第4話 ブルーバードの魔女
この世界における魔法についての設定が少しだけ明かされます。そしてJAC,謎の敵、ローマ連邦軍の三つ巴の戦い……。
「本艦前方にRAを確認! あれは……シルフィです!」
ヴァイスフリューゲル艦橋でレーダーをにらみつけていたオペレーターは艦長に報告した。
「よし分かった。すぐに通信をつなげろ」
アリアが指示を出すと、艦橋前方のモニターにシルフィの姿が映し出された。いや、シルフィだけではない。その両脇には、シルフィによく似ているもののやや顔つきが大人びている気の強そうな少女と、シルフィよりもやや年上に見える藍色の髪の少年が映っていた。
「あっ艦長、久しぶりです!」
シルフィはのんきに言ってのける。
「おう、久しぶり……はいいが、なんなんだ? そっちのふたりは……」
「お姉ちゃんのディーナとその秘書のアルトさんです!」
「姉とその秘書……?」
アリアはやや混乱してきた。シルフィよ、確かお前は……その姉に会いにパリに向かったんだったよな……なぜ連れ帰ってきた……?
そんな艦長の疑問を察してディーナが言う。
「あの……艦長、その件に関しては……帰艦してから詳しく説明しますので……」
「そうか、ま、いいだろう、帰艦の際は変なところに機体をぶつけんようにな……」
「はい!」
シルフィは艦長の冗談にも元気よく返事をした。
アリア艦長は、シルフィたち三人が帰艦すると、すぐさま、三人および副艦長のザルト、RAパイロットのダンを作戦室に招集した。こういう話はなるべく少人数で聞いたほうがいいという艦長の判断だ。
作戦室の真ん中にある周辺海域の海図が映し出されたテーブルを囲んで、アリア、ダン、ザルトの三人は、ディーナたちの話を聞いていた。
「……と、いうわけなんです。私がここにいるのは……」
ディーナは話し終わった。
話を聞いていた三人は顔を見合わせる。どう受け答えをしていいのかわからなかった。目の前にいる少女は国を追われている。そしてこの少女を追った国によって自分たちも遅かれ早かれ討伐対象になるだろうということだった。
「それで……お前自身はどうしたい……?」
アリアが口を開いた。
「はい……?」
ディーナはその質問の意図を分かりかねて聞き返した。
「あたしたちは遅かれ早かれ討伐される身、ここでどんな決断を下そうとも連邦相手に戦わざる負えないってことに変わりはないからな。だからディーナ、今後どうするか……お前の意見が聞きたい」
「私は……」
と、ディーナは言いかけて口をつぐんだ。できれば、連邦が突き進んでいる軍政への道を止めたい。それがディーナの本心だった。だが……それは個人の願いであり、そのために目の前にいる三人、いや、シルフィを含めたこの艦にいる人たちに命を投げ出せとは到底言うことができなかった。たとえ、軍部を止めるためであっても、そのために命を捨てろと命令しては、彼らと何の違いがあるというのか。ましてや、この船にいるものはみな、軍人ではない。武装こそしているが人間相手に戦ったことなど数えるほどにしかないだろう。
ディーナには、その先の言葉を続けることはできない。
だが、そんなディーナにダンが声をかけた。
「ディーナさん、俺にも……あなたの気持ち、わかるような気がします。俺も、やっぱり、できることなら戦いたくはない。人殺しにはなりたくない。ですが……もし、ここで決断を下さなかったら、より多くの命が失われることになるかもしれない。それに……人を殺さない戦いだってきっとあるはずです」
「人を……殺さなくていい戦い……?」
ディーナは聞き返した。
「はい、殺すだけが戦いではない。……ということです。そうですよね? ザルトさん」
ダンはザルトのほうを見た。
「ったく、やれやれ、ここで俺に話を振るか? だが……まぁそうだな。戦い方は、俺たちなりの戦い方は俺たちで見つけていけばいいってな」
「ディーナ様、ご決断を」
アルトも促した。
「はぁ、分かった。けどずるいよ? ……あんたたち」
ディーナはそう言ってから決断を下す。
「私は、ローマ連邦共和国軍を討ち、国政改革を実行します。しかしそのためには多少なりとも武力が必要になる。よって、あなたたち、JACヴァイスフリューゲル隊に協力を要請します。引き受けてくれますね?」
