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異世界恋愛の長編にチャレンジしました。

 



 鋭い痛みが首に走った瞬間、視線が高く舞い上がった。




 自由に動かせない視点が、辺りを見下ろしている。

 先程まで自分を囲んでいた見物客は皆、驚愕の表情だ。


 違う表情をしている者は三人。

 自分の前で対峙していた婚約者、その真実のお相手と言い張る自称聖女。二人は互いに抱き合いながら、勝ち誇った笑みを隠しもしない。

 そして、自分の兄。自分の体の前に立ち、剣を振り払っていた。剣は赤い液体に濡れ、飛沫が飛んでいる。


 真下にある、自分の体。トルソーと見間違えそうな体は、平らな首から赤い液体を滲ませている。





 ()()()()()()()

 ルルーミネ・カーマイン公爵令嬢はようやく事態を理解した。










 モンポット王国において、ルルーミネの評判は最悪に近い。


 カーマイン公爵家はその名が示すとおり、鮮やかな赤髪と瞳が特徴的である。現当主マックスや長男ジュナスは、血筋からその色を見事に引き継いでいた。


 だからこそ、ルルーミネはより異質だった。

 どこかに置き忘れたかのように、肌も髪も瞳も色がない。

 正確に言えば、髪はターコイズで瞳はアイスブルーだが、限界まで薄まって傍目では分からないのだ。

 汚れ一つない純白の姿は、神々しさと不気味さを孕む。


 彼女の人離れした端正な顔立ちと、全く感情を出さない冷静さが、より拍車をかけた。


 貴族として感情を読ませない術は必要だが、ルルーミネのそれは術ではなく自然体。

 喜びも驚きも悲しみも怒りも、表情や声色を変えた事は一度たりとも無い。





 人形、氷像、化け物。


 人の口に戸は建てられないもの。特に貴族社会など、ほんの少しの違いでも取り上げて的にする。

 ルルーミネの容姿など、まさにうってつけだった。

 これでも、幼少期よりはマシな方だ。


 産後の肥立ちが悪く、公爵夫人は出産後すぐに亡くなった。

 それもあって、浮気という話も混じり面白可笑しく囁かれていたものだ。

 マックスだけではなく、わざわざ国王夫妻まで公爵夫人の潔白を宣言した為、そういった話はすぐにかき消えた。




 公爵令嬢であるルルーミネに対する陰口が公に広がっているには、理由がある。

 単純な事で、兄のジェナスとルルーミネの婚約者である第一王子エイダンが所構わず言っているからだ。




「こんな薄気味悪い女! 私の妹なはずない!」


 視界に入る度に浴びせられた、ジェナスの暴言。

 ジェナスとエイダンは同い年、ルルーミネの二つ上だ。王家と公爵家ということで幼少期より交流があった二人。

 ジェナスの嫌悪に同調し、エイダンは顔合わせ前からルルーミネを毛嫌いしていた。


「ジェナスの言う通り不気味な女だ! 冗談じゃない! ボクはもっと可愛い子がいい!」


 水色の髪に橙の瞳。天空の王家と民から賞賛される色合いを持つエイダン。

 大人びた顔立ちを醜く歪ませ、産まれてすぐに決められた婚約者へ初めての言葉がこれだ。

 この時、エイダンは十歳。言っていいかどうかの区別くらいできる歳だ。

 初見の相手にここまで言われて、情を持つ程にルルーミネは優しくない。



 手紙もなく、贈り物もなく、交流もなし。


 珍しく茶会に呼んだと思ったら、ルルーミネの席に人形を置いて馬鹿笑いするエイダンとその仲間達。

 幼稚な虐めに、元より起伏が少ないルルーミネはピクリとも反応しない。リアクションをとること自体が面倒だった。




 そうして、全て無関心でいたからだろうか。

 十五より三年通う貴族学園の入学準備をしている最中、一人の少女が現れて社会は混乱に陥った。





 名前はキティ。孤児院で育ったという平民の少女は、歳と見た目からある噂が広がった。

 愛らしい顔立ちを彩る鮮やかな赤い髪と瞳、誕生日はルルーミネとさほど変わらず。



 キティが本当のカーマイン公爵令嬢ではないかと、口々に囁かれるようになった。





「あたし、産まれてすぐに孤児院に棄てられて……本当の両親のことは何一つ知りません。でも、カーマイン公爵様方が家族なら、どれほど幸せなことでしょう! このような話をこの時期にお話ししたには訳があります。あたしが聖女に目覚めたからです! 皆様どうか、偽者に惑わされないで!」


 キティはそう言っていたが、何度思い返しても苦笑も浮かばない三文芝居である。


 聖女は稀に現れる、治癒魔法に特化した女性を指す。そうすると教会に身を寄せ、レベルの高い治癒師を目指していく。

 その段階でカーマイン公爵令嬢だとわかったと言いたいようだが、あまりにもタイミングがわざとらしい。



 聖女と宣う割には、治癒能力は平均やや上程度。

 これに関しても国王夫妻とマックスから、教会の発表が無いから聖女と呼べない事とカーマイン公爵の実子では無い事を宣言されている。



 しかし、一部の若者はサクセスストーリーだと盛り上がった。その筆頭がエイダンとジェナスだから、頭が痛む。


 その権力を以てキティを特待生とし、学園で人目もはばからず()()()する日々。

 関わるのも煩わしいと、それらの存在を意識から消していたルルーミネ。





「ルルーミネ! 聖女であるキティの居場所を奪った悪魔め! 王族を謀った罪で死罪だ!」


 エイダンがキティを腕に叫ぶや否や、ジェナスが動いて今に至る。

 秋の涼しいこの日は、モンポット王国の建国記念日である。慶事という他国の重鎮もいる中で、このような暴挙を行うとは。




 さすがに、ルルーミネにも予想外だった。




話の大筋は決まっているので、ちまちま進めていきます。

最初の場面展開までは毎日更新しようと思っています。

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― 新着の感想 ―
[気になる点] 公爵家も王家も散々、否定の宣言してたのに、何で、馬鹿二人放置してたんだか。 両バカとも長男だったのが一因か。
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