第17話 戦い前夜
このあたりから少しずつシリアス路線になっていくかもしれないです。新登場するキャラもいれば退場するキャラもいる……。
エリシアの部隊に配属されたRAパイロットたちは、ヴァイスフリューゲルのブリーフィングルームに集まっていた。エリシアが今後の作戦について説明している。
テーブルの真ん中には大きな湖とそこに浮かぶ島のマップが表示され、そこには色々な文字が浮かび上がっていた。
島の名は、ローマ連邦軍が軍事拠点の中心として基地を築いているアルゲン島だ。
「見ての通り、ここを落とせば敵方の指揮系統は崩壊すること間違いなしだろう。だが……敵とてそれは重々に承知している。島の守りは、湖の外周を含めて鉄壁だ。問題はどこに防備の穴を見つけるか……」
「アブソリュートシステムで蹴散らせばあるいは……」
「ダン、やめておけ。あの力はまだ不確定要素の方が大きい。そんなものを頼りにした作戦は崩壊するのが必定だ」
ダンの提案にエリシアは言った。
「では……陽動作戦というのは? この前、私たちがやられたみたいな……」
今度はシルフィが提案する。
「少なくともアブソリュートなんちゃらよりはありだろう。しかし相手が使った手をそのまま流用するというのはあまり賢い手ではないな。奴らとで馬鹿ではない。それくらいの予想がつかないということはないだろう」
そう言ってからエリシアはふたりの後方に目を向けた。そこには、少し離れた位置にアルファとベータがいる。
「お前たちはどうだ? なにか作戦でもあるか?」
「ねーよ」
ベータが顔を背けながら即答した。
「そうか、ならいい」
と、そこでダンが思い立った。
「あの……島の防備をどうにかして削げばいいんですよね?」
「あぁ、そうだが……何か考えでもあるのか?」
「はい、今思いつきました」
「言ってみろ」
ダンは説明を始めた。
「シルフィの陽動作戦というのを発展させたものですが、敵の戦力の多くを別の戦いに向かわせてしまえばいいんです。例えば、エルフ軍がこの湖の近くを通って連邦の首都であるパリを攻めるような動きを見せれば敵方とて戦力をそちらに割かざるをえない。特に湖のそばを通るとなれば、アルゲン島の戦力も動員されることになるでしょう。おそらく、島の防備は大幅に弱体化するはずです。そこを突けば……」
「しかし怪しまれないためには我がエルフ軍の総数ともいうべき勢力を陽動部隊に投入する必要がある。一方、攻め手はごく少数だ。危険な賭けになるぞ?」
「ですよね……」
「だがまぁ気に入った」
「はい?」
「気に入ったと言っているのだ。ダン、ハルードにその作戦を提案しよう。肝心の攻め手だが……」
「やはり……ゲルマニア兵たちですか?」
ゲルマニア軍のフリッツ・ネルトリンゲン率いる部隊は前回のアルカイド渓谷攻略戦にて、敵軍の中枢部を落とすという大戦果を上げた。彼らならばこの難しい作戦で敵軍の大将を討ち取ることだって容易だろう。
「いいや、これから首都を攻めようという時に彼らがいないとなればローマ連邦軍とてこれが陽動作戦だと気づいてしまうだろう。攻め手にはこれまでの戦いにて決して目立つことはなかったがそれでもゲルマニア兵に負けず劣らず優秀な戦士たちに任せようと思う」
「そんな都合いい人たちがいるんですか……?」
ダンは尋ねる。
「誰なんですか? それは……!」
と、シルフィ。
「やれやれ、お前たちはもっと自分自身のことを自覚しろ。それは……お前たちのことだよ。ダン、シルフィ。……それから、後ろのふたりもだな」
エリシアはダン、シルフィ、そしてアルファ、ベータを見てから言った。
「え……私たち……ですか?」
シルフィはきょとんとする。
「そうだ。お前たちだ」
それからエリシアは続けた。
「正直お前たちのお守りを任された時、私はなにかの懲罰か……それともどこかの因果応報が回ってきたのかと思った。それくらいにお前たちには全くといっていいほど期待していなかった」
相も変わらずに辛辣である。
「だがな……一緒に戦っていくうちにわかったことがある。お前たちは戦士としてはまだまだ未熟だが肝心な時には必ずやり遂げるタイプの人間だと。私は人間が嫌いだが……まぁ、お前たちのような者もいると……知ることができた」
