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タイトル回収
疑念の目がキティに向く。
それに気づいたキティは周りを振り払い、エイダンの腕の中へ飛び込む。頼られたエイダンも身を呈して、キティを隠した。
ジェナスは後ろの二人を守るべく、同じ様にまとわりつく人を払って剣先を少女へ向けた。
「貴様! そこの化け物の仲間か!? 聖女の真似事などして、騙されると思うか!? 我が物顔で我が国を歩くなど無礼千万! とっとと立ち去れ!」
「うーわー、思い込みがひどぉい。ルルちゃん、よくアレと一緒に過ごせてたねぇ?」
「基本的に、無視されていたもの。ねぇ、レイド様?」
「ひゃい!?」
ルルーミネが声をかけると、レイドは声を裏返してカチコチに固まった。
憧れの想い人に気にかけられ、緊張しているようだ。
なんて可愛らしい。ルルーミネは堪らず、レイドの手を取って自分の手を乗せた。
それだけで、レイドは茹で蛸のように真っ赤になる。あまりにも愛らしすぎて、胸がキュンキュンと締め付けられる。
「ああああああの、るる、ルルーミネ様!? えと、その」
「レイド様。先程の勇姿、とても感動しましたの。全身が甘く痺れて、貴方に恋したと実感致しましたわ。私が貴方を連れて生涯を共にしたいと言ったら、今ある全てを捨てて来てくれますか?」
「お、俺に様なんて、不要です! え、夢? 憧れのルルーミネ様が、俺なんかを望、望ぞぞぞぞ?」
「現実ですわ……ねぇ、頷いてくださいませ」
ゆっくりと体を近づけ、頭一つ分小さなレイドの耳元に顔を近づける。そうして吐息と共に囁けば、口をぱくぱくと動かしながら何度も頷いてくれた。
とても嬉しい。喜びに浸るルルーミネの耳に、青年の手を叩く音が届いた。
「さて! オレとコリーはルルとそこの男爵子息を連れて帰る! 詳しい事は後で父上が国王相手にやるだろ」
「な、何を勝手に」
「それと、自己紹介でもしておこう。いやはや、どこに行っても皆わかるから、自己紹介なぞ初めてだな。オレはリュシオン・ドクマール。ドクマール魔帝国が皇太子! そこにいるが我が最・愛! 聖女、メランコリー・ドクマァァァル!」
「ワタシはちゃんとぉ、教会のお墨付きがありまぁす」
楽しそうなリュシオンとメランコリーとは対照的に、会場の貴族はみるみる青ざめていく。
この世界は二分割され、片方は瘴気に満ちている。
聖側と魔側と別れており、魔側の国には魔という字が入る。
また、謁見などで相手側の国に入る場合、魔側は黒のベールを、聖側は白のベールを後頭部に括る。
だからといって、基本的にはどちらも生活に変わりはない。
ただ、瘴気は生態を狂わせる性質があり、メリットとデメリットを等しく与える。
所謂、亜人と呼ばれる種族は全て魔側だ。尤も、はっきりとした線引きは異種婚姻によりなくなり、殆どが混血である。
強く出ている種の血が一番濃いと、その程度の認識だ。
ドクマール魔帝国の王族は、ヴァンパイアの血がそれに値する。
心臓に杭を打ちつけられる以外で外傷の死はなく、美しい容姿を持つという。
モンポット国は聖側にある小国の一つ。
対して、ドクマール魔帝国は魔側で一二を争う大国だ。
そもそも、聖側よりも魔側の方が発展しているのだ。仮に同じ規模の国でも、魔側の方が上になる。
国のトップ自らによる非礼の数々。戦争になれば、物理的にも社会的にも一瞬で潰されるだろう。
また、真の聖女の登場も血の気を引かせる原因だ。
ドクマール魔帝国の皇太子は、幼い頃からの婚約者、数ヶ月前に婚姻したという妻を溺愛している。
その噂は、この国でも囁かれていたことだ。
その妻を差し置いて、聖女と名乗る。不敬としか取られない行動だ。
ようやく、事の大きさに気づいたエイダンとジェナスに動揺が現れた。今更である。
静まり返った会場に、リュシオンは満足そうに頷く。ご機嫌のまま、メランコリーやルルーミネ、レイドの方へと歩いてくる。
それを見て、レイドは手を優しく退けると、恭しく頭を下げた。
「い、偉大なるドクマール魔帝国が皇太子殿下、お初にお目にかかります! ここ、こ、此度は」
「堅苦しい態度はいらんぞ、義弟」
「は、え、ええ?」
「お兄様。レイド様を困らせないで」
「ハハッ、すまんすまん! しっかし、約束付きの婚約が無くなった途端にいい人見つけるとはな!」
「お兄様の気持ちが少しわかったわ」
「そうだろ? 最後に、二人の自己紹介はどうだ?」
「素敵な意趣返しね」
「やりまぁす」
ウキウキとする二人を見つつ、レイドの方を見る。困惑の色がはっきりと見え、それがまた胸に響く。
頭にペタンと垂れた犬耳が着いているようだ。ルルーミネにしか見えない犬耳。可愛いとしか言えない。
きっと、産まれ落ちた時の事件は、レイドと出会う為のものだったのだ。
メランコリーと並び、会場の人々へ完璧なカーテシーを披露した。
「改めまして。ルルーミネ・ドクマール、ドクマール魔帝国が皇女です」
「旧姓、メランコリー・カーマインでぇす。ワタシ達ぃ、取り換え子なんですぅ。詳しい事はぁ、後でお義父様から聞いてくださぁい」
衝撃の暴露に一瞬の硬直、それから今日一番のざわめきが起こった。
何か言おうとしてくる貴族達を尻目に、気が済んだリュシオンが指を鳴らす。
次の瞬間、ルルーミネ達四人は馬車の中にいた。
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