第11話 帝都燃ゆ
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「誰かいますか!? もう大丈夫です! 脱出ルートは確保しました!!」
地下通路へと到達したダンたちはそう方々に声をかけてまわる。だが、返事はない。それに通路はところどころ崩れて埋まっていた。もうみんな死んでしまったのだろうか。
「ダンさん、一足……遅かったのでしょうか……」
シルフィが沈んだように言う。
「あぁ、そうかも……」
と、それに対してダンが言いかけた時だった。
「おーい! 助けてくれ!! この先に作業員たちが取り残されているんだ!!」
そう言う声が聞こえてくる。
「人の声だぜ!」
「行ってみよう!」
先頭を歩いていたジャーファルとディーナが声のした方向へと地下通路を曲がった。
ダン、シルフィ、バスラもそれに続く。
角を曲がると、ひとりの男が崩れた岩盤を指さして言っていた。
「ここだ! この向こうだ! この向こうに取り残された人がいる!!」
男は既に途中まで岩盤を掘り進めていたらしく、手にスコップを持っている。
「ドゥンヤ、確かお前……」
ダンは言いかけるが、バスラは首を横に振った。そしてすぐに紙に言いたいことを書くとダンに渡す。
『さっきのような破壊光を撃てば、向こう側にいる人を傷つけてしまう』
「そうか、それはやらない方がいいな」
どうやら地道に掘り進んでいくしかないようである。
帝都・カイロの街は破壊と混乱の地獄絵図のような世界と化していた。
全長五十メートルはあろうかという巨大な鋼鉄のサソリが街を蹂躙しているのだ。サソリの両バサミの部分は砲塔になっており、そこから光線を乱射して街を破壊していく。
「あれは……なんなのですか!? 答えなさい!!」
宮殿の塔の上からその光景を眺めみていたシェヘラザードは後方にて縄で縛られ拘束されているマハムードに尋ねた。
「RBアンタレスです。人間の脳から発せられる精神波を利用してその巨大な身体を支えているまさに究極の大量破壊兵器。ですが、これも全てあなたのせいですぞ、姫君」
「私のせい? 馬鹿も休み休み言いなさい!!」
シェヘラザードはピシャリと言うがマハムードは全く意に介さない様子で続けた。
「あなたが私を捕らえたことにより計画に狂いが生じた。本来あの兵器は計画のうちになかったが緊急事態用のいわば保険のようなもの。しかし、どうやらあなたには協力者がいるようですのでな。それをあぶりだすために奴を出さざるをえなかった」
「協力者……彼らは関係ありません! 私はあくまでも自分の意思、いや、国の法に則りあなたを拘束したまでです。これ以上の問答は無用、マハムードを彼自身の部屋に拘束しなさい」
地下牢が無事ならばそこに幽閉したものを。シェヘラザードは思った。しかし先程の爆発によりおそらくは地下牢の状態も壊滅的であろう。
マハムードは兵士たちに連れられて塔を下りていった。
「RA隊を出撃させなさい。あの化け物を討ちます」
シェヘラザードは残った兵士たちに指示を飛ばした。
アンタレスのコックピットに座るカマル・コンスタンティーヌにガネム・ブライダからの通信が入る。
「カマル、調子はどうだ? 悪くは無いだろう?」
「えぇ、とっても」
カマルはにっこりと笑うと答える。
「あたしより綺麗なものはぜーんぶ破壊しなくっちゃ」
「その意気で頼む。おぉっと、どうやら敵のお出ましのようだぜ」
「待ってました!」
カマルはウインクをするとアンタレスのサソリの尾に当たる部分を持ち上げさせた。その先もやはりビーム砲台となっており、高出力の光線が発射される。先陣を切っていた数機のヌビアたちが一瞬にして溶解した。
「なにか……胸騒ぎがするんだ」
崩れた岩盤の除去作業を行いながらダンは言った。
「やっぱりお前もか。俺もなにか地上で良くないことが起きているような気がするぜ」
ジャーファルも言う。
「え? 私は何も感じないけど?」
ふたりのやや後方でディーナが言った。
「お前は鈍感なんだよ」
「はぁぁ!?」
「シルフィ、お前は感じるよな?」
「え? 私も何も感じませんよ?」
「シルフィは可愛いなぁぁ!!」
ディーナは納得がいかないという表情をする。
「そういえばドゥンヤ、前にサソリがどうとかって……」
思い出したダンの問いにバスラはそっと天井を見上げる。
まさか、地上の嫌な予感って……そのサソリとやらが関わっているのか?