「エリシアさん……! 私たちのこと、そんな風に思ってくれていたんですね!!」
シルフィがエリシアに飛びついた。
「やめろ、抱きつくな暑苦しい!」
エリシアは逃れようとするがシルフィの抱擁の方が圧倒的に力が勝っている。
「シルフィ、あんまりやるとエリシアさんがだな……」
「あっ、ダンもあとでやってほしいんですか? いいですよ!」
「そ、そんなことはひと言も……!」
ダンはその場からそそくさと退散することにした。
二機のゾルが草原で向き合っていた。やがて片方がプラズマライフルを抜き、引き金を引く。そこから飛び出したのは光線ではなくペイント弾だった。
もう一方のゾルはそれを左方に飛び退いてかわす。だが、バランスを崩して地面に倒れ込んでしまった。すかさずそこにもう一発のペイント弾が襲いかかる。崖の上から見ていた訓練生たちから笑い声があがった。
ここは士官学校の屋外訓練場のひとつだ。今は訓練用RAの模擬戦が行われている最中である。
「勝負あり!」
若干強面の教官が叫び赤色の旗を上げる。
両RAのコックピットハッチが開いてふたりの訓練生が出てきた。ふたりはコックピットから取っ手のついたワイヤーを垂らしてそれを伝い地面に降り立つ。
「凄いね……秒殺だった」
片方は半ば自滅したようなものだが如何せんRA同士の戦闘を見たのは初めてだったので、ライラックは呟いた。
「そうですね。ソフィアさんは……RAに乗るのは……?」
先程知り合った縁と成り行きでなんとなく話すようになっていたクローネが訊いた。
「僕は今日が初めてなんだ。いや、もしかしたら今日はまだ乗れないのかな」
訓練生たちの人数を見ると全員は戦闘に参加できなさそうである。
「乗らない方がいいかもしれません……」
クローネはライラックに聞こえないくらいの小声で言った。その表情は沈んでいる。
「どうかしたの……?」
「い、いいえ! なんでもありませんっ!」
クローネは慌てて否定する。
教官は次の指示を飛ばした。
「さて、次はペアマッチ戦だ。二対二で行なってもらう模擬戦なのだが……やりたい者は……」
「「はい!」」
さっきクローネにたかっていた少年と赤髪の少女が手を挙げた。
「おぉ、ジェアにリーファ。今日もやる気があるな」
教官はそう褒める。
「さて、相手なのだが……」
「クローネを指名します」
ジェアが言った。
「またいつものメンバーか……まぁいい。クローネ、いいな?」
「はい……」
クローネは呟くように返事をした。ライラックからその表情は見えないが、やはりとても沈んでいるように見える。
「さて、クローネと組むのは……」
ライラックは何気なく辺りを見回すとひとりの生徒が手を挙げようとしているのが見えた。あれは、確か朝、クローネにたかっていたジェアのグループのうちのひとりだ。
なにか嫌な予感がする……。そう思ったライラックは、彼よりも先にスっと手を挙げた。
ジェアとリーファ、そして手を挙げようとしていた生徒が目を丸くする。それだけではない。クローネも驚いたような表情でこちらを見ていた。
「え、えーと……君は……確かライラック・ソフィアくんだったかな? フローラ・リヨン大尉の推薦で体験入学をしている……」
「はい、そうです……」
ライラックは頷いた。
「いいだろう。頑張ってくれたまえ」
ジェアとリーファを見ると早速に崖沿いに作られた階段を下りて訓練用RAのある草原へと向かうところだった。
ライラックとクローネもそれに続く。階段は人ひとりがやっと通れるほどの幅だった。
階段を下りてからクローネはライラックに並び歩き、言った。
「どうして……さっき手を挙げたのですか?」
「あいつらが……」
と言ってライラックは先を歩くジェアとリーファを見た。
「なにか企んでそうだったから……」
多分、もしあの時、クローネがジェアの取り巻きの少年と組んでいたら、彼は教官に分からないようにクローネを裏切り、三人でクローネをボコボコにしていたのだろう。もしかしたら、クローネと組んだ少年はそれでいて勝負後にペアマッチで負けたのはクローネの責任だと責め立てることもあったかもしれない。ライラックは、そんな光景を故郷の港町の学校で何度も見てきたことがある。
