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第3話 波乱万丈の大会予選 その2

 試合が始まると、空間が拡張されてバトルフィールドが広がり、かなりの広さが確保される。

 超大型ユニットを召喚しても、思いっきり暴れさせられそうな舞台だ。

 レフェリー役のウェンズデーは、やや離れたところから試合開始を宣言した。


「先攻のミナ選手から行動を始めてください。

 本来なら私がキレッキレの実況をするところですが、観客がいない場所でやっても悲しいので、予選では割愛させていただきま~す!」


 そんなことを言っているが、一応、この勝負を見届けてくれるらしい。

 プレイヤーが困ったときには対応しつつ、運営側の『目』として決闘(デュエル)の監視も兼ねているのだろう。

 参加者の数が最も多い予選の1回戦、ウェンズデーが何百万人に分身しているのかは、あまり考えたくないことだ。


「それじゃあ、私からいきます! ユニット召喚!」


 ペンギンドレスを着込んだミナは、幼いながらもカードを(かか)げて召喚のポーズを取った。

 その可愛さに目を細めながらも、リンは現れたユニットをしっかりと確認する。


Cards―――――――――――――

【 フォカフォカ 】

 クラス:コモン★ タイプ:水棲

 攻撃300/防御300

 効果:フィールドが凍っているとき、このユニットの【基礎防御力】は3倍になる。

 スタックバースト【氷海生活】:永続:上記の効果を【基礎攻撃力】にも適応する。

――――――――――――――――――


「うわ、ユニットも可愛い~~~っ!」


 カードから召喚されて出現したのは、まるっこい感じのアザラシ。

 ぽっちゃりとした体に、愛嬌のある顔、ヒレ状になった両腕と下半身。

 水族館で見られるアザラシを、さらに可愛くキャラクター化したようなユニットだった。


「まだ続きます! プロジェクトカード、【アイシクル・フィールド】!」


「あっ、ステラが使ってたカードだ」


Cards―――――――――――――

【 アイシクル・フィールド 】

 クラス:コモン★ プロジェクトカード

 効果:解除するまで永続。地形を氷結させ、一部のユニットに影響を及ぼす。

――――――――――――――――――


 ミナがカードを発動させると、ブロックが敷かれたバトルフィールドに氷が広がって凍結する。

 かつてステラが同じカードを沼地で使い、スピノサウルスを水に触れさせないという戦略を披露した。


「地面が凍ったので、これでフォカちゃんの防御は3倍です!

 さらにスタックバースト!」


「おお~、そこまでやるんだ!」


 アザラシは氷の上を軽快に滑り、攻撃と防御を3倍に高める。

 それぞれ900でしかないが、ミナ自身がペンギンの服を着ていることもあって、見事な統一感を発揮している。


「いいね~、氷デッキかぁ。

 あたしはまだ初心者だけど、そういうのもできるんだね」


「え、初心者なんですか?」


「ああっと、今のは言っちゃいけなかったかな!

 聞かなかったことにして!」


「分かりました……でも、まだ私のターンです。

 リンクカードを装備、【オーロラ・バリア】!」


Cards―――――――――――――

【 オーロラ・バリア 】

 クラス:アンコモン★★ リンクカード

 効果:フィールドが凍っているとき、このカードが装備されたユニットは全てのダメージを受けない。

――――――――――――――――――


 初手からカードの多段重ね。

 7色に輝く半透明のドームがアザラシを覆って守り、特殊な効果を発揮する。

 この装備品はステータスを増減しないが、あらゆるダメージを通さないという非常に優秀な1枚だ。


「いきなり飛ばすねー!

 先攻は手札5枚しかないのに、いきなり4枚も使っちゃって大丈夫?」


「だ、大丈夫……勝てば問題ありません!」


「う~ん、たしかに強い……

 防御力900とはいえ、バトルじゃ倒せない盾を1ターン目に完成させたんだね。

 ちっちゃいのに、よく考えてるなぁ~」


 可愛いだけかと思いきや、この布陣は意外と厄介だ。

 バトルだけではなく、あらゆるダメージを受けない

 貫通ダメージは通るものの、あのアザラシでガードする限りは常に900ずつ軽減され続ける。


 ミナが操る氷デッキは【アイシクル・フィールド】の氷結効果を中心に、全てが無駄なく噛みあっていた。

 子供ながらも、リンは相手の見事さに意表を突かれる。


「これでターンエンドです」


「よし、あたしのターン!