「ダン……」
ジャーファルが言った。
「俺たちで……地上の様子を見てこよう」
「だが、ここはどうする? あの人は……」
ダンは横目で先程助けを求めてきた男を見た。彼もまた、ディーナやシルフィ、バスラたちと共にスコップを振るっている。
「こっちはあんだけいりゃあ充分だろ。それにひきかえ、地上の方はどうなってるんだか……」
「分かった、行ってみよう。ここはあの四人に任せて……」
だがそこでいつの間に話を聞いていたのか、バスラがメモを差し出してくる。
『RAを操縦できる者は行った方がいい。あれは、そういう代物』
ダンとジャーファルは顔を見合わせてからシルフィの方を見た。
「だが……ドゥンヤ、俺のはともかくとしてダンやシルフィのRAは遠く艦の中だ。すぐに戦えるとは思わないが……」
するとバスラは水晶とメモを渡してくる。
『大丈夫、あなたの求めるものはすぐ近くに来ている』
バスラの言葉通り、ヴァイスフリューゲルはカイロから遠く離れていない大河に停泊していた。
「まったく、どうなっていやがるんだ? 帝都では鉄の怪獣が大暴れ。ジャーファルとディーナは忽然と帝都に消える。追ってきたはいいもののこちらにはRAを動かせる人材が圧倒的に不足している。ったく前世でどんな悪いことをしたらこんなことになるのやら」
アリアは艦橋で暴れ回るアンタレスの映像を見ながら悪態をついた。
と、そこで突然目の前のモニターの映像が切り替わる。そこには、ダンとジャーファルの姿が映し出されていた。
「あっ、お前たち! 今どこだ!?」
「宮殿の地下です。近くにいて助かりました。すぐさま俺のハイペリオンとシルフィのジャンヌ-Χを宮殿めがけて射出してください」
「例のサソリ退治か? それはいいがジャーファル、お前は後でたっぷりおしおきだからな」
「あっ、いえ、その……それは……」
すると、そこにディーナが割り込んでくる。
「艦長、申し訳ありません。あれは私が強要したことで……ジャーファルに責任は……」
「ディーナ、しかし……」
「責任は私が負います」
ディーナはきっぱりと言う。
「だがあんたは客人……」
「構いません。客人といえど郷に入っては郷に従え、覚悟は出来ています」
「うっ、えぇいもういい。この件は保留だ。とにかく、RAを射出すりゃあいいんだろ? 待ってろよ」
「ありがとうございます!!」
ダンが頭を下げて通信は終わった。
「あたしって艦長としての威厳が無いのかねー」
通信が切れるとアリアはしみじみと呟いた。
「いいえ、いい部下をお持ちです」
その言葉にアリアは振り返る。
そこにはいつの間にかアリババが艦橋に入り込んできていた。
「我々のRA部隊も向かわせましょう。ここは本来我らの国、それが蹂躙されているのを黙って見ているわけにはいきませんゆえ」
「ありがとさん……」
アリアは呟くように言った。
ダン、ジャーファル、シルフィの三人は水晶を使ったヴァイスフリューゲルとの通信を終えるとすぐさま地上の廊下に出た。
地上は混乱のさなかにあった。突如市街地の地面を突き破り出現した鉄のサソリが宮殿めがけて進撃してくるというのだ。しかももう何十機ものRAが出撃しているがサソリに傷ひとつ負わせることが出来ていないという。
「やっぱり……みんなが言う鋼鉄のサソリっていうのはRAなんでしょうか……?」
シルフィは訊く。
「あぁ、だが妙だ。さすがに一機のRAにしては存在が災害レベルすぎる」
「それもこれも俺たちがじかに対峙するまでだ。先に行ってるぜ」
どうやらアヌビスをカイロ郊外に隠しているらしいジャーファルはそう言うとダンたちと別れて宮殿の外へと向かった。
「ジャーファル、頑張ってください!!」
シルフィは言う。
「当たり前だ! だがシルフィ、キスは戦いが終わるまでのお預けだな」
さりげなくディーナに怒られそうなフラグを立て、ジャーファルはその場を去った。
