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魔法戦線ハイペリオン  作者: 龍咲ラムネ
14/36

第14話 絶対なる力

 ハイペリオンの強化形態が登場します。いよいよ機体に秘められた秘密が明らかに!

 エルフ連合軍およびローマ連邦軍は持てるだけの戦力をもってアルカイド渓谷にて激突した。両軍の戦力はほぼ互角、ここ一時間ほどは拮抗状態が続いている。


「何度も言うがお前たち、決して出しゃばるんじゃあないぞ?」


エリシアは自身の機体の後方を飛行するダンのハイペリオンとシルフィのジャンヌアローに声をかけた。


「分かっています。俺たちの今回の任務は後方での待機、前線の人手が足りなくなった時に前に出る……と」


ダンは戦闘前にエリシアから言われたことを反芻した。


「その通りだ。まったく、お前たちのお守りをする私の気持ちにでもなってみろ」


エリシアはあからさまにため息をついた。


「すみません……」


ダンは謝る。

三機のRA(ライドアーマー)は崖と崖に挟まれたアルカイド渓谷の端を縄張りを巡回するトンボのように飛行していた。後方待機とはそういう任務である。


「ダンさん、でも、せめて戦場が見えるところのがよかったですよね……その方が今後のことも学べましたし……」


 シルフィがダンに小声で通信をかける。


「聞こえているぞシルフィ」


 ダンが答える前にエリシアがぴしゃりと言った。


「ふえぇ……エリシアさんがいぢわるです……」

「当たり前だ」


 そこで、三機にヴァイスフリューゲルのアリアからの通信が入った。


「聞こえるか? こちらヴァイスフリューゲルのアリア・グラスゴーだ。そちらに数機のRA反応が接近しているのを確認した。おそらくは挟み撃ちを狙った別働隊だろう。数は少ないだろうが……今のうちに潰しておくべきだと思う」


 ヴァイスフリューゲルは、ダンたちよりもさらに後方で彼らの索敵を担当している。


「了解した。ダン、シルフィ、出番だ。敵機別働隊を殲滅する」

「はい!」

「らじゃっ!」


 ダンとシルフィは了解するとヴァイスフリューゲルから送られてきた座標を元に別働隊の方面へと向かおうとする。だが、それをエリシアが呼び止めた。


「待て、陽動作戦という可能性もある。我々がそちらに気を取られている隙に本当の別働隊がやってくる危険性も否定できない。……シルフィ、お前はここに残れ」

「ですが……」

「私たちのことは心配ない。ダンはともかくとしてこの私がいるのだからな」

「分かりました……」


 シルフィは残念そうに答えた。

 敵機の数は三機、全てが量産型RAのゾルだった。


「ダン、すぐに片付けて戻るぞ」


 エリシアが言う。


「了解!」


 ダンはハイペリオンにプラズマライフルを構えさせるとゾルに向かって光弾を放った。

 ゾルはそれを次々と避け、自身のプラズマライフルを撃ってくる。


「ダン、接近戦に持ち込むぞ! そっちの方が私もお前も得意分野のはずだ!」

「ですが、敵はプラズマライフルを……近づけません!!」

「そんなことはない。見ていろ!!」


 エリシアがそう言うと彼女のドールはビームセイバーを抜いてゾルが撃った光弾を次々と弾いていった。

 よし、それなら……! ダンもハイペリオンにビームセイバーを抜かせ、ゾルに接近していく。

 そして充分に近づくと先頭の一機に斬りかかった。ゾルは素早く自身のビームセイバーを抜き、その攻撃を防御する。ふたつの光刃が空中でぶつかり合い、火花が散った。

 その時、下方から新たな光弾が飛んできてハイペリオンを攻撃する。ダンは咄嗟にその攻撃をハイペリオンの左腕のシールドで防御させると、地上を見た。地上には森の木々、おそらく新たな敵はあの木々の間に隠れてこちら側を攻撃してきているのだろう。しかし、そちらに気を取られていると、目の前の敵のビームセイバーが襲いかかってくる。


