表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
90/297

第12話 予選最終日の死闘 その5

【 クラウディア 】 ライフ:4000

要塞巨兵ダイダロス《ゴリアテ MkIIIと合体》

 攻撃2300/防御6000


【 ステラ 】 ライフ:2000

ダークネス・ゲンガー《ダイダロスに擬態中》

 攻撃800(+3000)/防御3400(+1000)

 装備:魔導書『ネクロノミコン』

土星猫《ダークネス・ゲンガーと融合中》

 攻撃1000/防御1000

デスモドゥス

 攻撃1300(-650)/防御1100(-550)

 装備:シャドウ・ディスプレッサー

「えっ! このカード、トレードに出せるんですか!?」


 リンが服を買ったり、きれいなお姉さんと出会ったりしていたカード交換交流会から1ヶ月後。

 毎月開催されている小規模イベントだが、翌月の交流会は大会前ということで大いに盛り上がっていた。

 そんな中、1人で歩きながら色々なプレイヤーと交渉していたステラは、とある1枚を見て驚愕する。


 トレードでは滅多に手に入らない【ダークネス・ゲンガー】のカード。

 あらゆるユニットに擬態でき、上手く使いこなせば万能にして最強のエースになりうる★3レア。

 その貴重な機会を逃さず、ステラは迷うことなくトレードを申し込んだ。


 同じカードを2枚持つということは、全てのカードが1枚ずつしか入っていないハイランダーの条件に反する。

 ならば、ミッドガルドで使うと割り切ってしまえばいい。

 そう考えるのは簡単だが、カードがカードだけに、少しもったいないと感じてしまうのだ。


 【ダークネス・ゲンガー】の能力を発動させ、相手のスタックバーストまでコピーしてしまう。

 このカードを使ってきた者なら、その瞬間を夢見るのはごく自然なことだった。


「私にとって、ハイランダーであることは特別な意味がありました。

 でも、今回はこの子のために禁を解いたんです」


 そして今、巨大モンスターと化した【ダイダロス】を従え、ステラは片手で帽子を押さえながら満面の笑みを浮かべる。

 元の起動要塞とは似ても似つかない宇宙怪獣は、何本もの足が生えたグロテスクな捕食者の姿。

 大型トレーラーでも軽く飲み込んでしまいそうな口腔が開き、その奥で邪悪なエネルギーの塊が膨張していく。


「感謝します、クラウディア。

 【ダークネス・ゲンガー】のスタックバーストを、大会で思いっきり使ってみたい。

 そんな願いを最高の形で叶えてくれました」


「私ですら見たことがなかった【ダイダロス】の【惑星破壊砲(プラネット・バスター)】……!

 できれば、普通の姿でいるときに拝みたかったわね」


 周囲から膨大な魔力をかき集め、異形の大怪獣が暗黒の一撃を放とうとしている。

 そんな危機的状況を前に、さすがのクラウディアも冷や汗が止まらない。


「いきますよ――これが最後の一撃!

 【惑星破壊砲(プラネット・バスター)】ーーーーーっ!!」


「ヴォオオオオオオオオオオオオーーーーーーッ!!」


 【土星猫(サタンキャット)】で変貌させ、さらに【魔導書『ネクロノミコン』】で強化。

 カードの組み合わせを最大限に活かし、すさまじい瞬間火力を叩き出すステラの魔術デッキ。

 今回は何ひとつミスを犯さず、完璧な一撃で相手を仕留めに掛かっていた。


 そして、ついに凝縮されたエネルギーが臨界を迎え、青黒い奔流となって怪獣の口から放たれる。

 その名に(たが)わず、星の地殻をも吹き飛ばすほどの極太なレーザービーム。

 【ダイダロス】のスタックバースト効果により、防御ステータスが加算された今――


 攻撃力の合計は、想像を絶する8200。


「スタックバースト!」


 迫りくる奔流の前で、クラウディアは咄嗟(とっさ)に手札からカードを発動させた。

 その声が響く前に会場は暗黒に飲み込まれ、何もかもが破壊し尽くされる。

 本戦ではいかなる攻撃でも観客席は傷つかないが、予選ではまったく保護されていない。

 惑星を破壊するような一撃となれば無事で済むはずもなく、建築物やオブジェはことごとく闇に飲まれて瓦礫と化す。


 ステラの指示で放たれた超弩級の破壊光線は、まさしく星をも(えぐ)る狂乱。

 クラウディアが立っていた場所など跡形も残らず、まるでピザでも切り取ったかのように円形のコロシアムから一角が消失する。

 暗黒のレーザービームが収束した後、ステラの前に広がっていた光景は、はるか地平線まで続く巨大な(みぞ)

 建物や地面のブロックなどは一切残っておらず――


 しかし、司会進行のウェンズデーだけは何事もなかったかのように、マイクを手に立っていた。

 それだけでも異様な光景だが、まったく動きがない彼女の姿に、ステラは疑問符を浮かべることになる。


「(ウェンズデーさんが……ダメージを実況しない?

