第6話 波乱万丈の大会予選 その5
【 リン 】 ライフ:3200
パワード・スピノサウルス《バースト1回》
攻撃2000(+1000)/防御2000(+1000)
【 サクラバ 】 ライフ:4000
グレーター・パイロドラゴン
攻撃2400/防御2200
前のターン、リンは果敢に攻めたはずだったが、サクラバのライフを1ポイントも減らせなかった。
さらには緊急回避にリソースを使わされ、もともと先攻で少なかった手札は1枚しか残っていない。
それに対し、サクラバは落ち着き払った様子でドロー。手札は4枚。
攻められる側で手札に差があるのは辛いが、スピノサウルスの攻防ステータスはドラゴンを上回っている。
「さて、どうしようかねぇ。
まずはユニット召喚といこうか――【ドラゴンナイト】」
Cards―――――――――――――
【 ドラゴンナイト 】
クラス:アンコモン★★ タイプ:人間
攻撃1000/防御1000
効果:自プレイヤーのフィールドに【タイプ:竜】のユニットがいる場合、このユニットを融合させてステータスを加算することができる。
スタックバースト【竜との血約】:永続:融合しているユニットの攻撃と防御に+500。
――――――――――――――――――
サクラバの陣営に登場したのは、全身をプレートアーマーで包んだ騎士。
フルフェイスの兜で覆われているので顔や性別は分からないが、ドラゴンを模した装飾の鎧は、勇ましくも恐ろしげである。
「(あの効果……もしかして、ステラのネコと同じ……?)」
「【ドラゴンナイト】、【グレーター・パイロドラゴン】と融合」
騎士は人型でありながら言葉を発することなく、持っていた両手剣を正面でジャキッと構えて応じる。
その瞬間、まばゆい光に包まれるドラゴンと騎士。
あまりの眩しさに直視できなかったリンだが、視界が戻ったとき――
サクラバの陣営にいたのは、まるで中世のおとぎ話に出てくるようなユニット。
ドラゴンの背に鞍が取り付けられ、その上に乗るのは先ほどの騎士。
両手剣は大型の騎乗槍に変わり、火炎竜の体色に合わせたワインレッドのマントをなびかせている。
「ヤバ……かっこいい……!」
思わず、リンの口から出た言葉がそれだった。【ドラゴンナイト】は見た目のよさも映えるが、その能力も優秀。
ステラが好んで使う【土星猫】と同様に、他のユニットと融合することで真価を発揮する。
ただし、何にでも融合できる宇宙ネコとは違い、この騎士が乗るのは竜タイプ限定。
その代わりにデメリットがなく、強化を増幅することもできる。
「まだ続けるよ。プロジェクトカード、【王宮の勅命】」
Cards―――――――――――――
【 王宮の勅命 】
クラス:アンコモン★★ プロジェクトカード
効果:攻撃力1000以下、かつ【タイプ:人間】のユニットカード1枚をデッキから任意に加える。
このカードが発動した場合、使用者は以降2ターンの間、他のプロジェクトカードが使用不可になる。
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続いて発動したのは、ユニットを手札に引き寄せるカード。
かなりのデメリットがあるカードだが、デッキから任意のユニットを引ける効果は希少だ。
ラヴィアンローズというゲームにおいて、この手の効果は大抵ランダム。
任意に選べる場合でも、【トロピカルバード】が後攻を取った場合のみ★1を手札に加える等、かなり条件が厳しくなっている。
その希少な効果のカードを使って引いたのは、やはり、この状況で最も有用な効果を発揮する1枚。
迷いなく騎士のカードを選んだサクラバは、即座に重ねて強化する。
「【ドラゴンナイト】、スタックバースト。
これで攻撃力は3900、防御は3700。
完全じゃないけれど、まあまあ整ったかねぇ」
「さらに上があるっていうの……?」
「そりゃ、誰だって出せるならデッキの一番高い数字を出したいはずさ。
でも、運や相手との相性が絡む以上、そうもいかない」
いつでも最強のユニットや装備品が揃うなら、誰だって苦労はしないのだ。
それはリンも同様で、最終形態の【ブリード・ワイバーン】を出せるようなら、今すぐにでも出したい。
「さて、行くとしようか。
【グレーター・パイロドラゴン】、攻撃宣言」
「ゴガァアアアアアアーーーーーーッ!!」
灼熱の火の粉を撒き散らしながら、翼を広げて火炎竜が飛翔する。
背中の騎士は騎乗槍を構え、ドラゴンは急降下。
華麗にしてダイナミック、火炎と物理ダメージが乗った突撃がリンの陣営に突っ込んでくる。
「スピノ親分、ガードをお願い!
あたしはね、お婆ちゃんが言ったことの逆を選んだよ!」
「む……?」
「一番高い数字を出せるけど、あえて出さなかった!