「エリシアさん……!」


 ダンはエリシアに声をかけた。


「分かっている! お前は地上の敵に当たれ」

「ですが……!」


 そう言った途端、目の前のゾルのコックピットに長さ一メートルほどのナイフが刺さり、ゾルは力を失って地上に落下していった。

 ドールの方を見ると、ちょうどナイフを投擲したような格好をしていた。ヴィブロダガー、実体刃が振動するタイプのRA専用軍用ナイフだろう。


「行け!」


 エリシアは指示を飛ばす。


「分かりました!」


 ダンは機体を光弾が飛んでくる地上へと下降させていった。

 ハイペリオンは地上に着地する。確かこの辺からだったはずだ……。とダンは思う。平均全高が12メートル程のRAは、森の中に入るとちょうど木々にすっぽりと隠れて見えにくくなるのだ。

 不意に、ビームセイバーを構えたゾルが茂みを飛び出して斬りかかってきた。ダンはそれを自身のセイバーで防御する。二本の武器は何度もぶつかりあった。


「くそ……地上戦は慣れないな……」


 ダンはひとりそう呟く。今までの戦いのほとんどが空中戦だったからだ。

 その時、背後の茂みから新たな攻撃がハイペリオンを襲った。先端に鉤状の武器がついたワイヤーが伸びてきてハイペリオンがビームセイバーを握る右腕に巻きついたのだ。


「な……! あれは確か……!!」


 背後の茂みから現れたのはゾルだった。しかし、その右腕は別の機体のものが取り付けられている。いつかケンタウルス海での戦いで遭遇した赤いモノアイのRAの腕に似ていた。


「あの時の……パイロットなのか……!?」


 ダンは直感した。

 二機のRAはしばらくの間互いに見つめあったが、向こう側もこちらを見て驚愕したようなオーラをダンは感じ取る。

 それもそのはず、ダンは知らないが相手のゾルのパイロットはあの時、ブルーバード隊のRA部隊として戦闘に参加した男、リックだったのだ。


「お前は……!」


 リックもあの時の戦いを思い出して目を見張る。

 まさか、ヴァイスフリューゲル隊は生きて……。いや、この俺とて艦が沈んでも生きていたのだ。相手だってそうだったに違いない。おそらく、外で戦っている間に艦が沈み、取り残された生き残りだろう。そして今は、エルフ連合軍に加わり我らを未だ苦しめているのだ。そう思うとリックの心にふつふつと怒りが湧き上がってきた。


「どけ! そいつは俺の獲物だ!!」


 先にハイペリオンを見かけ地上から攻撃していた同胞に向かって言うと、ワイヤーを使いハイペリオンを引き寄せた。


「くそ……やっぱりあの時のRAなのか……!」


 ダンは言う。

 このままだと敵に動きを拘束されたまま引き寄せられてしまい、そのままに討ち取られてしまう。ワイヤーはおそらくオリハルコン合金製、ビームセイバーで切り裂くことはほとんど不可能といっていいだろう。


「えぇい、こうなったら!!」


 ダンはハイペリオンの左手でワイヤーを掴むと思いきりこちら側に引いた。


「肉を切らせて骨を断つ!!」


 相手のゾル・カスタムは不意をつかれてバランスを崩し、こちら側に倒れてきた。ワイヤーの拘束が一瞬緩む。


「よし……!」


 ダンは素早くその拘束から逃れるとビームセイバーを振るい、ゾル・カスタムの両腕、そして頭部メインカメラを切断した。それからすれ違いざまにもう一機のゾルの頭部も切断する。二機は地面に崩れ落ちた。