「でも……私なんかと組まなくても……」
と、クローネは言った。
「私、RAの操縦がとても下手くそなんです。そのせいでいつも一緒に組んでくださっている方には怒られてばっかりで……。ソフィアさんにも迷惑をかけてしまうかもしれません」
やっぱりライラックの読みは当たっていたようだ。
「大丈夫、多分僕のが下手くそだよ。なんてったって今日初めてRAに乗るんだからね」
ライラックは笑って答えた。
クローネは何も言わなかった。
四人がそれぞれ、RAのコックピットから下がっているワイヤーの取っ手を掴むと、ワイヤーはするするとコックピットに向けて上がっていった。そしてコックピットの座席に座ると、ハッチが閉じて、周囲のスクリーンにメインカメラからの外の映像が映し出される。
何故、胴部にあるコックピットに映る映像が、頭部のメインカメラで撮った映像なのかというと、それは人間が人型をした機体を操るにあたって、最も自然に外の様子を認識し、反応しやすいのが、人間にあたると目にあたる場所から見た映像なのだそうだ。だから、たとえ実際にいる位置とはズレが生じても、メインカメラは頭部に存在している。一方で、頭部にはコックピットを取れるスペースはないので、コックピットは胴部に存在しているのだ。
ライラックがコックピットに入ると、クローネ、そして相手方のジェア、リーファの映像が外部映像の片隅に映し出された。模擬戦中にも、お互いの状況を確認しながら戦える仕様である。もちろん、本来の戦闘ならば味方の顔が通信で分かる程度で、敵方と通信することはよっぽどの事態でない限りまずないのだが……。
「クローネ、お前と組んだのは初心者だそうだな? いつも通りボコボコにしてやるよ」
ジェアは言った。
「ソフィアさん、私は……どうすれば……?」
「うーん、自分が思ったように戦えばいいんじゃあないかな。僕もそうするし……」
崖の上で教官が旗を振るのが見えた。どうやら開戦の合図のようだ。
敵方の二機がペイントライフルを抜いて放ってくる。
「いきなり……!」
ライラックは機体を左右に動かし、その攻撃を避けた。ちらりと見るとクローネも攻撃をかわせているようだ。
ライラックは次々と発射されるペイント弾を避けながら、自身もペイントライフルを抜いて撃った。
攻撃に専念していた相手二機は避けきれずにそれぞれ一発づつペイント弾をくらう。
「くそっ、初心者のくせに調子に乗りやがって!!」
ジェアが怒りに身を任せて突撃してきた。
よし、これなら行ける! ライラックは脳内に浮かび上がってくるイメージに従ってゾルの右脚を蹴り上げさせた。ジェアのゾルが胴部にその攻撃をくらい、バランスを崩して地面に倒れる。今のうちにペイント弾を当てれば、確実にこちらの勝利だ。
だがその時だ。
「ソフィアさん、危ない!!」
目の前すれすれをペイント弾がかすめた。
「な……!!」
見ると、リーファの機体がこちらに向けてペイント弾を撃ってきたようだった。だが、よく見るとペイントライフルの銃口付近に側面から攻撃されたペイント弾がついている。
クローネの機体を見やると、ちょうど、ペイント弾を撃ち終わったような体勢だった。
「クローネ、ありがとう。お前……」
間違いない。クローネがペイント弾を撃って敵の銃口を逸らしていなかったら間違いなく頭部か胴部にペイント弾をくらい、こちらは負けになっていた。
「ソフィアさん、私……」
「クローネ、お前……上手いじゃあないか」
あの状況で敵の銃口を狙い撃つほどの正確さは、驚くべき精度だ。
「いつも……組んでくださっている方の指示に従っているのですが、今回はソフィアさんが好きなように戦えばいいって……」
なるほど、からくりが読めてきたぞ。おそらくクローネ自身の操縦の腕は確かなものなのだが、彼女自身にその自覚はなかった。ジェアたちはそんなクローネにわざと間違った指示を与え、皆の足でまといになるように仕向けていたのだろう。そのせいで彼女自身もRAの操縦に自信を失っていたのだ。
