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第14話 侵略戦争ウォークライ その2

「わたくしを潰すとは、ずいぶん大きく出ましたね。

 どうやって、ここまで勝ち上がってきたのかは存じませんが……」


 先攻のプロセルピナは、長い髪を手で払う仕草をしながらリンと相対する。

 その立ち姿には洗練された凛々しさがあり、クラウディアと同じく集団を率いる者のカリスマ性を帯びていた。


 彼女はカードを扱う前に、腰から下げた剣を引き抜く。

 鎧と同じく白銀に輝く刀身は、両刃の『ナイトソード』と呼ばれる武器であった。


「剣よ! 我らを戦いの地へ!」


 そう叫びながらプロセルピナが剣を高く(かか)げると、刀身は陽光を受けたかのようにまばゆい輝きを放つ。

 一瞬だけ目がくらんだリンだったが、直後に周囲の様子を見て驚愕した。


 地面にブロックが並ぶコロシアムから一転、バトルフィールドは中世の物語に出てきそうな戦場へと変化。

 すでに激戦が行われた後のようで、ボロボロになった旗や、地面に突き刺さった剣、折れて使い物にならなくなった槍などが散見される。


「な、なにこれぇ!?」


「レアアイテム『古戦場の剣』によるフィールド変更効果です。

 見た目以外の影響はありません」


 答えたのはプロセルピナではなく、この場所にはまったく合わないスーツ姿のウェンズデー。

 ファンタジーを題材にした映画でしか見たことがない戦場に、司会と選手の3人だけが立っている。


「あなたは運がいいです。雑魚を相手に、毎回これをやるわけではありません。

 ただ、クラウディアのギルドメンバーを仕留める以上は、圧倒的な力を見せておきたいので」


 ジャキンッと金属音を立てて剣を鞘に戻したプロセルピナ。

 こういったフィールド変更アイテムは、使う者の気分を高揚させると共に、相手のプレイヤーを圧倒させる心理的な効果もある。


 ただし、入手は非常に困難。この『古戦場の剣』は過去に行われたイベント『ギルド対抗戦』の上位報酬。

 まさに戦場を制した英雄だけが手にする激レアなアイテムである。


「では、参りましょうか。ユニット召喚!」


 3人しかいないはずの戦場に角笛が響き、カッポカッポと(ひづめ)の音が鳴る。

 そうして現れたのは金属製の馬鎧で覆われたウマ。

 明らかに従来とは違う生物であり、首があるはずの場所から甲冑を着込んだ騎士の上半身が生えている。


 神話やファンタジーで有名なケンタウロスという種族。

 半獣半人ではあるが、ゲーム上のタイプは【人間】に分類されていた。


Cards―――――――――――――

【 ケンタウロスナイト 】

 クラス:レア★★★ タイプ:人間

 攻撃2000/防御2200

 効果:装備されたリンクカードによるステータス変化の数値が2倍になる。

 スタックバースト【ウェポンマスタリー】:永続:このユニットに装備されたリンクカードは、他のカードの効果を受けない。

――――――――――――――――――


「うわ、いきなり★3ユニット……!」


「【エルダーズ】ならば、これくらいは持っていて当然ですわ。

 今まで勝ってきたからというだけで、わたくしを他の雑魚と同じように見られては困ります」


「雑魚なんかじゃない!

 みんな強かったし、それぞれのデッキを信じて正面から戦った!