 その時、ハイペリオンの足元に空中からまた別のゾルの残骸が煙を出しながら落下してくる。

 見上げるとエリシアのドールがハイペリオンを見下ろして空に静止していた。


「ダン、よくやったな。こちらもちょうど全機撃破したところだ。所定の位置に戻るぞ」


 エリシアは初めてダンのことを褒めた。


「はい。ありがとうございます!」


 ダンはハイペリオンのバーニアに点火すると空に飛び上がった。

 リックは暗闇に包まれたコックピットで呆然としていた。俺は倒された。いとも簡単に俺の機体は両腕と頭部を破壊されて……。それなのに、俺はまだ死んでいない。何故だ……。生き恥を晒せというのか……! くそ……。


「くそ、俺を……。俺を殺してくれ!!!」


 リックは誰も聞くものがいないコックピットでそう絶叫した。


「シルフィ、どうやらエリシアさんの睨んだ通りみたいだぜ」


 ダンとエリシアがいなくなってしばらくの後、シルフィの元にアリアからの通信が入った。


「え……なんですか?」


 シルフィはキョトンとして訊く。


「敵だよ。数機がこちらに向かって接近中」


 アリアはやれやれとため息をついた。


「あっ、敵さんですね? それならすぐに撃破してきます!!」

「おう。頼んだ……って、ちょっと待て、そのうち一機は魔動機だぜこりゃあ……」

「大丈夫です! 魔動機だろうが量産機だろうが、関係ありません!!」


 シルフィはジャンヌアローのバーニアの出力を上げ、アリアから送られてきた座標の場所に直行する。

しばらく行くと渓谷に沿うように五機のRAが飛んできているのが見えた。そのうちの一機、真ん中の機体はなるほど、魔動機である。機体色は青、頭部からは湾曲した二本の角のようなパーツが伸びていた。


「デュアルシフト、ジャンヌ-Χ(カイ)!!」


 シルフィは機体を人型に可変させるとビームセイバーを2本引き抜いて構えた。真ん中の青い魔動機がその姿を見るとこちら側に直行してくる。


「お前たちは見ていろ。この機体は俺がやる」


 魔動機のパイロットは後方に待機するゾルのパイロットたちにそう告げた。そして自身の機体のビームセイバーを抜かせる。

 シルフィはジャンヌ-Χのビームセイバーを柄の部分で連結させ、両刃式のツインセイバーにした。


「シルフィ・オルレアン、戦闘に入ります!!」


 シルフィは宣言すると青い魔動機に突撃していった。


 シルフィが待っているであろう場所に帰還しようとしていたダンとエリシアにアリアからの通信が入る。


「ふたりとも、聞いてくれ。シルフィが魔動機との戦闘に入った。戦力はほぼ互角だったが、シルフィの奴、どんどんと敵を深追いしていってな。今は遥か彼方、多分渓谷の奥深くにまで入り込んじまっている……」

「あのバカ! それは罠だとなぜ分からない!!」


 エリシアが叫んだ。


「アリア、今シルフィがどこにいるかわかるか?」


 それから彼女は尋ねた。


「いいや、もうあたしらのレーダーの範囲外にまで行っちまった。……いや、あたしも止めたんだぜ? でもシルフィのやつ、昔っからこういう時になると途端に人の話を聞かなくなるからなー」

「言い訳は後だ。行くぞ、ダン」

「行くって……?」

「あの脳みそお花畑娘の所に決まっているだろう!」


 エリシアはそう言うなり方向転換をして飛んで行った。


「あ、あの、分かるんですか!? どこにいるか……!!」


 ダンもそんな彼女に続きながら尋ねる。


「分からん。だがバカがどんなところに誘導されやすいかはよーく分かる」


「あ、あの……私ってもしかして誘導されちゃった系ですか……?」


 シルフィは数え切れないほどに膨れ上がった敵機を見回して言った。あの青い魔動機を追っているうちにいつの間にか数十機ものゾルに取り囲まれていたのだった。

 と、そこで敵機のパイロットであろう男から通信が入る。おそらくはあの青い魔動機のパイロットだ。


「お前がその可変式魔動機のパイロットか」

「はい、シルフィ・オルレアンっていいます! 好きな食べ物は……」

「そんなことはどうだっていい」

「ふえぇ……」

「速やかに我々に投降しろ。そうすれば捕虜として悪いようにはしないつもりだ」

「え、どうしてですか?」


 シルフィはキョトンと尋ねる。


「どうしてもへったくれもあるか! いいか、お前のような魔動機パイロットが人質として捕まったことが知れれば相手の士気も下がること請け合いだ。そのための投降だよ。お前とて身近な人々の血がこれ以上流れるのは見たくはないだろう?」


