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第8話 予選最終日の死闘 その1

 『ファイターズ・サバイバル』、予選最終日。

 たった5日間の予選だが、これまでに12回もの決闘(デュエル)が行われ、実力と強運を持つ者だけが厳選されていった。


 今や500を下回った残り人数のカウントに視線を向けた後、リンは対戦相手に向き直る。

 バトルフィールドの横では、相変わらず司会のウェンズデーがマイクを手に進行を務めていた。


「予選最終日、第13試合!

 西側はリン選手、東側はホクシン選手です」


「ホクシンと申す。此度(こたび)の勝負、お相手つかまつる」


「(サムライだよ……どっから出てきたんだ、この21世紀の)」


 羽織(はおり)(はかま)に日本刀。

 髪は頭の高いところで結んで流し、キリッと太い眉毛に無精ひげ。

 時代劇の中から出てきたような浪人が、まったく雰囲気に合わないカードゲーム大会に参加している。


「リンです、よろしく」


「ふむ、15にもなっていない女子(おなご)のようだが、背後に揺らめくは羅刹(らせつ)の影。

 よほどの修羅場をくぐってきたとお見受けする」


「羅刹って……たしかに、みんな強かったけど……う~ん。

 たぶん、9試合目でめちゃくちゃ強い人と戦ったから、あれでだいぶ楽になったかな。

 昨日の試合も『あの人に比べたら』って感じで乗り越えられたし」


「ほう、強者を越えたが所以(ゆえん)の自信といったところか。勢いに乗っているようだ。

 しかし、お主にとって最も驚異となるのは――この13試合目よ!」


 刃のような覇気を放つホクシンと、落ち着きを保ちながら相まみえるリン。

 あと3回の勝利で本戦への出場が決まる。

 負けられない。ここまで来たら絶対に勝つのだと胸に誓い、リンは予選最終日の戦いに挑んでいく。


「まあ、いつかはこうなる気もしていたけれど」


 ――と、(ところ)変わって別の空間。

 リンが武士との戦いを始めたころ、クラウディアは腕を組みながら対戦相手に語りかけていた。


「ちょっと早いですよね。こういうのは本戦に行ってからだと思ってました」


 バトルフィールドの反対側にいるのは、ここ1ヶ月ほどでよく見知った少女。

 三角帽子の下から苦笑する顔が現れ、クラウディアも釣られてフフッと笑う。

 もはや、笑うしかないだろう。


「予選最終日、第13試合!

 西側はクラウディア選手、東側はステラ選手です」


 大会の進行役であるウェンズデーは、ここでも分身体として登場している。

 初日には100万体以上もいた彼女だが、今は200体ほどにまで減少。


 ハイテンションな司会とは真逆に、どうしたものかと顔を見合わせる選手たち。

 ゲームの性質上、制限時間いっぱいまで戦うことなど滅多にないが、それでも30分という限りがある。


「はぁ~、やるしかないみたいね。

 どっちが勝っても恨むのはなしよ?」


「いいですけど……それは私が勝っても構わないという意味ですか?」


「言ってくれるじゃない!」


 ニコニコとした笑顔でマイペースなステラだが、こう見えても意外と好戦的。

 魔女からの挑発を吹き払うかのように、クラウディアは腕組みを解いてデッキに手をかける。


 ステラは普段どおりの姿、強者の証であるハロウィンイベントの上位報酬。

 対するクラウディアは大会用の真っ白な軍服に身を包み、上着には袖を通さず、肩からマントのように羽織っている。


「それでは~! 決闘(デュエル)スタート!