「クローネのくせに……!」
リーファは激昂してクローネに銃口を向けた。だが、そんな彼女の機体の頭部をライラックが撃った。
「よし!」
頭部と胴部のどちらかを撃てば撃退扱いになる。
だが、今回はそうはいかないようだ。
「うるさい! クローネ! ちょっといつもより調子いいからって図に乗るな!!」
リーファの機体はペイントライフルを投げ捨てるとクローネの機体に掴みかかったのだ。
「あっ、あの……ごめんなさい! 私はその……」
「それ以上はやめろ!」
ライラックはそんなリーファの機体を殴り飛ばした。
「ルール違は……」
その時、もう一機のゾルがライラックの機体を羽交い締めにした。
「俺はまだ生きてるぜ……!」
ジェアだ。彼の機体はペイントライフルの銃口をライラックの機体のコックピットに押し付けてきた。
「お前さえ倒せばあとはこっちのもんだ。初心者だとナメていたがそうもいかないようだな……。だがこれで……!」
ライラックはその口上を最後まで聞かなかった。ジェアのペイントライフルを引っ掴むと奪い取り、彼の機体をリーファのものと同じように殴り飛ばしたのだ。そしてそこにすかさずペイント弾を撃ち込む。数発がコックピットに当たった。
崖の上では教官が赤色の旗を上げている。
「クローネ、大丈夫か……?」
「あの、ソフィアさん……」
「どうし……」
と、そこまで言った時、ライラックのゾルの右腕に何かが巻付き、引っ張られたのだ。
「な……!?」
不意に振り返ると、後方に、赤いRAが着地をしたところだった。ワイヤーはそのRAの左腕から伸びているのだ。
頭部には三本の角のようなアンテナ、メインカメラは緑色のモノアイタイプ。そして右腕と左脚は例外的に銀色の装甲に覆われていた。
すぐにライラックに通信が入る。
「ライラック、そいつらじゃあ物足りなかっただろう? だからこのギムール・ギマラインシュ、派手に行かせてもらうぜ!!」
「ギムールさん!?」
ライラックは驚いて目を丸くした。
「安心しろ、さっき教官殿に許可は取ってきた」
そういう問題ではないだろう。相手はおそらく魔動機だ。訓練機がかなう相手でないのは目に見えている。
「ソフィアさん、知り合いの方ですか……?」
クローネが遠慮がちに訊いてきた。
「う、うん……一応……」
「なんなんだその微妙な反応は……。まぁいい、いきなり訓練機で立ち向かうのはキツいところがあるだろう。だからハンデとしてそっちの娘とふたりがかりでかかってきていいこととする。それから……俺は武器は使わない。それでいいだろう?」
そう言ってからギムールは左腕から伸ばしたワイヤーを戻す。その先端には鉤状のパーツが付いていた。
「待ってください。クローネは無関係です。やるなら僕だけで……」
「いいのか?」
「はい、大丈夫で……」
「駄目です!!」
ライラックの言葉を遮ってクローネが言った。
「あ、その……ごめんなさい、急に大声を出したりして……。でも、私はソフィアさんにとても助けられました。だから、それを無下にして見守るだけなんて出来ません!」
「だ、そうだ。どうする? ライラック」
「分かった。でも、無理はしなくていいからね」
「はい!」
ライラックは、クローネの笑った顔を初めて見た気がした。
戦闘が開始される。
ライラックはすぐさまにペイント弾を放ったが、ギムールはそれを全て避けると、こちらに殴りかかってきた。
ライラックは咄嗟に飛び退いてそれをかわす。
「ライラック! これを使ってもいいぜ!」
ギムールは筒状の何かを投げてきた。ライラックがそれを受け取り、本能的にその筒についたスイッチを押すとそこから黄色い光刃が飛び出した。
「これって……!」
「ビームセイバーだ」
「いいんですか!?」
「当たり前だ。これもハンデのひとつ!」
それからギムールは再び殴りかかってくる。
ライラックはビームセイバーを振るうがそれは空を切った。
「くっ、駄目だ……」
機体性能が圧倒的に違う。しかしそこで、ライラックの目にあるものが飛び込んできた。ギムールが乗る山の背後にRA二機分ほどの高さの岩山があるのだ。
そうだ。あれを使えば……!
