第3話 出撃! ジャンヌ-Χ
今回は戦闘シーンが多めです。シルフィのRAが初登場します。
ダンはハイペリオンを帰艦させると、しばらく、コックピットのハッチを開いてぼんやりと考えていた。
あれが……戦うということなのか。命のやり取りというものなのか……。
そうぐるぐると思考をめぐらせているとタラップにザルト副艦長が上がってきて声をかける。
「驚いたぞダン、まさかアタックスキルをすぐに使いこなしてしまうとはな……」
「アタックスキル……。デス・ファング!!」
アルファは目の前にいるハイペリオン目掛けてDファングのビームセイバーを向けさせ、叫んだ。
ビームセイバーが黒い光をまとい始め、やがてそれは巨大な悪魔のような頭部を持った竜の姿となる。
「ダン! 回避しろ!!」
ザルトはハイペリオンにそう通信を飛ばした。
「いいえ、大丈夫です。行けます!!」
「い、行けるって……!?」
「見ていてください!!」
そう言ってからダンは深く息を吸い、叫んだ。
「アタックスキル! 炎の剣!!!」
ハイペリオンのビームセイバーが炎をまとう。
そして目の前に迫った悪魔竜の頭部にぶつかり合ったのだ。
「フッ、燃える剣か……。だがそれしきでこの俺のアタックスキルが破れるのか……?」
だが、ハイペリオンのアタックスキルを下に見たのはアルファの大きな誤算だった。
「うおぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!!」
ハイペリオンは悪魔竜の頭部に燃えるビームセイバーをめり込ませ、大きく振り下ろしたのだ。
炎が悪魔竜の黒い光を巻き込み、Dファング目掛けて襲いかかる。
「なっ、こちらの魔力を巻き込んだ……!?」
だが、アルファが自身の死を悟った時、目の前に緑色の光が現れたかと思うと、黒い光と赤い炎を受け止めた。
「アタックスキル。エスメラルダ・スペース……」
全身に緑色の半透明のバリアを展開したエスメラルダがDファングとハイペリオンの間で攻撃を受け止めたのだ。
エスメラルダのアタックスキルは絶対防御。大抵の魔法ならば遮断することが出来る強力な魔法防壁を展開することができる。
「ガンマ。ベータはどうした……?」
「大丈夫、彼なら自分で帰艦できる……」
「し、しかし……」
アルファはベータの血気盛んな性格を思い出す。目を離すとまた勝手な行動をし始めないだろうか。
「一時の気の迷い。分別ならある」
「そうか……」
ハイペリオンとDファング、エスメラルダは攻撃がやみ、ふたたびお互いの姿がはっきりと目視できるようになると睨み合った。
「どうする? まーた振り出しに戻っちまったぜ?」
アルファはガンマに尋ねた。
「撤退する。任務は果たした。相手も追うつもりはない」
「なぜそんなことが言いきれる?」
「私たちは三機、相手は一機。圧倒的不利な状況にもかかわらず加勢が来ないのは相手のRAがハイペリオンしかいないから。追撃すれば艦の防備ががら空きになる……」
「なるほどな……」
アルファは、Dファングを旋回させるとハイペリオンから離れていった。ガンマのエスメラルダもそれに続く。
「艦長、追いますか……?」
ダンはアリアに通信を入れた。
「いいや、あっちには少なくとも三機のRAがいるんだ。こっちの防備ががら空きになるのは困る。戻れ」
「分かりました」
ダンはハイペリオンの向きを変えるとヴァイスフリューゲルへの帰艦ルートをとった。
「ですけど、俺には覚悟が足りなかったみたいです……」
「覚悟?」
ザルトは尋ねる。
「はい。敵の青いRA、コックピットを攻撃して討てたはずなのに、俺には出来なかった……。ここでビームセイバーを突き立てたら、人殺しになってしまう……そう思ってしまって……」
「ダン、俺たちは別に軍隊じゃあない」
「え……?」
「俺たちは本来なら、魔獣討伐のために結成された組織だ。人間を殺すためじゃあない。だったら、わざわざ人を殺す必要もないだろう?」
