表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
98/297

第20話 大事な大事な1週間 その1

 『ファイターズ・サバイバル』の予選が終わり、本戦が行われるまで1週間。

 出場する選手たちにとっては、この準備期間が命運を分けるといっても良い。

 自分のデッキを強化する最後のチャンス。予選とは違うカードを使えるため、今のうちに新しい戦力を手に入れておくこともできる。


 そして、おあつらえ向きに配られた17000ポイントもの報酬。

 生き残った『サバイバー』たちがこれをどう使うかによって、試合の流れも変わってくるのだが――


「私はギルドの運営資金に()てるわ。当面の維持費は稼がせてもらったし」


 リーダーのクラウディアがこんなことを言うので、メンバーたちは頭が上がらない。

 しかも、彼女自身は感謝を求めてやっているわけではなく、あくまでも自主的に出費してくれている。

 クラウディアの場合はデッキが完成しているため、今さら大急ぎで戦力を高める必要もないのだろう。


 同じく予選通過者であるサクヤは、ポイントを何に使うのかまったく分からない。

 そもそもソロプレイヤーの時期が長かったので、ギルドに所属していながらも自由奔放。気がつくと急にいなくなっていたりする。


 そんなわけで他の出場者は参考にならず、リンは多額のポイントを抱え込んだまま考え込んでいた。

 別に使わなくても良いのだが、この1週間で何かやっておかなければ不安なのだ。


「やっぱ、こういうときに頼れるのは友達だね~!」


「17000ポイント……正直うらやましいですけど、私も12回ぶんの勝利報酬がありますからね。

 ショッピングにお付き合いします」


「お2人に比べたら、わたしは5回ぶん……ちょっとしたお小遣いですが、一蓮托生(いちれんたくしょう)であります!」


 まずはショップで何か買えないかということで、ステラとソニアを誘って出かけたリン。

 1回勝つごとに500ポイント配布されたため、今は各メンバーの(ふところ)が温かい。


 試合の真っ最中ほどの賑わいはないが、プレイヤーたちの通り道である公共エリアには多くの人々がいた。

 特に目立つのは主な出場選手の顔を並べて、誰が優勝するのかを賭けている者たち。

 高名なプレイヤーの画像とオッズの数字が表示され、その中には見知った顔も含まれている。


「さあ、張った張った! 一番人気はベテラン中のベテラン、オルブライト!

 続いて貴公子カイン、禍巫女(まがみこ)のサクヤも伸びてるよ!」


「えっ? サクヤ先輩が!?」


 賭けの対象となっている人気プレイヤーの中に、同じギルドのメンバーが2名。

 サクヤの他にもクラウディアに高めのオッズが付けられていた。


「おお~っ、お姉さまも人気なのです!

 でも、一番じゃないのは不服だから、ちょっと分からせてくるであります!」


「ま、待ってソニアちゃん! あれはあくまでも試合前の予想だって!

 まあ……あたしの名前はないけど」


「リンのことを知ってる人は、まだほとんどいませんからね。

 それにしても、さすがはサクヤさん。今のところ上から三番目の優勝候補ですか」


「えっと……あたし、サクヤ先輩のこと全然知らないんだけど、そんなにすごいの?」


「それはもう。高校生プレイヤーの中では、関西トップクラスといわれる凄腕ですよ」


 うれしそうに言うステラの向かい側で、共に冒険したことがあるソニアと顔を見合わせるリン。

 あの破天荒でお笑い芸人みたいな巫女さんが、オッズの上位に並ぶほどの凄腕だと言われても、いまいちピンとこない。


 それもそのはず、サクヤは人前で自分のユニットを見せないのだ。

 なにやら禍巫女(まがみこ)などという不吉な2つ名で呼ばれているが、どんなカードの使い手なのか全く分かっていない。


「ところで、この賭け事って何を賭けてるの?

 まさか、カードとかポイントじゃないよね?」


「賭けリンゴですね。

 ミッドガルドで採取できるリンゴは、NPCの村人に売ることができるんです。

 そして、ミッドガルドのアイテムは人に渡すことが可能」


「そういえば、サクヤ先輩からグライダーをもらったことがあったよ。

 つまり、リンゴで取引して村で売るんだね……って、それはルール的に大丈夫?」


「暗黙の了解といったところでしょうか。

 リンゴ1個あたり2ポイントなので、あまり派手にやらなければ運営からは注意を受けないようです」


「えぇ……ほとんど稼ぎにならないのに、よくやるなぁ~」


 1000個ほどのリンゴがあれば話は別だが、これでポイント稼ぎをするのは現実的ではない。

 それでも、賭け事というのは刺激的なのだろう。

 リンたちが話し合っている間も、次々とリンゴが取引されていく。


「ふ~む、お姉さまのオッズは9倍……10個賭ければ配当は180ポイント。

 リンゴ……えっと、リンゴは……くううっ!