ジャーファルは宮殿を出てカイロの街に繰り出す。そしてその光景に思わず立ち止まってしまった。
「な、なんなんだよあいつ……」
前方、はるか遠くを巨大な鋼鉄のサソリが横切っていったのだ。比喩表現でもなんでもない。大きさは通常のRAの四倍強、帝国軍のRAが指一本も触れられない理由も、街が一瞬にして炎に包まれた理由も、それを見れば即座に理解出来る。まさしくあのサソリは災害、いや、災害兵器と呼べるレベルの代物なのだ。
一時、その恐るべき光景に意気消沈しそうになったジャーファルであるが、すぐにまた気を取り直して駆け出した。
「へっ、図体ばっかりでかくなりやがって、的がでかくて撃ちやすいや!」
色々なことをくよくよ考えない。よく言えば長所だし、悪くいえば単純バカ、それがジャーファルの取り柄である。
やがて彼は、戦火をくぐりぬけてカイロ郊外にある谷間へとたどり着く。そこに直立不動の姿勢でアヌビスがそびえ立っていた。
ジャーファルは崖の上からキーのスイッチを押し、コックピットハッチを開けさせる。そして岩の上からコックピットにダイブした。コックピットハッチはそれを合図に閉じ、目の前のスクリーンにアヌビスのメインカメラが拾った映像が映し出される。
ジャーファルは勢いよくコックピット内のスイッチを次々と入れていき、レバーを引いた。
「ジャーファル・べシャール。アヌビス、只今参上!!」
アヌビスの黄色いツインアイが光り輝く。背部のノズルから光の粒子を噴射してアヌビスは空中に飛び上がった。目指すは帝都・カイロ、火星の名を冠する街である。
虫けらどもめ……! カマルは心の中でそう思った。アンタレスの、いや、カマル自身の攻撃で帝国軍のRAは次々と空中で溶解していく。もう自分に手に入らないものは何も無い。カマルはそう確信していた。この精神波を利用した兵器を使えば、RAだって敵ではない。
特に目的があるわけではなかった。しかし、カマルの上へ上へと登りつめたい野心が力を欲していたのだ。もう家や学校でお姫様とちやほやされているどころでは物足りない。これほどの力を得たのだ、ゆくゆくは世界全部を振り向かせてやる。
「あたしは……あたしは……この力で全世界をおもちゃにしてやる!!」
カマルは高揚感から叫んだ。マハムードやガネムは、自分に最高のおもちゃをくれたのだ。これを楽しまずしてなんとするか。
だがその時、彼女の視界の端にあるものが映る。アンタレスの攻撃を巧みにかわしながら接近してくるRAが一機存在するのだ。深い緑色のボディに金色のラインの入ったRAだ。頭部からはジャッカルの耳のような金色のパーツが伸びている。
「当たれっ! 当たれっ!」
カマルはアンタレスのアームガンを乱射させる。
しかし、敵機はかなりの身軽さでその攻撃を次々とかわしていった。
「へっ、どんなもんだい! 俺のすばやさについて来やがれってんだ!」
その敵機、アヌビスのパイロットであるジャーファル・べシャールは得意げに言った。
「あいつ……このあたしを……!!」
それにひきかえ、カマルはどんどん感情的になっていく。自覚はあるが、どうやらこの操縦システムはパイロットの感情を昂らせる副作用があるらしい。
アヌビスはビームシャムシールを腰部分から抜くと展開させる。大きく反り上がった赤い光刃が太陽の下に光る。
アンタレスがテールガンを発射してきた。
しかしアヌビスは大きくシャムシールを振りかぶり、それを斬り裂いたのだ。
「やいやいどうした! 当たらなけりゃあどうってことねぇんだよ!!」
「鬱陶しいぃぃぃぃぃぃぃぃ!!!」
だがアンタレスはアームガンとなっているハサミ部分を振り上げるとアヌビスを振り払った。
不意をつかれたアヌビスはその攻撃が命中し近くの建物に激突する。アヌビスは地上に落下し、建物はがらがらと崩れた。
「く……ちょっと油断したぜ……」
しかしアヌビスはすぐに起き上がるとノズルから粒子を噴射する。