 違う、あの【ダイダロス】と合体した戦車の能力で、クラウディアは貫通ダメージを受けないはず。

 それに、攻撃が当たる直前で何かを発動して……)」


 と、そこでステラの思考は中断された。

 彼女の脳裏に嫌な予感が走ったとき、聞こえてきたのは巨大なキャラピラの走行音。

 崩れた建物の瓦礫を踏み砕いて、砲撃形態(タンクモード)の【ダイダロス】がバトルフィールドへと帰還する。


「そんな……まさか、さっきのスタックバーストは……!」


「そう、【ゴリアテ MkIII】のスタックバースト、【多重空間装甲】を発動させたのよ。

 バトル相手の攻撃力を半減させる効果。もちろん合体していても使えるわ」


 要塞戦車を従え、ゆっくりと瓦礫の上を歩いてきたのは、よく見知った軍服の少女。

 肩から羽織った白い軍服をひるがえし、何もかもが吹き飛ばされた地面の上を進んでくる。

 ライフはいまだに4000。これだけの攻撃を受けながらも、クラウディアはユニットと共に無傷だった。


「本当に見事だったわ、ステラ。

 でも、あなたは最大のミスを犯した。

 それは――私の絶対防御に正面から挑んでしまったことよ!」


 バトルフィールドに帰還し、再び相まみえたクラウディア。

 その後方で進撃する【ダイダロス】の機体は、ダメージを反射するべくエネルギーチャージを始めている。


「『(はがね)のクラウディア』……固すぎです!」


「ありがとう。

 私の絶対防御を貫きたいなら、攻撃力は最低でも12000は必要なの。

 もっとも――カウンターカード発動!」


Cards―――――――――――――

【 防衛強化(ハイパーガード) 】

 クラス:コモン★ カウンターカード

 効果:バトル終了時まで、目標のユニット1体に防御+300。

――――――――――――――――――


 クラウディアの手札からも最後の1枚が発動する。

 この瞬間まで温存していたのは、ほんのわずかに防御力を高めるだけの★1コモン。


 しかし、それが決闘(デュエル)の勝敗を決定付けた。

 【ダイダロス】の防御力は6300。

 それに対し、【ダークネス・ゲンガー】は攻撃力を半減されて4100。

 お互いに手札を使い果たした状況で、2200の反射ダメージが確定する。


「こうして強化カードも入っているけれどね。本当にいい決闘(デュエル)だったわ。

 【ダイダロス】の効果で反撃――衝撃反射(ガーディアンズ)神器装甲(・リフレククター)!」


「その鉄壁、次は絶対に破ってみせます……!」


 最後まで戦意を損失しない強敵(なかま)の姿に、ニヤッと口の端を上げるクラウディア。

 その直後、要塞戦車から爆発するような波動が全方位に放たれ、魔女の陣営に直撃したのだった。


「あたしのターン、ドロー!」


 ちょうどそのころ――リンがいるフィールドは、今まさに激戦のクライマックス。

 対戦相手のホクシンが使役するのは、真っ赤な甲冑に身を包み、両手に日本刀を握った鎧武者。

 右の刀が赤い炎気を、左の刀が青い氷気をまとい、攻防ともに厄介な能力を持つ★3ユニットであった。


 対するリンの陣営には、美しい銀髪をなびかせる月の女神【アルテミス】。

 すでに2つの装備品がビットとして付随しており、さらに3枚目のリンクカードが発動する。


「【ヴァリアブル・ウェポン】を装備! これで、次の一撃は強化効果が2倍!」


「ぬうう……さすがに防ぎきれん!

 菩薩のごとき神々しさでありながら、やはり羅刹の(たぐい)であったか!」


「【アルテミス】、攻撃宣言!

 いっけえええええーーーーーーーーーっ!!」


 人型ユニットに装備された魔導武装【ヴァリアブル・ウェポン】は、黒い鎧と獣骨のような仮面。

 その仮面の下で眼光を輝かせ、ギリギリと弓矢を引きしぼるサイバーな女神。

 実体を持たない光の矢に魔導の力が加わり、ネジのように螺旋を描いて青いオーラがまとわり付く。


 やがて放たれたのは、ドンッと衝撃波を帯びるほどの一撃。

 弓の射撃だけでバトルフィールド全域に烈風が吹きすさび、鎧武者の赤い甲冑を突き破って爆散させる。

 そのダメージは容赦なくホクシンまで貫通、ライフを根こそぎ奪い去って決着を付けた。


「ぬわぁあああーーーーーーっ!!」


「勝負あり! ライフポイント、0対800!

 勝者、リン選手~!」


「はぁ……はぁ……キ、キツかったぁ~……」


「ぐ……ぬぬ……これまでか。

 カードの差で負けたのではない。あの女神以外は星1つや2つの、有りふれたものばかり。

 むしろ質だけを見れば、それがしの得物(デッキ)が上だというのに、不利を乗り越えるとは……

 見事であった……リン、お主の名は憶えておくぞ」


「あはは、どうも……あと2戦、頑張ります!」


 全力でぶつかりあい、激戦の末に敗北したホクシンは満足げな笑みを浮かべて退場していく。

 本戦出場まで、残るは2戦。


 ふうっと息をつきながら会場に表示された参加者の数を見ると、もはや240名程度しか残っていない。

 この13試合目で消えていった半数――

 今回の脱落者に親友のステラが含まれていることなど、試合中のリンは知る(よし)もなかった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