第24話 うれしい報告
「さて、今日は月の変わり目だけど、何か報告したいことはあるかしら?」
リンがラヴィアンローズを始めてから1ヶ月半。
この日はガルド村のログハウスに6人のメンバー全員が集合していた。
クラウディアから報告があるかと聞かれて、真っ先に手を上げたのはソニアである。
「はっ! 自分より戦果報告であります!
皆さんが周回に協力してくださった結果、大空を羽ばたく【スカイグリード】が2枚!
そして、大渓谷の奥にひそむ三ツ星モンスターとも、ついに契約を成し遂げたのです!」
「「「「「おおーーーーーーーーーっ!!」」」」」
ギルドの拠点であるコテージの中に、拍手の音が満ちた。
月初めの定例報告会と称して、実際にはソニアのお祝いをする場になっている。
2週間前にサクヤとソニアが加わったときには、その突飛な性格から、一体どうなることかと思っていたのだが。
しかし、共に冒険したことで仲間としての意識が芽生え、ソニアは年上のメンバー全員から妹のように可愛がられていた。
「これが我が空軍の主力! 稲妻の化身【オボロカヅチ】のカードです!」
Cards―――――――――――――
【 オボロカヅチ 】
クラス:レア★★★ タイプ:飛行
攻撃1700/防御2500
効果:このユニットとバトルした瞬間、【タイプ:水棲】と【タイプ:飛行】のユニットは、ターン終了まで攻撃と防御が半分になる。
スタックバースト【朧雷鳴閃】:瞬間:このユニットは1回の攻撃宣言で、相手のユニット全てに攻撃できる。
――――――――――――――――――
ソニアが取り出して見せたカードの絵柄には、まさしく大渓谷の主が描かれていた。
稲妻を放ちながら4枚の翼を広げる姿は、★3レアモンスターの風格に相応しい迫力だ。
その貴重なカードをじっくりと眺め、ステラたちが口々に語りあう。
「へぇ~、かなり効果に修正が入るんですね」
「そらなぁ……野生のままやと、プレイヤーが使うには強すぎや。
ステータスをゼロにして行動不能なんて、こいつ1体で水棲と飛行を何でも倒せてしまうやん」
「でも、半分になるだけでも相当強いぞ。
水棲と飛行でこいつと正面からぶつかるのは厳しいだろうな」
カード化したことでステータスが3分の1になった他、効果にも修正が入った【オボロカヅチ】。
相手のタイプを限定するとはいえ、水棲ユニットは軒並み感電させられ、飛行ユニットも叩き落される。
色々な野生モンスターがいるミッドガルドにおいても、間違いなく今後の切り札になりうる1枚だ。
何より、戦力が乏しかった頃に比べて、ソニア自身が堂々と胸を張っている。
大きな躍進を果たした妹の姿にうなずき、クラウディアは静かに立ち上がった。
「ソニアがお世話になったわね。
一緒にいてくれたリン、そして、みんなにもお礼を言わせてもらうわ。
本当にありがとう」
「いや、あたしなんて、ほとんど見てただけだよ。
ソニアちゃん、自分でカードの使いかたを分かってたし」
「それでも、一番長くいてくれたのはリンでしょ。
正直なところ、他のメンバーにも驚かされてるわ。
このギルドを作ったのは、ミッドガルドを攻略するため。
でも、こうしてみんなが1つになっていくのを見ていると、これはこれでいいと思えてくるのよね」
他の5人を見渡しながら、クラウディア自身もうれしそうに語る。
かくいう彼女も、リンやステラの前に現れたときと比べると、かなり印象が変わった。
意外と優しく、面倒見が良い性格をしているのは、おそらく手のかかる妹がいたからだろう。
「ソニア、★3ユニットを手に入れた感じはどう?
あなたも自分のデッキに誇りを持つことができたかしら?」
「はっ! 誇りに満ち満ちてございます!