「だが面白くなってきたぜ!! アタックスキル!!」
それから空中に飛び上がりビームシャムシールを大きく振るった。
「破界剣リュカオーン!!」
シャムシールから発生した黄色い斬撃は、三匹のジャッカルの姿となりアンタレスに襲いかかる。
「うるさいうるさい!!」
アンタレスのテールガンおよびふたつのアームガンからレーザー光が同時発射され、光のジャッカルを消滅させた。
「ダメか……。だがまだまだいくぜ!!」
アタックスキルがダメと見ると、ジャーファルはアヌビスにビームシャムシールで斬りかからせた。さすがにアタックスキルの連続使用は魔力消費が激しすぎる。一度封じられたとなるとあとは力づくでやるしかない。
ダンとシルフィは射出されたハイペリオンとジャンヌ-Χが宮殿に到着するのを見晴らしのいい塔の上で待っていた。
「ジャーファルの奴……なかなかに苦戦しているみたいだ……」
「大丈夫でしょうか……」
ふたりは戦いの様子を見ながら呟く。アタックスキルが封じられたため、力づくの戦闘をしているが、相手の主砲相手に近づくことすらできていない。魔動機の、しかもジャーファルが乗る魔動機相手にあれほど立ち回れる敵だ。相当の強さに違いない。
だが、そんなことを考えていると、シルフィが嬉しそうに叫んだ。
「あっ、ダンさん、来ましたよ!!」
シルフィが指さした方面、つまりアヌビスとアンタレスの戦いと反対方面に目を向けると、空中を直立不動の姿勢のまま飛行してくるハイペリオンと、戦闘機形態のため、あまり違和感なく飛行してくるジャンヌアローの姿があった。
「行こうシルフィ、着地地点は……多分あそこだ」
ダンは塔から見下ろしたところにある半壊した石のドームを指さした。
ふたりはそちら方面に向かうため、塔の中の螺旋階段を下っていく。
ジャーファルのアヌビスは、次々と飛んでくるアンタレスの攻撃に防戦一方になっていた。こちらにはハイペリオンのオリハルコン合金製のシールドのような防御装備は一切ない。避けるだけで精一杯だ。
「くそっ、気のせいだかなんだか知らねぇがなんかちょっとさっきより本気出してねぇか……!?」
ジャーファルは必死に操縦桿を動かしながら言う。
それもそのはず、敵にここまで接近されたカマルは、だんだんとその気持ちが昂ってきていたのだ。精神波により操縦されているアンタレスは、その感情を巧みに察知し、それを動きに反映させている。
「落ちろ落ちろ落ちろ落ちろ落ちろ!!」
カマルは叫びながら自身の心とアンタレスとが一体になったような心持ちで光線を乱射していく。
「ダメだ……。まるで光の雨に守られてるみてぇだぜ……!」
ジャーファルはあまりの攻撃にアヌビスにアンタレスとの距離を取らせる。
その時だ。
「アンジェアイレス!!」
何者かがその光の雨の中に突撃していく。
「なん……! あれは……シルフィ……!?」
それは、天使のような白い翼を背中に展開させたジャンヌ-Χの姿であった。
すでに何発も光線をくらっているにもかかわらず、ジャンヌ-Χはビクともしない様子でアンタレスに突撃していく。ジャンヌ-Χのアタックスキル、アンジェアイレスは天使の翼が展開している間、あらゆる攻撃を無効化できるのだ。そして自身のビームセイバーをアンタレスのテールガンに突き立てた。テールガンは大爆発を起こし、使い物にならなくなる。
「ジャーファル、遅れてすまない!」
あとからやってきたハイペリオンから通信が入る。
「シルフィ、ダン、他の砲台もそれで頼むぜ!」
ジャーファルは言う。
「ちょっとジャーファル、アタックスキルは二十四時間ごとに一回までしか使えないはずですよ!」
シルフィからの通信が入る。
「よし、じゃあ次は俺だな」
ハイペリオンが前に進み出た。
そしてたった今発射されたアームガンからの攻撃を見据えるとダンは叫ぶ。
「アタックスキル! 炎の剣!!」