 シルフィは少し考え込んでから答えを出した。


「分かりました。投降しちゃいます!」

「物分りが良くて助かった。それでは……」

「あっ、でもその前に条件がありますよ?」

「条件だと? 言ってみろ」

「まず初めに、ローマ連邦軍が一切の戦闘を放棄すること。それから、もう金輪際エルフさんたちの領土を犯さないこと。あとは……軍部が政治から手を引くことですかね」

「貴様、ナメているのか!?」

「え? なんのことですか? 私とのお約束ですよ?」

「フン、交渉は決裂だ。貴様にはここで死んでもらう!!」

数十機のゾルのプラズマライフルが一斉に光弾を放った。

「デュアルシフト!!」


 シルフィはジャンヌ-Χをジャンヌアローに可変させ、その攻撃を次々とかわしていった。


「あれほどの攻撃、全部避けているだと……!?」


 ゾルのパイロットのひとりが驚いて声を上げる。

 しかし多勢に無勢、やがて光弾がひとつ、ジャンヌアローのウイングに命中してしまった。

 被弾したジャンヌアローはバランスを崩す。無数の光弾は無慈悲に襲いかかった。


「あ、ダンさん、私……」


 シルフィが死を覚悟して目を閉じた時だった。

 爆発音が聞こえた。ジャンヌアローがついに撃破された音だろうか。それにしては、熱さも、そして痛みも感じない。あぁ、死ぬと何も感じなくなるのか……。そう思って目を開けたシルフィは、目の前の光景に息を飲んだ。

 さっきまであんなにいたゾルが一機もいなくなっている。そして遥か前方に対峙するのはあの青い魔動機だけだ。それだけではない、ジャンヌアローを守るように金色に発光する見たことのないRAが目の前にいたのだ。


「な、なんだお前は……!!」


 青い魔動機のパイロットは驚きの声を上げた。

 今さっき、俺の目は何を見たのだろうか。あんなにいたゾルが一瞬にして全て爆散したように見えた。そして、あの奇妙な形をした可変機を守るようにたっている金色に発光するRAは何者で、いつの間に現れたのだろうか。

 金色に発光するRAは目にも止まらぬ速さで青の魔動機に突撃していった。

 そのスピードは普通のRAの何倍もあるように感じられる。残像が見えるほどのスピードだ。

 そして次の瞬間にはもう既に、青い魔動機は炎に包まれて爆散していた。


「大丈夫か、お前は……?」


 ジャンヌアローに通信が入った。そこに映し出されたのは仮面の男。男はそうとだけ言うと驚いたように言葉を切った。


「あの……ありがとうございます。あなたは……?」

「エル・ア・ジュネットだ」


 聞いたことがある。と、シルフィは思った。でも、確かエルさんはインフィニットクルセイダースという組織のボスだったはず。どうしてそんな人がエルフ軍に……? それに……と、シルフィは思考を続けた。

 それに、私はこの人に初めて会うはずなのに、なにか、もう既にこの人物を知っているような気がした。


 ダンとエリシアはシルフィを追って渓谷を進んでいた。曲がりくねった渓谷を抜けていくと、やがて谷が広くなっているところにたどり着いた。

 岩がゴツゴツとした地面には無数のゾルの残骸が煙を出しながら落ちている。その数はおよそ数十機。これだけ大規模な戦闘の跡にも関わらず味方機の残骸はひとつも確認できない。


