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魔法戦線ハイペリオン  作者: 龍咲ラムネ
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第19話 RGヴェーダの魔女

 シルフィの新機体、いよいよお披露目です。次回から本格的な活躍!

 ヴァイスフリューゲルは、湖底をゆっくりと進んでいた。こちら側のRA(ライドアーマー)の数が少ない以上、アルゲン島にギリギリまで近づいてから攻撃を加えるというのが今回の作戦である。

 だが、その矢先、ヴァイスフリューゲル艦内が大きく揺れ動いた。


「な、なんだ!?」


 アリアはオペレーターのレイカに何があったのか確認をする。


「こ、攻撃です。魔法防壁が展開できません!! ピンポイントでやられました!!」

「なんだって!?」


 艦橋にいた誰もが顔を見合せた。


「それって……作戦を見破られていたということですか!?」


 ザルトが言う。


「そういうことになるな……」


 間髪を入れずに今一度艦内に衝撃が走った。


「装甲が破られました!! 右舷側の通路、浸水します!! 浮上できません!!!」

「くそっ、一体誰がどっから攻撃を……!!」

「レーダーには映っていません! 恐らく……レーダー外から目視で攻撃しているものかと……!」

「そんなことが可能なのか……!?」

「場合によっては……可能だ」


 格納庫で、自分のRAのコックピットにて待機をしていたエリシアから通信が入った。


「ある種の射撃攻撃に特化をしたRAで、なおかつ、パイロット自身も相当の腕を持ったスナイパーならば……」

「すると……あんたはこの攻撃がRAによるものと……!?」

「あぁ、今に本拠地となっている戦艦も姿を現す頃合だろうがな」

「前方の谷間から、巨大な熱源体が浮上……! 機兵母艦です!!」


 言っているそばから敵影が姿を現した。目視で確認できる距離である。湖底の谷底にて、レーダー網をくらまし、待ち伏せしていたのだ。

 その機兵母艦は、巨大な青い白鳥が翼を広げたような姿をしていた。


「くそ……ここまで追い詰められたのは……あの時以来か……」


 アリアはいつかのブルーバード戦を思い出していた。


「艦長、我々に出撃許可を……!!」


 エリシアが言う。


「よし、分かった。RA部隊に出撃を命ずる!!」

「了解!!」


 エリシアはコックピットにてレバーを大きく引いた。


「エリシア・オーデンセ。ドール、殲滅する!!」


 ヴァイスフリューゲルのカタパルトから金色のRAが射出される。ドールは、カタパルトデッキの耐水バリアを突き抜けて、湖底の水の中に突入した。


「ダン・アマテ。ハイペリオン、行きます!!」

「シルフィ・オルレアン。ドール、発進します!!」


 ダンとシルフィもそれに続く。


「シルフィ、お前は右舷側のはるか遠くにいる射撃型RAの対処に当たれ。可変機を操っていたお前の動体視力ならば……奴と互角に戦えるはずだ」


 エリシアが命じる。


「分かりました!!」


 シルフィのドールはエリシアとダンから外れていく。すぐさま光弾がシルフィ目掛けて襲いかかるが、シルフィはそれをひらりひらりと、まるでジャンヌアローに乗っていた時のようにかわす。


「さぁダン、我々は本命を潰しにかかるぞ……!!」

「了解!!」


 エリシアとダンは敵の青い戦艦へと向かっていった。


「やはり……艦長の読み通りでしたね」


 青い戦艦、RG(リグ)ヴェーダの艦橋で、銀髪の少年副艦長はフローラに言った。


「あら、あなた、もしやわたくしの読みが外れるとでも思っていましたの?」


 フローラは尋ねる。


「万に一つということもありますでしょう?」

「ありませんわ」


 フローラは即答する。


「だいたいこの戦場の方たちは危機感が無さすぎますわ。なにが敵がたった1隻や2隻で突撃してくることなんて有り得ない? 戦場なんて有り得ないことのオンパレードですのよ。本当に戦地に立ったことがあるのかしら? あの方たち」


 フローラの小言は続く。


「まぁ、でもあの仮面の男は少しくらいは評価してやってもいいですわね。わたくしに、だったら好きにしろと言ってくださったおかげで、私はお役目を罷免されずにここに立つことができたんですもの」

