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魔法戦線ハイペリオン  作者: 龍咲ラムネ
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第5話 無限の十字軍

 謎の敵性力の正体が少しだけ明らかになります。そしてヴァイスフリューゲルの次なる行先は……!?

 アルファたちの勢力が使用する機兵母艦は、先ほど戦闘が行われた場所から百五十キロメートルほど離れた海上に浮かぶ島の入り江に停泊していた。

 ダンとディーナはハイペリオンごとその機兵母艦の格納庫に連行されると、アルファから機体から降りるように指示される。

 言われたとおりにコックピットのハッチを開くと、タラップにアルファと、もうふたりほど、少年少女が立っていた。年齢はダンやシルフィと同じくらいか。


「お前が……ハイペリオンのパイロットか?」


 金色の髪の少年は言う。


「はい」

「なんだ、まだ子供じゃねぇか」


 彼はそのままブーメランとしか形容できないような言葉を発した。


「あんただってどう見ても子供じゃない」


 すかさずにディーナが言い返す。ふたりの間で火花が散るのが見えるようだ。


「ま、まぁまぁ……そんなことよりもディーナ」

「俺たちに何の用だ?」


 ダンとアルファがそれぞれにディーナとベータをなだめながら話を切り出した。


「その件につきましては、あなた方のリーダーに会ってから話がしたいのですが……」

「マスターにだと!? 一体何の権限があってそんなことを言いやがるんだ!」


 ベータがすかさずに食って掛かる。


「でもあんたには交渉する権利なんてないでしょう?」

「ぐ……う、うるせぇ!」


 どうやら、いや、確実に口ではディーナのほうが上手のようだ。


「分かった。マスターには伝えておこう。だがそれまでは少し窮屈な思いをしてもらうことになるが……それでいいな? ……なぁに、すぐに答えは出るさ」


 こちらのアルファという男は少なからず話の分かる人物のようだ。

 ふたりは頷いた。話を通してくれるというだけでも向こうは精いっぱいの誠意を見せてくれたということだろう。それ以上の高望みはわがままというものだろう。

 にしても、もうひとりの緑髪の少女はさっきから無表情のまま一言も発していないが大丈夫なのか?

 ふたりはそのまま薄暗い四メートル四方ほどの何もない部屋に通されて扉を閉められた。扉には採光用の小さな窓が付いている以外には何もない。窓には鉄格子がはまっており、さながら牢獄のようだ。


「ねぇ、ディーナ」


 ダンはディーナに声をかけた。


「奴らのリーダーって……」

「分かるわけないでしょ? 私がこの組織の関係者ならいざ知らず……」

「だよね……」

「でも、ひとつだけわかったことがあった」

「ひとつだけわかったこと?」

「そっ、この組織の規模が大して大きくないということ。さっきリーダーに合わせてほしいと頼んだ時、リーダーに伝えればすぐにでも答えが出ると言っていた。大人数の組織なら、上層部でも議論が紛糾してなかなかそういうこと、即決できないでしょ?」