「で、ですが……殺さないとまたやってきます。相手はこちらを殺す気で……」
「そしたらまた追い返せばいい。何百回、何千回とかかってきやがれってんだ」
「ザルトさん……」
「ダン、お前はこの艦に来てからこういうこと続きだから分からんかもしれんが、俺や艦長、それにシルフィや他の乗員達だってこんなことは初めてなんだ。ましてや戦場で人間相手に戦う覚悟なんてものはあったもんじゃあない。だから……俺たちの戦い方は俺たちで見つけていけばいい。俺はそう思うがな」
「ザルトさん、ありがとうございます……!」
「さぁ、降りろ。いつまでもそんなところに座ってるわけにもいかんだろう?」
そう言ってザルトはダンに手を差し伸べた。
「そうですね」
ダンはザルトの手を取るとコックピットからタラップに降り立った。
シルフィとディーナは連邦首都・パリのとあるレストランに入っていた。
どこか異国情緒溢れるレストラン内は、意外に繁盛している。
ふたりは窓際の席に座ってメニューの書かれた紙を見ていた。
「お姉ちゃん、これはどんなお料理なんですか?」
シルフィは見たことも聞いたこともない料理名が並ぶメニューを見ながらディーナに尋ねる。
「うーん、辛いやつ」
「じゃあこれは?」
「それも辛いやつ」
「辛いやつばっかりじゃないですかぁ……」
「ヴィシュヌ料理の店だからしょうがないでしょ?」
ヴィシュヌ大陸。それはエウロペ大陸の東側に位置する世界で一番大きな大陸である。古来からエウロペ大陸の民は東側の国に夢を見てきた。東方には楽園、そして黄金の王国があると信じられていたのだ。実際、ある一時期までは、文明レベルにおいてエウロペ大陸諸国を圧倒的に凌いでいた。
しかし今は違う……と、ディーナは思う。産業革命、および政治革命以後、エウロペ大陸の国々は対外的な侵略を繰り返していた。初めはケンタウルス海の西側にある南北ローリー大陸を、そしてヘラクレス海の南に浮かぶ島大陸、オーシャンステイト大陸を、それから今は、エウロペ大陸の南側にあるアマジグ大陸の侵略を進めている最中だ。
アマジグ大陸北部およびヴィシュヌ大陸西部を治めるアラビア帝国は、かつて何度もエウロペ大陸に侵攻を繰り返した大国だったが、現在では逆に、先に産業革命を成し遂げたエウロペ大陸諸国の侵略の危機に晒され、国内でも内乱が起きているという。もし、アラビア帝国の植民地化に成功すれば、次に狙われるのはヴィシュヌ大陸の諸国であろう。実際に、ヴィシュヌ大陸沿岸部の街には、エウロペ大陸西部の島国、ブリテン王国が実質的に支配している街もあるという。
「ねぇシルフィ?」
ディーナは目の前でメニューとにらめっこをしている妹に声をかけた。
「なんですか?」
「あんまり……こういうことを言うのは変だと思われるし、それにきっと他の政治家の人達なら耳を傾けないと思う。だけど、雑談だと思ってちょっと聞いてくれない?」
「いいですよ?」
シルフィはにっこりと笑って答える。彼女なりの気遣いであろう。シリアスな雰囲気を和ませるための表情だ。
「シルフィ、あんたはどう思う? 大陸の外の国々について……」
「え? 私ですか? 私は……あんまり考えたことはなかったですけど、でも、色んな国があって楽しいと思います!」
「あんたらしい意見だね。……私は……例え文化や言葉なんかが違っても、根本的には変わらない何かがあると思う。人間の国家だけじゃあない、異種族の国家だって、共通するものがきっとある。そう思うんだよね」
シルフィは頷いた。
「確かに……そうですよね。私だって、種族こそ違えど、エルフと人間は同じものだって考えています!」
「あんたはほんと、エルフが大好きだね」
「はい、ゼロムさんの種族ですから!」
ディーナはいまさっき口に含んだお冷を吹き出しそうになり、慌てて飲み、むせこんだ。
「げっほ、げっほ。そ、そのゼロムっていうのは……?」
初めて聞く名前だ。
「私の……大好きな人です!」
だ、大好きな……何?
