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第一話だけでも、ブクマやいいねが多くて驚いております

続きへのモチベーションになります

 

 鈍い音が立て続けに響く。切り裂かれたルルーミネ公爵令嬢の体と首が、それぞれ床に落ちた音だ。


 瞬きする間の出来事。現実味を帯びない状況に、誰もが固まっていた。徐々に硬直が解け、脳が動き出す。

 それを知ってか分からないが、エイダン王子が高らかに叫ぶ。


「怯えなくていいんだ! ボク達を誑かす悪魔を、排除しただけだ! 罪人を成敗したジェナス・カーマイン公爵令息に盛大な拍手を!」

「さすがお兄様ですわ!」


 エイダンの誇らしげな声の後に、キティが嬉しそうに拍手をする。それを受けて、ジェナスは胸を張った。


 だが、目の前で行われた殺人は、とてもでは無いが讃えられない。


 若い者は惨劇のショックで、年老いた者はこの先の不穏にどよめいている。

 静まり返った室内で、キティとその周りを囲む令息の小さな拍手だけが鳴り響いた。


「どうしたのだ皆の者! 記念すべき建国の日に、悪を討ち取った英雄を讃えるんだ!」

「ふざけないでください!」


 エイダンの促す声の直後、反発の声が叫ばれた。勝利の余韻を消され、三人の顔が険しくなる。

 そして、声がした方を睨みつけた。鋭い視線に、関係ない人達が左右に避ける。

 そうしてできた空間で、一人の少年が肩を震わせていた。



 あどけなさが残る少年だ。貴族らしからぬ少し大きい服は、家計の財状が良くないとわかってしまう。

 グレープ色の髪は無造作に伸び、毛先が傷んでいる。それより薄い瞳は黒縁メガネの奥で、怒りを滾らせていた。



 下位貴族が王族と高位貴族を睨む。ありえない事態に、周りは混乱しつつも見守るしかできない。


「無礼者! エイダン殿下のお言葉を遮るとは、不敬である! 名を名乗れ、愚か者めが!」

「れ、レイド・シェーダンです!」


 その名前に、貴族達はまたざわめいた。




 シェーダン家といえば、キティの前に噂の的となっていた男爵家だ。




 現当主がメイドに手をつけ、産まれた子。

 本妻との間に娘しかいないことを聞きつけ、男爵家に押し入り養子になった恥知らず。


 その噂を思い出し、三人は余裕を取り戻した。エイダンに至っては、威勢だけのレイドを鼻で笑う。


「おやおや? 男爵家では、身分が上の者に対する礼儀を教えていないのか?」

「所詮、愛人の子ですから、金を注がれなかったんでしょうね」

「やだ、カワイソー」


 馬鹿にする態度の三人に対し、レイドは冷静なままだ。

 冷ややかな視線を送り、やがて大きなため息をついた。


「敬意を持つ方へならきちんと対応します。でも、身分だけの貴方達に表す礼儀なんてありません!」

「なっ……!?」

「そもそも! 貴族なんて興味ありません! クズ父が母の死後に勝手に引き取っただけです! その噂は本妻様と異母姉妹が流したもの! 少し調べれば分かることです!」


 さっと顔を背ける貴族が数十人。散々噂をした後に真実を知り、いたたまれなくなった者達だ。

 レイドは周りの様子に目もくれず、思わずたじろいだ三人へ冷静な言葉を吐く。


「まぁ、貴方達は調べていないと思いましたよ。ルルーミネ様の噂もそこの聖女の噂も、全く裏取りしてないでしょう? そうでなければ、こんな愚行するはずがないですから」

「はぁ!? そんなの、あんたに関係ないでしょ!」

「そうだ、キティの言う通りだ!」

「話を摩り替える気か!?」


 キティのヒステリックをきっかけに、エイダンとジェナスは勢いを取り戻した。

 喚き散らす語彙力の少ない暴言に、レイドは負けじと口を開く。


「では確認しますが! ルルーミネ様が偽者でそちらの女性が本物かつ聖女だと! その根拠を示してください!」

「キティがそう言っているだろう!?」

「当事者の言葉など当てになりません! 罪人など、裁判で有罪となった者を指します! それに今日は、初代が長き戦いを終えて平和と繁栄を願った日です! わざわざ平和を祝うこの日に! 他国の方々もいる前で! 反論もさせずに令嬢を斬り殺す! そこまでするに値する物的証拠をお出しください! そうでなければ、貴方達が邪魔なルルーミネ様を殺す為の茶番じゃないですか!」


 一言一句、強調するように叫ぶレイド。その言葉に、同調する声が聞こえ始めた。



 ルルーミネ・カーマイン公爵令嬢が捕縛された。

 裁判にかけられた。死罪を言い渡された。

 そのような話は全く出ていない。



 疑惑の目が向けられ始め、エイダンはキティを視線から隠すように胸に抱く。

 更にその前にジェナスが立ち、レイドを睨みつけた。

 剣技も立つジェナスの眼光は鋭く、レイドの体が震える。自分の手で震えを押さえながら、レイドは毅然と立ち向かう。


「あの女は悪魔だ! あの不気味な色合い、全く動かない表情! カーマイン公爵家の血筋とは思えない!」

「それは貴方個人の感情でしょう!? カーマイン公爵は認めていらっしゃるのに! それに、表情が全く変わらないというのは、貴方達の色眼鏡有りきです!」


 そこで一度言葉を区切り、レイドは悲しげに表情を変えた。

 開いた口から出る声は先程の大声に比べれば小さいが、はっきりと周りの耳に届く。


「昼食にベリー系、特にラズベリーがあると、ふんわりと微笑んでいました。青い花が好きなようで、青のサルビアが咲き誇っている所を見た時、足取りが軽くなっていました。ご自身は何を言われても気に止めて居ないようでしたが、ルルーミネ様を通したカーマイン公爵への陰口には悲しげに目を伏せていました。どれもこれも数秒の変化でしたが、近くにいれば感じ取れたはずです!」

「ん? 待て。何故お前が知っているんだ? まさか、あの化け物が好きなのか! これは面白い!」


 エイダンがレイドを見下し、腹を抱えて笑い出す。連られてキティも冷笑した。

 馬鹿にしきった笑いに、レイドは拳に力を込める。

 エイダン達というよりは、自分に対して怒りを向けているように見えた。


「ええ、そうですよ。急に貴族にされて、ネチネチと嫌がらせされて。苦痛の日々の中、俺以上に酷い現状でも毅然とした態度のルルーミネ様は、正に憧れの人でした。あの人だけが、この生活の光でした……! いずれは、王妃となる方の幸せを遠くから望むだけで良かったんです……!」


 ギリィと歯を食いしばる音がした。これ以上、感情のままに叫ばない様にしたのかもしれない。

 だが、ルルーミネの死に様が、レイドの感情を昂らせて止まらない。


「こんな、こんな屈辱的に死んでいい人ではない! ルルーミネ様の立場を考えて、ずっと気持ちを抑えていたのに…………! こんな事になるなら! 俺に力があれば! どこかに連れ去ってしまえたのに!」






()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()







 凛とした声が、響く。聞こえるはずのない声。

 紛れもなく、()()()()()()()()()()







喋る生首。

詳しくは徐々に明らかになります

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[良い点] ゆっくりなルルさんw
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