「でも、そのリーダーとやらが独裁的なだけかも」


 ダンは悪いほうに可能性を考えてしまう。


「たっしかにその線は考えられるかもねー」


 ディーナはあくまでも他人事のように言う。


「確かにって……」

「ダン、良いこと教えてあげるけど……こういう時は悪いほうに考えてもどうしようもならない。だったら己の運命に身を任せ、でーんと構えてればなんとでもなるんだよ」


 そうかもしれない。マイナスに考えても得られるものが何もないならポジティブシンキングあるのみである。

 その時、部屋の扉がすっと開かれた。そこにはあの無口無表情少女が立っている。


「来て……」


 少女はきれいだが感情のこもっていない声で言う。

 ダンとディーナは顔を見合わせた。


「あの……来てってどこに……?」

「マスターのところ」


 ダンはあぁと納得する。この娘は俺たちを呼びに来たのか。だったら最初っからそう言ってもいいものを。

 そんなことを思っていると、少女は表情ひとつ変えずに、ふたりにくるりと背を向け、歩き出した。

 ふたりとも、それに従わざる負えない。


 会話がない。ふたりは、艦内のどこかの廊下を例の無口無表情少女に従って歩いているのだが、彼女が一言も言葉を発さないため、なぜか重苦しい雰囲気に支配されていた。


「ね、ねぇあなた。名前は?」


 しびれを切らしたディーナが訊く。


「ガンマ。ガンマ・プロメテウス……」

「プロメテウス……ってことはアルファとは親戚の類かなんかなのか?」


 今度はダンが尋ねる。


「そうといえばそうなるし、違うといえば違う」


 あいまいな答え方をする。

 ガンマは続けた。


「私たちは人間ではない。人間を超える異人種を作ろうとしたプロメテウス計画により誕生した、いわゆる人造ネクストチルドレン」

「ネクストチルドレン……?」


 聞きなれない言葉だ。隣で同じ話を聞いていたディーナの表情から察するに、おそらくは彼女も初耳な言葉なのだろう。


「人類種から進化をしたエルフや魔女といった異人種は、人間とは違い、RA(ライドアーマー)や機兵母艦などの道具を介さずとも魔法を使うことができる。ネクストチルドレンは、人類に起きる新たなる進化……。産業革命以降、急速に発展した科学や魔法に適応するため、やがて人類から誕生するであろう究極の魔法種族。それを人工的に生み出そうとして作られたのが私たち」

「じゃああなたたちは魔女やエルフみたいに魔法が使えるってこと?」


 だが、ガンマはディーナの言葉を否定した。


「使えない。……私たちは試作品、本来のネクストチルドレンの誕生を促すために作り出された模造品に過ぎない。だから、私たちに与えられた能力は限られている」

「限られた能力……」


 ダンはガンマの言葉を反芻した。どんな能力かはわからないが並大抵の人間よりはすごいと思う。

 そんなダンの言葉を質問と思ったのか、ガンマは答える。


「私の能力は透視。隠されたものを見ることができる。この能力のおかげで、あなたの顔は実際に会う前から知っていた」


 戦闘中にコックピットを透視されていたか……。なんか妙な気分だ。


「でもそれって逆に不便じゃあない? ほら、見たくないものとか……」


 ディーナが訊く。


「必要のない時は使わない。それに、見えるのは視覚だけ、盗聴はできない」


 意外と制約もあるようだ。


「ほかのふたりの能力は?」


 と、ディーナがさらに探りを入れる。


「ベータの能力は遠隔視。求めるものがどこにあるのかを感じ取ることができる。アルファの能力は……」


 と、言いかけてガンマは立ち止まった。


「ついた」

「え?」


 と聞き返してからダンたちも気づいた。いよいよガンマたちがマスターと呼ぶ人物とのご対面だ。

 目の前の通路の突き当りに、自動扉があった。ガンマがその扉の横に取り付けられた機械に手をかざすと、扉は自動で開く。まだあまり実用化されていない技術だが、指紋認証というやつなのだろう。

 部屋の中は薄暗かった。たくさんのモニターが向こう側の壁に、取り付けられていた。部屋の真ん中にはホログラムだろうか、十字型とメビウスの輪を組み合わせたような紋章が浮かんでいる。


「よく来たな。歓迎するよ……我が兄弟たち」


 そう言いながら部屋の奥の椅子にこちら側へ背を向けて座っていた人物が立ち上がる。

 ダンとディーナの背後で自動扉の閉まる音がした。

 組織のリーダーの男はゆっくりとこちら側に歩いてくる。そして、ホログラムの紋章を通り抜け、その顔があらわになった。顔は、仮面に覆われていた。顔の上半分を覆う銀色の仮面だ。そしてその目に当たる部分には、三対の赤いレンズがはまっている。


