第19話 それぞれの結果報告
「あ~、13戦目でクラウディアと当たって……
それは運が悪かったとしか言えないね」
「でも、すごく楽しかったですよ。
ここにいるメンバーの誰かと思いっきり戦うのが目標だったので」
早速、ガルド村のコテージに集合したメンバーたち。
敗退してしまったステラだが、ある意味、本戦よりも白熱した戦いができたので満足しているようだ。
「それにしても、リンまで予選を通過するとはね」
「そういうクラウディアも勝ち残ったんでしょ?」
「もちろん、予告どおりにノーダメージで全勝したわ」
「「「おおおおおお~~~~~~~っ!!」」」
ステラを退けたクラウディアは順調に勝ちを重ね、1ダメージも受けることなく本戦出場。
『鋼』に傷をつけた者は、誰ひとりとしていなかった。
さすがのステラも、これには苦笑を浮かべるしかない。
「クラウディアのデッキ、本当に固かったです。
リンみたいに搦め手ですり抜けないと、正面突破は無理ですね」
「さすがです! お姉さまの防御力は全宇宙最高なのです!」
「ふふっ、私の絶対防御を貫きたいなら、ネームドモンスターでも連れてきなさい。
ところで、リンが戦った相手だけど……」
「プロセルピナさん?
ものすごく強いユニットを並べられたから、【全世界終末戦争】で吹き飛ばして、ワイバーンちゃんで決着だったよ。
本当にヤバかった……何か1枚でも手札が足りてなかったら、絶対勝てなかったと思う」
「おいおい、アレを使ったのかよ……人間のデッキに向かって」
その場にいた一同の顔が青ざめる。
たった1枚で全てを焼き払い、相手のプレイヤーが数ターンかけて完成させた布陣を無に還す。
やられた側の絶望とトラウマは計り知れないだろう。
結果的に兄の仇を取ることになったが、その勝ちかたにユウ自身は困惑している。
「少し気になるわね……
プロセルピナは負けたときに傷つきやすくて、前に私たちが所属していたギルドのリーダーも心配していたわ。
もっとも、だからといって手を抜く必要はない。
全力でやらなければ勝てない相手だったのは、私もよく知ってるから」
ハッキリと言い切ったクラウディアに、リンはうなずいて応じる。
誰が相手だろうと1回戦から全力。そもそも手を抜く余裕はなかった。
それぞれのプレイヤーが自分なりのデッキを持ち、正面からぶつかる世界。
さらに言えば、本人の意志で戦いの場である大会に参加したのだから、その結果に善悪はないのだ。
――と、そんな話をしていたところでコテージの扉が盛大に開かれる。
「いや~、どもども! お待たせ~、今来たとこやで~!」
いきなりのハイテンションに、見間違えようのない巫女服。
独特のノリで登場したサクヤに、一同はしばらく固まってしまった。
「あ、えっと……それはこっちのセリフでしょーっ!」
「いまいち乗り切れてへんなぁ……まあ、反応してくれただけでもええけど。
リンとクラウディア、予選突破おめでとさーん!」
そう言うなり、バズーカ砲のようなサイズの特大クラッカーを取り出し、躊躇もせずにブッぱなす巫女。
本来は大きなパーティー会場で使う祝賀用のアイテムであり、そこまで広くないコテージの中は一瞬で色とりどりの紙吹雪やテープにまみれる。
「ぎゃーっ! いきなり何すんの、サクヤ先輩!」
「めでたいお祝いやさかい、わざわざショップに寄って買うてきたんやで」
「それで来るのが遅れたんですか……相変わらずですね、サクヤさん」
「あの人、いつもこうなの?」
「はい、いつもこうです」
大量のテープに半ば埋もれたクラウディアと、もう知り尽くしている顔のステラ。
幸いなことにVR世界のクラッカーなので片付ける必要はなく、時間経過で消える仕様になっている。
「そういうサクヤ殿は、どうだったんです?」
「ウチか? もちろん、全部勝ったに決まっとるやろ!」
「うおおっ!? 『サバイバー』が3人も出たのか……すげえな、このギルド」
約385万人が参加し、56人だけが生き残り、そのうち3人がここにいる。
とてつもないことなのだが、リンを除けば相応の実力を持つメンバー。
いまだに全貌が見えないサクヤも、余裕の表情で予選を突破していた。
「わはぁ~! おめでとう、サクヤ先輩!」
「リンも、おめでとな~。始めて2ヶ月でこないに育つなんて、ほんまビックリや」
「おめでとうございます、サクヤさん。
送ったメッセージのとおり、私は負けてしまいました」
「おお~、ステラ~。そこのギルマスにやられたんやろ?
安心せぇ、本戦で当たったらサクヤ姉さんがシバいたるからな」
「私を悪者みたいに言わないでくれるかしら?
もっとも、これは予選以上にギルドメンバー同士の戦いになりそうだけど」
リアルでの都合もあるため、本戦に参加する選手は56人よりも少なくなるだろう。
当然、リンたちは3人とも参戦する気満々なので、お互いが対戦する確率は高くなる。
いつの間にか紙吹雪やテープが消えたコテージの中で、クラウディアは腕組みしながら目を光らせていた。
「リン、あなたとは半年後のジュニアカップで戦うつもりだったけれど……
意外と早くチャンスが巡ってきたわね」
「そうだね、今度は手加減なんていらない。全力でライフ4000を削りにいくよ!」
「おおっと、そういうことなら混ぜてもらうで。
運悪くうちと当たってしもたら、ふふふ……そのときは堪忍してや」
三つ巴のごとく、視線を交わしあう3人。
本戦への出場を決めたリン、クラウディア、サクヤ。
彼女たちは仲間だが、大会では強力なライバルとなるだろう。
「みなさん、頑張ってくださいね」
「ステラ殿も、わたしたちと一緒に応援でありますな」
「だな、本戦はスタジアムでやるから、いい席取っておこうぜ」
敗退してしまったユウ、ソニア、ステラも応援の相談を始める。
ギルドに集う6人の笑顔と明るい声は、過酷なサバイバルを終えた後でも変わることはなかった。




