第21話 大事な大事な1週間 その2
「んんん~~~~~、服は色々あるけど……
大きな舞台なんて初めてだから、何を着ればいいのか分かんないよぉ」
コスチュームを選ぶというのも、それはそれで大変だ。
派手な服や注目されそうな服など、ショップにはいくらでも並んでいる。
ただし、当然ながら良いものは高級品。
現に2ヶ月前、初めて買った勝負服も9000ポイントを溶かして手に入れたのだ。
「せめて、こういう部分だけでもクラウディアとかサクヤ先輩に聞けばよかったかな?
あの2人なら大会慣れしてそうだし……」
「おや、お嬢さん。またお会いしましたな」
「え……?」
急に声をかけられたリンだが、相手を見てみると年老いた男性がひとり。
髪はすっかり白くなり、着ている服はラヴィアンローズのショップ店員のもの。
「こんにちは、どこかで会いましたっけ?」
「ちょうど1ヶ月前ですなぁ。
カードの交換交流会で出張ショップをやっておりまして」
「ああ~、あのときの店員さん!
すみません、忘れちゃってました」
「いいえ、構いません。人は忘れる生き物。
私を含めたスタッフのほとんどはAIなので、一度見たものや、お客様の顔は忘れることがないのです」
「へ……? 店員さんって、AIなんですか!?
すご~い、人間そっくりなのに!」
言われてみるまで、リンはこの老いた店員がバーチャル空間の住人だということに気付かなかった。
イベント司会のウェンズデーも、自身がAIであると明かさなければ人間にしか見えない。
ミッドガルドの村人たち、いわゆるNPCも全てプログラムから生まれた架空の人物。
その証拠として鍛冶屋のドワーフは疲れることがないため、1日中ずっと食事も取らずに鉄を叩き続けている。
「皆さんを混乱させてしまうので、最初はロボットをスタッフに使う予定だったそうです。
ですが、この温かい世界には人間のほうが合っていたのでしょうな。
そのおかげで、私もこのように人の姿をしているわけです」
「なるほど……あ、ちょうどよかった!
実は”また”服を買おうと思ってまして」
「”また”ですか。おしゃれ好きなお嬢さんですなぁ」
「ちゃんと目的があるんです。
交流会で買った服はミッドガルドの探索用でしたし。
今回は『ファイターズ・サバイバル』っていう大きな試合の本戦に出ることになって」
「なっ!? まさか、日本で56人しかいない『サバイバー』なのですか?」
「はい……ほんと、ギリギリの戦いだったんですけど」
こちらが驚いてしまいそうなほど、人間のようにリアルな表情で反応するショップ店員。
リンが『サバイバー』であることはシステムに登録されているはずだが、そういった情報はAIに共有されていないらしい。
「それはそれは、おめでとうございます。
しかし、記憶が確かなら、あなたは交換交流会で『レアなし、★1か★2でお願いします』というメッセージを掲げていたはず。
トレードに出せるレアカードを持っていなかったのでは?」
「ほんと、よく憶えてますね~!
えへへ……トレードに出せるレアは、たしかに1枚だけです。
ここだけの話ですけど、実はあたし……『マスター』でして」
「マ……『マスター』で、かつ『サバイバー』ですとぉお!?」
驚愕につぐ驚愕。リンがこっそりと素性を明かすと、店員はメガネがずり落ちるほど大きな反応を見せた。
プレイ人口500万を誇る日本ワールドで1628人目の『マスター』。
さらに56人しかいない『サバイバー』のひとり。
中学2年生の女の子が持っているような肩書きではない。
それでもリンが自分を特別だと思わないのは、さらに上の強豪プレイヤーたちと毎日会っているからだ。
「ま……まさか、それほどのプレイヤーとは存じませんでした。大変な失礼を。
それで、どのような服をお求めですか?」
「本戦に出ることになったんだけど、あたしにとっては初めての大舞台なんです。
だから、見栄えを良くしたほうがいいのかなって」
「なるほど、それなら多少はご案内できると思いますが、傾向はどのように?