「あなたが……この組織のリーダーですか」


 ダンは慎重に尋ねる。


「そうだ。私はエル・ア・ジュネット。インフィニットクルセイダースの総指揮官だ」


 インフィニットクルセイダース、というのがこの謎の組織の名称らしい。


「エルさん、今日私たちがここに伺ったわけは……あなた方の組織と、私たち、魔獣攻撃隊JAC(ジャック)ヴァイスフリューゲル隊との間で共同戦線の提案をするためです」

「驚いたな……我々は幾度となくヴァイスフリューゲル隊と交戦した。にもかかわらず共同戦線を張りたいと……」


 エルは全く驚くふうもないような口調でそう言った。この男もガンマとは違った意味で本心が読めない。


「無理を言っているのは知っています。ですが、あなたたちは連邦とも敵対されている。その連邦と戦うために共同戦線を張るのは、敵を減らすという点でも、自らの戦力を増やすという点でも悪い話ではないと思うのですが……」

「君たちは……なぜ私がフェニーチェの街で、新型RAハイペリオンを狙ったのか、知っているかね?」


 エルは唐突に訊いてきた。


「いいえ……」


 ハイペリオンのパイロットであるダンは答える。

「それは、あの機体が『絶対なる力』を備えているからだよ」

「絶対なる力……ですか?」


 さっきから初めて聞く言葉のオンパレードだ。


「そう、パイロットの魔力をこれまでのRA以上に引き出すことができる特別な機体……と言った方がいいかもしれんな。が、とにかく、我々の計画にはあの機体が必要だった」

「そのためにあなたはフェニーチェの街を……!」


 ダンはエルをにらみつけた。あの戦いでどれほどの被害が街に及んだであろうか。自分の家や帰る場所を失った人だって少なからずいるはずだ。それにもしかしたらダンのような孤児だって新たに生まれて……。


「ねぇ、ちょっと待って」


 と、ここでディーナが言う。


「必要だった……ということは、今は必要じゃないってことですか?」

「なかなかに鋭いな……。だが、そういうことになる」


 エルは感心するように言った。


「いいだろう、ついてきたまえ」


「さ、さすがだな……これでは我々の敵、JAC全滅もそう遠くない」


 バフェル軍務大臣は、自らの執務室で、次々と入ってくる勝利の電報を眺めながら若干上ずり気味の声で言った。


「いいえ、大臣。まだです」

「まだ……とは……?」


 忠告するように言ったサザームにバフェルは尋ねる。


「ディーナ・オルレアンは生きている。彼女をかくまっていると思しき機兵母艦・ヴァイスフリューゲルを沈めるまで、我々の戦いの区切りはつかないということです」

「サザーム……」

「はい、大臣閣下」

「すぐに奴らがいる海域周辺の全戦力を動員してヴァイスフリューゲルを討て! 我らの脅威となるものをひとかけらなりとも残してはならん!!」

「分かりました。すぐにしかるべき討伐軍を編成いたしましょう……」


 サザームは不敵にニヤリと笑った。


 ダンとディーナはエルに従って、艦の後方にある格納庫へとたどり着いた。ふたりが乗ってきたハイペリオンや、人造ネクストチルドレンたちの三機が格納されている格納庫とは離れた場所にある格納庫だ。

 三人の背後からは、ガンマが音もなく無表情のままついてきていた。一応エルの護衛要員か何かなのだろうか。


「見たまえ……」


 エルが見上げる先に、そのRAはあった。全身が黒いアーマーに覆われ、顔の部分は、ちょうどエルがかぶっている仮面によく似た銀色のパーツに覆われている。


「RAZS-00 スティギモロク。それがあの機体の名称だ」


 ステュクス川、つまりこの世とあの世を隔てる川にいる邪神モロク、という意味か。縁起でもない名前だ。


「あの機体には、君のハイペリオンと同じ『絶対なる力』が備えられているのだよ」


 エルは続ける。


「確かに我々はハイペリオンを手に入れることはできなかった。だが、君がここにいるガンマが乗った機体、エスメラルダと戦った時、彼女の機体にその戦闘データが記憶された。そのデータをもとに造り上げられた機体、それがこのスティギモロクというわけだ……」

