第11話 予選最終日の死闘 その4
【 クラウディア 】 ライフ:4000
要塞巨兵ダイダロス《ゴリアテ MkIIIと合体》
攻撃2300/防御6000
【 ステラ 】 ライフ:4000
ダークネス・ゲンガー《ダイダロスに擬態中》
攻撃800/防御3400
デスモドゥス
攻撃1300(-650)/防御1100(-550)
装備:シャドウ・ディスプレッサー
ラヴィアンローズの世界大会に出場するには、16歳以上という年齢制限がある。
それゆえ年少の者には活躍の機会が与えられなかったが、第4のチャンピオン、【拳闘王】の『戦いの舞台を多彩に』という願いによって大会の多様化が進められた。
そして半年前、16歳未満のプレイヤーにとっては初めてとなる大舞台。
ジュニアカップ・ジャパンが開催され、予選でまったくダメージを受けなかった『鋼のクラウディア』が頭角を現す。
本戦では敗退したものの、その名を知らしめるには十分な戦果であった。
今回の5周年前夜祭イベント、『ファイターズ・サバイバル』には出場者に年齢制限がない。
ゆえに、クラウディアにとっては絶好の機会。
再び威を示すため、何としてでも本戦へ進みたいのだが――
「まさか、自分の★4ユニットに阻まれるとはね」
ドローを終えたクラウディアは、眼前にそびえ立つ漆黒の機動要塞を見上げる。
相棒として無類の頼もしさを誇る【ダイダロス】も、こうして相手プレイヤーに使われると、まさに絶望を与えてくるような鉄壁だ。
その足元で微笑むのは仲間であり、厄介な強敵でもある魔女。
「たしかに、私はスーパーレアとの縁がありません。
『マスター』に選ばれた人たちを、うらやましいと思うこともあります。
ですが――あらゆるユニットに擬態する【ダークネス・ゲンガー】がいれば、私にも★4が使えるんです」
「まったく……貴重な機会をありがとう。
でも、【ダイダロス】の利点と弱点は、持ち主である私がよく分かってる。
いくわよ! プロジェクトカード発動!」
Cards―――――――――――――
【 愚かなる突撃命令 】
クラス:アンコモン★★ プロジェクトカード
効果:次の自プレイヤーのターン開始時まで、全てのユニットは必ずアタック宣言しなければならない。
ユニットが複数いる場合、レアリティの低いものから順に攻撃する。
――――――――――――――――――
それはクラウディアの決め手であり、リンとの戦いでも使用した1枚。
ダメージ反射能力を持つ【ダイダロス】が立ちはだかる中、攻撃を強制させられるという悪夢のようなカードだ。
「ふふふ、最悪なターンエンドをプレゼント……
と言いたいところだけど、この言葉にはちょっと嫌な思い出があるのよね。
無難にターン終了とだけ言っておくわ」
「じゃあ、私のターン。ドロー。
さて……手札は3枚。
ここからは、少し賭けになってしまいますね」
「50:50?
いいわよ、受けてあげる」
【愚かなる突撃命令】による攻撃強制は、レアリティの低いユニットから順に効果が適応される。
そして、ステラの陣営にいるユニットは2体。
「【デスモドゥス】、攻撃宣言!」
「【ダイダロス】でガード!」
吸血コウモリによる3回目の攻撃。
またしても白い霧の中を飛び、翻弄しながら忍び寄る影。
成功すればクラウディアの『鋼』を破り、失敗すれば即死級の反射ダメージ。
運命の一瞬が迫る中、コウモリの鉤爪が音もなく襲いかかり――ついに標的を捉えた。
「カウンターカード発動!」
Cards―――――――――――――
【 強化ガラスの防壁 】
クラス:コモン★ カウンターカード
効果:ターン終了まで、このカードを使用したプレイヤーは1000以下のダメージを受けない。
――――――――――――――――――
「キィイイイイイッ!」
クラウディアに攻撃が届く直前、【デスモドゥス】は見えない壁に激突して弾き飛ばされる。
彼女の周囲はガラスの壁に覆われ、低いダメージを受け付けなくなっていた。
「ああーーーっ、やっと当たったのに!」
「悪いけど、これくらいで『鋼』を破らせてあげるわけにはいかないのよね。
一応、私も熱烈なファンを抱える身だから」
その言葉に、ステラは可愛い小学生の姿を思い浮かべたが、すぐさま現状に頭を切り替えた。
ラヴィアンローズには、低いダメージであれば相手に通す手段がいくつか存在する。
倒れたときに毒を撒き散らすカエル、【デンドロバティス】などが良い例だ。
よって、クラウディアが対策するのも当然。
攻撃が当たった場合は防ぐように、ずっと手札にカウンターカードを持っていたのだろう。
「本当に固いですね……どうして、リンには破ることができたんでしょうか」
「あの子は色々とイレギュラーすぎて参考にならないと思うわよ。
で、次は”そっち”の【ダイダロス】だけど」
「そうですね」
ため息をつきながらも、すぐに気持ちを切り替えるステラ。
手札の3枚を確認する彼女の隣に、霧の中からコウモリが帰還する。
「ダメージは与えられませんでしたけど、この子が失敗しなかったおかげでチャンスはあります。
まずは、ユニット召喚――【土星猫】!」
「え、ちょっ……まさか!」
Cards―――――――――――――
【 土星猫 】
クラス:アンコモン★★ タイプ:悪魔
攻撃1000/防御1000
効果:このユニットは他のユニットに融合させることができる。融合するとリンクカードと同様にステータスが加算されるが、攻撃されたときの貫通ダメージが2倍になる。
スタックバースト【侵略者】:永続:このユニットは【タイプ:動物】からのダメージを受けない。融合していても発動可。
――――――――――――――――――
「なぁ~お」
ステラが魔法陣から召喚したのは、色々な人にトラウマを植え付けている宇宙ネコ。
見た目は可愛いネコだが、実は地球外からの侵略者。
ルール上、召喚されたユニットにも【愚かなる突撃命令】が適応されるのだが、それよりも先にユニット効果が発動する。
「【土星猫】、【ダークネス・ゲンガー】と融合!」
「にゃおん!」
いつものようにユニットへ取り付き、ズブズブと潜っていってしまうネコ。
それは相手が機械ユニットだろうと関係なく、甲高い金属音を立てながら巨大要塞が変形していく。
「ね、ねえ、ステラ! ちょっと!
