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第26話 ギルドのあり方

 集団を率いる者というのは、持って生まれた素質や、才能に目覚めた者であることが望ましい。

 その点において、クラウディアは申しぶんのないリーダーだとリンも認めている。


 対するプロセルピナという女騎士は冷徹で、冗談の通じない相手に見えた。

 少なくともノルマを達成できなかったメンバーを追放し、それを正当化するなんて、リンには納得できない。

 同じミッドガルドを冒険するための集団なのに、リーダー次第で組織のありかたは大きく変わるのだ。


「まずは謝るわ。ウチの子が何を言ったのか、途中からしか聞いていないけれど」


「別に大したことではありませんわ。

 それより、クラウディア……わたくしの前から去っていったあなたが、自分のギルドを作るなんて。

 しかも――」


 そこで言葉を止め、プロセルピナはソニアとリンを交互に見る。

 ()しくも、この日のリンは探索用の軽装。

 いつもの高級な勝負服を着ていたら、また違った反応だったのかもしれないのだが。


「言いたいことは分かるわよ。

 ここにいる2人は、始めて半年も経っていない初心者。

 そして、ウチのメンバーは私を含めて6人。

 まだ立ち上げて3週間程度のギルドだけど、順調にやってるわ」


「たったの6人!?

 クラウディア……あなたほどの『マスター』が、どうしてそんな……!」


 先ほどからプロセルピナが何を言おうとしているのか、リンも何となく理解していた。

 クラウディアは名のしれた実力者だ。

 そんな彼女が作ったギルドだというのに、たった6人しかメンバーがいない上に2人が初心者。

 直接的な言葉にはしていないが、プロセルピナは見るからに不満げな視線を向けてくる。


 だが、しかし――そんな目を向けられても、クラウディアは静かに笑うだけだった。

 このギルドにはマスターがもう1人いて、さらにトップランカーも2人在籍していること。

 おまけに未知のアイテムである『竜の卵』まで発見していることも、一切伝えずにクスッと微笑む。


「私は私で楽しくやっているわ。

 前にも言ったように、あなたとは分かりあえない。

 それじゃ、失礼するわね。2人ともコテージに戻るわよ」


 久々の再会もそこそこに、クラウディアは(きびす)を返して別れを告げる。

 リンとソニアもそれに続き、コテージの中へと引き返したのだった。


「まったく、信じらんない! どういうことなの、あれ?」


 戻った3人がコテージのテーブルを囲んで座ったとき、すでに他のメンバーは全員出払っていた。

 リンは先ほどのうっぷんを晴らすかのように、荒々しい声を上げる。


「とりあえず、落ち着きなさい。気持ちは分かるわ」


「お姉さま……さっきの人と知り合いなんです?」


「ええ、私とプロセルピナは以前、同じギルドのメンバーだったのよ。

 そこのリーダーが引退して、所属していた人たちは解散。

 あの人が仲間と一緒に新しいギルドを立てたとき、私は(たもと)を分かつことになった」


「それって、やっぱり……気が合わないから?」


「そうね、ギルドにルールを(もう)けるのは私の主義じゃない。

 誰が偉いとか、どっちが上だとか、とにかく序列というのが苦手だし。

 何よりも――あいつがクソむかつくからよ」


「「え!?」」


 リンとソニアが同時に声を上げて目を向けると、クラウディアはニコニコと爽やかに笑いながら。

 しかし、明らかに沸騰寸前の怒りを抑えながら言葉を続ける。


「リンは実際に初心者だから、まだいいとしても!

 私の妹に対して、あの見下したような目は何なのよ!