「そんな……ことをして、あなたたちの目的は一体何なんですか?」


 ディーナが訊く。


「君たちは……そもそもなぜハイペリオンなどといった『絶対なる力』を備えたRAが開発されたのかを知っているかね?」

「いえ……」


 ふたりは首を横に振る。


「すべては戦争を起こすため、いいや、もっと言うなればどこよりも強くなり、やがてはこの世界の覇者となるためだよ」

「そんな……ですが、RAはもともと魔獣を討伐するために……!」


 ダンは思わず言い返す。


「確かに始まりはそうだった。が、しかし、人類の歴史において、ある程度の力を擁しながら、戦争目的で使われることのなかった科学技術や魔法技術がいまだかつて存在しただろうか」


 ダンは思い返す。船だろうと鉄道だろうと自動車だろうと、これまであらゆる技術が戦争に使われてきた。いや、科学技術だけではない、魔法により人類の未知なる力が発見されるたびに、それを軍事利用できないかと、列強各国は研究を続けていた。


「答えは否だ」

「でも、それならどうしてその技術をJACが手に入れたの? 本来ならどっかの国の軍が手に入れるべきものですよね?」


 ディーナは質問する。確かにその通りだ。魔獣討伐を本業とするJACがその『絶対なる力』を手に入れたとて、軍事技術の発展はほぼほぼみとめられない。


「それは……JAC長官、アンペール・オルレアンの意思だ」

「お父さんの……!?」


 ディーナは息をのむ。無理もないだろう、消息不明の自分たちの父親の名が思わぬところで飛び出したのだ。


「ハイペリオンは本来、連邦が所有するべきRAであった。だが、そのことを事前に察知したアンペールは、JAC所有のRAという形にし、連邦からそのRAを盗み出すことにした。それで白羽の矢が立ったのが、君たちのヴァイスフリューゲル隊というわけだ。実の娘、シルフィ・オルレアンのいるヴァイスフリューゲル隊こそがJACにおいて最も信頼のおける隊だったからな」


 ハイペリオンが自分のものになった経緯にはそんな裏があったとは……。だが、そこでダンは気が付く。


「ハイペリオンがどうして俺たちの所有になったのかはわかりました。ですが、それを強奪しようとしたあなた方はやはり……!」


 と言ってエルを睨む。これまでの経緯から想像するに、やはりよからぬことを企んでいるのは間違いなさそうだ。

 だが、エルはそれを否定するように言った。


「いいや、君たちと行動原則はほとんど同じだよ」

「同じ……?」

「RAによる戦争を阻止する」

「でも、実際に戦争を起こそうとしているのはあんたたちじゃあないですか!!」


 ダンはエルに思わず詰め寄った。

 エルはニヤリと笑ってから答える。


「ダン・アマテ……といったな。君は……戦争を阻止するために最も必要なこと、それは何だと思うね?」

「それは……戦争をしないように各個人ひとりひとりが気をしっかり持って……」

「確かにそれもひとつの答えだ。だが、現実はそううまくはいかない。現にRAといった兵器を造っている奴らは戦争を食い物にしているし、国家だって自身を正当化し戦争を起こす。最も戦争を起こさせない最適な方法は、そういった者どもにも戦争の恐ろしさを味合わせることだよ」

「それじゃあ、あなたたちはそれを味合わせるために……」

「そうだ。列強各国への無差別攻撃を行い、RAが戦争に使われることの恐ろしさを身をもって分からせる。しかし我々のような小結社ではいずれ討伐される。それを防ぐための人造ネクストチルドレンパイロットであり、またそれを防ぐための『絶対なる力』なのだよ」 