 先攻はクラウディア選手です」


「手加減なしでいくわよ、ユニット召喚!」


 5枚の手札から迷うことなくユニットを選び、即座に召喚する軍服の少女。

 それは彼女が愛用する兵器デッキの先鋒。


Cards―――――――――――――

【 ゴリアテ MkIII 】

 クラス:レア★★★ タイプ:機械

 攻撃1500/防御2600

 効果:このユニットがガードしたとき、自プレイヤーへの貫通ダメージを無効化する。

 スタックバースト【多重空間装甲】:永続:このユニットがガードしたとき、相手の攻撃力を半分にしてダメージ計算を行う。

――――――――――――――――――


 キュラキュラとキャタピラを鳴らしながら、重厚な戦車が少女の隣に現れた。

 開始直後にいきなり登場する★3の鉄壁。

 彼女と対戦することになったプレイヤーの多くが、この時点で雰囲気に圧倒されて、一方的な試合の流れに飲み込まれてしまう。


 ステラは落ち着いているが、知り合いじゃなければゾッとしていただろうと緊張感を高めていた。

 仮に戦車を倒せたとしても、クラウディアには貫通ダメージが通らない。それだけでも十分に厄介なユニットだ。


「さすが『(はがね)のクラウディア』、いきなり鉄壁ですね。

 ちなみに、ここまでの被ダメージは?」


「ふふっ、誰に聞いているの?

 もちろん、ゼロに決まってるじゃない」


「12回も戦って被弾なしですか!

 本当にすごいです……ゾクゾクします。

 前から、こうして戦ってみたいと思ってました」


「毎日のように会ってるんだし、決闘(デュエル)を申し込めばよかったのに。

 ま、私のほうもギルドのメンバーには手を出さなかったんだけど」


「それはそうです。

 だって、手の内を知り尽くしてたら、お互いにつまらないじゃないですか。

 まあ……これはサクヤさんの受け売りなのですが」


 いつでも戦える者同士、頻繁に戦いを挑めば、デッキに何が入っているのか知り尽くすことも可能だろう。

 しかし、それは無粋だと感じてギルド内での戦いを避けてきたのだ。


 別にクラウディアが決めたことではないが、サクヤが来てからは、なんとなくそれが浸透しつつある。

 あの胡散臭(うさんくさ)いキツネの巫女は、メンバーの誰にも手の内を見せていない。

 唯一の例外として彼女を知る者は、弟子のような存在にあたるステラだけだ。


「私はターンエンド」


「それじゃあ、私のターン。ドロー。

 こっちもユニットを召喚します――いでよ、【デスモドゥス】!」


 杖を突き出し、バトルフィールドの上に魔法陣を輝かせる21世紀の魔女。

 陣の中から召喚されたユニットは、まさに悪魔の姿を思わせるコウモリ型のユニット。


Cards―――――――――――――

【 デスモドゥス 】

 クラス:アンコモン★★ タイプ:動物

 攻撃1300/防御1100

 効果:このユニットが相手プレイヤーにダメージを与えたとき、2ターンの間、そのポイントと同数の攻撃・防御強化を受ける。

 この効果は重ねがけ不可であり、更新された場合は新しい数値に上書きされる。

 スタックバースト【闇の徘徊者】:永続:このユニットが他のカードの影響を受けていない場合、攻撃と防御が2倍になる。

――――――――――――――――――


「キェアアアーーーーーーッ!」


 魔法陣から飛び出した翼長3mの吸血コウモリは、空中で1回転してから漆黒の翼をバサッと広げる。

 水晶洞窟で群れとなって襲いかかり、ギルドの仲間たちが力を合わせて倒したモンスター。


 これをステラが手に入れたとき、クラウディアも共に喜んだのは記憶に新しい。

 しかし、そんな仲間との思い出を感じるユニットも、真剣勝負の場となれば話は別だ。


「へぇ~、私が今までにダメージを受けたかどうかを聞いた上で、そのユニットを出すのね」


「はい、そうしないと強化効果が乗りませんからね、この子」


 三角帽子の下からニコッと微笑んでくるステラ。

 それが虚勢(ブラフ)でないことは、今さら聞くまでもないだろう。


 【デスモドゥス】は相手プレイヤーへの貫通ダメージを与えたときに真価を発揮するユニットだ。

 それを出してきた以上、この魔女は本気で『(はがね)のクラウディア』を貫こうとしている。


「まったく、本当にもったいない……こんな勝負を観客もいない場所でやるなんて」


 今から行われるバトルは、間違いなく観客を熱狂させる激戦になるはずだ。

 クラウディアはフィールドの端を見たが、この試合を観戦しているのは進行役であるウェンズデーだけ。


 予選の波乱も、ここに極まれり。

 同じギルドの仲間同士で戦うことになった2人は、本戦への出場をかけて激突する。

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