なんで、そのネコをコウモリに使わなかったのよ?」
「今日は本当に運が悪いです。ネコちゃん、さっきのドローまで来てくれなくて。
【デスモドゥス】に付けたとしても、どのみち攻撃が失敗したら4000を超える反射ダメージ。
だから、この一手に賭けることにしました」
ネコとコウモリを合体させていれば、『鋼』を破れていたかもしれない。
しかし、ステラの狙いはそれ以上。
クラウディアに対しての勝利を望み、できうる最大の一撃に全てを賭けたのだ。
やがて合体は完了し、魔女の背後に真っ黒な金属で覆われた宇宙怪獣が誕生する。
大地を踏みしめていた4本の足はパイプ状の触手へと変わり、クモやヒトデのような捕食者を思わせる姿になった。
特徴的なのは、中央で大きく裂けた機体の亀裂。
ぽっかりと空いた穴は口のような器官となり、本来なかったはずの牙が乱雑に生えている。
「ボォオオオオオオオオオオオオウ!!」
「ひゃううっ!」
あまりにも醜悪で恐ろしい姿の巨獣に吠えられ、普段は出さないような声を漏らすクラウディア。
もはや、あの無骨で頼もしかった機動要塞の面影はなく、漆黒の機体は地球外生物に乗っ取られてしまった。
「わ……私の【ダイダロス】が……こんな姿に!」
「まだ続けます。リンクカードを装備!」
Cards―――――――――――――
【 魔導書『ネクロノミコン』 】
クラス:レア★★★ リンクカード
効果:このカードを装備させるとき、自分のライフを半分まで支払える。
支払ったライフと同数の攻撃ステータスを、装備したユニットに追加する。
――――――――――――――――――
「ライフの半分を支払って、【ダークネス・ゲンガー】を強化します」
「ステラ選手、残りライフ2000」
ライフの減少に反応して、戦況を見守るウェンズデーの声が響く。
このターンに装備されたのは、戦況を覆してしまうほど大きな効果をもたらす★3リンクカード。
禁断の魔導書が使用者の生命力を吸い上げ、変貌を遂げた宇宙怪獣の体にポタリと血を垂らす。
「オオオオオアアアアアアアアアアアアア!!」
存在しているだけでも恐ろしい巨獣が吠え、その身に暗黒のオーラをまとっていく。
コピー元である【ダイダロス】の弱点は、★4でありながら攻撃力800というステータスの偏りである。
それを熟知しているからこそ、クラウディアは【愚かなる突撃命令】で勝負を決めようとしていた。
しかし、そもそもステラはこのターンに攻撃する予定だったのだ。
他でもない、【ダイダロス】を素体にした宇宙怪獣で。
「【ダークネス・ゲンガー】、攻撃宣言!」
「くうっ、【ダイダロス】でガード!」
「ふふふ……待っていました。
この戦いが始まった瞬間から、ずっと!」
巨大生物によって巻き起こる風圧の中、三角帽子を片手で押さえながら笑うステラ。
その手に収められたカードは、彼女を知る者であれば反則といえるほど意外な1枚。
「これが最後の手札!
【ダークネス・ゲンガー】のスタックバースト発動、【バーストキャプチャー】!」
「スタックバースト!?
それじゃあ、まさか……あなたのデッキは!」
「さすがです、クラウディア。
最初から私の戦略を見抜いていましたね。
そうです――今日の私はハイランダーじゃないんです」
クラウディアが驚愕する向かい側で、ついに魔女は策謀を明らかにした。
ステラのデッキには同じカード、【ダークネス・ゲンガー】が2枚入っている。
つまりは、従来どおりのデッキで大会に参戦していたのだ。
【ダークネス・ゲンガー】は相手の姿や能力だけでなく、スタックバーストの模写も可能。
普通なら決して発動しないであろう★4スーパーレアの2枚重ねですら、このユニットならば実現できてしまう。
「これが私の決め手、最後の一撃!
【ダイダロス】のスタックバースト能力――【惑星破壊砲】!」




