プロローグ
「は~い、どうもみなさん、こんにちは~!
私はラヴィアンローズの世界で各種イベントの司会進行を担当するヒューマノイドAI、ウェンズデーです。
そして――」
「今日も元気にVRライフを満喫してるかな~?
日本ワールドのマスコット、コンタローなのだ~!」
やけにテンションが高い動画が公開されたのは、日本時間のちょうど正午。
それから45分後、中学校の教室で――
真宮涼美と寺田すみれは、一緒に昼食を取りながらIRMで動画を見ていた。
統合空間視聴モジュール、略してIRM。
2036年、スマートフォンは旧型のデバイスとなって日常から消えていき、代わりに肉眼でも見られるAR技術が主流になっていた。
わずか2.4インチの超小型デバイスの上に、実際に手で触って操作できるスクリーンが浮かぶ。
ラヴィアンローズの中でリンたちが操作しているコンソールは、これを腕時計型にしたものだ。
映像の中で語っているスーツ姿の女性は、仮想世界の住人であるウェンズデー。
そして、日本ワールドのマスコットキャラクター、赤いスカーフを首に巻いたキツネのコンタロー。
「おかげさまで、ラヴィアンローズもサービス開始から4年と11ヶ月。
まもなく5周年の記念すべき日を迎えるということで、な、な、なんと!」
「5周年の前夜祭!
誰でも参加可能な大型イベント、『ファイターズ・サバイバル』を開催するのだ~!」
映像の中で派手に舞い散る紙吹雪と、スタイリッシュなイベントのロゴ。
好物の『カスタードとチョコレートが半分ずつ入ったパン』をかじりながら見入り、涼美はキラキラと目を輝かせる。
「予選は1日に3戦ずつ、5日に分けて行われます。
毎回ランダムで対戦者が決まり、1回でも負けてしまうとそこでリタイア。
15戦すべてを勝ち抜いた人だけが本戦に出られるという、まさに過酷なサバイバル!」
「いや~、本当に15回も勝てる人がいるのか心配なのだ」
「プレイヤーの皆さんは強豪揃いですから、かなりの数が残ると思いますよ。
勝てば勝つほど強い人だけが残り、上位争いは熾烈になること間違いなし!」
「対戦に勝利した報酬に加えて、上位入賞者には豪華な報酬を用意してあるのだ。
本戦出場を果たした猛者には、もちろん――特別な『称号』を授与してしまうのだ~!」
「称号! 称号だってよ、ステラ!」
「ふふふ、今はステラじゃありませんよ」
「そ、そっか……あはは、ついクセになってて」
興奮しきった涼美の向かい側で弁当を広げているのは、仮想世界でステラと名乗っている少女、すみれ。
ロングヘアが可愛い優等生で、男女問わず人気があるクラスのヒロイン的な存在だ。
しかし、彼女自身は謙虚な性格のため、それほど目立つことはない。
かのVR世界では本人が自覚しないまま、盛大に目立ちまくっているのだが――
「でさぁ~! イベントだよ、イベント!
あたし、こういうのに出るの初めてなんですけど!」
「予選だけでも15戦。
大変そうなイベントですけど、頑張りましょうね。
真宮さんが持ってるカードと今の実力なら、かなり上のほうに行くと思いますよ」
「行けるかなぁ?
知らない人とは、あんまり戦ったことないし」
「むしろ、知らない人のほうが有利なんです。
私たちはお互いのデッキや戦法を知ってますから」
「そっか、手の内が分かっちゃってるもんね。
はぁ~、楽しみだなぁ~! イベント!」
初めてのイベントで気分が高揚し、もはや待ちきれない様子の涼美。
どうでもいいことだが、彼女はいつも『カスタードとチョコレートが半分ずつ入ったパン』を、カスタードのほうから食べる派であった。




