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第2話 波乱万丈の大会予選 その1

 待ちに待った『ファイターズ・サバイバル』の予選初日。

 これから5周年の記念日にかけて、決闘(デュエル)に継ぐ決闘(デュエル)の日々。


 1戦ごとに参加者が半分ずつ減っていく大会ルールは、まさしくサバイバル。

 数百万に及ぶプレイヤーたちが、たった1人の最強を決めるために競うのだ。


「みんな、デッキの準備はいい?」


「おう! 何度考えてもこれしかねえってくらい、ばっちりだぜ!」


「あたしは、あんまり変わってないかなぁ……いつものヤツから」


「リンはそれでいいと思いますよ」


 ラヴィアンローズの公共エリアに集合した6人は、これから始まる戦いを前に声を掛けあっていた。

 こうして集まる必要はないのだが、初日だけは全員で一緒に会場へ行こうとステラが提案し、気合いの入った面々が顔をそろえる。


「ま、初日やさかい、ゆる~くいこうや」


「そうはいきません。わたしにとっては大事なデビュー戦なのです!」


「無理に勝とうとして焦らず、普段どおりにすればいいわ。

 ミッドガルドのモンスターとは勝手が違うけれど、対人戦もいい経験になると思うし」


決闘(デュエル)での立ち回りは、頭より体で憶える部分もあるからなぁ。

 とはいえ、ヤバいカードを何枚も持ってるのに初日で負けたりしたら、リンは1週間おやつ抜きだな」


「ちょっ!? なんで、そうなんのよー!

 兄貴のほうこそ、あっさり消えたりしたら笑ってやる!」


 笑顔と賑やかな声が交差して、ほどよく全員の緊張がほぐれていく。

 やがて、公共エリアのあちこちに設置されたモニターが起動し、司会を務めるウェンズデーの姿が映った。

 画面の中にはマスコットのコンタローもいる。


「みなさ~ん、こんにちは~!

 いよいよ予選の初日がやってきましたね。

 デッキの考えすぎで寝不足になっている方はいませんか?」


「おめでたい5周年に向けて、みんなで戦う前夜祭!

 これより『ファイターズ・サバイバル』を開催するのだ~!」


 運営からの開催宣言に、公共エリアにいた大勢のプレイヤーたちが割れんばかりの歓声を上げる。

 戦いの会場にはどこからでも入れるらしいが、公共エリアで待機していた人々だけでも、お祭りのような賑わいになっていた。

 まずはウェンズデーとコンタローが再度ルールの説明を行い、禁止事項などの注意をうながす。


「これから5日間、勝ち続ける限りデッキの内容は変更できません。

 くれぐれも大事なカードを入れ忘れたりしないでくださいね」


「ちなみに、ウチの開発部には大会で優勝した後、デッキを見たらレアが4枚も抜けていたという不思議な人もいるのだ。

 そういうケースはごくまれだから、みんなしっかりと準備するのだ」


「トイレと水分補給も事前に済ませておきましょう。

 対戦中、何らかの原因でログアウトすると負けになってしまいます。

 アナウンスがあるまで、会場から勝手に離脱しないように注意してくださいね」


「それでは、プレイヤー諸君!

 各自コンソールのイベント項目から、バトルフィールドに移動なのだ!

 みんなの健闘を祈るのだ~!」


 その声に従ってコンソールを操作すると、イベント会場へとワープするための項目が大きく表示されていた。

 あとは、そこに入室すればエントリーが完了する。


「よっしゃ、ほないくでー! 強いヤツと当たるとええなあ」


「全力で戦いましょう。勝つことも大事だけど、まずは楽しむことが一番よ」


「そうですね。終わった後はガルド村に行きます」


「うおおおおお! 燃えたぎる闘志が、我が左目からあふれそうであります!

 くっ、耐えろ……今はまだ早い! ああ~、封印が~!」


「へへっ、男は俺だけだから肩身が狭かったんだが……

 こうしてみんなでイベントに行くってのもいいな。同じギルドで良かったぜ」


「急に最終回みたいにマジなセリフ言っちゃって、どうしたのバカ兄貴?

