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母親登場
「余の圧に耐え、しかと状況を判断し的確な言葉を伝える姿。この映像で大抵の者はふるい落とせるだろう」
「その映像、私にもくださいませ」
「わかっておる。さて、用事は終わりだ。ミルティを呼んできておくれ」
アンドロスが近くに兵士に声を掛け、命を受けた兵士が返答して出ていく。その名前に、ルルーミネは少し強ばった。
アンドロスの妻、リュシオンとルルーミネの母。しかし、ルルーミネは少し苦手である。
理由は簡単で、性格が合わないのだ。
「ルルちゃ~ん!」
暫くして、呑気な掛け声と共にミルティが入ってきた。
ターコイズの髪にアイスブルーの瞳。ルルーミネの持つ色彩を濃く表しているが、髪は緩く巻かれて満面の笑みをしている。
その笑みはルルーミネを見るなり失せ、代わりに頬を膨らませて怒りを表す。
「もぉ、また仏頂面! 女の子なんだから、にっこり笑顔でいなきゃ~」
人差し指で自分の口角を上げ、笑顔の例を見せる。それができたらとうの昔にしていると、ため息で言葉を濁した。
スノーの血筋は母方だが、母自身はメロウだ。
男を魅了し海に連れ立つ人魚。混血により魚の下半身はないが、手足にある水掻きが名残だ。
ミルティは海ではなく陸でアンドロスと過ごしており、魅了手段だった笑顔を好む。
自身に似た母の笑顔は見慣れないが、嫌いではない。しかし、それを悪気なく娘に勧めないで欲しい。
ミルティの叔父がスノーなので表情が苦手と理解しているらしいが、女は笑顔と本能が勝っているのだろう。
口調も柔らかいもので、メランコリーはミルティに似たとすぐわかる。
初めて会った時に、取り替えられて安心してしまった位だ。
「お久しぶりです、お母様」
「口調もかた~い。久しぶりなんだから、ママとか呼んで~甘えてもいいのよ~?」
「あの、皇妃殿下。発言の許可を頂いてもよろしいでしょうか?」
不意に、レイドが会話に割り込んだ。顔を覗き込むと、真剣な眼差しをしている。またもや胸が高鳴った。
ミルティはきょとんとした後、ぱぁっと顔を輝かせて手を打った。
「まぁ! 貴方がルルちゃんを庇ってくれた子ね~。いちいち許可なんて取れなくてもいいのよ~。たっくさん、お喋りしましょ~?」
「では、一つだけ……ルミ様が困惑されてますから、笑顔の強要はよくないかと……」
おずおずと述べた内容は、ルルーミネの擁護。雷が迸った様な衝撃に襲われた。
愛おしさが込み上げてくる。衝動のまま、レイドをこちらに振り向かせて思いっきり抱きしめた。
「ルッ」
「レイド様! 私、嬉しくて堪らないですわ……!」
「あら~? わたし、ルルちゃん困らせていたのね~ごめんなさ~い。でも、ルルちゃんの変化が分かるなんて~スノーに負けない愛情深さだわ~」
「ええ、とても素晴らしい方ですわ! 渡しませんわよ?」
「当たり前じゃな~い。それより~彼、ルルちゃんのお胸で窒息しそうよ~」
ミルティが指で示す先は、ルルーミネの胸元。向きを変えた故に、谷間にレイドの顔面を押し付ける形となった。
そこで抵抗しようとした腕が空中で止まり、小刻みに動いている。見える範囲の肌は、真っ赤だ。
慌てて手を離せば、レイドはその場でへたり込む。ますますルルーミネは慌てた。
「レイド様!? ごめんなさい、大丈夫ですか?」
「あ、う、はい……一応……」
「一応? 立てないようですが……もしかして、私に興奮されましたの? そうなら、急いでベッドの準備をさせますが」
「だから展開が早すぎですって!」
真っ赤な顔を手で覆い隠すレイド。照れ隠しも胸に来るものがある。じっくりと眺めていると、ミルティが息をついた。
「ルルちゃん。こういうタイプはね~ホントにゆっくり進まないと、何時まで経っても進まないのよ~?」
「ゆっくり」
「そぉ。時間をかけて~じっくりねっとり~」
「なるほど。参考にしますわ」
恋愛に関しては、ミルティの方が何枚も上手だ。貴重な意見はありがたくもらい、使うに限る。
そのまま可愛らしいレイドを凝視していると、何か話しあっていた三人が近づいて来た。
「ミルティ、ルル、それにレイド少年。今後の予定を伝えておくのう」
「あら〜? わたしや彼はともかく〜、ルルちゃんはお話し合いに参加してないわよ〜」
「母様。今のルルは恋したばかりだ。義弟を知りつくそうとして、他の事に関してはすっぽ抜けてしまうさ」
言いながら、リュシオンが目線で同意を求める。その通りなので、首を縦に振った。
五歳でこの道を通っただけあって、リュシオンは察しがいい。そもそも、国に来ること自体が初めてだ。
その辺は最初から家族に丸投げするしかない。
「ルル。皇女帰国の記念式典を二ヶ月後に行う。それまでは、この国でのんびりと過ごすがいい」
「二ヶ月後ですの? てっきり、早急に準備して出来次第執り行うかと思いましたわ」
「最初はそうしようと思ったがのう。一週間後に外せない用事、その後処理の時間を含んでおる」
「それとぉ、レードくんがぁ、この国を学ぶ時間だよぉ」
「あと、義弟の衣食住の準備だな! 揃いの服を仕立てたいだろ?」
「さすがお父様達ですわ」
小さく拍手を送る。レイドは今のままでも素敵だが、さらに魅力を増す事に異論はない。
聖側と魔側では礼儀作法や歴史などが異なり、学ぶ事は多い。だが、レイドの頭脳と向上心は二ヶ月もあればきっと覚えるはずだ。
本当に全てを捨て、その身一つでルルーミネを選んでくれたレイド。
最高級のケアと、服と、その他諸々。改めて考えれば、二ヶ月では逆に足りない位だ。
「婚姻に関しては、一年を経過してからまた考えよう」
「いえ、一年後きっかりに結婚しますわ。豪勢でも簡素でも、一刻も早く名実共にレイド様の妻になりたいですの」
「わかっておる。レイド少年の頭脳なら教育は問題ないだろうが、横槍がちと不安でのう」
「こ、皇帝陛下や、皇妃殿下は、俺でいいのですか……?」
話を聞いていたレイドが、不安げに尋ねた。自己肯定感の低さは、置かれた環境の所為だろう。
ルルーミネは改善させる事を決意する。その間に、アンドロスとミルティは優しく微笑みかけた。
「ルルがお気に入りにした相手だ。それに、余の圧にも負けぬ根性とルルへの愛。お主以上に、ルルを任せられる相手はおらんよ」
「そうよ~。ルルちゃんの表情を読み取れる貴方! わたしは大歓迎~」
「欠点はちと真面目過ぎる所だのう。慣れたらで良い。是非とも義父と呼んで欲しい」
「わたしも~!」
両親の言葉に安堵したらしく、レイドは小さく笑った。その笑顔がまた一段と胸に来て、ルルーミネは再びレイドを抱きしめた。
帝国入国編終了。
あと王国サイドとエピローグでと完結です。
それまでお付き合いしていただければ嬉しいです。