「ですが艦長、あなた……よもやその言葉がなくても規律違反を犯して勝手にここで待ち伏せするつもりだったのでは……?」

「当然ですわ」


 その時、レイブンフェザーのクローネから通信が入る。彼女は、右目に自分の機体のものと同じ形状のレンズを取り付けていた。


「艦長、敵のRAが一機、こちらに向かってきます!!」

「そう……それなら撃ち落として差しあげて」


 そう言ってからフローラは労いの言葉を贈る。


「あと……先鋒ご苦労さま。すぐにライラとギムールも発進させますわ」

「ありがとうございます! 頑張ります!!」


 そう言うとクローネは、戦闘に集中するために通信を切った。

 フローラは次に格納庫に待機しているライラとギムールに通信を送る。


「さぁふたりとも、出番ですわよ」

「了解! ライラック・ソフィア。エンディミオン、出ます!!」

「おうよ! ギムール・ギマラインシュ。ペルーダMk-II(マークツー)、派手に行くぜ!!」


 白いRAと赤いRAがRGヴェーダのカタパルトから射出された。


「新たに出撃した敵の数はこちらと同じ二機か……。ダン、お前はあっちの白いのを頼む。私は赤い方をやろう」

「分かりました! でも、どうして……?」

「なんとなくだ!」


 エリシアはそうとだけ答えるとドールをペルーダMk-IIに突撃させた。


「そ、そうですか……。なんとなく……ね」


 ダンもハイペリオンをエンディミオンに向かわせる。


「あいつが僕の相手……ということか!!」


 ライラックはエンディミオンのビームセイバーを抜かせる。

 ダンも、それにならいハイペリオンのビームセイバーを抜かせた。

 二本の黄色い光刃が水中で激突する。


「くそ……。やっぱり、水中だと思ったより機動力が出ないな……!!」


 と、そこまで言ったところでハッとする。


「エリシアさん!」


 ダンはエリシアに通信をかけた。


「どうした、ダン! 今は目の前の敵に集中しろ!!」


 エリシアのドールは、ペルーダMk-IIのメタルハーケンによる攻撃をビームセイバーで巧みに弾きながら戦っている。


「水中では機動力が落ちます! シルフィの敵は……いえ、シルフィは圧倒的に不利な状況で……」

「言わせるな馬鹿者! シルフィを信じろ!!」

「ですが……!」

「少なくとも、目の前の敵に集中していないと、お前が死ぬぞ!!」


 ダンがコックピットの前方に目を向けると、エンディミオンが振るったビームセイバーが目の前を掠めた。


「わ、分かりました! すいません!!」


 危ないところだった。今は、エリシアの言う通りシルフィを信じることにしよう。


 シルフィはレイブンフェザーの攻撃をかわしながら敵の元に着実に近づいていっていた。

 しかし、やがて肩部アーマーに被弾してしまう。


「やっぱり、水中だと機動力がちょっと落ちちゃうんですね……」


 シルフィはそれを見て言う。

 だが、敵はぎりぎりレーダーの射程内に入ったようだ。

 シルフィはドールの腰部に取り付けられていたプラズマライフルを手に取ると光弾を発射した。


「頼みます。当たってください!!」


 光弾は、レイブンフェザーではなくその足元の地面に着弾した。足元の泥がやや舞い上がる。


「外し……! いや、これなら……!!」

「あ、危ないところでした……!」


 クローネはほっと胸をなで下ろし、ふたたびスナイパープラズマライフルを構えた。普通のスナイパーライフルとは違い、この銃には照準が取り付けられていない。照準は、レイブンフェザーの右目を覆う横向きのひし形のレンズおよび、それに対応するクローネ自身の右目のレンズに表示されるのだ。