「それは……」

「ふざけるなっ!」


 何かを言いかけたディーナをさえぎってダンは珍しく声を荒げた。


「戦争を防ぐために戦争を起こしていいなんて道理、そんなの国家と同じじゃあないか!! そんなことをしたって、本当の意味での平和は作れない! お前がやっているのはただのエゴと自己満足だ!!」


 そして、気が付くとエルを殴り飛ばしていた。

 後方に倒れながら、彼の仮面が外れて素顔があらわになる。

 その顔は、美しかった。銀色の瞳に整った目鼻立ち。そんな人物がなぜ仮面をする必要があるのだろうか。だが、ダンがそう思ったのはほんの一瞬で、すぐにその感情は倒れた彼を踏みつけてやりたいという気持ちにかき消される。

 だが、エルにとびかかろうと身構えた時、彼は後ろから羽交い絞めにされた。


「ダン、いい加減にしてよ!!」


 見るとそれは、ディーナだった。


「でも、こいつが……!」


 ディーナは、ダンを自分と向かい合わせにすると、その頬をひっぱたいた。


「この馬鹿!!」


 そこでダンはふっと我に返る。まずい、今は交渉中だったんだ。それなのに俺はなんてことを……。


「ディーナ、ごめん……」

「もう落ち着いた?」


 ダンはこくりと頷く。

 ディーナはダンを解放した。

 振り返ると、エルが仮面をつけなおし、立ち上がるところだった。


「ガンマ、ふたりを無事に送り届けてくれたまえ」


 エルは、乱闘騒ぎを目の前にしても一切動じる気配を見せなかったガンマにそう命じた。

 ガンマは無言で頷くとふたりに背を向けて歩き始めた。ついて来いと言っているのだろうか。分かりにくい意思表示だ。


「ダン・アマテか……なかなか面白い奴だな……」


 三人の姿が見えなくなった格納庫で、エルはひとり呟いた。


 ハイペリオンは、インフィニットクルセイダースの機兵母艦を後にすると、ヴァイスフリューゲル目指して海上を飛行していた。

 今回は、周囲にD(ディー)ファングやサーペント、エスメラルダといった機体はいない。


「ディーナ、ほんっとうにごめん」


 ダンはふたたびディーナに謝る。交渉が決裂したのは十中八九自分のせいだ。

 だがディーナは笑って答えた。


「いいっていいって、誰もそんなこと気にしてないし」

「そんなことは……!」


 気にしているとか気にしていないとかそういう問題ではない。これでヴァイスフリューゲル隊は孤立無援になってしまった。


「それに、私だってあの時、あんたと同じようなことは言いかけたし」

「え……?」

「まっ、過ぎたことは気にしない気にしなーい」


 相変わらずにあっけらかんとした少女だ。


「だけど……ディーナの言う通り過ぎたことは気にしないとしても、俺たちはどこかの勢力を味方につけなければ単体で生き残ることは難しい。ほかに何か俺たちに味方をしてくれそうな勢力があったかな……」

「いくらか目星がないと言ったら噓になる程度にはあるかなー」


 ディーナは極めてあいまいな言い方をする。


「例えば?」

「例えば、アラビア帝国とか」

「アラビア帝国?」


 確か、国家勢力は戦後の内政干渉の危険性があるからなしという話ではなかったか。


「そっ、まぁ正確には帝国軍というよりも革命軍といった方が正しいかもだけど、今現在、アラビア帝国は国家を二分するような内戦が継続している。帝国政権側の勢力と革命を行い新たに共和制の近代国家を打ち立てようとする勢力だね。そしてすんごく都合のいいことにローマ連邦軍は傀儡政権樹立を狙って帝国側に加担している。つまり敵の敵は味方方式でいくとアラビア革命軍は私たちに味方をしてくれる可能性があるってこと。ただ……」

「ただ?」

「ただ、曲がりなりにも今アラビア帝国は内戦真っ最中。私たちに回してくれるほどの戦力がある可能性は低い。あとは、ローマが帝国側に加担しているのと同じように、ブリテンが革命側に加担しているってこと。だから今まで以上に慎重に交渉をしないと、大変なことになるかもね」