このソニア・シルフィード、これより空軍大隊を結成し、”くうぜんぜつご”なお姉さまの片翼として空を制する所存であります!」
「はぁ……やかましいのは相変わらずだけど。
でも、自分の道が見えただけでも十分よ。
少なくとも私の背中ではなく、私の隣に目が移ってくれただけで大きな成長だわ」
そんな姉妹の会話がありつつ、他のメンバーも成果があった者は報告する。
ここ2週間の行動は、それぞれ以下のような感じだった。
リン:渓谷と沼を周回。【渓谷チンチラ】3枚と、デッキの上限となる3枚目のスピノサウルスを入手。
ステラ:水晶洞窟の青いエリアにて、大コウモリ【デスモドゥス】の2枚目を入手。
ユウ:強力なモンスターを求めて森林地帯を探索中。
クラウディア:サクヤと共に水晶洞窟の赤いエリアを調査。
と――やはり、初心者であるリンとソニアの成長が著しい。
他のメンバーも自分が行きたいエリアを探索し、クラウディアたちは例の卵について調べていたようだ。
「私はサクヤに協力してもらいながら、竜の卵を拾えないか色々と試してみたけれど……
2週間かかっても、まったく成果がなかったわね」
「いろんなユニット連れてって、赤いエリアで【物資収集】させてみたけど、竜の卵はさっぱりや。
ま、クリスタルは儲かったけどな」
「2週間かけても拾えなかったの?
コボルドちゃん限定のアイテムってことはないよね?」
「もちろん、【タイニーコボルド】でも毎回試したわよ。
でも、拾ってくるのは鉱石や食材ばかり。
いったい、何が卵を拾う条件になってるのか、まったく分からないのよね。
道理で今まで知られてなかったはずだわ。水晶洞窟に行く人は、とても多いはずなのに」
ユニットをペットとして飼うため、多くのプレイヤーがクリスタルを求めて訪れる場所。
そんな洞窟にも関わらず、未知のものが発見されたのだ。
★5ではないとのことだが、広大なミッドガルドに隠されたものは、まだまだ残っているかもしれない。
「とりあえず、リン。
あなたのほうは一段落ついたみたいだし、竜の卵を孵してみましょう。
危険な火山へ行くことになるから、十分に準備をしておいて」
「おお~、アレを孵すんだね!
分かった、探索に必要なものを後で教えて」
「それもええんやけど、ミッドガルドのほうは少しばかりお休みになるかもしれへんな~。
もうすぐ大型イベントがあるっちゅー話やし」
「イベント!? もしかして、公式の?
あたし、まだ交換交流会にしか出たことがなくて……!」
「まあ、まあ、落ち着きーや。
まだ内容が分かっとらんから、それ次第やて」
「そうね。しばらくは各自で自由行動。
イベントの告知が来たら、どうするか決めましょう」
そうした話し合いを終え、月初めの定例報告会は解散となった。
リンはソニアと共にコテージから出て、ガルド村の様子を見ながら笑顔を向けあう。
「クラウディア、うれしそうだったね」
「はい! あんなに優しい顔をしたお姉さまは、こっちの世界で初めて見たのです!」
「空軍を作るなら、もっとたくさん飛行ユニットを捕まえて、あっと驚かせなきゃ。
今度は火山に行くって言ってたけど、空を飛ぶようなモンスター、いるのかな?」
「火山で空を飛ぶといえば……ドラゴン、とか」
「うわ~、ヤバそうだけど、ちょっと見てみたいかも」
「飛竜! 飛竜がいたら、是非とも我が軍に欲しいのです!」
盛り上がる2人の会話は、まるで修学旅行を前にした子供のようだ。
初心者同士、まだラヴィアンローズでは知らないことばかり。
この先のことを考えるだけで、楽しくてたまらないのだが――
「次はないと言ったでしょう!
どうして、ルールを守れないんですか?」
コテージが並ぶ村の通りに、怒気を帯びた女性の声が響く。
楽しい気分から一変、リンたちはラヴィアンローズが持つ、もうひとつの顔を見ることになるのだった。




