第22話 巫女さんと行く大渓谷の旅 その7
【 オボロカヅチ 】 残りHP:3700
攻撃5100/HP7500
【 ソニア 】 ライフ:800
キラージョー
攻撃1700/防御1500
生命は皆、必ず死を迎える。
決して逃れられぬ終焉を恐れ、不死を願って創造された伝説の数々。
たとえ死しても灰から蘇り、永遠を生き続けるフェニックスの物語は、多くの者が耳にしているだろう。
しかし、この仮想世界において炎から蘇ったのは、全身が金属で覆われた機械のサメ。
ソニアは左目から火の粉を散らし、再び【キラージョー】を自陣に従えた。
Cards―――――――――――――
【 リザレクション 】
クラス:レア★★★ カウンターカード
効果:自プレイヤーの所有ユニットが破棄された直後に使用可能。
対象のユニットを復活させ、再度フィールドに配置する。
これは通常の召喚行為に含まれず、このカードはプレイヤー1人につき1回しか対戦中に使えない。
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「ほぉ~、【リザレクション】とは、また渋いカードを使いよるなぁ」
「やられたユニットが生き返るなんて、すごいと思うけど……あれって渋いの?」
リンが問いかけると、サクヤは苦笑しながら両腕を組む。
それによって体の一部が圧迫されるため、女性でもつい目が行ってしまうのだが、リンは自重して先輩の言葉に集中する。
「このゲームはユニットが倒されにくいようになっとる。
防御を固めて守ったり、そもそも相手の攻撃をなかったことにしたり。
実際、ソニアちゃんも何回か搦め手で切り抜けとったやろ?
ユニットが倒された後のことを考えるより、どないな戦略で生き残らせるかを考えたほうが堅実なんや」
「なるほど……たしかにユニットが負けるっていうのは、滅多にないね」
「強いユニットになればなるほど、倒されるケースは限られてくる。
デッキで一番強い虎の子がやられてしもたら、その時点でプレイヤーは万策尽きとるわけや。
しかも、あの【リザレクション】。
効果と演出はド派手やけど、かなり重大な難点を抱えとってな……あのサメをよ~う見てみい」
「んん~~……?」
サクヤが言う難点とやらを探して、金属光沢で輝く【キラージョー】の姿を観察するリン。
だが、どう見ても完全な姿で再誕し、ステータスの数値を見ても減っている部分はない。
まさしく、フィールドから取り除かれたユニットを、もう一度召喚した直後のような――
「ああ~っ、分かった! 装備カードが消えちゃってるんだ!」
「正解なのです」
リンたちに振り向きながら、ソニアも会話に混ざる。
自分のターンを終えたためか、敵の【オボロカヅチ】が律儀に待っていてくれるのは、カードゲームの奇妙なところだ。
「わたしが使った【リザレクション】は、倒されたユニットを再召喚するカード。
つまり、召喚した直後の穢れなき姿に戻ってしまうので、リンクカードなどの強化効果は失われるのです」
「う、う~ん……生き返るっていうのは、すごいんだけどなぁ」
様々なカードゲームにおいて、倒されたユニットを蘇らせる効果のカードは高位のレアとされている。
しかし、ラヴィアンローズはユニットの強化に力を注ぐゲームだ。
選ばれし者だけが持つ★4の『マスター』であろうと、召喚したまま強化もせずに攻撃宣言することはない。
装備品となるリンクカードを付け、色々な効果を上乗せして、時には5000を超えるような数値で上から殴る。
そういう環境が主流のゲームで、何も強化されていない状態での復活というのは非常に苦しいのだ。
「せやけど、そのカードはソニアちゃんらしいと思うで。
やられたはずのユニットが復活して再登場! 生きとったんかワレェ!
みたいな展開、めっちゃかっこええやん」
「そう、かっこいいのです!
わたしがこのカードを手に入れて真っ先にお姉さまに見せたときも、こう言ってくださいました。
そのカードを決闘で活かすのもいいし、トレードで他のカードと交換してもいい。
どちらにせよ、初めて巡り会ったレアカードなら、よく考えて大切に使いなさいと」
「いいお姉ちゃんじゃない!
ウチのバカ兄貴なんて、あたしがワイバーン使うって言ったら、育つのにターンがかかるからとか、あーだこーだ偉そうに言っちゃってさ。
ほんと、クラウディアの爪の垢でも飲ませてやりたいよ!」
「いや、それはわたしが飲むのです」
「ほんま、お姉ちゃん好きすぎやなぁ。
ところで……あいつ、どないするん?」
「「あ……っ」」
リンとソニアは、ほったらかしになっていた【オボロカヅチ】へと向き直る。
全身に高圧電流をまとって対峙している相手は、残りHP3700。
唯一の★3レアを使って、かっこよく復活した【キラージョー】だが、強化効果は何もなし。
「実際のところ、かなりキツイです……このターンで倒さないと、次は耐えられません」
「ソニアちゃん。サメのスタックバースト、もう1回できる?」
「できるのですが、仕留めるには攻撃力が500足りていないです。
そして、恥ずかしながら我が手札には、それを解決する手段が――」
「手段なら、ここにあるよ。
ミッドガルドのルールは勉強してきたからね。
プロジェクトカード発動!」
Cards―――――――――――――
【 折れた剣の伝説 】
クラス:アンコモン★★ プロジェクトカード
効果:破棄されたリンクカード1枚を指定し、破棄される前に装備していたユニットへ再装着させる。
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リンがカードを発動させると、先ほどまで燃えていた地面が水に飲まれ、美しい湖を作り出す。
とある西洋の王が愛用していた剣を折ってしまった際、湖の精霊に直してもらったという伝説。
それを再現するかのように、水中から失われたはずの【側面防御用シュルツェン】が浮かび上がって、再びサメの体に装着された。
「よ~し、できた!
