第3話 彼女は写し身
そうして俺達二人は、お忍びで城下町の喫茶店に来ていた。冒険者ギルドの酒場とは違い、ここには落ち着いた空気が流れている。目の前の彼女にはこれが合っていると心底思った。
店員に注文を聞かれ、俺は無難にコーヒーを頼み、彼女はやはり来慣れていないのか、両目をキラキラと輝かせながら紅茶を注文する。
彼女は店員が去って行ったのを見計らい、目付きを変えてこちらを向いて話し出しました。
「・・・ さっきは、助けてくれてありがとう。」
「あ~・・・ 俺がやったわけじゃないだろ。礼ならあの女騎士にしろよ。」
「でも、助けに来ようとしてくれたじゃない。」
「だが・・・ 俺は間に合わなかった・・・」
俺は悔しかった。書いていた場面の展開が上手くいかなかったからではなく、目の前の女の子を自分が助けられなかったことに心底腹が立っていたのだ。しかしそんな俺を、スワームは優しく接してくれている。
「それでも、来てくれたことに私は嬉しかった。それも、貴方に・・・」
コイツは昔からそうだった。というより、そういうふうに設定したキャラクターだった。彼女は、前世での俺の知り合いをモチーフにして描いたのだ。
だからこそ、いざ生で彼女に接していると、どうにも気になってしまう。設定としては、彼女はこの時既に主人公『イグル・アルタイル』に好意を抱いている。だがイグルの度がつくレベルの『鈍感』によって二人の中は中々進展しないとなっている。
だが、『星野 牛尾』としての俺は違う。行為に気付いているのはもちろんそうだが、何より彼女は俺のドストライクのタイプなのだ。このように目を見て話されると、物語の中での主人公の台詞なんて吹っ飛んでしまう。
せめて見た目こそ取り繕うとクールに気取っているが、それも上辺だけだ。その証拠に、やって来たコーヒーのカップを握る手はブルブルと震えてしまっている。
そこからは、彼女から仕掛けてくる話に棒読みの単語を連ねて返し続け、その内容も頭に入ってはなかった。少しして流石に変だと思った彼女がこんなことを聞く。
「ねぇ、聞いてる?」
「お、おう・・・ もちろんだぜ!!」
「じゃあ、さっき私が言ったこと言って。」
「え? あぁ~・・・ えっと・・・」
「ほや、やっぱり!」
彼女は俺が話を聞いてなかったことに気付くと、分かりやすく顔をムッとして膨れさせました。
可愛い・・・
しかしそれはそれとして、この気まずい状況をなんとかしないといけない。しかし彼女の顔もまともに見れずに何を言ったら良いんだか・・・
すると、その瞬間に喫茶店の扉の上についたベルがカラカラと鳴った。どうやら誰か入ってきたようだ。俺はそっちを見ながらなら会話が出来るかもとその方向を見たが、それをすぐに後悔することになった。
「ゲッ!!・・・」
店に入ってきたのは、俺から活躍を横取りした女騎士だった。
グレシア「読んだんなら、『ブックマーク』と『評価』ぐらいしなさいよね!!」
イグル「強制すんな。」
『魔王子フレンド~私と異世界の赤鬼さん~』もよろしくお願いします!!
次回は翌日午後9時に更新します