第9話 予選最終日の死闘 その2
【 クラウディア 】 ライフ:4000
ゴリアテ MkIII
攻撃1500/防御2600
【 ステラ 】 ライフ:4000
デスモドゥス
攻撃1300/防御1100
先攻を取ったクラウディアは初手に★3レアの戦車を置き、鉄壁の守りを固める。
それに対してステラが召喚したのは、相手に貫通ダメージを与えることで強化される吸血コウモリであった。
まるでコンセプトが違う『ミリタリーデッキ VS 暗黒魔術デッキ』の戦い。
大会用の白い軍服を着込んだクラウディアは、魔女と対峙しながら相手の出方をうかがう。
「それでターン終了じゃないわよね?」
「はい、まだ続きます。
リンクカードを装備、【シャドウ・ディスプレッサー】」
Cards―――――――――――――
【 シャドウ・ディスプレッサー 】
クラス:レア★★★ リンクカード
効果:装備されたユニットのステータス半減。
50%の確率でバトルによるダメージを受けず、同確率でこのユニットのアタックをガードできなくなる。
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正方形のブロックが敷き詰められたフィールドの上に、ステラが杖を突き立てて鳴らす。
それがトリガーとなり、彼女のユニットに変化が現れた。
空中で羽ばたきながら上下左右に立体移動する大コウモリ。その動きに残像が加わり、まるで群れと化したかのように分身する。
「★3レアのリンクカード!?」
「大会用に仕入れておいたんです。この子とすごく相性がいいんですよ」
ステータス半減という大きなデメリットを受けるものの、得られる効果は非常に強力。
ユニット同士をぶつけあうというラヴィアンローズのルールを根底から覆し、回避の概念を持ち込んだ1枚である。
しかも、攻撃が通れば【デスモドゥス】自身の効果によって、与えたダメージのぶんだけステータスが上昇する。
ステラらしく、それぞれのカード効果を熟知した上で、歯車のように噛み合せたコンボ。
残像を帯びながら飛ぶ大型の吸血コウモリは、いかにも魔術デッキの申し子といえる。
「確率とはいえ、ものすごく厄介な効果……さすが★3レアカード。
でも、これで『他のカードの影響を受けていない』状態じゃなくなった。
少なくとも、コウモリのスタックバーストは封じられたと見ていいわね」
【デスモドゥス】には『このユニットが他のカードの影響を受けていない場合、攻撃と防御が2倍になる』という驚異的なスタックバーストがある。
野生の状態では、これが『太陽の光が当たっていない場合』だったせいで、洞窟内では恐ろしい存在になっていた。
しかし、今はリンクカードを装備したため効果の条件を満たせない。
ただ――ステラが扱うデッキの特徴を知っている者には、本来なら無用の考察だ。
なぜなら、彼女のデッキには全てのカードが1枚ずつしか入っていないからである。
「私のデッキがスタックバーストを使うと?」
「ええ、あなたがハイランダーデッキの使い手なのは分かってる。
だからといって、常にハイランダーだっていう保証はどこにもないでしょ?
何らかのドロー系カードを使えば反応するから分かりやすかったんだけど、あいにく私はその手のカードを滅多に使わないのよ」
ステラはハイランダーデッキを扱うため、スタックバーストは使えないはず。
と、そんな先入観で相手を信用させ、不意を突くことも可能なのだ。
クラウディアが『鋼』の二つ名を持つ所以は、単にデッキの構成が防御寄りというだけではない。
「まったく、本当に用心深いですね。
でも、クラウディアからの初ダメージは私がいただけそうです。
【デスモドゥス】、攻撃宣言!」
「【ゴリアテ】でガード!」
残像の尾を引きながら不規則な軌道で飛ぶコウモリ。
その足に鋭い鉤爪を生やし、獲物を引き裂かんとばかりに突っ込んでくる。
が、このターンは運がクラウディアに味方したらしく、50%の確率に勝って攻撃を防いだ戦車の装甲が、ギャリッと引っかかれて火花を散らす。
「あ~、惜しいですね。とてもいいチャンスだったのに」
「さすがに、今のはちょっとヒヤリとしたわよ。
で、ターン終了かしら?」
「いいえ、あと1枚。
プロジェクトカード発動、【ザ・ミスト】」
Cards―――――――――――――
【 ザ・ミスト 】
クラス:アンコモン★★ プロジェクトカード
効果:このカードを使用したプレイヤーのユニットは、ガード宣言の際に30%の確率でダメージを受けない。
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バトルフィールドに白く深い霧が立ち込め、一気に視界を奪っていく。
クラウディアの位置からはステラの陣営が霞み、両選手の間に立っているウェンズデーがギリギリ見える程度だ。
「くっ……本当に搦め手だらけね! これだから魔術デッキは」
「お待たせしました。私のターンはこれで終了です」
「ドロー! 確率は所詮、確率。
当ててしまえば、どうということはない!