 でも、あたしも同感だよ! 気合い入れていこー!」


「「「「「おおーーーーーーーーっ!!」」」」」


 ギルド【鉄血の翼】は★5を探索するため、ミッドガルドで結成されたチームだ。

 しかし、まったく違うイベントでも励ましあい、メンバーが団結している。

 その楽しさと高揚感こそがネットゲームの醍醐味なのだと、リンは理解し始めていた。


「それじゃあ、出発!」


「みんな頑張ろう!」


「また後で!」


 コンソールからバトルフィールドに入室すると、体は一瞬で粒子に変わってテレポートする。

 サクヤが、クラウディアが、ソニアが次々と旅立っていく中、リンも決定ボタンに指を置いた。


 その直後、視界が一瞬だけ真っ白に染まり、2秒も経たないうちに別の空間へと降り立つ。

 そこは白い正方形のブロックが地面に敷き詰められた闘技場のような場所。

 観客のいないコロシアムといった感じだ。


 おそらく、ブロックで形成された平らなエリアがバトルフィールドなのだろう。

 そこにはスーツ姿の女性が1人、マイクを手に立っている。


「は~い、どうもこんにちは~!

 ラヴィアンローズのイベント司会担当、ウェンズデーです!」


「うわぁ! さっき画面の中にいたのに!?」


「びっくりしましたか?

 私はバーチャル世界の住人なので、どこに何人いてもおかしくないんです。

 これから試合の進行を見守るレフェリーとして、皆さんの戦いをサポートします。

 イベントやルールについて分からないことがあったら、何でも質問してくださいね」


「は、はぁ……」


「それでは、マッチングが終わりましたので対戦相手の入場です!」


 ウェンズデーがサッと手を広げてリンの向かい側に振ると、そこに光の粒子が舞い降りてくる。

 それが1回戦の対戦者。

 プレイヤーの姿になっていく粒子に、緊張した顔を向けるリンだったが――


「え? え……あれ?」


 そのシルエットが非常に小さい。

 ラヴィアンローズは老若男女、様々な人がプレイしているため、中年やご老人も当然のようにいる。

 しかし、今回の相手はまったく逆だった。


 暖かそうな獣毛(フェルト)で作られたドレスは、まるで雪国の子供服。

 頭からペンギンを模した帽子をかぶり、その左右からヒレのような装飾が垂れ下がっている。


「(かっっっっっっっわ!!)」


 リンの対戦相手は、ペンギンドレスという衣装を着た10歳くらいの少女だった。

 同年代ながらも破天荒なソニアと違い、おどおどと緊張しながら周囲を見回している。


「は~い、どうもこんにちは~!

 ラヴィアンローズのイベント司会担当、ウェンズデーです!

 びっくりしましたか?

 私はバーチャル世界の住人なので――」


 先ほどとまったく同じセリフを、少女に向かって伝えるウェンズデー。

 こういうところを見ると、やっぱりバーチャル世界のAIなんだなと感じてしまう。


「というわけで、第1試合!

 西側はリン選手、東側はミナ選手です」


「ミナです! あ、あの……よろしくお願いします!」


「ミナちゃんって言うんだ~。リンです、よろしくね!」


 ペンギンドレスを着たミナという少女は、まさに天使のごとき可愛さで見上げてきた。

 リンは小さい女の子にめっぽう甘く、相手が可愛ければ、なおさらデレデレになるのだが――

 しかし、今回は倒すべき対戦相手。

 初めての公式大型イベントに参加し、仲間たちと気合いを入れて出撃したばかりなのだ。


 かくしてミナと向かいあい、リンはデッキに手を触れる。

 相手の姿に惑わされてはいけないと言い聞かせ、これから始まる戦いに意識を集中させた。


「それでは~! 決闘(デュエル)スタート!

 先攻はミナ選手です」

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