「ま、まさかとは思うけどあんた……付き合……」
「違いますよ? 私にRA乗りになることを決意させてくれた人です」
「そ、そう……」
ディーナは気持ちを落ち着かせるためにふたたびお冷を飲んだ。
「そんな大事な人、初めて名前を聞いたんだけど?」
「だって、お姉ちゃんいつも忙しそうですし、なかなか言う機会もありませんでしたし……」
「と、とにかく……付き合ってたりするわけじゃあないんだね?」
「はい!」
危ない危ない。妹に先を越されるなど、姉として一生の不覚だ。
話の腰が折られてしまった。えぇっと、どこまで話したっけ?
「と、とにかく。もし、エルフの国が侵略されたらあんただって悲しいでしょう?」
「もちろんです!」
シルフィは真剣に答える。
「そういうことが、世界中のいたるところで起こってるってわけ。しかも、私の大好きなこの国のせいで……」
「それって……どうにかならないんですか? お姉ちゃんの手で……」
「さぁね、国民もみんな、それが正しいことだって思ってるし……むしろこの場合、私みたいな考え方をする人間の方がおかしいのかもしれない……」
「そんなことはないですよ!」
シルフィは力強く言った。
「お姉ちゃんの言うこと、私にはとってもよく分かります! だからたとえ国中が敵に回っても、私はお姉ちゃんの味方です!」
「ありがとう……。さ、早くメニューを頼まなくっちゃ」
ディーナは話題を切りかえた。
だが、その時だった。
「……ッ! シルフィ、伏せて!!」
「えっ、な、なんですか?」
戸惑うシルフィの頭を押さえディーナは自身もテーブルに伏せた。
直後、シルフィの背後にあった花瓶が割れる。
店内で悲鳴があがり、客が雪崩をうったように逃げ出した。
「え、え……!?」
「シルフィ、私たち、すんごくまずい状況かもしれない!」
ディーナは咄嗟的にシルフィの腕を掴むと、そばにあった窓を叩き割り、脱出する。数発の銃弾がふたり目掛けて襲いかかったが、命中はしなかった。
今からおよそ二時間ほど前、ちょうどシルフィとディーナが軍務省をあとにした頃合だった。
冷や汗をかきながら、電報を作戦部に打とうとしたバフェル軍務大臣に声をかける者がいた。
「大臣閣下。一体何をなさるおつもりですか……?」
バフェルは顔を上げる。
そこにはクリーム色のウェーブのかかった髪をした青年がいた。
「い、いつ入ってきたのだ……?」
「たった今です。……ですが、先程の会話の内容、聞きましたよ?」
「それなら話が早い。私は……あやつらの要求を飲むことにした。いや、飲まざるをえない」
「やけに弱気ですね、大臣。あなたらしくもない……」
「では、どうするというのだね? サザーム」
サザームと呼ばれた青年はしばらく考え込むような顔をしてから答えた。
「やることはひとつですよ、軍務大臣。ディーナ・オルレアンを暗殺し、その罪を妹、いや、JACに着せ、宣戦布告をする。我々の勢力拡大にはそれしかない」
「し、しかし……暗殺とは……」
「国民からすれば国家に属さないJACなどという組織は外国組織も同然です。彼らの言い訳などよりも、我々の言い分の方を信じるでしょう。ご安心を、責任は私が取ります。あなたは上で楽になさっていればいい」
「わ、分かった……。国家のため、やむをえまい……」
バフェル軍務大臣はサザームの提案に震えながらも頷いた。
ディーナは、シルフィの手を取り、暗いパリの路地裏を疾走していた。
後ろから黒いスーツを身にまとった数人の暗殺者たちが銃弾を放ちながら追ってくる。
本来ならばここは貧民街となっている場所だったが、さすがに飛び道具に恐れをなしたか、ゴロツキどもも今日はどこかに隠れているようだ。
「シルフィ、あんた……ここまではどうやって来たの?」
ディーナは走りながら尋ねる。
「どうやって……って、どういうことですか?」
「交通手段! 船? 汽車? それとも車?」
「RAです!」
「RA!?」
「はい!」
妙だ。身長十二メートルもあるような巨大ロボットがパリ市内か、その郊外にでも現れようものなら一瞬にしてメディアの格好の餌食、いや、それ以前に軍部が黙っていないだろう。