「標的を確認。撃ち抜きます!!」


 クローネは照準を確認するとスナイパープラズマライフルを撃つ。


「えぇぃっ!!」


 シルフィもプラズマライフルを数発撃ち込む。しかしそれは、全てレイブンフェザーの周りの地面に当たった。

 一方のレイブンフェザーの攻撃は先程も攻撃を受けたドールの肩口にふたたび命中し、ドールの左アームが外れる。

 だが、シルフィは慌てた様子を見せなかった。そればかりか、敵の周囲に上がった泥を見てそちらに突撃していく。


「命中し……って、あ、あれっ、視界が……!! あの……これってどうなってるんですか!?」


 クローネは、泥に視界をさえぎられて慌てる。基本的に視界に頼ってスナイパーライフルを撃ってきたクローネは、レーダーを見ていなかったのだ。


「え、えっと……なんか光ってるんですけど、これは……」


 いや、レーダーに頼らず戦ってきたので、逆にそのレーダーの見方をよく理解していなかった。

 泥に紛れて接近したドールが、ビームセイバーを抜いて攻撃してくる。

 クローネは、咄嗟のところでその光を見、攻撃をかわした。


「あ、危なか……」


 泥が晴れ、シルフィのドールが目の前に姿を現した。


「……って、これ、接近戦をしろってことですか!?」


 クローネは慌てる。接近戦をするなんて、フローラから聞かされた作戦にはなかった。


「さぁ、敵さん、あとは近距離戦で決着をつけちゃいましょう!!」


 シルフィは覚悟を決めて言う。


「ちょ、ちょっと待ってください! 心の準備が……ええっと……こういう時は深呼吸をして……」


 クローネは、スナイパープラズマライフルを背中に戻すと、レイブンフェザーの両腰からプラズマハンドガンを抜いた。


「確か……接近戦用の武器って……これでしたよね」


 気持ちを落ち着かせて自問自答し、確認する。


「標的を再確認。撃ち抜きます!!」


 クローネは両手のプラズマハンドガンを連続発射した。


「そ、そう簡単に当たって……っ! って、わっ!」

 

 敵の光弾はシルフィのビームセイバーをピンポイントで撃ち抜き、ビームセイバーは機能を停止して、光刃が消滅する。


「う、嘘……!?」


 どうやら、敵の攻撃の精密さはシルフィの予想を数倍も上回っていたようだ。

 シルフィは、腰のプラズマライフルをふたたび抜いた。


「何が来ようとも、私は、艦の皆さんのために!!」


 だが、それもレイブンフェザーに撃ち抜かれ、使い物にならなくなる。


「そしてトドメです!! 皆さんの想い、そして私の……」


 だが、そこまで言ったところで目の前を赤い光線が走り、狙いが逸れた。


「え……」

「ほへ……!?」


 クローネとシルフィは咄嗟に光線が飛んできた上方を見る。


 エリシアのドールは、ギムールのペルーダMk-IIと戦っていた。序盤はペルーダMk-IIのメタルハーケンの動きをビームセイバーで弾き、互角に戦いを進めていたが、やがて、その変幻自在な動きに押され気味になってきてしまった。


「どうしたどうした!! 勢いが足りないぞ!!」


 ギムールは満足気に言う。


「くそ……この動き、まるで蛇……。いや、そんな比喩表現すら霞んで見えるレベルだな……」


 エリシアは敵ながらもその動きに感心する。

 メタルハーケンがドールの右腕に巻きついた。


「しまっ、やはり余計なことに気を取られるとこうなる……!!」

「貰ったァ!!」


 ギムールはペルーダMk-IIのビームセイバーを抜かせてドールに斬り掛かる。


「ヴィブロダガー!!」


 エリシアは咄嗟に小型ナイフ型の振動剣、ヴィブロダガーを左手に持ち、それを防御する。


「この期に及んで防御するか!! だが気に入った! なにせその小型ナイフを使った超近接戦! なんとなく派手だ!!」


 勝ち誇るギムールに対し、エリシアは顔をしかめている。


「まずいな……咄嗟の防御はできるものの……こう動きを拘束されている状態では……まともな攻撃は出来ない……どうすれば……」


 だがその時、メタルハーケンのワイヤーに上方からの光線が命中した。


「なんだ……!?」


 エリシアは咄嗟に上方を見上げる。

 するとそこには、大型の白いRAの姿があった。脚部はないものの、その全高は通常のRAとほぼ変わらない。それに、装甲もがっしりとしていた。


「あれは……」


 エリシアがそのRAの名を言いかけると、彼女の元に通信が入った。

 映し出されたのは、あのRAにふさわしいがっしりとした男だ。


「ゲルマニア軍、フリッツ・ネルトリンゲン。助太刀に参上した……!!」


 あのRAは、フリッツの魔動機、ジークフリートだ。よく見るとその後方には二機の別のRAもいる。頭部に一本角のようなパーツが生えたモノアイのRA。ゲルマニア軍の主力量産機、ドーベルだ。機体色は濃い茶色をしている。


