのか!?」


 グレッグ・モンポット国王の怒声を浴びせられ、エイダン達は萎縮した。声量のあまり、近くの窓が震える。



 玉座の間で、エイダン、ジェナス、キティは膝を突いていた。正確には、騎士達によって座らせられたのである。屈辱的な姿だが、今のグレッグに何を言っても火に油だと口を噤む。

 キティだけは喚いたが、あまりの怒声に涙目だ。

 玉座から立ち上がらんばかりに怒り狂うグレッグの横で、王妃テレサが頭を押さえている。

 王の横でマックスはただ、何の感情もない瞳で息子を見下ろしていた。


「モンポット国のような小国が、偶然とはいえドクマール魔帝国との繋がりを得たのだぞ!? 他に渡さぬよう、お前の婚約者にしたというのに!」

「ですが、父上は何も言っては」

「では聞くが! 『ルルーミネ嬢はドクマール魔帝国の皇女だから丁重に扱え』と言われて、お前は素直に従ったか!?」

「あ、当たり前で」

「無理でしょうね。お前は(へりくだ)るという行為が嫌いでしょう? おまけに、カーマイン公爵の息子と仲が良く、ルルーミネ嬢と会う前から嫌悪感を持っていました。事実を伝えていても、『こんな女の機嫌をとって生きるなんて真っ平御免だ』と怒りを煮えたぎらせる様が手に取るように見えますわ」


 淡々とテレサが告げる内容は、エイダンの図星を突いていた。咄嗟に言い訳が思いつかず、テレサの言葉が事実だとはっきり示す。

 顔を真っ白にして俯くエイダンから目を離し、隣へ移行した。

 唇を噛み締めたジェナスに、冷たい視線が降り注ぐ。

 エイダンと違い、反省の色が薄い。

 それを見て、マックスがゆっくりと口を開く。


「ジェナス。実妹の首を斬り落として、英雄気取りか?」

「私はあれを一度とて妹と思ったことはありません。私の妹はここにいるキティです」

「まだ、世迷言をほざく気力があるようだな」

「世迷言? いいえ、事実です。キティは聖女ではなかったけれども、カーマイン公爵家の一員であることは間違いありません」


 はっきりと断言するジェナスを、キティはうっとりと見つめる。逆に、エイダンは目を見開いて凝視した。

 その反応から、事実の認識に関してはエイダンの方が出来ているようだ。

 重く深いため息をついたマックスが、呆れたように問いかける。





「そこまでして、その娘が妹と信じる理由は何だ?」

「父上こそ何を言っているのですか? ()()()()()。これこそがカーマイン公爵家の証ではありませんか」





 ジェナスは鼻で笑って言い放つ。あまりの堂々とした態度に、開いた口が塞がらない。

 それを良い方へ解釈したジェナスは、高らかに言葉を紡いだ。


「『カーマイン』は初代がその髪色と優れた炎魔法により、国王より頂いた名です。私は先祖の、その血筋を誇りに思っています。ルルーミネのおぞましい白色、氷魔法なぞ論外。妹だと言う向こうの皇太子妃は、赤みが強い金髪。魔法は知りませんが、カーマインを名乗る事自体が烏滸がましい」


 国同士の力関係を理解しているはずだが、ジェナスの暴言は止まらない。

 周りに控える臣下や騎士達、果てはエイダンまでがグレッグ達が怒りを募らせる様に戦慄している。

 語る当人と胸を張るキティだけが気づいていない。


「カーマイン公爵家は、貴族の誇りを、体裁を保つ必要があります! 炎魔法は人目では分かりづらいが、誰の目にも分かりやすい象徴、それが赤髪です! そう、()()()()()()()!」






 次の瞬間、ジェナスの恍惚とした顔に拳がめり込んでいた。





 騎士が押さえていた為、吹き飛びこそしなかったが思い切り仰け反った。

 キティの甲高い悲鳴が轟く。ジェナスの前では、肩で大きく呼吸をするマックスがめり込ませた拳を震わせていた。

 遠くから見ていた貴族は、マックスが炎魔法以外にも風魔法の適性があり、あの言葉と共に自分の体へ追い風をかけさせたのだと判断できた。

 曲がった鼻から血が漏れる。突然の暴力に、ジェナスは目を白黒させた。


「ふぁ、ふぇ?」

「貴様ぁ…………! 実の母さえも分からないのかぁ!?」


 呼び方からも伝わる程、マックスは怒り狂っている。再び振り上げた拳は、ジェナスの側面を捉えた。


「ぐっ……!」

「サーシャは! プラチナブロンドの! 光が反射して! 凛としていた! 美しい女性(ひと)だった! 言え! 誰と間違えた!? 私の愛する人を! どこぞの女と間違えたのだ!?」


 一つ叫ぶ毎に、拳が飛ぶ。ボコボコに殴られるジェナスの姿を、国王夫妻は冷たく見つめている。マックスの拳についた血がキティの方へ飛び、またもや悲鳴が上がった。

 グレッグが目で騎士に指示をし、壁際に控えていた騎士が二人がかりでマックスの腕を押さえて、ジェナスから距離を取らせる。

 怒りで興奮した様は落ち着く兆しを見せず、見るも無惨に腫れ上がった息子を睨みつけたままだ。


「カーマイン公爵。それ以上は、貴殿の手が穢れてしまう。貴殿と奥方の仲睦まじい姿は、我々が覚えておる」

「…………はい、御前のお目汚し、申し訳ございません」

「許そう。おい、そ奴が話せるだけの処置をしてやれ」

「「承知しました」」


 グレッグの一声でマックスはひとまずは落ち着き、手が空いた騎士が最低限の処置を施す。

 もはや誰だか識別できないジェナスだが、なんとか声が出せる様になった。

 それを見て、最初に口火を切ったのはテレサだった。


エイダンよりもジェナスの方が危険です

いろいろな意味で

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― 新着の感想 ―
[一言] まあ息子をここまで増長させた公爵も責任は有るんだが。 事実認識、遅ればせながら出来た第1王子と、ただの基地外の公爵家令息か。
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