「そんなもの、どこに隠したの!? ……というか、よくバレなかったね……」
「この近くの公園の地下に……。私のRAは隠すのに便利なんです!」
隠すのに便利なRA……。どういうことだろうか。いや、そんな悠長なことを考えている場合ではない。
「シルフィ、そこまで案内してくれない!?」
RAならば暗殺者の魔の手から逃れることは容易だろう。
「分かりました! こっちです!」
今度は、シルフィがディーナの手を引いて案内を始めた。
ふたりは、貧民街を抜けて、街の中心部にある公園にたどり着いた。石造りの街並みの無機質な市街地とは打って変わって緑に覆われた芝生や森がこんもりと茂っている。いつの間にか、ふたりを追っていた暗殺者達は消えていた。
「あの……暗殺者さん達、どこに消えたんでしょう?」
シルフィは慎重に遊歩道を歩きながらディーナに訊いた。
「うーん、私に訊かれてもねぇ。そんなことよりシルフィ、一体この公園のどこにRAを隠したっていうの?」
「ふふん、それはですね……。ついてきてください!」
シルフィはいたずらっ娘のような表情をするとディーナを先導して早歩きになる。
「ちょ、そんなに急がないでよ! お姉ちゃん走りすぎて疲れてるんだから!」
「運動不足ってやつですか?」
こいつ……。
シルフィは純粋だ。純粋故にたまに本人の自覚なしに棘のある言葉が飛び出す。
ディーナがなにか言い返してからかってやろうと思った時、ふたりの頭上を黒い影が覆った。
見上げるとそこには、RAがゆっくりと降下してきていた。
無機質な三つの赤い目に濃い灰色のボディ。連邦の量産型RA、ゾルだ。
「ゾル……?」
どうやら先を読まれていたらしい。ふたりは立ち止まる。
ゾルはプラズママシンガンの銃口をふたりに向ける。
「ディーナ・オルレアンとその妹、シルフィ・オルレアンだな」
ゾルのパイロットは外部スピーカーからふたりにそう呼びかける。
「ううーん、だれだろう。人違いじゃない?」
ディーナはすっとぼける。
「そうか。人違いか……それならお前たち、どこのどいつだ?」
「はーい、シルフィ・オルレアンっていいます!! ……って、あっ、いやいやいや、ていうのは嘘で……」
シルフィが口を滑らせた。
「ほーう? やっぱりそうか。では訊くがシルフィ、お前は自分のRAをどこに隠した?」
「えっ、えっと……うぐぐ」
またしても口を滑らせかけたシルフィの口をディーナが慌てて塞いだ。
そうか……。こいつらは公園のどこかにシルフィがRAを隠したということは知っていても、それがこの公園のどこにあるかは知らないということか。持っている情報はディーナとだいたい同じだ。
「何をやっている? 妹が苦しがっているぞ?」
ゾルのパイロットはそう言ってシルフィの解放を促す。どうやら相手もシルフィの口が水素原子並みに軽いということに気づいたようだ。
「ねぇ、ゾルのパイロットさん?」
ディーナは親しげな口調でまだ見ぬゾルのパイロットに声をかける。
「あなた……私たちいたいけな女の子ふたりを殺すためにRAを使うつもり?」
「なんだと?」
「もしかして……怖いんだ。私たちにですらかなわないかもしれない……そう思って……」
ゾルのプラズママシンガンが光弾を放った。
ふたりの足元の地面に穴が開き、ふたりは後方に吹っ飛ばされてしりもちをついた。
「いってて……」
どうやら相手を挑発してゾルから下ろす作戦は見事に失敗したようだ。
「まぁいい。RAはお前たちを殺したあとでゆっくりと探すとしよう……」
そしてゾルのパイロットは改めてプラズママシンガンの照準をふたりに向けた。
その時だ。ゾルの三つのカメラアイが次々と割れ、視界を失ったゾルのプラズママシンガンはふたりの遥か後方に炸裂した。
「な……何?」
そして無意識に後ろに目を向けたディーナはハッとする。
「アルト……!?」
それは、あの秘書官の少年だった。
彼は、拳銃を構え、先程のプラズママシンガンが炸裂した場所の向こう側に立っている。
「ディーナ様、外が騒がしいので出てきてみればこの状況……。探しましたよ」
「どういう状況なの?」