「どうしてゲルマニア軍が……!?」

「保険だ。主力部隊のカモフラージュには、我らが普段使っている機兵母艦、ファーヴニルだけで充分だろう?」

「まったく、余計なことを……。だがゲルマニア兵がいれば百人力だ。一気に攻勢をかけよう」

「言われなくてもだ!!」


 フリッツのジークフリートはビームセイバーを抜く。それに従い、規律の取れたゲルマニア軍は、部下の乗るドーベルたちもビームセイバーを抜いた。


「ゲルマニア軍……どうして……!?」


 加勢してきた勢力がゲルマニア軍だと分かったシルフィも、エリシアとほぼ同様の感想を漏らした。


「我らは保険です。お気になさらず」


 規律正しく並んだ三機のドーベルのうち、一機のパイロットからそう通信が入る。


「それから……あなたはシルフィ・オルレアンさんですね」

「はい!」

「この戦いは我らが一旦引き受けました。あなたは……湖の上空に控えております我らが艦、クリームヒルトに向かってくださりますよう……」

「分かりました! でも……どうしてですか?」

「行けば分かります」

「そうですか。じゃあ、あとは任せちゃいますね?」


 シルフィはそう言うと魔法粒子を噴射させて湖上に向かった。


「逃がしませんっ!!」


 クローネはレイブンフェザーのプラズマハンドガンを戦線離脱するドール目掛けて放ったが、その間にゲルマニア軍のドーベルたちが割り込んで、ビームセイバーで攻撃を弾いた。


「お前の相手は我々がする!!」


 ゲルマニア軍の三機は一斉にレイブンフェザーへと襲いかかった。


「さ、三機をひとりで相手に……! ですが艦の皆さんのためにも! 頑張ります!!」


 クローネは自分を鼓舞するとプラズマハンドガンを連射して応戦を開始する。


「艦長、敵方に援軍が現れました!! あの機体は……ゲルマニア軍かと!!」


 RGヴェーダのオペレーターが報告する。


「そんなことわざわざ言わなくても見れば分かりますわ」


 フローラは答える。


「艦長、いかがいたしましょうか?」


 副艦長が尋ねる。


「ねぇエレク」


 フローラはニヤリと不敵な笑みを浮かべて言った。


「確か……この艦にはあなたの設計したとっておきの究極兵器がありましたわよね。あれって……どれほどの威力でして……?」

「それは……」


 エレクと呼ばれた副艦長は言葉を濁す。


「実は……あれは元帥が考え出したものでして……その……」

「え、えっと……つまり、よく分かっていないんですの……?」

「は、はい……」


 エレクは申し訳なさそうに答える。


「ま、いいですわ。なんで元帥がわざわざそんなものをこの艦に取り付けろと命令したのかはとっても気になりますけれど、そんなことはひとまず置いておいて、とりあえず、使って差し上げるしかのも一興ですわね」