「もちろんだ。喜んで歓迎しよう」
ディーナとアリアは固く握手を交わした。
ここは、パリ郊外にある邸宅、広大な庭が見渡せる窓を背に、自身の机に向かって書類を整理している男がいた。だが、そんな男の部屋に、息を切らして飛び込んできた者があった。
「アンペール様、ぐ、軍の輩が……」
と、そこまで言ったところで彼は突き飛ばされ、部屋にクリーム色の髪をした青年が悠然と入ってきた。右手には拳銃を提げている。そして彼に従うようにしてふたりばかしのいかにも軍人といった風の男がついている。
「サザーム・ジェノバ首都防衛軍区長官が私直々に何の用だね?」
と、アンペールは尋ねる。その態度はあくまでも落ち着き払っていた。
「フン、とぼけなくとも知っているものを。アンペール・オルレアンJAC長官」
そう言い、サザームはアンペールに拳銃を向ける。
「私は、先日のディーナ・オルレアン議員暗殺事件に関して、あなた、いえ、JACの関与の疑いがありとして、その真偽を確かめにここに来たまでですよ」
「そうか……だが、答えはもう決まっているのだろう?」
アンペールの問いにサザームは頷く。
「もちろん。あなたは私の平和的な取り調べに抵抗をした。そこで私はこの拳銃を撃ち、あなたを殺さざる負えなかった。組織としての司令塔を失ったJACが崩壊するのは時間の問題だ。私はすぐにでも連邦全軍にJAC討伐令を出すつもりだよ」
「完璧な計画だな。だが……」
アンペールは、その言葉を最後まで言い切ることはなかった。途中でサザームの拳銃が火を噴いたのだ。
「死にゆく者に言葉など不要だ」
作戦室には、改めてヴァイスフリューゲル乗員たちが艦長によって集められていた。
ディーナは自身がここまで来た経緯と、これからのこの艦のことについて、さっきよりも迷いなく説明する。乗員一同からは特に反対という意見も出ず、ディーナは内心ほっとした。
「あー、彼女がこの艦に来た経緯と我々のこれからの作戦についての概要は以上だ。だが……」
「えっ、まだなにかあるんですか?」
シルフィがだいぶ驚いたように尋ねる。
「当たり前だ。目的については決まったが方法についてはまだだろう?」
一同から笑いが起こる。
なんだかんだで愛されているな、シルフィのやつ。と、ダンはあきれるような感心するような妙な気持ちになった。
「当然のことながらあたしたちだけじゃあ連邦の大軍団相手に太刀打ちのたの字もできないのは火を見るよりも明らかだろう。それに、おそらく本部への……」
と、言いかけてアリアはシルフィとディーナを交互に見た。
「長官だって逃げ延びられていることを祈りたいが、どのみち本部は機能しちゃあいないはずだ」
「するってーと、どっかに支援要請をしなくちゃあならないっつーことか」
ザルト副艦長は考え込むように言う。
「あのー、ブリテン王国、なんてのはどうでしょうか。向こうが国家ぐるみの軍隊で討伐にやってくるというのならこっちも同じくらいの規模の軍隊を持つ国家に支援を要請し……。それに、植民地の奪い合いなんかで、ローマとブリテンは敵対状態にありますし……」
「確かに、戦略的勝利のみを考えるならそれも充分にありだとは思うけど、おそらく、戦後の処理で、ブリテン王国は過剰に干渉してくるでしょう? そうなった場合、改革は難しくなるというのが実情ってとこじゃない?」
ダンの意見はディーナによって却下された。
「でも、お互いに不干渉となるように事前に盟約を結んでおくのはありだと思うけど……」
ディーナは付け加えた。
「JAC内部もだめ……外国もだめとなるとなんだ? 後に残るのは何になる?」
「あの……」
と、ここでシルフィが発言する。
「私たちが今まで戦ってきた謎の敵さんはどうでしょうか……? 敵の規模は分かりませんが、RAの技術、およびパイロットの操縦技術は本物ですし……それに軍事行動を積極的に起こすということはそれなりに自分たちの戦力には自信があるということです。あと、国家勢力ではない可能性が高いので、内政に干渉してくるということも避けられるかもしれません」
「推測が多いな。それに我々は奴らと二回も戦っているんだ。そう簡単に協力をしてもらえるか?」
