表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
96/297

第18話 サバイバー

「勝負あり! ライフポイント、0対4000!

 勝者、リン選手~!」


「やったぁ~!

 って……ウェンズデーさん、無事だったの?」


「はい、私は司会なのでカードの効果を受けません」


 全てが焼き尽くされ、クレーターだけが残る大地。

 しかし、ウェンズデーが着ているスーツには汚れのひとつもなく、マイクを手に元気な姿で司会をしている。


 ひょっとして、この人が戦ったら最強なんじゃないだろうか。

 そう首をかしげるリンの隣でワイバーンが光の粒子と化し、コンソールの中に吸い込まれていく。

 戦いを終えたユニットは、こうして元のカードへと戻るのだ。


「ありがとう、ワイバーンちゃん。

 帰ったら、みんなでお祝いだね!」


 初めての大会に参加し、危うい場面もあったが無事に予選を突破。

 喜びに満ちたリンとは対象的に、敗北したプロセルピナは地面に(ひざ)をついて自失呆然の状態だ。


「ねえ、大丈夫?

 ちょっと、やりすぎちゃったかな」


 さすがに心配になってかがみ込み、目線の高さを合わせながら言葉をかけるリン。

 しかし、相手に立ち上がるような元気はなく、表情も前髪に隠れて見えなかった。

 仕方がないので、ひたすらリンのほうから話しかけ続ける。


「この声が届いてるなら聞いてほしいんだけど。

 あたしは勝ちたかっただけで、本気でプレイヤーを潰したかったんじゃないよ?

 そんなの後味悪いじゃない、せっかく同じゲームを楽しんでるのに。

 まあ……いつも兄貴とやりあってるから、そのノリで熱くなっちゃったのは謝る。ごめんね」


「どうして……」


 と、そこでプロセルピナからも、まさに蚊の鳴くような震える声で言葉が返ってくる。


「どうして、勝った側から謝られているのでしょうか?」


「ん~、勝ったとか負けたとか関係なくない?

 色々言いすぎちゃって、悪いことしたと思ったから謝ってるだけだよ。自主的にね」


「………………」


 実際にはリンのほうがよほど色々と言われていたのだが、彼女は敗者に対して謝罪を求めなかった。

 本気で戦って決着を付け、結果的に勝者と敗者が生まれた。

 ただ、それだけなのだ。


 しかし、その考えは勝つことで多くの者を踏み潰し、自分の居場所を作ってきたプロセルピナとは真逆。

 実際にリンは本戦への出場権を手に入れ、負けた側は何も得られずに消えていく。

 そのはずなのに、勝ったはずのリンは今もなお、言葉で手を差し伸べようとしてくる。


「クラウディアのことを引き合いに出しちゃったけど、プロセルピナさんだって強かったよ。

 強いから、ここまで勝ち上がってきたんでしょ?