 ディーナは他人事のように言った。


「やろう」


 ダンは思わず口にしていた。


「ほへ?」

「今度こそ、あなたの目的のために。そしてアラビアでもこれ以上血を流させないためにも、エウロペ大陸列強の勢力をアラビアから一掃し、革命軍、帝国軍、両者が納得のいく形で革命を終結させ、俺たちへの協力を取り次ぐ。そうだ、これをやるんだ!」


 ダンは話しながら考えをまとめた。


「あんたそれ、何年かけるつもり?」

「何年? いや、単位は月単位で」

「やーれやれ、さっき交渉に失敗した人のセリフじゃあないよ、それ」


 ディーナはあきれたように言ってから続けた。


「まぁでも、面白そうだから策としては艦長に提案してもいいけど?」

「ありがとう……」

「……と、いうか言い出したんだからあんたが提案しなさい? 私はそれを支持するだけだからさ」

「ディーナ、本当にありがとう」


 ダンは改めて感謝の意を示した。


「し、支持するだけって言ったでしょ?」


 なぜかたまに素直じゃあなくなる。でも、ディーナのことだ。支持するだけと言いながらも自ら率先して策を推してくれるだろう。そういう人なのだ、彼女は。ダンは今日のこの冒険ともいうべき交渉で、だんだんと彼女の性格というものが見えてきた気がした。


 機兵母艦、ブルーバードは、インフィニットクルセイダースと交戦をした海域から数十キロメートルほど離れた無人島の入り江に停泊していた。このあたりの海域にはこうした無人島が点在している。