「で、ですけど、先に攻撃をしてきたのは相手です!」
「その主張が果たしてどこまで通用するかどうか……」
ザルトはあくまでも慎重意見だ。
「俺は……シルフィの意見に同意します」
ダンは言った。
「ほう? どうしてだ?」
「たとえ、敵が首を縦に振ってくれなかったとしても、その目的、そして組織の規模は交渉の過程で分かると思うんです。それに、敵はなるべく多くない方がいい。不可侵条約でも結ぶことができれば上出来でしょう」
「ありがとうございます!」
シルフィの表情は明るくなった。
「なるほどな……。だが、どうやって奴らに接触をはかるつもりだ? 本拠地も分からんのだぞ?」
「それは、奴らが次に現れた時に接触をはかればいいと思います。相手の目的が何であれ、二回だけ現れて終わりだということはないと思うんです」
「そうか……確かにシルフィやダンの意見は一理あるかもしれんな。……で、誰が行く?」
「はい……?」
艦長の言葉を、ダンは聞き返した。
「交渉だよ。ま、誰が行きたがるかはだいたいわかってるけどさ」
「分かりました。では、俺に行かせてください」
ダンは自ら進んで名乗り出る。こういうのは言い出したものが行くというのが鉄則だろう。
「あの、私も……!」
と、シルフィが手を挙げるが、アリアはそれを制する。
「待て待て待て待て、RAパイロットがふたりともいなくなっちまっては誰がこの艦を守る? ダンが行くんならお前は残れ」
「むぅ……」
シルフィは不満げにふくれっ面をする。
そんなシルフィを横目にディーナがそっと手を挙げた。
「私が……行っても構いませんが……」
「おいおい、ディーナ、お前は来客だろう? 来客にそんな危険な任務……」
「来客だろうとなんだろうと、特別扱いされるつもりは毛頭ありません。それに、こういう交渉の場には、たくさん場数を踏んできている私みたいな人がいた方が便利だと思うんです」
「おうよ、そうかい、それじゃあお前に任せるよ。だがな、ふたりとも、決して無茶だけはするんじゃあないよ」
アリアはやれやれというふうに言った。ここでディーナ相手にさとしても無駄だと判断したのだろう。
「はい!」
「誓います」
ふたりは口々に言った。
やれやれ、どこまでわかってくれたのかねぇ。アリアは内心で心配になったが、口には出さなかった。
ベータ・プロメテウスは、薄暗い部屋にただひとつ用意されたベッドの上に座り込んでいた。
この前の規律違反が原因で彼は、謹慎を命じられ、半ば強制的に監禁されているのだ。
と、ここで部屋の扉が開き、ひとりの男が入ってくる。アルファだ。
「よう、だいぶ、頭は冷えたか?」
アルファはベータの隣に座りながら言った。
「冷やさざるをえないだろ? こんな状況で……」
ベータは冗談っぽく言い返す。
「だろうな。それで……作戦のことなんだが……」
「出られるのか?」
ベータは訊いた。
「あぁ、もっとも、出さざるをえない……というのが実情かな」
「何かあったのか?」
「連邦軍がJAC各隊への攻撃を開始した。すでにいくつかの艦船は沈められたということだ。すべてはマスターの思惑通りってことさ」
「そうか、そいつぁ面白れぇや」
ベータはニヤリとして言った。
「で、俺たちは何をするんだ?」
「次なる攻撃目標は連邦だ。そうだな……マスターは連邦軍ブルーバード隊を考えているらしい」
「なるほどね……」
ベータは一瞬考えるような表情をすると立ち上がった。
「それじゃあ行こうぜ? アルファ、ひっさびさに腕が鳴るなぁ」
「前みたいなのは御免だぞ」
「分かってるっての」
アルファは本当にベータが分かっているのかどうか不明だったが、とりあえず彼を先導して部屋を出た。
頼むから勝手なことはするなよ……。心の中でそう言い聞かせる。
機兵母艦、ブルーバードはケンタウルス海海上を進んでいた。銀色のサメのようにも見える円錐形の機兵母艦だ。
「しかし妙ですわね……。本当に軍司令部はそのような指示を出しましたの?」
艦橋の真ん中にある椅子に腰を掛けた小柄な少女が呟いた。黒髪黒目の華奢な少女は、到底艦船の艦長には見えなかったが、何を隠そう、彼女こそがこのローマ連邦軍ケンタウルス海方面軍ブルーバード隊機兵母艦艦長なのだ。さらにいえば彼女の種族は人間ではなかった。「魔女」と呼ばれる女系魔法種族なのだ。