ディーナがアルトに尋ねる。
「どうやら街ではディーナ様を暗殺するためにシルフィ様が送り込まれたという噂が流されているようです。……ですが、十中八九軍部の仕業でしょう。彼らは、自分達の目的を阻害するディーナ様とJACを共に始末しようと考えているものかと……」
「やっぱり……」
ディーナは深くため息をついた。敵が国内にいるとなれば、もし、ここで彼女が生き延びることが出来たとしてもしばらくの間は連邦に戻ることは出来ないだろう。国政改革という彼女の夢はしばらくお預けとなるようだ。
だが、そこでいつまでもくよくよしているディーナではない。
すぐにシルフィに指示を飛ばした。
「シルフィ、RAを隠した場所まで案内して!!」
「分かりました!!」
シルフィはメインカメラを損傷してほとんど機能停止状態にあるゾルを横目に走り出した。ディーナとアルトもそれに続く。
直後、三人の後方を光弾の雨が襲った。
ちらりと後ろを見るとさっきのとは別の二機のゾルが空中を飛行しプラズママシンガンを連射してきている。おそらくは、先程のゾルのパイロットが救援要請をしたのだろう。
「厄介な敵ですね……」
「ほんっとそれ、しつこい男は嫌われるってのに!」
「まぁあの二機のパイロットが男だとは限りませんが……」
「どうでもいいでしょ? そんなこと!」
三人がゾルの攻撃から逃れながら走っていると、やがて前方に公園の中を流れる一本の川が見えてきた。
川幅は十五メートルほど、流れる先はトンネルに入り暗渠になっている。
「あそこです!」
シルフィは叫んだ。
「川の中ってこと?」
「違います! あの暗渠の中です!」
「え?」
ディーナは驚いた。暗渠のトンネルの高さはせいぜい六メートルほど、全高十二メートル前後のRAは腰をかがめたとしても入れる大きさではないだろう。寝かせて入れたとでもいうのだろうか。
「にわかには信じられませんが……」
どうやらアルトも同じ感想のようだ。
ふたりがそんなことを考えている間に、先導をするシルフィは暗渠へと駆け込んでいった。迷いながらも、ふたりはシルフィに続いた。
暗渠のトンネルの側面には、幅八十センチメートルほどの通路があり、3人はそこを1列になって進んだ。
やがて、シルフィが立ち止まり、指を指す。
「あれです!」
そこにあったのは、既存のRAとは似ても似つかない金属製の兵器だった。
まるで鳥が翼を身に添えたような形状をしたその兵器はピンク色をしていた。後方には四枚のウイングがX字状についている。
「こ、これがRAなの……?」
ディーナは尋ねた。
RAといえば人型をしているはずだ。だがこれは人型はおろか、既存のどんな動植物とも似ても似つかない姿であった。強いて言うなれば、昔、設計だけされながら作られなかった飛行機という乗り物が戦闘用に進化したような形をしているようにも見える。名付けるなら戦闘機型といったところか。
と、ディーナがシルフィのRAの形状に関して考察していると暗渠の外壁が大きく振動した。
「どうやら自分たちが入れないので……暗渠ごと僕達を埋め去る作戦に出たようですね」
「は、早く乗りましょう!」
シルフィはポケットからキーを取り出すとそのスイッチを押した。
戦闘機型の前方にある黒いハッチが開く。
シルフィはすかさずに水の中に島のように置いてあるRAに飛び乗ると、コックピットに座った。ディーナとアルトもすぐに続く。
シルフィはコックピットのスイッチを押し、ハッチを閉めた。
すると全面に周囲の映像が投影される。外面はかなり変わった形状だったが、こうして内部を見るとやはりRAだった。
「シルフィ・オルレアン。ジャンヌアロー、発進します!!」
シルフィがレバーを入れるとジャンヌアローは水上に浮き上がり、そしてその後方から水色の粒子を噴射して暗渠から発進した。
ジャンヌアローは猛スピードで暗渠の前で攻撃を加えていた2機のゾルの間を通り抜け、空へと飛翔する。
すぐさまゾルが追撃してくるが、ジャンヌアローはそれを右へ左へ、鳥のような華麗な動きで回避する。
「シルフィ! あんたこのRA……すごいよ!!」