「一体何があったというんだ……? こんなにゾルばかり……」


 エリシアが呟いた時だった。


「エリシアさん、あれ……!」


 ダンの言葉にエリシアが前方へと目を向けると、そこにはシルフィのジャンヌアローが金色に発光するRAと向き合っていた。あの発光する機体は……。

エリシアが言うよりも先に、ダンが呟いた。


「スティギモロク……」


 間違いない。機体色こそ違うがあの形状はかつてインフィニットクルセイダースの戦艦で見たエル・ア・ジュネットのRA、スティギモロクそのものだった。


「でもどうしてここにいるんだ……?」

「ダン、彼を知っているのか?」

「はい。エル・ア・ジュネット。インフィニットクルセイダースという組織の……」

「いいや、それは私も知っている。私が訊きたかったのは、彼とお前が知り合いなのかということだ」

「はい……」


 ダンは頷いた。


「あの……彼は……?」

「一応エルフ軍の味方だ。もっとも私は信用していないがな」

「俺も信用していない……」


 その時、ふたりにシルフィからの通信が入った。


「あっ、ダンさん、エリシアさん、彼が……私を助けてくれました」

「助けた?」

「はい、そこら辺にいたゾルは全部エルさんが撃破したんです。それに、魔動機も……」


 ダンは我が耳を疑った。そんなことが可能であるはずがない。どんなに性能がいいRAとはいえ、一対数十では絶対に勝ち目が無いはずだ。だがしかし、シルフィがそれを目撃したというのなら間違いのない事実なのだろう。

 と、そこでエルからの通信がダンのところに入る。


「また会ったな、ダン・アマテ」


 やはり、エル・ア・ジュネットはあのエル・ア・ジュネットであった。


「やっぱり……あなただったんですね」


 ダンは疑うような声で言った。


「そうだ」

「なぜ……あなたがこんなことを……? あなたの目的は確か、戦争を長期化し、被害を拡大させて人々の厭戦気分を煽ること……そんなあなたが……」

「エルフ軍を支援することが戦争の長期化に繋がる。それだけのことだ」

「それは……!」

「考えてもみるといい。エルフ軍単体ではとてもローマ連邦軍にはかなわないだろう。戦闘はすぐに終結する。しかし、その戦力が互角ならば戦争は長期化し、泥沼化するはずだ。お前たちとてそれが分からないわけではなかろう?」

「くっ……」


 目的こそ違うとはいえ、自分たちも戦闘の長期化に加担していたということか。ダンは思った。今まで気づかなかったわけではない。しかし、気づこうとしても気づきたくなかっただけだ。自分たちのしていることが、結局はインフィニットクルセイダースと同じだなんて……。


「そしてダン・アマテよ。これこそが『絶対なる力』だ……」

「絶対なる力……?」


 唐突に振られた話題にダンは聞き返す。


「前に話しただろう? 私やお前の機体には、他のRAとは違う、絶対なる力が備わっていると」


 確かに言っていた。あの時から色々なことがあり、忘れかけていたが……。その『絶対なる力』というのが戦場で数十機あまりもの敵を全滅させる力だというのか。


「もし、その絶対なる力が……戦場で敵を一機でも多く殲滅するのに使う技だとするならば……俺はその力を使うつもりはありません」

「だがそうもいくまい」


 エルは言った。


「絶対なる力を備えたRAはお前と私だけではない。我々以外に少なくとも二機はもう既に存在している」

「だとしても……」

「そのうち一機はハイペリオンの設計データを元にしてローマ連邦にて開発された新型機だ。おそらく敵は……容赦なくその力をお前やお前の仲間に使ってくるだろう……」

ダンは何も答えなかった。なるべくならばそんな危険な力、使いたくもない。だが……。

「ダン・アマテ、私がお前の力を引き出してやろう……」

「え……」


 戸惑う間もなく、金色に発光するスティギモロクはビームセイバーを抜いてハイペリオンに斬りかかってきた。ハイペリオンは咄嗟にシールドでその攻撃を防御するが押し負け、後方三十メートル程に押し飛ばされた。