 ごめんね……ミナちゃんが年下で可愛いから、あたしは手加減しなきゃいけないかなって考えてたんだ。

 でも、ちゃんとしたプレイヤーで、デッキも上手に扱ってる。

 だから――ユニット召喚!」


 そう言ってリンがカードを(かか)げると、飛び出した光が巨大な生物の姿へと変貌していく。


Cards―――――――――――――

【 パワード・スピノサウルス 】

 クラス:レア★★★ タイプ:水棲

 攻撃2000/防御2000

 効果:バトル相手のユニットが装備しているリンクカード1枚を破棄する。

 スタックバースト【水辺の王者】:永続:自プレイヤーのフィールドにいる【タイプ:水棲】のユニットに攻撃と防御+1000。

――――――――――――――――――


「オオオオオオーーーーーーーーーッ!!」


「え……え……ええええ~~~~~!?」


 氷のフィールドで冷えた空気を引き裂くかのように、ビリビリと戦場を震わせる咆哮。

 圧倒的な迫力を誇示しながら、スピノサウルスが雄々しく咆哮する。


 巨体も巨体、全長15mの大型恐竜。

 それに比べたら、アザラシなどタンポポの綿くらいしかない。


「あ……あの……! さっき初心者だって……!」


「うん、初心者だよ。まだ初めて2ヶ月経ってないし」


「ウ、ウソ! 初心者はこんなの持ってない!」


「まあ……そうだよね、普通は」


 ミナは幼いながらも良いプレイヤーだ。

 しっかりとカードについて学び、使いかたを憶えた上で、初対面のプレイヤーを相手にしても緊張に負けなかった。

 ただ――今日の運勢は最悪だったというしかない。


「じゃあ、攻撃宣言……していいかな?」


「ダ、ダメですぅううううう!」


「いやー、ほんとごめんね。

 あたしも初戦で負けてあげるわけにはいかないから。

 【パワード・スピノサウルス】攻撃宣言!」


「グルァオオオオオーーーーーーーーーッ!!」


 人間ですらトマトのように潰せてしまいそうな腕を振り上げ、太古の王者は容赦なく振り下ろす。

 頂点捕食者による一方的な暴力。

 その重量と圧力をもって【オーロラ・バリア】を粉砕し、一切の慈悲なく【フォカフォカ】を叩き潰す。


 【パワード・スピノサウルス】は、単純にそのステータスだけでも強大。

 しかし、最も恐ろしいのはリンクカードが一切通用しないという点だ。

 多少の装備品を壊されても物量で押し切れる【アルテミス】だから耐えられただけで、普通は対策など取れるはずがない。


 リンのデッキには、そんな強者が3枚。

 40枚のカードで組まれたデッキにおいて、初手に引く確率は33.8%に達する。

 一般的なプレイヤーから見れば、この時点ですでに異質と言わざるを得ない。


「フォカちゃーーーーーーーーん!!」


 涙目になったミナの声が響き、手札が1枚しか残っていない彼女は絶望の淵に落とされたのだった。



 ■ ■ ■



「勝負あり! ライフポイント、0対4000!

 勝者、リン選手~!」


「うえぇえええ~……」


「ごめん、ほんとごめんねー。

 ミナちゃん、強かったよ?

 あたしくらいの歳になったら、すっごいプレイヤーになってると思うから。

 これでめげないで、頑張ってね~!」


 渾身のコンボを一撃で潰されたミナに、その後の活路など残されていなかった。

 巨大な恐竜に潰されるという悲惨な負けかたをした少女は、半泣きになりながら光の粒子になって退場する。


「あ~、ちょっとやり過ぎたかな。

 ウェンズデーさん、あの子の様子を見てもらうっていうのは……さすがにダメですか?」


「正式な勝負の結果ですし、運営としてはお答えしかねますね。

 でも、決闘(デュエル)で負けたくらいじゃ、ラヴィアンローズのプレイヤーは折れませんよ」


「そっか……それなら勝ったあたしのほうが、しっかりしないと。

 今の勝負、ミナちゃんは上手だったけど、作戦が破られた後のことも考えなきゃダメなんだ。

 あたしは勝っても負けても、この経験を無駄にはしないよ!」


「素晴らしい心がけです。

 では、こちらの数字を御覧ください」


「ん……? うわ、すごい数……!」


 ウェンズデーが示した方向を見ると、2976351という数字が空中に表示されていた。

 その数はリアルタイムで変動し、すさまじい早さで減り続けている。


「あれは現在残っているプレイヤーの数。

 このイベントの予選1回戦、参加者は3856286人です」


「380万人!?」


「その半分以上が1試合、たった30分の間に消えることになります。

 この中に混ざって消えるか、それとも残り続けるのか。

 勝負とは――」


 と、そこでウェンズデーはババッと激しく動きながら、おかしなポーズを取ってマイクを口に寄せる。


「勝負とは、かくも非情なものなのです!

 男性も、女性も、大人も、子供も! 一切の例外なく、負けるときには負ける!

 それが――決闘(デュエル)!」


 デュエル、デュエル、デュエル……と、マイクに乗って響く声。

 リンしか聞いていないので、わざわざ拡声しなくてもよかったはずだが、そんな話が通じる様子ではなさそうだ。


 呆れながらもリンは空中へと視線を戻し、濁流のように減り続ける数字を見上げる。

 先ほど倒したミナは、この中へと飲み込まれてしまった。

 しかし、かわいそうだから代わりに自分が消えればよかったのかというと、そうではない。


「これは勝負なんだ。

 デッキを組んで、本気で頭を使って、ぶつかりあって……どっちか片方は必ず負ける。

 でも、そういう場所だってことを知ってて、みんな参加してるんだよね。

 380万もの人たちが」


 ミナにとっては不運だったが、一方的な勝ちを得たことでリンの心に芽生えたものがある。

 いつか負けるという覚悟も必要だが、勝ち続けることにも覚悟が必要なのだ。

 相手を倒して這い上がるという覚悟、弱肉強食を受け入れる覚悟が自分には足りていなかったと彼女は気付いた。


「あたしは勝つよ!

 倒しちゃったミナちゃんのことを……

 ううん、これから倒すかもしれない人たち、全員のことを乗り越えて勝つ!」


 勝利するための覚悟を自覚したリンに迷いはなかった。

 やがて380万のプレイヤーは半分以下にまで消えていき、初日の2回戦へと移行する。

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