 あいつは、いつもそう! 何かと理由をつけては人のことをバカにして……!」


「お、お、お姉さまが”どはつてん”なのです!」


「クラウディア、いったん落ち着こう!?」


 今にも爆発しそうな彼女をなだめ、煮えたぎる怒りを落ち着かせる2人。

 過去によほど嫌なことでもあったのか。

 それとも、妹を見下されたことが許せなかったのか。


 しばらくして平静を取り戻したクラウディアは、プロセルピナが立てたギルドについて語り始める。


「つまりは、私たちがかつて所属していたギルドを(もと)にして作られたのが【エルダーズ】。

 メンバーはシステム上で加入上限になっている30人。

 さっき29人に減ったみたいだけれど」


「29人!? そんな人数で毎月レアカードを集めてるの?」


「そういうことになるわ。このあたりでは、指折りで有力なギルドね。

 リンは納得できなかったみたいだけど……プロセルピナがやっていることは、決して悪ではないの。

 例えるなら”自分たちと違う正義が悪に見える”といったところかしら」


「正義って……あれが正しいだなんて、あたしは思いたくないよ」


「でも、プロセルピナたちは間違いなく――私たちと同じように”ゲームを楽しんでいる”のよ。

 月に1枚のレア入手をノルマにしてるなら、プレイヤー間の情報共有や協力も盛んなはず。

 先頭を走りたい人たちが高い水準の環境を求めるのは、ごく自然なことじゃない?」


「ですが……来月も、その次も、そのまた次もレアを集めなくちゃいけないなんて。

 そんな夏休みの宿題がずっと続くようなギルドにいたら、やっと手に入れた【オボロカヅチ】の価値も分からなくなりそうです」


 論するクラウディアに対し、リンとソニアはいまだに納得しかねていた。

 歳は同じはずなのだが、ゲーム歴の差が、そのまま経験の差になっている。

 『そういう人たちもいるのだ』と割り切ってしまうには、いささかリンたちは未熟すぎるのだ。


「ひとつ言えるのは、そうね……気に入らなければ距離を取ればいいということ。

 どのギルドに入るのかを選ぶ権利は、全てのプレイヤーが平等に持ってる。

 少なくとも、私はプロセルピナの誘いを断って自分のギルドを作った。

 それが私の正義だし、後悔もしていないわ」


 ハッキリと言うクラウディアに向かって、リンとソニアは迷うことなくうなずく。

 彼女もまた間違っていないことは、このギルドが与えてくれる楽しい日々が証明している。


「なんていうか、クラウディアのギルドに入ってよかったよ。

 ついさっきまで、何が正しいのかなんて全然考えてなかった。

 ううん……考えなくてもいいくらい、このギルドがあたしに合ってたんだね」


「わたしは偉大にして”りんれい”なるお姉さまに絶対的な服従を誓う猟犬!

 ですが、嫌なことは嫌だと感じる脳みそなのです。

 それでも今まで何ひとつ嫌なことなんてなかったのは、やっぱりお姉さまが宇宙最高のお方だからです!」


 それぞれの言葉で同意するメンバーたちの発言を、ギルドのリーダーは静かに受け止めていた。

 ルールなど決めなくても、各自が率先して欲しいカードを探しに行き、毎日のように夢中でログインしている。


 プロセルピナが効率と水準を求めた一方、クラウディアは自由を(むね)とした。

 どちらが正しいのかなど、所属するメンバーが決めれば良いのだ。


 と――そうして良い感じに話がまとまりそうになったとき、慌ただしい足音が響いてくる。

 勢いよくコテージのドアを開けて入ってきたのは、興奮しきったユウだった。


「来たぞ! 大型イベントの告知だ!

 詳しい話はまだ分かってないが、今度のイベントは――『ファイターズ・サバイバル』!」


「ファイターズ……サバイバル?」


 リンにとって初めてとなる公式大型イベント。

 それはラヴィアンローズの日本ワールドを揺るがす、大いなる波乱の幕開けであった――

第3章、完結となります!

次回からは、ついに大型イベント。1対1のデュエル大会に切り替わります。


3日ほどお休みを頂いて3章を手直しし、次の更新はリンの公式デビュー戦となる4章の幕開けです。お楽しみに!

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