ディーナはコックピットの外を流れるように移動していく景色を眺めながら思わず叫んだ。機動性の高さでは他のほとんどのRAを凌ぐだろう。
「やられてばっかりじゃあありませんよ!!」
シルフィはジャンヌアローを大きく旋回させると両翼の下に装備されたプラズマアローキャノンを連射した。
光弾は一機のゾルに命中し、そのゾルは戦闘不能となり地上に落下した。
「あと一機です!!」
シルフィはジャンヌアローを残ったゾルに突撃させていく。
だが、ここで相手のゾルはプラズママシンガンを捨て、ビームセイバーを抜いてかかってきた。
「危ない!!」
すれ違い様にジャンヌアローが斬り掛かられそうになるのを見てディーナは叫ぶが、シルフィは既のところで相手の攻撃をかわす。
「気をつけてください。相手は近接戦に持ち込むつもりのようです」
アルトは忠告した。
人型をしていないジャンヌアローにとって近接戦は圧倒的不利だろう。だいいち近接戦闘でのRAの主力武器であるビームセイバーを、ジャンヌアローが持てるとは思えない。
「あっ、私、近接戦も結構得意なんですよ?」
「こ、こんな形でどうやって?」
ディーナは思わず訊く。
「見ていてくださいね!」
シルフィはそう言ってから目の前のレバーを思い切り引いた。
「デュアルシフト! ジャンヌ-Χ!!」
その途端、ジャンヌアローは変形を開始した。
折りたたまれていたアームや脚部が伸び、頭部が飛び出してボディが変形する。みるみるうちに人型の姿になったのだ。
そして緑色のツインアイに光が点る。
「へ……変形した……?」
「はい! ジャンヌ-Χさんは可変機なんです!」
そしてシルフィはジャンヌ-Χに、左肩に装備されたビームセイバーを抜かせる。
ジャンヌ-Χとゾルの光刃が空中でぶつかりあった。スピードタイプの機体である、ジャンヌ-Χはパワー面においては、ゾルにやや劣っている。だが、そこはシルフィ自身の操縦技術で補っていた。
ジャンヌ-Χはゾルのパワーを利用して、逆に反動で後方に素早く移動すると今度は左アームで右肩に装備されたビームセイバーを抜いた。そして二本のビームセイバーの柄を連結させ、両刃式のセイバー、ツインセイバーを作る。
ジャンヌ-Χは、斬りかかってきたゾルのビームセイバーをダブルセイバーの両方の刃で次々と受け止めていく。そして不意にツインセイバーを分離させ、ゾルの両肩に突き立てた。
ゾルのアームは両方とも使い物にならなくなった。おそらくはもうこれで戦えないだろう。
しかし、シルフィのその考えは楽観的であった。
武器を失ったゾルはそのまま、ジャンヌ-Χ目掛けて突撃してきたのである。
「ぶ、武器ももうないのに……!」
「特攻するつもりです」
「特攻……?」
「はい、おそらくはこちら側に突撃し、そしてそのまま自爆を……」
「そんな……どうして相手はそんなことを……!」
シルフィは若干ショックを受けたような顔をする。
「それも命令、いや、忠義のうちでしょう。目的の為ならばあらゆる手を尽くす。最後は、自身を犠牲にしてでも……」
と、アルトがそこまで言ったところでコックピットに大きな衝撃が走った。
ゾルとジャンヌ-Χが正面衝突をしたのだ。
そして次の瞬間、辺りは爆風に包まれた。
両者ともに爆散してしまったように見えた。
だが、しばらくして爆発の中から飛び出した1機のマシーンがあった。ジャンヌアローだ。
ジャンヌアローは夜のパリの上空を西へ向かって飛行していく。
「お姉ちゃん……」
シルフィはやや震え気味の声で呟いた。
「大丈夫、あんたにはどうしようもなかった……」
「で、でも……!」
「どんなに頑張っても救えないことや、できないことだってある。……でも、あんた自身にどうにかしたいという気持ちがあったのなら、それは……」
「それは……なんですか?」
「それは、充分な合格点だと思うよ」
シルフィは何も答えなかった。ディーナはその肩にそっと手を添えた。
今は、亡命者としてではなく、ひとりの姉として、シルフィのそばにいてやろう。ディーナはそう思った。
リアルロボットよりの話なのに必殺技を叫ぶという……。次回の更新日は1月29日です。