 まあ……あたしは自分が強いだなんて、全然思ってないけどね。

 そもそも、このゲームを始めて2ヶ月くらいだし」


「2ヶ月!?」


「うん、初心者だよ。レアカードもさっきのを含めて3種類だけ。

 だからデッキはコモンとアンコモンだらけだったの」


「く……ふ……っ」


 この瞬間、プロセルピナの中にあった”何か”がへし折れた。

 優秀なレアカードをかき集め、現環境で最高の騎士デッキを作り上げたというのに、始めて2ヶ月程度の初心者に負けたのだ。


「ふふ……ははは……わたくしの苦労は、いったい……」


 もはや、乾いた笑いしか出てこない。

 重ねてきた経験も、デッキのカードも圧倒していた。

 あの1枚のプロジェクトカードさえなければ、どう考えても負けるはずがなかったのだ。


 では、あれさえなければ余裕で勝てたのだろうか。

 自分自身に問いかけてみたが、なぜか『絶対に勝てた』という答えが返ってこない。

 1枚のカードを負けた理由にしてしまっては、あのときと――クラウディアに負けたときと同じ結末になってしまう。

 今はそれが何よりも恐ろしかった。


「あたしがここまで来たのは、間違いなく今まで関わってきた人たちのおかげ。

 もちろん、その中にはプロセルピナさんも入ってるよ。

 さすがに本戦じゃ勝てる気がしないけどさ……

 せっかくだから負けて元々って感じで、いっぱい勉強してくるね!」


 リンが笑顔を投げかけた直後、敗退したプロセルピナは光の粒子になって消えてしまう。

 それと同時に崩壊した古戦場も消滅し、周囲の景色がイベント会場へと塗り替わっていく。


 観客がいないコロシアムを見るのも、これが最後。

 司会のウェンズデーも共に移動しており、隣にはマスコットのコンタローも来ていた。


「お疲れさまでした~! これより結果発表を始めます!」


「5日間で15回も戦った『ファイターズ・サバイバル』。

 無事に全ての日程が終了したのだ~!」


 リンは直接2人を見ているが、この結果発表は日本サーバーの各所に生中継されていた。

 盛り上がりの最高潮を迎えた公共エリアはプレイヤーで埋め尽くされ、ある者はミッドガルドの冒険中にコンソールを開き、ソニアたちはガルド村のログハウスで放送を見守る。


「まずは参加して頂いた皆様に感謝!

 本イベントは満員御礼、日本サーバーでは3856286名の方に参加していただけました」


「イベントへの参加、本当にありがとうなのだ~!」


「さてさて、気になる15戦全勝の予選通過者ですが……」


「本当にそんな人がいるの? ボクは心配になってきたのだ~」


 頭を抱えて左右に振るコンタロー。

 放送を見ている者には分からないが、実際に会場で生き残っているリンはクスクスと笑いをこらえる。


「それでは、発表します!

 第1回『ファイターズ・サバイバル』の予選通過者!

 15回の戦い全てに勝利したのは――56名となりました~!」


 その瞬間、華やかな花火と紙吹雪がバトルフィールドの空に弾けた。

 真下でそれを見られる者は56名のみ。

 他のプレイヤーは映像を通して歓声を上げ、日本サーバーの各所が驚愕と祝福の声で満たされる。


「いやー、1戦ごとに半分以下になっていくとはいえ、385万から56まで減りましたよ」


「あまりにも少ないのか、むしろ多いくらいなのか、ボクにはサッパリなのだ……

 でも、ここまで生き残ったからには相当な猛者ばかり。

 まずは予選通過おめでとうということで――『サバイバー』の称号をプレゼントしちゃうのだ~!」


「おめでとうございまーす!」


Notice――――――――――――

【 クエスト達成報酬を受け取れます 】


 特級『サバイバーの称号を入手』


――――――――――――――――――


「おおっ!? これが大会上位の称号……『サバイバー』かぁ~!」


 リンのコンソールに通知があり、『マスター』に続く2つ目の称号が手に入る。

 今度は運だけではなく、実力で勝ち取った”生還者”の栄誉。

 それだけでも十分にうれしいのだが、この称号獲得はクエストの達成も兼ねていた。


「えっ、い、10000ポイントのクエスト報酬!?」


 このとき初めて、リンは大会の上位報酬がどれだけ稼げるのかを知る。

 そもそも、今回の予選は勝つごとに500ポイント。

 15戦全勝で7500ポイントもの収入があったのだ。


 それに称号入手の報酬が加わり、結果的にリンが得たのは17500ポイント。

 2ヶ月前に【アルテミス】を引いたときと、ほぼ同等の高額収入を手にする。


「さてさて、準備期間を挟んで本戦は1週間後です!」


「ただでさえ15回も勝ち抜ける『サバイバー』同士の戦い。

 いったいどうなってしまうのか、楽しみでもあり、怖くもあるのだ!」


「ラヴィアンローズ5周年に向けて、この熱気をつなげていきましょう。

 それでは、次は本戦の試合会場で!」


「お待ちしてま~す! なのだ~!」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