魔法。それは人類種が古来、過酷な自然環境に適応するために進化させた特殊能力のひとつである。しかし、多くの人間はその素質を持っているにもかかわらず、魔動機のような道具を使わなくてはその力を行使することができなかった。
だが、種族によってはその実情は違う。人間から進化の系統を経て誕生した魔女やエルフといった種族は、道具などに頼らずとも己の身ひとつで魔法を行使することができる。機兵母艦ブルーバード艦長の少女もそういった魔法種族のうちのひとりだった。
「は……私は確かにそのような指示を受け取ったと存じ上げておりますが」
副艦長である眼鏡をかけた女性は言った。彼女は魔女ではなく普通の人間だ。
「あら、わたくしは別にあなたを疑っているわけではありませんわ」
「では……何を……?」
「強いて言うなれば司令部を……といった方が正しいですわね。普通、JAC長官であるアンペール・オルレアンが自身の娘を暗殺せよと命令できます? わたくしならせいぜい幽閉どまりですわ」
若干恐ろしげなことを表情ひとつ変えずに言ってのける艦長である。
「いかなる理由があれ、我々軍人は上層部の決定に従うまでです」
副艦長はあくまでも冷静に言う。
だが、そこでオペレーターのひとりが声を上げた。
「艦長! 前方より所属不明のRAが三機接近! 三機とも魔動機と思われます!」
「JACではありませんの?」
「我々が相手取るはずのJAC機兵母艦に搭載されているRAは二機と伺っておりますが……」
「面白くなってきましたわね……」
艦長はニヤリと笑ってからカタパルトに待機しているRAパイロットたちに通信をかける。
「ギムール、テディ、リック。準備はいいですわね?」
「「了解!」」
テディとリックは返事をした。
「ギムール、どうしましたの? さっさとしないと準備ができていないままカタパルトから射出しますわよ?」
「いや、待て、違うんだフローラちゃん。ただ、今日もフローラちゃんはかわいいなぁって見とれて……」
フローラ艦長はギムールとの通信を切った。
「ギムール機をさっさと射出してくれませんこと?」
「はっ、分かりました」
ブルーバードのカタパルトからまだ明らかに出撃準備未完了な赤いRAが射出された。
「出てきやがったな……」
そんな事情はいざ知らず、赤いRAが敵艦から射出されるのを見たベータは呟く。そしてそんな敵機に突撃をかけた。
「こちとらしばらく撃ってないんでうずうずしてるんだよ!」
サーペントはプラズマライフルから光弾を次々と打ち込む。
「待て、早まるな!」
アルファはベータを止めようとするがこうなっては言うことを聞くような彼ではない。
「止めても無駄……」
ガンマからの通信が入る。
「それよりも別の敵を……」
見ると、ちょうど敵艦、ブルーバードから二機のゾルが射出されたところだった。
「ただ今の報告です! ここからおよそ五十キロメートルほどの海上で、本艦目掛けて進軍をしていた機兵母艦一隻が謎の敵性勢力と交戦中との模様!」
「おいでなすったか……」
アリア艦長は環境でオペレーターの報告を聞いて呟く。
「よし、すぐにダンとディーナに伝えろ。お前たちの任務の時が来たとな」
「ダン・アマテくん……だったよね?」
ダンが、外に向かった大きな窓がある休憩所から海を眺めて絵を描いていると、後ろから声をかけられた。
「ディーナ……さん?」
「そっ、ディーナでもいいよ?」
「いえ、一応年上なので……」
ダンはそう言いながら絵を描き続けた。
「ふーん、なかなかよくできた子だねぇ。育ちはどこ?」
「孤児院です。実の親には会ったことがなくて……」
「そう、悪いこと訊いちゃったかも……」
そう言いながらディーナはダンの横に立ち、一緒になって海を眺めた。
「絵、好きなの?」
「はい、昔っからこれだけは得意で……」
「RAの操縦は?」
「それは……最近のことです。俺、なかなか信じてもらえないんですけどRAはおろか、自動車の運転だってしたことがないんです。それなのになぜか、イメージが勝手に湧き上がってきてその通りに魔動機を動かせてしまう……」
「そうなんだ」
