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第23話 レアモンスター周回

「あの子、最近ここを通らなくなったよな」


「平原なんて初心者向けの場所だからなぁ。

 あれだけ強いユニットがいれば、ガルド村に拠点を建てられるだろうし」


 ミッドガルドの入り口から伸びる街道で、数名のプレイヤーが語りあっていた。

 話題に登っているのは、このところ姿を見せていない例の少女。

 いわく、★4を2体も連れていた、凶悪なスピノサウルスを乱獲している、戦車に乗って通り過ぎていった等々。

 どれも尾ひれが付いたような話だが、実際に見たという者が絶えないため、あながち都市伝説ともいえなくなっている。


「少し前に沼のほうで見た人がいるらしいわよ。

 相変わらずスピノ狩りしてるみたい」


「やっぱ、スタックバースト狙いかな?

 ひたすら沼に通い続けるとか、よほどの恐竜好きかコレクターでもないとやらないだろ」


「恐竜の群れを倒すのが現実的じゃないってだけで、スピノを使えるようになったら強いからな」


 はるか遠くへ羨望の眼差しを向けるプレイヤーたち。

 ラヴィアンローズはカードゲームであるがゆえに、継続力が物を言う。


 少しずつカードを集め、決闘(デュエル)での立ち回りを身につけ、ポイントで買ったパックで当たりが出ることを祈り、ゲーム内のイベントや交換交流会にも参加し、ミッドガルドでユニットを手に入れて、ようやくユウのようなプレイヤーが出来上がる。

 ソニアが3ヶ月プレイしていても★3レアカードを1枚しか持っていないのは、決して珍しくはないどころか、このゲームではそれが普通。

 すさまじい勢いで成長しているリンは、もはやこの世界の特異点といえる存在だ。


 探検隊ギルド『鉄血の翼』に所属しているのは、イベントの上位ランカーしか手に入らない服を来ている者が2名。

 天に選ばれしマスターの称号を持つ者が2名。

 残りの2名はメンバーの血縁者。

 そんな化け物のような集団のため、ユウとソニアが本来の平均的なプレイヤーであることを忘れてしまいそうになる。


「俺も、せめてスピノくらい倒せるようになれば――ぬあぁあっ!?」


 いまだにミッドガルドの平原で頑張っているプレイヤーが、深く息をつきながら言葉を吐いた瞬間、それは起こった。


 世界を真っ白に塗り替えるかのような閃光。

 その光は赤く燃え盛りながら空に浮かんで弾け、数秒ほど遅れて爆風と衝撃波が平原まで到達する。

 すさまじい音と光に飲み込まれ、プレイヤーたちの間から一斉に悲鳴が上がった。


「うわああああああっ!」


「きゃああーーーーーっ!」


「な、何が起こった!?」


 やがて少しずつ爆風の勢いが収まり、平原に先ほどまでの落ち着きが戻っていく。

 が、しかし――空は急に夕方になったかのように赤く、プレイヤーたちは全員同じ方向を見上げて絶句していた。


 彼らの視線が向いているのは、林の奥に広がる沼地の方角。

 その上空に向かって地面から生えているのは、悪夢のような終末のオブジェ――真っ赤に燃え盛る巨大なキノコ雲であった。

 それが大気を赤銅(しゃくどう)色に染め上げ、林にいたオオカミなどの野生モンスターたちが、人間など目もくれずに平原へと逃げ出してくる。


「せ……世界の終わりだ……」


 自失呆然としながら、誰かが口にした言葉。

 それこそが的を射たコメントであるなどと、言った本人ですら気付くことはなかった。



 ■ ■ ■



 一方、その爆心地である沼地。

 プロジェクトカードの発動を終えた少女は、自動詠唱演出のモーションから解き放たれ、沼地での戦果を見やる。


 【全世界終末戦争エンド・オブ・ザ・ワールド】が過ぎ去った後の光景。

 終末をもたらした彼女の視界に入るものは、もはや沼ではなく、ほとんど干上がった死の大地であった。

 生きて動くような生命はリンたち以外になく、先ほどまでスピノサウルスだった光の残滓がキラキラと散っていく。


「ん~……気絶してくれなかったかぁ」


「こ、これが世界の終末……最強のプロジェクトカード!

 なんという威力! なんという悪逆! 水草1本すら残さぬ完全な破壊!」


 見学するためリンと共に来たソニアは、両手を握りしめながら興奮しきっている。

 このところ一緒にいることが多い2人は、リンのために沼へ、ソニアのために渓谷へと移動していた。


「いや~、キミが来てから、ほんと助かるよ!