 持っていたら全部お姉さまに賭けるというのに、こういうときに限って在庫がない!

 急に微妙なアイテムを要求される、ネトゲあるある!!」


「無理に賭けなくてもいいと思いますよ。

 応援する気持ちのほうが、ずっと大事ですし。

 私もサクヤさんに賭けるのは控えておきます」


 そう言って微笑むステラの表情は、間違いなくサクヤを全面的に信頼し、師として(した)っていた。

 以前、あの巫女と大渓谷で冒険したときのように、かつて初心者だったステラを導いてくれたのだろう。


 そのときの話も詳しく聞いてみたいものだが、今は大会に向けての強化が最優先。

 しばらく足を進めると、何度か買い物をしたことがあるショップが見えてきた。



 ■ ■ ■



「んんん~~~、カードのパックをいっぱい買っちゃうのってどうだろ?

 具体的には5ボックスくらい」


「いいと思いますよ。中身にもよりますけど」


「そこだよね。何か当たったらラッキーだけど、この大事なときに散財しまくって爆死したら……」


「リンはまだ手持ちのカードが少ないので、そこまで考えなくても大丈夫です。

 ただ、予選ならともかく、本戦で戦うためには多少のレアが欲しいかも……ですね」


「そーなんだよ! 予選が15戦もあった後の本戦なんて、どう考えてもバケモノだらけじゃない!」


 そのバケモノの中に自分が含まれていることは棚に上げ、ショップの中でも頭を抱え続けるリン。

 5ボックス買ってもレアを引けないことなど、ラヴィアンローズでは珍しくないのだ。


「プロセルピナさんと戦って分かったけど、レアカードだらけのデッキっていうのも、それはそれで強いんだよ。

 もちろん、コモンとかアンコモンでも十分に戦えるけど」


「大会の上位になればなるほど、レアを持っている人というか、上手にレアを使える人が勝ち残りますからね。

 高級なカードが全てではないといっても、さすがに場所を考えると★2以下では厳しそうです」


 プロセルピナのギルドは★3レアカードをかき集めているが、それも決して間違いではないのだと、上位ランクの戦いに足を踏み入れたリンは思い知る。

 対戦者が強力なレアカードを使ってくる以上、こちらにも相応の力が必要だ。


 ――と、そこに元気よく駆け戻ってくる小学生が1人。


「作戦終了! わたしのショッピングは今、終焉を迎えたり!」


「え? ソニアちゃん、もう何か買ったの……って、目の色が変わってる~!?」


 先ほどまで炎のように赤かったソニアの左目。

 今はそれが黄色に変化し、新しい属性が付与されたことを示していた。


「えっと、属性のエフェクトが付いてるカラーコンタクトだっけ?」


(しか)り! 『属性ヲ開眼セシ者ノ左目』シリーズの”雷鳴”!

 我がしもべとなった雷の化身【オボロカヅチ】に合わせて、イメチェンしたのであります」


「へぇ~、黄色もよく似合ってますね」


「むむ……そういえば、ステラ殿に闇属性をお勧めせよと、誰かに言われていたような?

 たしかに魔女の御姿(みすがた)が魚心ならば、闇属性こそが水心!

 さあ、闇を! 今こそ闇を手に入れましょうぞ、ステラ殿!」


「ええっ……ちょっと、ソニアちゃん?」


 戻ってきたばかりだというのにステラの手を握り、属性カラーコンタクトの売り場へと引っ張っていくソニア。

 あの魔女に闇属性を付与したら、一体どうなってしまうのか。


 とても気になるところだが、仲間たちが離れていったため、リンはひとりでポイントの使い道を考えることになる。


「そういえば、コスチュームを買うっていうのもありだよね。

 ステラの杖とか、プロセルピナさんの剣みたいに派手なのがあると、少しは違って見えるかも」


 前に兄が言っていたが、このラヴィアンローズでは立った姿勢でカードゲームを行う。

 それゆえ、ただ棒立ちでカードを扱うと、ものすごく地味に見えてしまうのだ。


 見事なパフォーマンスには心理的な効果もあり、実際、プロセルピナが展開した古戦場には気圧(けお)されてしまった。

 本戦の舞台は観客がいるスタジアムなので、見栄えを良くするのも選択肢のひとつ。


 そんなことを思いつき、単独行動になったリンはコスチューム売り場へと足を進めたのだった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