可愛いとか、かっこいいとか」
「う~ん……派手で強そうなの……かなぁ?」
「ふむ、派手で強そう。それなら……」
店員がコンソールを操作すると、目の前の空間に衣装の立体映像が浮かび上がった。
ゲーム内のコスチュームショップにありそうな、衣装のサンプル映像である。
――が、それを服と呼ぶには、あまりにも規模が大きすぎた。
衣装だけでも人間の2倍は大きく、さらには周囲の舞台もセットになっている。
まるで魔王か神にでもなったかのような荘厳さは、たしかにめちゃくちゃ強そうなのだが。
「な……なに、これ……?」
「当店で最も派手で強そうな見た目のコスチューム、『サチコ・デラックス』でございます。
動く台座と背景付きで、ライトアップされたプレイヤーの姿はまさにラスボス」
「いやいやいや、普通の! もっと普通のでいいですから!」
「ふ~む……でしたら、効果付きのコスチュームなどはいかがですかな?」
「効果付き! それそれ、そういうのが欲しかったんです!」
「でしたら、この『魔法少女変身ステッキ』。
お子様から男性まで幅広い人気で、お値段はたったの500ポイント」
「う~ん、あたしにはちょっと可愛すぎるかなぁ。
って……今、男性にも人気って言った?」
このように次々と衣装のサンプルを見せられては、考え込んで模索するリン。
魔女のステラや、軍服のクラウディア、巫女のサクヤのように、まさにその人を象徴するような服が欲しいところだが。
しかし、リンは戦うスタイルが決まっていない。
女神や恐竜を扱ってはいるが、『女神使い』や『恐竜使い』というほどデッキが統制されていないのだ。
それゆえ、自身を象徴するような服というのも、なかなか思いつかない。
「ふぅ~……かなり、お悩みになっているようで」
「すみません、お付き合いしてもらって。
できればカードのほうも強化したいので、どうしても予算との相談になるんですよね」
「ほほう、大会前にパックを買って戦力強化ですな」
「えっと、それもけっこう悩ましくて。
パックって何が出てくるか分からないじゃないですか。
たしかにそれが楽しいんですけど、今はこう、できるだけ確実に強いカードが欲しくて」
「分かります、分かります。今度の試合は大舞台。
やってくる強敵を相手にするためには、失敗しない強化がしたい。
それなら、ポイント交換カードなどはいかがでしょう?」
「ポイント交換カード!? そんなのもあるんですか?」
「ええ、トレードは不可ですが、ここでしか手に入らない貴重なカードばかり。
ただ……”ピーキー”というやつでしょうか。
尖った性能のカードが多いので、いまいち人気がないのです」
「なるほど……とりあえず、どんなのがあるか見せてもらえます?」
「では、あちらのコーナーになります」
ショップ店員に案内されて移動すると、店内の一角に交換用の機械が設置されていた。
コンビニに置いてあるタッチパネルの決算機を、倍の大きさにしたような感じだ。
それがカードを交換する装置であると知らなければ、見落としてしまいそうなほど地味である。
「欲しいカードを選択すると、ポイントが自動的に消費されます。
間違って交換してしまった場合は店員にお申し付けください。
ただし、キャンセルは24時間以内となっています」
「分かりました。このカードはトレード不可なんですよね?」
「ええ、その代わりパックから出てくることがない珍しいものばかり。
それでは、私は元の売り場に戻らせて頂きます。ごゆっくりとお選びを」
老いたショップ店員が去り、リンはひとりで機械を操作する。
ポイントで交換できるカードは種類が豊富なようで、★3レアカードも対象になっていた。
「え~と、まずはコモンから見ていこうかな……どれどれ」
Cards―――――――――――――
【 防衛名誉勲章 】
クラス:コモン★ リンクカード
効果:装備されたユニットの防御力+200。★2ユニットまでの【クラス】のレアリティを1段階上昇させる。
――――――――――――――――――
「ユニットの★を増やすリンクカード? コモンに装備させれば、アンコモンになるってこと?
これを使うような場面は……あれかな、クラウディアが使ってたやつ」
リンが思い浮かべたのは、【千年帝国の圧政】。
★1つごとに攻撃+300を得るという強力なカウンターカードだ。
あらかじめ勲章を装備させておけば、より効果を得られるだろう。
しかし、そんな回りくどいことをして攻撃力を上げるなら、そもそも攻撃が500ほど付与されたアンコモンでも付けたほうが手っ取り早い。
「んん~、たしかに珍しい能力なんだけど……どのカードも尖ってるなぁ。
これなんか、自分にはデメリットしかないし」
Cards―――――――――――――
【 ナイチンゲール 】
クラス:アンコモン★★ プロジェクトカード
効果:使用者はライフを500失い、自分以外のプレイヤー全員のライフを500回復させる。
4000以上にはならず、このカードはデッキに1枚しか入れることができない。
――――――――――――――――――
「たぶん、ミッドガルド用だよね。
決闘で使ったりしたら、相手のほうが回復しちゃう……
でも、ステラみたいに搦め手が得意な人なら、こういうのも上手に使うのかな?」
先ほどの店員が言ったように、どのカードも非常に珍しい効果ばかり。
使いどころは無くもないのだが、ポイントを消費してまで買うくらいなら他にあるだろうというのが総評だ。
いまいち人気がないのも、なんとなく分かる気がする。
「何かこう、あたしのデッキにも組み込めそうなのが欲しいんだけど。
ここからは★3レアか~、さすがに交換ポイントが高いなぁ。
……って、なにこれ? 【ストームブリンガー】?」
Cards―――――――――――――
【 破滅の剣『ストームブリンガー』 】
クラス:レア★★★ リンクカード
効果:装備されたユニットに攻撃力+X。Xはユニットを所有するプレイヤーのライフに等しい。
攻撃宣言をした瞬間、このカードは破棄され、所持プレイヤーはXに等しいダメージを受ける。
――――――――――――――――――
「えぇ……めちゃくちゃ攻撃力が上がるのに、攻撃できないってどういうこと?
使ったら死ぬじゃん、これ……」
リンの目に留まったのは、攻撃力を最大4000も上げるロマン砲。
ただし、攻撃した瞬間に破棄されてしまい、持ち主のプレイヤーにライフと同数のダメージが直撃して即死。
非常に強力ではあるのだが、あまりにも諸刃の剣すぎる。
「んっ!? あのカードでこうして、こうすれば……使えるんじゃないかな!」
しかし、ここでリンの頭脳に電流が走った。
使いどころは限定されるが、この強大な攻撃力を活かすことは可能だ。
「うっ……これ1枚で5000ポイントかぁ……さすが、★3レアカード。
でも、買っちゃおう! 大丈夫、いけるいける!」
かくして、リンはようやく4種類目のレアカード。
恐ろしい効果が書かれた【破滅の剣『ストームブリンガー』】をポイント交換で手に入れたのだった。