ディーナは少しも疑うふうもなく受け流した。こんな扱いをしてくれるのは始めに一緒にRAに乗ったシルフィ以外では初めてだ。
「ま、それはいいとして……」
と、ディーナは続ける。
「あんた、よそよそしいよ?」
「ごめんなさい」
「ほら、そういうところ」
「どういうところですか?」
「うーん」
ディーナは考え込む。そして思いついたように言った。
「そうだ! 私とシルフィには敬語禁止、とか!」
「シルフィはともかくディーナさんは年上ですし……」
「あぁもうそれそれ! ほら、あんたがそんなに年功序列を重視するなら、これは年上からの命令だと思って!」
「は、はい」
「はいじゃあなくてうん!」
「う、うん……」
「そうそうそう」
その時、休憩所にアルトが入ってきて告げた。
「ディーナ様、それにダン様、例の敵性勢力が現れました」
「おっ、ちょうどいいところに、それじゃ、よろしくね」
「は、はい、よろしくお願……じゃなくてよろしく!」
「そうそう、そんな感じ」
ふたりの謎のやり取りを聞いたアルトは首を傾げた。
ベータのサーペントは、プラズマライフルを捨て、ビームセイバーを抜いてギムールの赤い機体とぶつかり合った。
相手は、赤い装甲に緑色のモノアイが光る魔動機だ。
「どこの敵かは知らんが、このギムール・ギマラインシュ、なめるんじゃあねぇぜ!」
ギムールは自身の機体のビームセイバーを大きく振り下ろさせた。
だが、それをベータはすぐに防御する。
「人間風情が!」
サーペントは相手のセイバーごと自身のビームセイバーを振り払った。
ギムールは機体を後退させて距離を取らせる。
そして左アームをサーペントに向けると叫んだ。
「メタルハーケン!」
赤いRAの腕の甲からワイヤーに接続された鉄鉤が発射されてサーペントに襲い掛かってきた。
「こんな隠し武器を持っていやがったのか!」
ベータは咄嗟にビームセイバーで防御するが、光刃にはじかれたメタルハーケンはふたたびサーペントに襲い掛かった。
「オリハルコン合金か!」
ワイヤーがサーペントの首に巻きつく。そして鉄鍵がその背部に突き刺さった。
「デストロイサンダー!」
メタルハーケンから電撃が流れた。コックピット内部にいるベータは装甲に守られているが、それでも、体をしびれるような感覚が襲う。
「うあぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!」
「ベータ!」
すかさずにアルファが救援に向かおうとするが、その相手のゾルは攻撃を緩めない。
「フン、テディ、どいてな!」
そんなDファングを見やって、ギムールはもう一方の手からもメタルハーケンを発射し、Dファングに巻き付ける。
「なっ……!」
「こんなこともできるんだぜ!」
ギムールはメタルハーケンを大きく引かせた。
すると、サーペントとDファングは空中で衝突する。
「見たか! これがこのギムール・ギマラインシュ様のド派手な戦い方だぜ!」
ギムールはメタルハーケンを解くとRAの両腕を広げて決めポーズを取った。
「ち……誤算だぜ、まさか連邦相手の最初の敵がとんでもねぇ奴だったとはな……」
「同感だ」
と、そこでブルーバードの砲台が火を噴いた。
ふたりはすんでのところでその攻撃をかわす。
「だがここでくたばるわけにはいかねぇ!」
「まったくだ」
そして、アルファとベータはコックピット前方のクリスタルに手をかざして叫ぶ。
「「アタックスキル!!」」
「デス・ファング!!!」
Dファングが突き出したビームセイバーの先から黒い悪魔竜が出現し、ギムールの機体に襲い掛かる。
「シー・サーペント!!!」
一方、サーペントは海面にビームセイバーを向けた。すると水は竜巻のように立ち上がり、RAではなく、ブルーバード目掛けて突撃していく。
「か、艦長。魔法防壁を!」
「言われなくても分かっていますわ!」
ブルーバードは魔法防壁を展開する。
だが、サーペントの魔力のほうが、若干力に勝っていた。魔法防壁にひびが入り始める。
「くっ、フローラちゃん!」
悪魔竜をビームセイバーで防御しながらギムールは叫んだが、とても間に合いそうもない。
「か、艦長……!」
艦橋内では副艦長が叫んだ。
だが、フローラはあくまでも冷静を装って言う。
「あら、わたくしが誰だかお忘れでして?」