ハイペリオンのビームセイバーが炎に包まれ、それはアームガンからの光線を巻き込み、逆流させる。炎と光が渦を巻き、アンタレスの前部へと命中した。
「いやぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!」
カマルは初めてくらった本格的なダメージに目をつぶる。コックピットのスクリーンが明滅し、機内に激震が走った。
アンタレスの両アームガンは粉砕され、また四対の脚部は全て使い物にならないほどに経し曲がり、後には巨大な鉄の塊が残された。
「やったのか……!?」
ジャーファルが言う。
「待て、そんなセリフを言う奴が現場にいる時は大抵の場合……」
ダンの読みは当たったようだ。突然、ハイペリオンが何者かの突撃を受け、そのまま地面に叩きつけられた。
「なっ……!」
見上げると、さっきまでハイペリオンがいた空中に、一機のRAが静止していた。灰色のがっちりとしたボディに頭部には三本の角、右手にはビームシャムシールを構えていた。
「カマルよ、ご苦労だった。あとは私が……いや、我々がやる」
ノイズが走るアンタレスのコックピットスクリーンにガネムの姿が映し出される。
ガネムのRA相手に身構えたアヌビスとジャンヌ-Χであったが、今度は側面からプラズマライフルの攻撃をくらう。見るとそれは数機のヌビアだった。普通の帝国軍の量産機と違う点は、頭部の冠の部分が赤くペイントされているところだ。
「お次はマハムード一派のRAが相手ってところか……」
「ダンさん、そっちの強そうなのは頼みましたよ! 私たちはこっちのいっぱいいる方をやるんで!」
「えっ、ちょ、シルフィ、なんで……!?」
「気にするな。その強そうなのはお前を真っ先に攻撃したからな」
「ジャーファルまで……!?」
と言いながらもダンは目の前の機体に目をやった。頭部の形は、まるで昔博覧会で見た事のあるビシュヌ大陸南部に生息する巨大な三本角の甲虫のようだ。
「さぁ、くらうがいい。我がハンニバルの攻撃を!!」
三本角のRA、機体名ハンニバルはビームシャムシールを前方に突き出すと地面に倒れ込んだままのハイペリオンに突撃してきた。
「くっ……!」
ハイペリオンはその攻撃を左腕のシールドで防御する。
「我が攻撃、受け止めたことだけは褒めてやろう」
だが、ハンニバルは間髪入れずに次々とビームジャムシールを叩きつけてくる。ハイペリオンに反撃する隙すらも与えない。
えぇい、こうなったら! ダンはハイペリオンにシールドを突き出させた。シールドはガネムの隙をつき、ハンニバルの頭部に命中する。その間にハイペリオンは粒子を放射して空中に飛び上がり体勢を立て直した。
「それくらいで調子に乗るな!!」
ハンニバルはビームシャムシールを構えて突撃する。
ハイペリオンはそれを自身のビームセイバーで受け止めた。赤と黄色の光刃が、空中で交わりスパークする。
一方、シルフィとジャーファルも思いもよらぬ苦戦を強いられていた。一般兵士だと思っていた相手は、かなりの訓練を詰んだ者らしかったのだ。4機のヌビアはアヌビスとジャンヌ-Χを相手に互角に立ち回っている。しかも相手の戦力はこちらの2倍あるために、ひとりでふたり分の相手をしなくてはならない。
「ちくしょう、早く終わらせてダンに加勢しようと思ったが、しばしお預けになりそうだぜ」
「ダンさん、もうしばらく頑張ってください!」
ジャーファルとシルフィはそれぞれ二機のヌビアを相手取りながら言った。
あれって……そういう意味だったのかよ……。通信は切れていなかったので、その言葉を聞きながらダンは思った。だが、今はそんなふうに悠長にツッコんでいる場合ではない。なにせ、目の前の相手が強敵なのだ。
ハイペリオンとハンニバルは何度も空中で光刃を交わらせた。だが、そのおかげで分かったことがある。おそらくハンニバルは見た目通りパワータイプの機体だ。そして近接戦に優れている。それならば……。