「ダン!」

「ダンさん!」


 エリシアとシルフィが叫んだ。

「やめろ、味方同士だろ!!」


 エリシアのドールが止めに入ろうとするが、それをいつの間にか現れたのか緑色のRAが妨害した。ガンマ・プロメテウスの機体、エスメラルダである。


「マスターの邪魔はさせない……」


 ガンマはエスメラルダのコックピットで言う。

 エルはなおも容赦なくスティギモロクをハイペリオンに突撃させていった。

 ダンは攻撃を回避することに精一杯になり、こちら側から攻撃を加えることが出来ない。


「さぁ、使え!! 絶対なる力を!!!」

「これは明確な軍規違反だぞ!!」


 エリシアは自身の機体をエスメラルダと格闘させながら叫んだ。しかし、エルはまったく聞く耳を持たない。


「さぁ、人類種の革新を見せるがいい!!」

「人類種の革新?」

「そうだ。絶対なる力を備えし機体を駆ることが出来るのは、魔法種族か、もしくは人類の進化体、ネクストチルドレンだけだ。貴様は魔法種族ではない。つまり、ネクストチルドレンだということだ!!」

「ふざけるな! 俺はそんなんじゃあない!!」

「いいや、そうでもなければハイペリオンを操ることは出来ないはずだ!!」

「嘘だ!!」


 そう言いながらもダンは攻撃をかわし続けた。


「アイツ……あれほどの機動力の攻撃を全部見切っているのか?」


 その様子をちらりと見たエリシアは呟いた。金色に発光したスティギモロクの機動力は普通のRAよりも数段上だ。それを全てかわしているあたり、ダンも並のパイロットではないということか……?


「私を敵だと思え!!」

「うるさい! お前は元々敵だ!!」

「攻撃を喰らわせろ!! 傷つくことを恐れるな!! 己が怒りに身を任せろ!!!」

「言われなくても!!」


 ダンの中で何かが切れたような感覚がした。その途端、目の前のスクリーンに赤く、『ABSOLUTE SYSTEM』の文字が現れる。


「アブソリュートシステム!!」


 ダンは勢いよく叫んだ。


「あれは……!!」

「ダンさん!?」

「来たか……」

「…………」


 エリシア、シルフィ、エル、ガンマよ4人は四者四様の反応を示した。

 ハイペリオンの装甲が金色に光り輝き始めた。元々黄色かったツインアイは赤色に変わっている。


「お前を……!! 俺はお前をこの場で殺す!!!」


 金色に輝くハイペリオンはスティギモロクに突撃していった。両機体は残像が見えるほどのスピードで互いに空中をぶつかり合う。その度に衝撃波が周囲の機体を襲った。


「まずいぞ。恐らくあれは機体の暴走状態だ……!」


 エリシアは長年の経験による直感から言った。


「え? それじゃあ止めないと!!」

「止める? 不可能だ。我々では近づけやしない!!」


 もうエリシアとガンマの戦闘は終わっていた。三人ともがダンとエルとの戦いを見守っている。


「で、でも! あんなにプンプンしているダンさんなんてダンさんらしくないです!! ダンさんはもっとヤワで優柔不断じゃあないと!!」

「散々な言い様だな……」


 エリシアはため息をついた。


「私、おふたりの喧嘩を止めてきます!!」

「待て、これは子供同士の喧嘩とは訳が違うんだぞ!!」


 エリシアは叫ぶが、もうシルフィは聞いていなかった。


「デュアルシフト!!!」


 ジャンヌアローをジャンヌ-Χへと変形させ、衝撃は渦巻く戦いの場へと突入していった。


「アブソリュートアタックスキル!!」


 ダンは脳内に自ずからに浮かんできたイメージを叫んだ。


「来るか。さぁ来い!! 私とて受け止める覚悟は出来ているぞ!!!」

「フレイムカリバー!!!」


 ダンが振り下ろしたビームセイバーは炎に包まれた大剣へと姿を変える。


「そちらが攻撃系なら……私は……!!」


 そしてエルはスティギモロクのビームセイバーを前に突き出した。


「ドラコレックス!!」


 スティギモロクのビームセイバーからドラゴンの翼のようなものが発生し、ハイペリオンのアブソリュートアタックスキルを防御する。ふたつのアタックスキルがぶつかり合うと、ものすごい爆風が周囲を襲った。