「艦長……」

「ま、あくまでも試験的運用ですわ」


 フローラはにこりと笑ってそう答えてからライラックとギムールに通信をかける。


「おふたりさん、すこーしばかり戦場を離れてはいただけません?」

「えっ、でも……」

「最悪、死ぬことになるかもしれませんわよ」

「どういうことだ? フローラちゃん」

「とっておきのやつ、使う時が来ましたわ」


 エンディミオンとペルーダMk-IIが戦闘していた相手から機体を離した。


「あいつら……どういうつもりだ……?」


 その様子に気がついたエリシアが呟く。

 すると、ダンから通信が入った。


「エリシアさん、見てください!! 敵艦を……!!」

「え……? なっ!?」


 エリシアがダンの言葉に従い敵の青い戦艦を見ると、その艦首が割れるように展開して、中から巨大な砲塔が姿を現した。砲塔はエネルギーを充填するように光り輝き始める。


「ダン! 何かヤバい!! この場から離れるぞ!!」

「で、ですが艦が……!!」

「命あってこその戦場だぞ!!」


 ヴァイスフリューゲル艦内は混乱に包まれていた。


「い、一応艦内の浸水は隔壁を下ろすことで防げていますが……」

「この状況じゃあ、湖面に浮上することすら難しい……か」


 ザルトの報告にアリアは答えた。

 だがそこでレイカから声が上がる。


「艦長! 大変です!! 敵艦、高エネルギー砲と見られる砲塔を展開、エネルギーを充填しています!!」

「なんだって!?」


 アリアは艦橋のモニターを見やった。そこには、砲塔を展開するRGヴェーダの姿が映っていた。


「狙いは……間違いありません! 我々です!」

「まぁそうなるだろうな……」


 アリアはやれやれという風に呟いた。


「アスラ・アストラ!! てぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!!!」


 フローラの指示で、砲塔から高エネルギーの青白い光線が発射される。


「ま、まずい!! あんなものが当たったら間違いなくヴァイスフリューゲルは!!」


 ダンは飛び出していきそうになるが、ハイペリオンのアームをエリシアのドールが掴んだ。


「待て……」


 と、そこでふたりに通信が入る。


「あの攻撃、私が引き受けよう」


 フリッツからのものだ。


「フリッツ将軍!?」

「安心しろ。必ずくい止める」


 フリッツはそうとだけ言うと光線の前に飛び出していった。

 そして、自身のアタックスキルを叫ぶ。


「ヴァルムンク・プラズ……ぐっ、ぐぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!」


 言い終わる前に、光線はジークフリートを飲み込み、文字通りの意味で消滅させた。


「ジークフリート、反応が消滅。文字通りの意味で存在が微粒子レベルに分解されました!!」


 ゲルマニア軍のひとりが仲間に報告する。

 光線はそのままヴァイスフリューゲルへと向かっていく。


「くそっ、やっぱり、俺が……!!」


 ダンは、ハイペリオンにドールの腕を振り払わせると、光線に直行した。


「おい、やめろ!! ダン!!」


 だが、ダンは通信を切り、青白い光線の前に立ちはだかる。

 光線がハイペリオンを飲み込んだ。


「ダン!?」

「あの馬鹿!!」


 アリアとエリシアはそれぞれの場所で叫ぶ。

 だが次の瞬間、青白い光線が真っぷたつに斬り裂かれた。2本に分かれた光線はヴァイスフリューゲルの両側の地面に命中する。


「ぐぁぁぁぁぁぁっ!! なんだっ、何が起こって……!!」

「艦長、光線が引き裂かれました!!」

「艦内損傷率三十パーセント!! ですが、この艦は存在を保っています!!」


 光線を引き裂いたのは、金色に光り輝くハイペリオンだった。

 光線が晴れ、戦場にその姿を現す。


「ダン、お前……」


 エリシアはそれを見て呟く。


「俺は……みんなを、艦のみんなを守り抜く。だから……この力を使いこなしてみせます!!」


 ダンはそう言うとRGヴェーダに突撃していった。


「な、いったい何が起こっていますの!?」


 一方のRGヴェーダ艦内も混乱に包まれていた。

 混乱の第一要因としてはアスラ・アストラの威力が思いのほか強力だったこと、第二要因としてはそれを防いだRAが存在すること、そして、第三要因は、そのRAが金色の光を放ちながらこちらがわに突撃してくることだった。