ダンは突如、ハイペリオンのノズルから粒子を噴射してハンニバルと距離を取らせた。そして、ビームセイバーをしまうと、腰からプラズマライフルを引き抜いたのだ。
「くらえ! 遠距離攻撃でどうだ!!」
撃った数発の光弾が、ハンニバルに命中する。ハンニバルの厚い装甲にへこみ傷がついた。
「装甲も分厚いのか……!」
「プラズマライフルとはなめられたものだな……」
ガネムはそう言うが早いが自身のビームシャムシールをハイペリオンめがけて投げる。シャムシールはプラズマライフルに命中し、ライフルは爆散した。
「な……!」
なんてことだ。これで否応がなしに近接戦に持ち込まれてしまった。完全に相手のペースだ。おまけにもう使ってしまったのでアタックスキルは使えない。
ハンニバルはハイペリオンに突撃してくるとそのまま空中で組み付いた。ビームシャムシールがなくとも格闘戦に持ち込もうという心づもりのようである。
「武器を使うだけが戦闘ではない」
ハンニバルの拳がハイペリオンの頭部に直撃した。
一瞬、メインカメラの映像が乱れる。
どうにかしてここから脱しなくては……。しかしどうやって……。相手は攻撃力も防御力も鬼のようなRAだ。互角に戦うだけでも精一杯というレベルである。
しかし、ダンがしきりに打開策を考えている間に、ジャーファルとシルフィの戦況は区切りがついていた。
援軍が到着したのだ。アラビア革命軍仕様の赤いザムである。
「よぅしお前ら、あとは任せたぜ!!」
ジャーファルは到着した援軍に指示を飛ばすと機体をハイペリオンの方へと直行させた。シルフィも続く。
「ダン! 危険だ! そこの三本角と抱き合ってないで離れろ!!」
ジャーファルからの通信が入る。
「俺だって好き好んで抱き合ってるわけじゃあない! だがこいつが……!!」
「分かった。それならシルフィ、頼んだぜ!」
「あいあいさー!」
シルフィは元気よく返事をすると機体をジャンヌアローへと可変させた。
そしてハイペリオンとハンニバルが組み合っているところに飛翔するとその周りをぐるぐると飛行する。そして時々、ハンニバルめがけてジャンヌアローキャノンを発射した。
「鬱陶しい……。落とす!!」
その挑発に乗り、ガネムが機体をハイペリオンから離れさせた。
「待っていたぜ!! そしてくらいな!!」
すかさずアヌビスがビームシャムシールを振るい、ハンニバルの頭部を切断する。
「どんなに固くても、関節だけはほかの機体と同じだろ?」
「ぐっ……!」
メインカメラとの映像が遮断されたハンニバルのコックピットは闇に包まれた。
「さぁダン、あとは頼むぜ、なんてったってお前の相手なんだからな」
「分かった」
ダンはシールドからふたたびビームセイバーを抜くとさっきアヌビスがやったようにハンニバルの関節を切断していった。そして最終的に残ったコックピットのあるボディ部分を両手でがっちりと掴む。
「これをシェヘラザードさんのところへ持っていく。法治国家だということを今再びしっかりと示せば、混沌としたこの国も今ふたたびまとまるかもしれないしな」
「いいのか? 俺たちは仮にも帝国とは敵対する同士だぜ?」
「でもジャーファルは今回、その帝国のために戦いましたよね?」
シルフィが言う。
「そ、それはそうだが……。立場上は敵だ」
「なぁジャーファル、お前は……いや、お前たちはどうして帝国と戦っていたんだ?」
「そりゃあ……外国勢力に取り入られる弱い帝国なんて……もう不要だから……」
「それじゃあやっぱり、もう帝国は敵じゃあない」
「どういうことだ?」
「これからこの国は生まれ変わるかもしれない……ということさ」
巨大なサソリ型マシーンというのは前々からあったアイデアなので今回こうして出すことが出来てよかったです。次回の更新日は3月26日です。