「艦長、軍司令部から緊急の電報です」


 艦橋の艦長用チェアに座りながらもつかの間の休息、仮眠を謳歌していたフローラに副艦長が声をかけた。


「なんですの?」


 フローラは目を閉じたまま尋ねる。


「JACヴァイスフリューゲル隊はいまだこの近くの海域を航行中。すぐに討伐に向かわれたし……とのことです」

「わたくしたちはすでに謎の敵性勢力と交戦をして満身創痍ですのよ? それなのにまたさらに戦いにいけとおっしゃいますの?」

「ですが、これは司令部からの指示ですので……」

「だったらギムールのひとりやふたり、向かわせればいいだけではありませんこと? 彼は前にも五隻のJAC機兵母艦をひとりで沈めたほどの実力を持っていますわ」

「すでにこのあたりの海域を巡洋中だったわが軍の戦艦四隻は司令部の指示に従いヴァイスフリューゲル討伐に向かったそうです」

「それならなおさらそいつらにやらせればいいだけではありません? わたくしたちが出張る幕ではありませんわ」

「艦長、もし、我々がヴァイスフリューゲル隊を壊滅させることができれば、私から司令部へ艦長の休暇願を出すことを約束します」


 フローラはぱちりと目を開け、身を乗り出した。


「今、なんと言いましたの?」

「艦長の休暇願を……」

「なにをもたもたしていますの!? すぐに出航の準備をいたしますわよ!」


 フローラは人が変わったように指示を飛ばした。

 そんなフローラを何が起きたんだという顔で見つめるオペレーターがひとりいた。彼はこの船に1週間前に配属されたばかりの新人だ。


「ど、どうしましたの? わたくしは別に休暇願が欲しくてやる気を出したのではありませんわ」


 まだ何も言っていないのにフローラは答えた。


「艦長! 本艦前方より敵艦が接近中、数は四……いえ五隻です!」

「レイカ、数の報告は正確に」


 ヴァイスフリューゲルの艦橋で、アリアは赤髪の女性オペレーターに言う。


「で、ですが艦長。一隻だけ他の戦艦の三倍くらいの速さで向かってくるんです!!」


 レイカはレーダーを見ながら驚嘆したように言った。


「はぁ!? 一体全体どこのどいつだ!」


「さぁさぁさぁ、もっと速く! ですわ」


 フローラは艦橋の椅子から立ち上がって指示を飛ばしていた。


「ブルーバード、抜け駆けをするつもりか!」

「何をやっている。戦略的協力をするつもりはないのか!」


 他の艦の艦長が通信を入れるが、フローラは全く意に介さない。


「あーら、時代は弱肉強食。早い者勝ちですわ」

「えぇい、こうなったら我々も続け! ブルーバードに後れを取るな!!」


 他の艦の艦長たちは、通信を切ると自らの艦のクルーたちにそう命令をした。


「RA隊を射出! ですわ」


 フローラが指示を飛ばす。


「ギムール・ギマラインシュ。ペルーダ、派手にいくぜ!!」


 ギムールのペルーダ。そしてテディとリックの二機のゾルがカタパルトから射出された。

 他の艦のRAもそれに続いて射出される。大半が量産型RA、ゾルだ。


「くそ……蚊柱みたいに大量に出てきやがって……こちとらジャンヌ一機しかいないんだぞ」


 アリアは射出されたRA群を見て悪態をついた。少なく見積もっても敵は二十機前後はいる。


「アリアさん! 発進の指示を!」


 ジャンヌアローに乗り込んだシルフィから艦橋への通信が入る。


「待てシルフィ、一対二十だぞ。いけるわけがない!」

「大丈夫です、頑張ります!」

「お、おい、頑張るだけでどうにかなる問題じゃあ……」

「シルフィ・オルレアン。ジャンヌアロー、発進します!」


 シルフィはアリアの指示を待たずして発進した。


「一機か……なめられたもんだぜ」


 ギムールは発進したRAが人型をしていないのをいぶかりながらもペルーダをジャンヌアロー目掛けて突撃させる。

 他の機体も、ジャンヌアロー目掛けて襲い掛かった。

 だがジャンヌアローは次々と飛んでくる光弾を右へ左へとかわしながら燕のように空を舞う。


「アリアさん、私がなるべく敵さんたちを遠くへひきつけます! そのすきにアリアさんたちは撤退してください!」


 シルフィは艦橋へと通信を入れた。


「し、しかしシルフィ、お前はどうする……?」

「大丈夫です! ジャンヌアローさんは他の人型をしているRAなんかよりも機動力は数段上なんですよ!」


 シルフィはジャンヌアローを旋回させ、アローキャノンから光弾を撃ちながら言った。

 ゾルが一機、海中に落下する。


「艦長、シルフィはああいうつもりですが……どうします?」


 ザルト副艦長が指示を仰いだ。

「どうするもこうするもないだろ! シルフィのやつは言うことを聞かないだろうがこっちだってみすみす見逃すわけにはいかん。突撃する!」

「と、突撃ですか?」

「あぁ、目標は敵の五隻の戦艦。司令塔をたたけばあとは烏合の衆も同然だろう」

「し、しかし艦長、こちらは一隻、どう考えても無傷じゃあ……」

「よく考えろ、あたしらは五対一、シルフィは二十対一、どう考えてもこっちのが楽な戦いだろう?」


 アリアはニヤリと笑う。


「は、魔法防壁展開! これより敵艦隊へ突撃する、総員、衝撃に備えよ!!」


 ザルトが指示を飛ばした。


「了解! 魔法防壁展開!!」


 ヴァイスフリューゲルの周りを覆うように見えないシールドが展開される。


「か、艦長、敵艦、こちらに突撃を仕掛けてくる模様です!」


 ブルーバード艦内でオペレーターが叫ぶ。


「面白くなってきましたわね。さぁいらっしゃい、このフローラ・リヨン、受けて立ちますわ」


 フローラは不敵な表情をすると言った。


 両戦艦の距離は着々と縮まってきていた。

 ギムールさんのキャラが渋滞してきている……。次回の更新日は2月12日です。

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