それから椅子を立ち上がり、ゆっくりと前へ数歩歩くと右手のひらを突き出した。
魔法防壁は修復を始める。
「わたくしはフローラ・リヨン。魔女の名門家、リヨン家のひとり娘でしてよ」
「さすがフローラちゃん! これは俺も負けてはいられないなぁ!」
ギムールはそう言いながらビームセイバーを振り払った。悪魔竜が切り裂かれる。
「化け物かよ、どっちも!」
ベータは叫んだ。
そこで、リックのゾルと交戦しているガンマから通信が入る。
「来た……」
「来たって何が」
「ハイペリオン」
「あぁ!?」
なんでまたそんなものが……。ベータが言いかけた時、彼のサーペント目掛けてテディのゾルが切りかかってきた。ベータは咄嗟的にそれをビームセイバーで防ぐ。
その時、光弾が飛んできてテディのゾルに直撃した。ゾルはバランスを崩す。すかさずにサーペントがそんなゾルの頭部に蹴りを入れる。ゾルは海中に落下した。
「み、味方をしたのか……? ハイペリオンが……」
「敵の敵は味方ってことか……。だがわざわざ出てくるまでもないだろう?」
アルファも疑問に思っているようだった。
「………」
ガンマはいつも通り何も言わない。
「あ、当たっちゃった……!」
ダンは適当に撃ったプラズマライフルの光弾が連邦のゾル1機に命中したのでやや困惑した。
「ちょっと、困るよ? これ以上事を荒立てられちゃ」
傍らに乗ったディーナが言う。
「ごめんなさ……じゃなくてごめん……」
「まったく、慣れないねぇ、言葉も、戦い方も……」
「ごめん……」
ダンはふたたび謝った。
「ま、とりあえず向こうの注目をこっちに向けさせたのだけは褒めてやってもいいけど……」
そう言うディーナを脇に、ダンは相手の機体に通信をかける。なんとなくだが、以前にアタックスキルをぶつけ合ったあの黒い機体にだ。
「お、おい、通信がきてやがるぜ……」
アルファは次々と起こる予想外のことに面くらいながら言った。
「相手の面ぁ拝んでやろうぜ、どんな悪党面か楽しみだ!」
サーペントをギムールの機体と組み合わせながらベータは言う。
「言われなくてもそのつもりだ」
そしてこちら側からも通信を入れ、アルファは驚いた。
ハイペリオンのパイロットは、十七歳くらいの少年だったからだ。悪人面とは程遠いような面構えをしている。その横には彼よりも二歳ほど年上に見える少女もいる。
「こちらハイペリオンのパイロット、ダン・アマテ。そちらは……?」
「Dファングパイロット、アルファ・プロメテウスだ。ハイペリオンのパイロットは我々とは敵対しているはず。いかなる要件があってここに来たのか聞かせてもらいたい」
「その件については私から話します。ですが……その前にお互いに落ち着ける場所で話をさせてもらっていいですか? 戦場で大事な交渉というのもやりづらいでしょう?」
ディーナが言った。
「それもそうだな」
アルファはそう言ってからベータとガンマに通信を入れる。
「ベータ、ガンマ。どうやらこいつぁ戦っている場合じゃあなさそうだぜ?」
「ちっ、撤退しろってのかよ!」
「違う、ハイペリオンを回収するんだ」
「それならいいぜ!」
片方は絵にかいたように単純なやつなのか? ダンは思ったが言わないでおいた。今ここで余計な発言をしては外交問題に発展するかもしれない。
「攻撃が止んだようですね……」
ブルーバードの副艦長はフローラに言った。
「言われなくても分かっていますわ……」
さっきまでこちらへの攻撃を続けていた三機のRAは新たに現れた一機のRAを連行するように囲み、撤退をしていくのだ。
「ギムール、リック。テディのゾルを回収してすぐに帰艦するように」
フローラは遮断していたギムールのRAへの通信も復旧させて命令した。
「もちろんさ! 俺のフロー……」
命令が終わるとすぐに通信を遮断した。
「はーぁ、さっさと戦死しちまえばいいのに……」
「あ、あの……艦長?」
「あら、いけない。うっかり口が滑ってしまいましたわ。忘れてくださりません?」
フローラは戸惑う副艦長ににっこりと笑うとそう言った。
この人には絶対に逆らわないようにしよう。そう思う副艦長であった。
ブルーバード隊は基本的に化け物です。次回の更新は2月5日になります。