ユニット以外なら、ギルドの仲間が使ったカードを対象にできる!
みんなで洞窟探検して、勉強した甲斐があったよ~」
「リン殿……これは!」
「えへへ……ソニアちゃんは1人じゃないよ。
こうして力を貸したら、サクヤ先輩に怒られるかもしれないけど――
あたしたちは仲間だもん、困ったときには助けあってもいいと思う!」
「いやいや、力を貸したら怒るとか、それは誤解やわ~。
困っとる仲間を助けたらあかんなんて、一言もいうてへんよ?」
「は……?」
「うちが手ぇ出したらあかんやろな~て勝手に思うとるだけや。
慣れたもんが関わったら、勝てて当たり前になってまうやろ?
せやけど、初心者同士で助けおうて一緒に成長できるなら、それでええやん」
「ん、んん~~~……サクヤ先輩が言ってること、ちょっと分かんない」
「初心者が理解できて、たまるかっちゅーねん!
ま、いずれ2人にも分かるはずや、いずれな」
後方で腕を組みながら、相変わらず飄々とした物言いをするサクヤ。
実はゲームにおいて、ものすごく良いことを言っている先輩なのだが、始めて1ヶ月のリンには難しい言葉だった。
「リン殿、感謝の極みであります!
国士無双なお姉さまにとっての”めーゆー”であるならば、わたしにとっても”めーゆー”!
仲間の援護を受けたこの一手、絶対に外しはしません!
【キラージョー】、攻撃宣言! そして、スタックバースト発動!」
「ギキィイイイーーーーーッ!」
咆哮し、全身を砲塔へと変えていく機械のサメ。前のターンで見せた最大火力の再来。
もはや、ソニアに迷いはなかった。
左目の炎はとっくに消えていたが、胸に宿る闘志は燃え盛ったまま。
「知るがいい、このサメが2度咆えることを!
【シャーク・カノン】――撃て!」
リンが修復した【側面防御用シュルツェン】の効果が乗り、攻撃力は計3800。
戦いを終焉へと導く一撃が、瑠璃色のレーザー光線となって放たれる。
「オオオオオオーーーーー……ッ」
直撃した光線は実体が不確かな【オボロカヅチ】の中央を貫き、その姿を光の粒子へと変えていく。
それと同時に漂っていたドライアイスのような”もや”も消え、滝の奥にある岩場は静けさを取り戻していった。
「よぉおおお~し、我らの勝利なのです!」
「やったね、ソニアちゃん!
あ、さっきまで燃えてた目が元に戻ってるけど、大丈夫?」
「これは『属性ヲ開眼セシ者ノ左目』というカラーコンタクトのシリーズです。
わたしが【リザレクション】を自分のデッキに入れて使うと決めたとき、なけなしのポイントを注ぎ込んで買ったものでして」
「あれ? ってことは、それを付けてないと……」
「両方とも、世界に名高きシルフィード家の証である碧眼!
絶対無敵なお姉さまと同じ青なのです!」
そう言いながらポーズを取り、左目の装飾品を解除してみせるソニア。
現れた本当の左目は、たしかに右と同じ色をしていた。
「へぇ~、カラコンもあるんだね。
しかも、炎が出て燃えるなんて……」
「炎の赤だけではなく、いろいろな属性がありますよ!
リン殿もいかがですか、闇が宿りし紫などが似合いそうなのですが」
「あ~、それはステラに言ってあげて」
「せやな、あの子にぴったりや!」
片目に闇を宿した魔女。しかも、扱うユニットは例の宇宙怪獣たち。
あまりにも似合いすぎている姿を想像し、リンたちはひとしきり笑いあった。
「さて、今回は残念ながら★3は捕獲ならず。
せやけど、ここに来る方法も、どんなモンスターがおるかも分かったな?」
「うんっ! 本当にありがとう、サクヤ先輩!」
「絶対にあの【オボロカヅチ】を我が軍団に加えるのです!」
「そうと決まったら明日から周回や。
うちもヒマなときには、ついてきてやるさかいにな」
「え~、ついてくるだけじゃなくて手伝ってよ~!」
目標が定まり、リンとソニアのモチベーションも高まる。
結局、サクヤがどんなカードを使うのか1枚も見ることはなかったが、しっかりとアドバイスしてくれる良い先輩なのはたしかだ。
クラウディアが率いる『鉄血の翼』に加わった新メンバーの2人。
その両方と共に冒険したことで、リンはまたひとつ、仲間との絆が増えたことを実感したのだった。