ライラックは咄嗟にビームセイバーを投げた。ビームセイバーは回転しながら飛んでいき、岩山に命中する。元より安定感のなかった岩が崩れ落ち、ギムールの機体に降り注ぐ。ギムールは素早くそれを避けるが、満足気に言った。
「機体性能が同じならば俺の負けだったぞライラック」
しかしライラックはすぐに目を見張った。
まずい……!
飛び散った岩の欠片が地面に倒れている二機のゾル、ジェアとリーファの機体コックピットに落ちていくのだ。
「危な……」
「ギマラインシュさん、すみません!!」
「え……!?」
「クローネ……!?」
クローネの動きは速かった。すかさずにギムールのRAの腰にセットされていたプラズマライフルを抜くと、次々と光弾を放ったのだ。大きな岩の欠片は、それぞれに砕かれて害がないほどの大きさになり地面に降り注いだ。
「機体性能が同じならば俺の負けだったやつふたりめ……」
ギムールはやれやれという風に呟いた。
「ったく、なんて心臓に悪い仕事なんだ……」
そんなギムールにクローネはプラズマライフルを返却する。
「すみません、勝手に使ったりして……」
「いいや、いいんだ。それよりお前、どこでそんな射撃の腕を……?」
「そっ、それは……なんというか咄嗟的に……」
本能というやつか。まぁ僕がRAの操縦を出来てしまったのと似たようなものだろうか。と、ライラックは思う。
「そうか……まぁいい。それよりもライラック、喜べ、フローラちゃんは見事にもお前の乗るRAを手に入れることが出来た。機体名はエンディミオン。通常のRAとは違う特別な機体だそうだ」
「特別な……機体?」
「あぁ、俺も詳しくは分からんが……少なくとも開発者諸君はそう言っていた」
「では……すぐにでも戦場に出られますね」
「いいや、それがまだなんだ」
ギムールは首を横に振る。
「確かにお前の機体および隊の拠点となる機兵母艦は手に入れることが出来た。だがな……パイロットが足りない」
「パイロットが……ですか?」
「そうだ。エンディミオンを開発した技術者たちはもう一機、魔動機の開発に着手していてな。フローラちゃんはそれの接収にも成功したんだ。だがその機体はエンディミオン程ではないが特殊な機体で、遠距離戦を得意とするスナイパータイプのRAだ」
「スナイパータイプ……?」
「機体名はレイブンフェザー。装備のメインは銃火器を中心とする遠距離攻撃型。必要なパイロットもおそらくは射撃に長けた……ん?」
「それはなかなか見つかりませ……ん?」
「あの……おふたりともどうされて……」
クローネが尋ねる。
「なぁ、お前……クローネ……とかいったな?」
ギムールが言った。
「は、はい……」
「お前……俺たちと来るつもりはないか……?」
「はい……? あの……私は……」
クローネはライラックが乗っている機体の方向をそっと見た。
「分かりました。私で役に立つのなら……」
クローネは呟くように答えた。
ヴァイスフリューゲルのRAには新たに、Dファングとサーペントの二機が加わっていた。そんな中、サーペントのコックピットにはベータが座っていた。
「ちくしょう……どうして俺がこんなところに……。こうなったら俺だけでも手柄を上げて……」
そしてベータはコックピットのレバーを大きく引く。
「サーペント。ベータ・プロメテウス、行くぜ!」
「たっ、大変です! サーペントが無断発進します!!」
オペレーターのレイカが悲鳴じみた声を上げた。
「なんだと!?」
アリアが叫ぶ。
「俺、止めてきます……!!」
ダンが艦橋を飛び出そうとした。
だが、そこで、艦橋にアルファが飛び込んでくる。
「待て! 俺が奴を止める!」
「でもアルファ!」