「く……これは……」


 遥か下方にいるエリシアのドールとガンマのエスメラルダですら、機体全体が後方に押し戻される。


「アンジェアイレ……ひゃぁっ!」


 シルフィは相手の攻撃を一定時間無効化するアタックスキルを発動しようとしたが1歩遅かった。咄嗟にジャンヌ-Χの両腕でコックピットとメインカメラを防御しながらバーニアを最大火力にする。数枚の装甲が剥がれて後方に飛ばされていった。


「アタックスキルが駄目なら!! 俺はこの手でお前を倒す!!」


 ハイペリオンはビームセイバーを捨て、スティギモロクに殴り掛かる。スティギモロクもそれを受け入れてビームセイバーを捨てた。

 二機の拳がぶつかり合い、またしても爆風が周囲を襲う。


「俺の拳が貴様を滅す!!」

「フハハ、いいぞ! その心意気だ!!」


 エルはその様子を楽しんでもいるようだ。


「喰らいやがれぇぇぇぇぇぇぇぇ!!!」


 ハイペリオンは全エネルギーを込めたパンチをスティギモロク目掛けて放った。だが、その時だった。


「やめてください!!」


 何者かがハイペリオンの拳を両手で掴む。それは、ジャンヌ-Χだった。


「シルフィ……!!」


 ダンは慌てて叫ぶ。

 ジャンヌ-Χの両腕の装甲が消し飛び、フレームがむき出しになった。


「シルフィ、そこをどけ!!」

「いいえ、どきません!!」

「死ぬぞ!!」

「それでもです!!」


 シルフィは必死に言い返した。


「ダンさん、戻ってきてください!! そうじゃあないと、私は……!」


 それからシルフィはひと呼吸おいて続けた。


「私は、とっても悲しいです!!」

「シルフィ、お前は……!!」

「ダンさん、いいえ、この際だからもう敬称はつけません! ダン、私はダンのことが……」

とうとう、ジャンヌ-Χのフレームにもヒビが入り始めた。

「ダンのことが、好きなんだと思います!!」

「な……っ!」

「だから、戻ってきてください!! 怒りに我を忘れたダンじゃなくて、いつものダンに……!!」


 ハイペリオンの力が一瞬緩んだ。


「ダン、惑わされるな! 愛などと……!」


 だが、シルフィはモニターに映っている仮面の男をキッと睨みつけた。これまで、誰もあまり見たことのないシルフィの表情だ。


「エルさん、私はあなたをどこかで知っているような気がします。でも、いいえ、だからこそ言うんです。これ以上、ダンを苦しめないでください!!」

「シルフィ、貴様……」


 エルは呟く。


「いいだろう。我々の戦いに危険だと知りながら飛び込んだその覚悟に免じ、今日はここまでにしといてやる。それに、ハイペリオンの力は存分に楽しんだのだからな……」


 エルはスティギモロクのアブソリュートシステムを解除した。スティギモロクは元の黒い機体色に戻る。そして、戦場を離れていった。それに、ガンマのエスメラルダも追随する。


「ダンも、もう……戻りましょう?」


 シルフィは目の前の金色に輝く機体に声をかけた。


「あ、あぁ……そうだな……」


 ダンは力なく答える。そして、気を失った。

 ハイペリオンのアブソリュートシステムも解除され、機体は力なく地上に落下しそうになる。だが、それをジャンヌ-Χがそっと受け止めた。ジャンヌ-Χは装甲だけでなくフレームにもかなりのダメージを受けていた。動かすだけでもやっとの状態だ。


「ダン、よかったです。あなたが無事で……でも、私の機体は……もう使い物にならなそうです……」


 シルフィはそっと呟いた。

 アブソリュートモード、強すぎるぜ。次回の更新日は4月23日です!

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