【ゴリアテ】、攻撃宣言――撃て!」
白い軍服をなびかせながら、片手を突き出すクラウディア。
機械音を鳴らしながら戦車が砲塔を動かし、霧の中で飛ぶコウモリに向かって砲撃。
ドンッと放たれた閃光と衝撃が、一瞬だけ霧をかき分けてステラの姿を見せる。
しかし、その砲弾が相手のユニットを爆散させることはなく、はるか後方に飛んでいって試合会場の一部に着弾。
観客のいないコロシアムの客席を、派手な轟音と共に吹き飛ばした。
「どうですか、ミッドガルドの沼を見て思いついた霧デッキ。
意外といい感じなんですよ」
「まったく、確率というのも厄介ね。命中率85%の技を外した気分だわ」
霧は70%で、コウモリには50%で攻撃が当たるはずだが、失敗する確率があるというだけで一気に不安定になる。
そして、外してしまうとダメージはゼロ。
ステラもまた、ここまで自力で勝ち上がってきた猛者であることを、たった1体の★2ユニットで証明しているかのようだった。
「いいデッキね。あのとき捕まえたコウモリの持ち味を、十分に活かしてるわ。
ただ――鋼には遠く及ばない! ユニット召喚!」
どんよりとした霧が立ち込める中、突如として鳴り響く警報ブザーと、赤く灯る非常ランプ。
クラウディアの手札には、すでに最強のユニットカードが握られていた。
バトルフィールドのブロックがせり上がり、地下から巨大なガレージが出現。
10階建ての建物ほどはありそうな、途方も無い規模の金属扉がクラウディアの背後で開いていく。
「これは……★4ユニットの召喚演出!」
「そう、実際に見るのは初めてでしょ?
私の守護神、【要塞巨兵ダイダロス】!」
Cards―――――――――――――
【 要塞巨兵ダイダロス 】
クラス:スーパーレア★★★★ タイプ:機械
攻撃800/防御3400
効果:ガードしたときのみ発動。このユニットの防御が相手ユニットの攻撃を上回っていた場合、差の数値をダメージに変換して相手プレイヤーに与える。
スタックバースト【惑星破壊砲】:瞬間:このユニットの攻撃に防御ステータスを加算する。
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けたたましい警報と、1歩ごとにフィールドを揺るがす機械の足。
ゴリラのように4つ足で歩行する機動要塞がガレージから歩み出て、霧の中にそびえ立つ。
その姿は霧によって上半分が影となり、照明だけが煌々と光を灯していた。
4つ足ながらも、その圧倒的な存在感は『霧の巨人』と称することもできるだろう。
「ううっ、ずるいです……みんなばっかり★4を使って」
「こればかりは運命の結びつきだから、どうすることもできないわね。
まだいくわよ。最初に言ったとおり、手加減なしで叩き潰してあげる!
プロジェクトカード発動、【ニューエイジ・マシン・フュージョン】!」
Cards―――――――――――――
【 ニューエイジ・マシン・フュージョン 】
クラス:レア★★★ プロジェクトカード
効果:永続効果。【タイプ:機械】の自プレイヤー所有ユニット2体を合体させる。
合体後のユニットはリンクカードを装備できなくなるが、『基礎ステータス』は2体の合計となる。
カード名とクラスは任意で片側を引き継ぎ、効果は矛盾しない限り共有、スタックバーストも双方を発動可能。
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「機械ユニットの合体カード……あれが来る!」
「【ダイダロス】、【ゴリアテ】と合体!」
ステラはすでに、リンとクラウディアの勝負をリプレイで鑑賞して、そのカードの効果を知っていた。
しかし、実際に目の前で発動する瞬間を見ると、現実と映画ほどの差があるのだと思い知る。
それぞれのユニットが変形、分離し、ガキィイイインと派手な音を立てて合体。
霧の中で完成したのは、一体どこを走るのかと思うほど巨大なキャタピラと、怪獣でも倒せてしまいそうな砲塔を備えた要塞戦車。
2体のステータスが合算され、攻撃2300、防御6000という絶対防御が完成する。
「そのコウモリで、私にちょっとしたダメージを通すというなら別に構わないわ。
『鋼』の二つ名くらい、いつでも捨ててあげる。
でも、失敗したら――反射ダメージで吹き飛ぶのは、あなたのほうよ!」