 あたしはそれに勝っただけ。他の人が弱かっただなんて、一度も思ったことはないよ」


「そうですか。俯瞰(ふかん)で見られないなら、その程度ということでしょうね。

 わたくしは、これでターンエンド」


「くっ……あたしのターン、ドロー!」


 クラウディアが言ったとおり、プロセルピナは何かと理由をつけては人を見下す。

 しかし、その挑発に乗って熱くなっていたのでは、判断力も鈍ってしまうだろう。

 リンは湧き上がる怒りを抑えながら、デッキからカードをドローした。


「(うわぁ~……そうきたか)」


 6枚の手札を見たリンは、内心で頭を抱え始める。

 防御力2200の【ケンタウロスナイト】に対する有効打はない。

 それどころか、相手の攻撃を防ぐような防御力もない。


 初手にスピノサウルスが2枚来て、一気にスタックバーストできれば、攻防3000で上から叩き潰せるのだが。

 しかし、開幕から出鼻をへし折るようなカードはリンの手元に来なかった。


「いくよ! ユニット召喚!」


Cards―――――――――――――

【 ブリード・ワイバーン 】

 クラス:コモン★ タイプ:竜

 攻撃300/防御300

 効果:自プレイヤーのターン開始時に成長し、攻撃と防御の『基礎ステータス』が2倍になる。この効果は2回まで行われる。

 スタックバースト【突然変異(ミューテーション)】:永続:1回成長する。この効果は上限に含まれない。

――――――――――――――――――


「ピャァ~ッ」


「は……?」


 リンの手札から飛び出したのは、パタパタと飛ぶ可愛らしいワイバーンの子供。

 相手の動きをうかがっていたプロセルピナは、信じられないという顔で固まった後、モデルのように整った顔を歪ませて息をつく。


「はぁ~、とんだ見当違いでしたわ。

 わざわざ舞台まで用意したのに、もったいない」


「いや、あたしは真剣にやってるんですけど?」


「真面目? そんな★1の小さなユニットを出して、何が真面目ですか!

 他に出せるようなカードがないなら、今すぐサレンダーしてください。時間の無駄です」


「くうう~っ! ほんと、いちいちムカつくよね!

 あたしのワイバーンちゃんを()めてると、いつか頭からかじられるよ!」


 抗議するリンだが、ここまで14回も戦ってきた予選最終日に、普通は★1ユニットなんて出てこない。

 デッキを回転させるためのドロー効果があるならまだしも、ワイバーンには成長以外の能力がなかった。


 しかも、先に相手が強力な★3を配置した後の行動。1回しかできない召喚の枠を潰して出てきたのが、攻防たった300の★1。

 相手がプロセルピナではなかったとしても、リンの技量を疑う者はいるだろう。

 だが、しかし――


「この子は成長に時間が掛かるから、ちょっと待っててね。

 プロジェクトカード発動!」


Cards―――――――――――――

【 平和的軍事条約 】

 クラス:アンコモン★★ プロジェクトカード

 効果:このターンに攻撃宣言を行っていない場合のみ使用可。

 使用者の次のターンまで、全てのユニットは攻撃宣言ができなくなる。

――――――――――――――――――


「……この()(およ)んで悪あがきですか。

 どうしても、その★1で戦いたいようですわね」


 当然、ワイバーンを出しただけで終わるリンではなかった。

 この荒れ果てた戦場で、いきなり突きつけられた平和条約。


「さらに、もう1枚! プロジェクトカード!」


Cards―――――――――――――

【 マジック・エンハンス 】

 クラス:コモン★ プロジェクトカード

 効果:すでに効果を発動しているプロジェクトカードの効果を1ターン延長する。

 このカードは3ターンに1枚のみ使用可。

――――――――――――――――――


 クラウディアとの戦いでは、最後の決め手となったカード。

 【平和的軍事条約】の効果が延長され、お互いに2ターンの間は攻撃できなくなる。

 プロセルピナが何らかの対策を取ってこない限り、ワイバーンが2回成長する時間は稼げるはずだ。


「なっ……攻撃禁止のターンが延長?」


「時間の無駄で悪いけどね。

 あと2ターン、あたしに付き合ってもらうよ」


「……そうですか、分かりました。

 そこまでするなら、わたくしも本気で戦ってあげましょう。

 そのコモンやアンコモンばかりの貧相なデッキを、こちらのほうから潰してさしあげますわ!」

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