 このカードと、すごく相性がいいもんね」


「チューッ!」


 リンが声をかけたのはソニアではなく、足元にいた耳の長いネズミのような哺乳類。

 渓谷で捕獲した★1ユニットだった。


Cards―――――――――――――

【 渓谷チンチラ 】

 クラス:コモン★ タイプ:動物

 攻撃200/防御200

 効果:このユニットはプロジェクトカードの効果を受けない。

 スタックバースト【緊急回避】:瞬間:このユニットが受けた攻撃を1回だけ無効化する。

――――――――――――――――――


 モフモフの毛に包まれた可愛げのある姿で、リンの周回効率を飛躍的に高めてくれている。

 自前の効果により、なんと全てを焼き払うような【全世界終末戦争エンド・オブ・ザ・ワールド】が効かない。


 しかも、スタックバーストで強敵の足止めもできるため、相手に先攻を取られても2回までは攻撃を無効化。

 これにより、タンク役である【アルテミス】の負担は大幅に減った。

 最初は女神たちを使って野生のスピノサウルスを倒し、リンクカードを破壊されて防御力が落ちてきたら、チンチラを壁にしつつ焼き払って一掃する。

 その戦法が確立した結果、1日に6体ほど狩ることが可能になっていた。


「この女神さまも、筆舌に尽くしがたいほど最高にかっこいいのです!」


「あたしにとって、すべてはここから始まったからね。

 ソニアちゃんも、きっとこういうカードに巡り会えるよ。頑張ろ!」


御意(ぎょい)!」


 グッと拳を握って答えるソニア。

 沼での狩りを終えた2人はガルド村まで戻り、デッキを組み直してから谷を飛んで越え、今度は摩天楼(スカイスクレイパー)渓谷(・キャニオン)へ。

 ここでリンはスピノサウルスとネレイスに水棲タッグを組ませ、ソニアの護衛をしながら探索を行う。


「今こそしもべとなりて 新たな姿へ転生せよ――

 【スカイグリード】、2回目の捕獲(インプリント)完了です!」


「おめでとう~!」


「おめでとうございます!」


 渓谷の大ワシを捕獲したソニアに、メンバーたちが拍手を送る。

 この日はギルドの拠点にいたステラとユウも来ており、4人で渓谷を探検することになった。


「空軍を作るとは考えたな~。

 俺も何か、そういうコンセプトがあるといいんだが」


「兄貴はケモノ使いじゃないの?」


「う~む、そうなんだけど、持ってるカードがいまいちバラバラでな」


「そりゃ、動物以外のユニットに浮気してたら……ねえ」


 言いながら、リンは兄が連れているユニットに目を向ける。

 それは彼が交換交流会で入手していた★3レアカード。


Cards―――――――――――――

【 バスタービートル 】

 クラス:レア★★★ タイプ:昆虫

 攻撃2200/防御1800

 効果:バトルしたとき、【タイプ:植物】のユニットに対して攻撃力が2倍になる。

 スタックバースト【グレートホーン】:瞬間:ターン終了まで、上記効果を全てのタイプに対して適用する。

――――――――――――――――――


 男子の憧れであるカブトムシ型の昆虫ユニット。

 立派な角を振りかざし、飛行ユニットではないが飛翔も可能になっている。

 なんといっても重厚な装甲に覆われた姿が魅力で、サムライのような無骨さに目を輝かせる男性や子どもたちは多いだろう。


「仕方ないだろ、カブトムシなんだぞ!

 コイツはもう、交流会で見た瞬間にゆずって欲しいと拝み倒したよ!

 ソニアちゃんだって、かっこいいと思うだろ?」


(しか)り! 神秘のボディーが光を放つ! 最高にかっこいいであります!」


「ソニアちゃんに振ったら、かっこいいって言うに決まってるでしょ。

 兄貴が使ってた例の真っ黒ビーストは、どうしたのよ?」


「アイツは……ほら、アレだよ。

 生贄を食わせてやらないと本領を発揮できないから、ミッドガルドは苦手みたいで」


「だからって、昆虫ユニットを連れてくる?

 ここ渓谷なんですけど。植物モンスターとか、あんまりいないんですけど」


「ちょっとくらいはいるだろ、ちょっとくらいの植物は!」


「ふふふ、相変わらず2人とも仲がいいですね」


「「どこが!?」」」


 笑いかけるステラの言葉に対し、同時に反論した真宮兄妹。

 普段は言いたいことを言いあい、ふとしたタイミングで息をぴったり合わせる2人。

 兄弟がいないステラや、姉こそが世界最高だと崇拝して疑わないソニアには、それが新鮮なやりとりに見える。


 そんな感じで渓谷の奥へと進み、双子滝の奥で【オボロカヅチ】と対決するソニア。

 彼女に捕獲させるため、他の3人は支援などを行いながら戦いを見守る。


「【シャーク・カノン】――撃て(ファイエル)!」


 一度倒してパターンを掴んでしまえば、★3ユニットを持たないソニアでも周回は可能だった。

 サメが放ったレーザー光線により、モンスターは光の粒子へと姿を変えていく。


「ああ……またダメでしたか」


「勝てるなら大丈夫、続けることが大事だよ」


「今の【オボロカヅチ】は、ここに1体しか出ないんですか?」


「そうみたい。スピノサウルスは群れで襲ってくるから危ないけど、たくさん倒せるっていうメリットもあるんだよね」


「アレがおかしいだけで、普通は1体しか湧かないことが多いんだ。

 ミッドガルドのレア周回は、とにかく根気との勝負だぞ。

 頑張ろうな、ソニアちゃん」


「はいっ! みなさん、本当にありがとうです!」


 明るい顔と声で返事をする10歳の少女。

 ギルドのメンバーに囲まれ、プレイヤーとして順調に育ちつつある。


 そんなソニアが、ついに初めての★3ユニットを手にしたのは、周回を始めて2週間後のことだった――

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