「魔法防壁は……展開できませんの!?」

「駄目です!! アスラ・アストラにエネルギーを使いすぎました。魔法防壁、展開できません!!」


 その時、艦橋にライラックからの通信が入る。


「フローラ、僕にやらせてくれ!」

「やるって、何をするつもりですの!?」

「あいつを、止める!」

「無理ですわ! アスラ・アストラを防いだような相手なんて、普通じゃ……」

「でも、なんだか分からないけど、僕ならやれると思うんだ」

「それは……いつもの勘というやつでして……?」


 ライラックは無言で頷いた。


 アブソリュートシステムを発動したハイペリオンは、RGヴェーダ目掛けて突撃していた。

 あの艦を倒せば、戦いを終わらせることが出来る。ダンはそう確信していた。

 だが、その前にエンディミオンが立ち塞がった。


「金ピカ! 僕が相手だ!!」


 エンディミオンはハイペリオンにぶつかっていった。


「そこをどけ!! お前は俺の相手じゃあない!!」


 ハイペリオンはビームセイバーをひと振りし、斬撃を飛ばす。


「く……斬撃、通常攻撃で、こんなものが……!!」


 エンディミオンは必死にそれを受け止めた。


「でも、こんなことで負けるわけにはいかないんだ!! 僕はフローラを、そして艦のみんなを守らなくちゃあいけない!! だから、お前を倒す!!」


 エンディミオンはその斬撃を右に振り払った。


「さぁ行くぞ金ピカ!! これが、僕の……」


 ライラックは確信に近いものを得ていた。それは、ネクストチルドレンの勘といってもいいかもしれない。自分にだって、絶対なる力が使いこなせるという確信だ。


「これが僕の本気だぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!」


 エンディミオンは金色の光に包まれる。そして、水色だった両目は赤色に変化した。


「お前……!」


 ダンはハッとする。


「お前も……アブソリュートシステムを……!!」


 そして、いつかのエルの言葉を思い出していた。

 そういえば、ローマ連邦でもアブソリュートシステムを搭載したRAが極秘に開発されている。それが、今目の前にいる四本角のRAだということか。

 金色に輝く二機のRAは水中でぶつかりあった。

 その途端、そこを中心として水流の流れが巻き起こる。


「な、何が起こっているんだ!?」

「なんというパワーですの……!?」


 ふたりの艦長はほぼ同時に息を飲んだ。

 その水流の勢いによって、どちらの艦も後方へと押されていっているのだ。


「だ、駄目だ……あいつらのせいでこっちはまともに戦えやしねぇぜ……」

「姿勢を制御するので精一杯だ……!」


 ギムールやエリシア、そして周囲のゲルマニア兵たちも、水流に流されそうになり、必死に魔法粒子を噴射して姿勢を制御していた。もはや戦いどころではない。


 そこから離れた地点で戦闘をしていたクローネと三機のゲルマニア兵たちも、異変を感じ取っていた。


「な、なんだ! この流れは!!」


 ゲルマニア兵は突然発生した水の流れに戸惑う。


「落ち着け! 今は目の前の敵に!!」

「ぐあっ!!」


 その中の一機のドーベルは、姿勢制御が上手くできずに、流されていきそうになる。その向こう側には大きな岩山。この勢いで当たったら間違いなく機体は大破するだろう。

 しかし、そのドーベルは途中で腕を掴まれて助かる。


「だ、誰……って、え……?」

 

 なんと、彼を助けたのは、敵機であるはずのレイブンフェザーであった。濃い紫色をしたそのRAは、自身のスナイパーライフルを地面に突き立て、体を固定し、その左腕で彼のドーベルを掴んで、救ったのだった。


「ど、どういうつもりだ……!?」


 ドーベルのパイロットは状況が掴めずに言った。

 クローネは、自身のコックピット内でそっと呟く。


「本当はこんなこと、するべきではないのは分かっていますが……。でも、困った時はお互い様です!」


「おい、ダン! 聞こえるか、ダン!!」


 ハイペリオンにアリアからの通信が入った。


「その……金ピカモード、すぐにやめるんだ!! こっち側の被害もたまったもんじゃあない!!」

「で、ですが、こいつが……!!」


 一方のエンディミオンにもフローラからの通信が入っていた。


「いったいなにをどうしたらそうなるのかは知りませんが、すぐにそのわけのわからない形態を解除してくださいまし? これじゃあ戦いどころの話ではありませんわ」

「すまない。でも、目の前の敵が……!!」


 ダンとライラックはお互いの様子を確認しあった。そして、互いに距離をとる。

 どうやら、考えは一致しているようだ。と、ふたりはなんとなく察した。

 二機のRAはアブソリュートシステムを解除し、通常の形態に戻る。


「ふぅ、なんとか……巻き添えにはならずに済んだみたいだな」

「まったく、ハラハラさせますわね……」


 ふたりの艦長はほっと胸をなでおろす。


「よぉし、戦いを再開するとするか!!」


 ギムールはふたたびエリシアのドールに襲いかかった。


「まだやるか貴様!!」


 エリシアもそれに応戦を開始する。

 しかし、その時、光弾が雨あられとドールに襲いかかってきた。


「な、なんだ!?」


 見ると、RGヴェーダの後方から十機ほどのゾルが姿を現した。


「え、援軍!?」

「フローラ艦長、我らアルゲン島の守備部隊、高エネルギー反応を関知いたしましたので援軍に参上しました」


 RGヴェーダの艦橋に、そう通信が入った。


「そう……遅いですわよ」


 フローラは関心がなさそうに言う。


「ま、でも一気に攻勢をかけてくださいまし」

「了解いたしました!!」


 十機のゾルたちはプラスライフルを抜いて突撃してくる。


「くそ……この期に及んで援軍。しかも十機……えぇい、やるしかないか!!」


 だが、そこで、エリシアの元に通信が入った。


「待ってください!!」

「な、お前は……!?」


 それは、シルフィだった。

 次の瞬間、ゾルの一隊目掛けて緑色の光弾が降り注ぐ。エリシアがその方向を見やると、後方に半円形の翼を展開したピンク色の鳥のようなメカが水中を飛行するようにやってくるところだった。


「お待たせしました!! シルフィ・オルレアン、ガウアロー、いっちょうあがりです!!」

 アブソリュートモード、強すぎるぜ。次回の更新日は5月28日です。

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