それは、今ここで使うため――
【パワード・スピノサウルス】、スタックバースト!」
「なっ、3枚目を手札に!? ずっと握っていたのかい……!」
この瞬間、余裕に満ちていたサクラバの表情が初めて揺らいだ。
たしかにスタックバーストはルール上、任意のタイミングで発動できる。
しかし、それができる状況で――しかも、攻防を1000も高められる状況で手札に温存するなど、あまりにも予想外なことだった。
「グオオオオオオーーーーーーッ!!」
3枚のスピノサウルスを全て使い、2回目のスタックバースト。
リンがミッドガルドの沼地を周回した成果が、今ここに極まった。
攻防4000まで強化された水辺の王者が吠え、炎をまとって突っ込んできたドラゴンと激突。
その衝撃で激しい閃光と爆発が生じ、バトルフィールドに烈風が吹き荒れる。
やがて、数秒後。
威嚇の炎を吐きながらサクラバの陣営に着陸したドラゴンは、難攻不落の強者と対峙していた。
どれだけ焼いても屈しない恐竜は1億年前と同じく、決して自身の縄張りをゆずろうとしない。
爆発で生じた水蒸気のような白い”もや”が晴れていく中、巨体に守られた少女はダメージを受けずに立ち続ける。
「1回戦でね、女の子を倒したんだ。
その子は手札に持ってた、ありったけのカードを使ってユニットを強化した。
でも、そのユニットがやられると後がなくなって……あっさり負けちゃって。
あたしは教えられたんだよ。失敗した後のプランBは、手札の中に残しておくべきだってね」
「やれやれ……若いもんはすぐにあれこれ取り込んで成長する。
まったく、うらやましいねぇ」
ミナとの戦いで学んだリンは、3枚目のスピノサウルスを引きながらも温存していた。
仮に使い切っていたら、強者であるサクラバは攻防4000超えを目標に立ち回っていたかもしれない。
実際に攻撃を防がれた老婆は、再びおだやかな笑みに戻っていた。
まだ手札も策も残っている。
彼女にとっては、ちょっと驚かされた程度に過ぎないのだろう。
「お見事だよ、リンちゃん。
こんなに楽しい試合ができるなら、わざわざ勝ってきた甲斐があるってものさ。
私はターンを終了するけど……ほっ、ほっ、そっちは手札がなくなっちゃたみたいだねぇ」
「まあ……そうだね」
指摘された一言に、リンはごくりと喉を鳴らす。
これだけ激しい攻防線を繰り広げているのに、まったくサクラバに手が届かない。
何らかの打開策が必要だが、そもそも手札にカードがない。
「勝つか、負けるか、この1枚で全部決まる!
あたしのターン、ドロー!」
カードゲームをやっていると、1枚のドローに全てを委ねる瞬間が必ず来る。
ここまで勝ってきたリンが消えるか否かは、その手が引いた1枚にかかっていた。
今の状態で月の女神を引いてもリンクカードはなく、ワイバーンは遅すぎる。
ならば、いかにしてサクラバの火炎を超えるのか。
緊張に震える手でリンが手札を確認すると――それは★2のプロジェクトカード。
「ふぅ~……よし……よし……なるほど、分かったよ」
「いいカードは引けたかね?」
「まあね……今の状態でも、スピノ親分のほうがドラゴンより強いけど。
お婆ちゃん、何か切り返しの策を持ってるでしょ?」
「おや、それはどうかな?」
「分かってるよ、すごく強いもん。
たぶん、さっきと同じように、ちょっと上回ったくらいじゃ防がれる。
それどころか、ドラゴンに焼かれて苦しくなるのはこっちのほう。
だから――プロジェクトカード発動!」
そのカードは決して派手なものではない。
静かに、ただ静かにスピノサウルスの足元に水が広がり、澄んだ湖になっていく。
それは以前、リンがソニアを助けるために使った1枚だった。
Cards―――――――――――――
【 折れた剣の伝説 】
クラス:アンコモン★★ プロジェクトカード
効果:破棄されたリンクカード1枚を指定し、破棄される前に装備していたユニットへ再装着させる。
――――――――――――――――――
「リンクカード回収! 【ヴァリアブル・ウェポン】!」
「むうぅっ!?」
リンが叫び、サクラバが両目を見開く。
やがて、湖の水に浸るスピノサウルスの巨体を這い上がるように、バラバラに壊れたはずの魔法武装が再構築されていった。
2回の防衛で生き残った水辺の王者は黒い骸骨をかぶり、再び両腕に鋭い刃を生やす。
奇しくも、折れた剣の伝説は騎士王の物語。
湖の貴婦人から祝福を受けたのはドラゴンに乗る竜騎士ではなく、人類など存在していない時代の支配者であった。
「さっき、あたしが攻撃したとき、その程度じゃ倒せないって言ったよね。
今度は攻撃力6000! 全部使い果たした、あたしと親分の渾身の一撃!
【パワード・スピノサウルス】、攻撃宣言!」
「オオオオオオオオーーーーーッ!!」
全身に黒い魔法武装をまとったスピノサウルス。
その頭部を覆う骸骨と両腕の刃は、まるで大鎌を振りかざす死神。
全ての手札を使い切り、リンが出せる最大級の火力を乗せて、太古の王者が襲いかかる。
「ああ……さすがに、6000は無理だねぇ。
本当にいい勝負だった。
この子たちがやられる姿を見るのは忍びない、私が受けるよ」
手札を見直したが、この数値を覆す手段はサクラバにはない。
ガード宣言することなく、体長15mの巨大生物が振るう刃を、彼女はその身で受けたのだった。