「それに俺にはプロメテウス三兄弟の長兄としてあいつを監督する役目がある! あいつが間違いを犯したのなら、俺が……!」
「しかし……」
「いい、行かせてやれ、ダン」
エリシアが言った。
「アルファ、あいつがどこに向かっているのかは分かるか?」
「あぁ、なにしろ俺は、三兄弟の長兄として兄弟の居場所はどこにいても分かるように作られているからな」
それが、アルファに付与された能力なのだろう。ベータの遠隔視やガンマの透視能力と同じように。
「分かった。ならばすぐに行け」
「あぁ!」
アルファは艦橋から出ていく。
「Dファング。アルファ・プロメテウス、出るぞ!」
アルファの黒い機体が発進した。
アルファは遥か下に広がる緑の海を睥睨しながらベータを追跡していく。
しばらくして、見つけた。やはり彼の軌道は、アルゲン島へと向かっているようだ。
「ベータ、念の為に訊くが……どこに行くつもりだ?」
アルファはサーペントに通信をかけた。
「アルゲン島だよ。俺が敵の大将首とやらをとれば奴らだって俺のことを認めてくれるだろう?」
「そんなことはない……」
「あぁ……?」
「今のままのお前じゃあ、誰も認めてくれないと言っているんだ!!」
「分かってる!! 俺たちを本当に認めてくれたのはマスターだけだと!!」
「いいや分かっていない! マスターは世界の全てなどではない!!」
「なんだと……?」
「俺は……今までマスターが世界の全てだと思ってきた。お前と同じようにな。だが……エリシアさんの言葉で……考えが変わった。いや、彼女の言っていることが理解出来た時に、俺の心は変わったんだ」
「どういうことだ?」
「俺たちは……もう自分たちの心に従って生きていくしかない。マスターは……もう俺たちと別れた時点で、俺たちのマスターじゃあないんだ。俺たちの全てを決めてくれた人はそこにはもういない。だから……」
「だから俺は自分自身で手柄を立てようというんだよ!!」
「それは違う! 今お前の心を支配しているのは、マスターの、いや、エル・ア・ジュネットの影だ!」
「アルファ、お前まで俺のことをそうやって!!」
ベータのサーペントがビームセイバーを抜いてきた。
「ベータ、落ち着け!!」
アルファもビームセイバーを抜いて応戦する。
「うるせぇ! 俺の邪魔をするな!!」
「俺にはわかる!」
ビームセイバー同士がしきりにぶつかり合い、火花が散った。
「なにがだよ!」
「俺にはマスターが、いや、正確にはガンマと共にいるマスターが今、どこで何をしようとしているのかが!!」
「だろうな、だが今までお前はそれを俺に隠してきた!」
「そうだ。それはあまりにもお前にとって酷な現実だからだ」
「どういうことだ……?」
「マスターは今、アルゲン島にいる」
「な……?」
「エル・ア・ジュネットは俺たちの敵に回ったということだ」
「ならば俺たちもそこに合流して……!!」
「違う!!」
アルファは言った。
「マスターは……いや、マスターの行動原則は、この世に神聖なる夜明けをもたらすこと。そのためにローマ側につくことは必要な判断だったのだろう。ハイペリオンがエルフ側に加わったことでパワーバランスはこちら側に傾いた。だから……マスターは自らが寝返ることによりこの戦いのパワーバランスを保ったのだ。そして、俺たちはそんなマスターに捨てられた。絶対なる力の覚醒者が増え、世界の革新が見えた以上、未完成品の俺たちは不要というわけだ」
「嘘だ!! そんな……そんなの嘘だ!!!」
金属が溶けるような音が響く。
「な……!」
「アルファ……!?」
ヴァイスフリューゲルの艦橋から様子を見守っていた者たちは目を見開いた。
サーペントのビームセイバーがDファングのコックピットを貫いていた。
アルファさんッ!! 次回の更新日は5月14日です。