第19話 巫女さんと行く大渓谷の旅 その4
ミッドガルドの大自然の中、生息するモンスターたちには現実に基づいた生態データが組み込まれている。
水を飲み、草を食べ、肉食であれば獲物を襲う。
消化器官などはないので、食べたものは消えるだけだが、当然ながらプレイヤーやユニットたちも襲われる。
リンのワイバーンを狙って急降下してきたのは、子竜の2倍以上もある大きな猛禽類。
白と群青色の羽根に覆われたワシであった。
「キェエエーーーーーーーアッ!」
Enemy―――――――――――――
【 スカイグリード 】
クラス:アンコモン★★ タイプ:飛行
攻撃3200/HP3200
効果:このモンスターは【タイプ:昆虫】からのダメージを受けない。
スタックバースト【エアリアル・スラッシュ】:瞬間:ターン終了まで、攻撃力を2倍にする代わりにHPが半減する。
――――――――――――――――――
「★2アンコモンが空から!?
ワイバーンちゃん、カードに戻って!」
慌ててカードを取り出すリン。
少し離れた空中だったが、カードの効果は届くようで、【ブリード・ワイバーン】は無事に収納された。
岩場のチンチラも逃げてしまったようで、ワシの周囲には襲うべき小動物がいなくなる。
そうなると、次に狙うのは眼下の人間たちだ。
「こ、こっちに向かってくるのです!」
「大丈夫、スピノ親分に任せて!」
「いや、”アレ”もけっこうヤバいんちゃう?」
「へ……?」
サクヤに言われて視線を向けると、いつの間にか3体の大きなヤギが歩み寄ってきていた。
当然、牧場で飼われているような、おとなしい動物ではない。
Enemy―――――――――――――
【 アマルテア 】
クラス:アンコモン★★ タイプ:動物
攻撃1800/HP3800
効果:HPにダメージを受けたとき、自身のターン終了時まで同じ数値の攻撃力アップを得る。
スタックバースト【限りなき慈愛】:瞬間:任意のモンスターのHPを800回復させる。元の数値以上にはならない。
――――――――――――――――――
「うわ、つっよ! ★2モンスターが全部で4体!?」
「空襲はわたしが防ぎます!
リン殿はヤギをお願いするのです!」
「分かった! けど……大丈夫?」
レアリティ補正が掛かっている【スカイグリード】に比べれば、メカシャークは普通の★2アンコモンでしかない。
しかし、ソニア自身はやる気のようだ。
「ま、本人が言うたんやから、ここは信じて任しとき」
「そうだね……って、サクヤ先輩も手伝ってよぉ~!」
「そないな恐竜引き連れて、何言っとんのや。
全部、親分さんでシバけるやろ」
実際、野生モンスターたちは強いが、水神の加護を受けたスピノサウルスの相手ではない。
全部引き受けて蹴散らすこともできてしまうのだが、ソニアは鳥と戦うつもりのようだ。
「よし、あっちはソニアちゃんに任せよう!
スピノ親分は1ターンに1体ずつ確実に倒して!
このモンスターはダメージを受けると強くなるみたいだから、ネレイスちゃんは手を出さないでね」
「きゅい!」
指の間にヒレが付いた手を上げて応じるネレイス。
【アマルテア】は受けたダメージを攻撃力へと変換し、しかも、スタックバーストでもりもり回復していくという厄介な相手だ。
半端な攻撃ではHPを削りきれないまま強化させてしまい、手痛い反撃をくらうことになるだろう。
しかし、今のリンなら何の問題もない。
HPの回復などさせる前に、一撃で倒してしまえばいいだけだ。
「【パワード・スピノサウルス】、攻撃宣言!」
「グォオオオーーーーーーッ!!」
まるでクマが川のサケでも捕るかのように、巨大な腕で横殴りに攻撃するスピノサウルス。
それだけで、すでにオーバーキル。
1体のヤギが4300ダメージを受けて弾き飛ばされ、打ち上げ花火のように空中で粒子化して消えていった。
「いいよ~、親分! その調子で、どんどんいこう!」
と、このようにリンが暴虐の限りを尽くす一方で、ソニアは格上の相手に立ち向かっていく。
「【キラージョー】にリンクカードを装着!
【側面防御用シュルツェン】!」
Cards―――――――――――――
【 側面防御用シュルツェン 】
クラス:コモン★ リンクカード
効果:装備されているユニットに防御+300、【タイプ:機械】の場合は効果2倍。
――――――――――――――――――
本来は戦車の側面に取り付けられる装甲板。
通常の装備品としても使えるが、機械ユニットならば600もの防御増加を得られる。
タイプを限定するとはいえ、★1コモンとしては破格の数値だ。
それを装備したところで、【スカイグリード】とのバトルに入った。
相手は勢いをつけて空中から降下し、そのまま攻撃へと移行する。
「キエエェーーーーーアッ!」
「くっ、先攻を取られました……さすがに翼を持つ者は素早い。
【キラージョー】でガード!
カウンターカード発動、【ダメージコントロール】!」
Cards―――――――――――――
【 ダメージコントロール 】
クラス:アンコモン★★ カウンターカード
効果:バトル終了まで、自プレイヤーのユニット1体が受ける戦闘ダメージは半分になる。
このカードが発動してから2ターンの間、使用者はユニット以外のカードを使えなくなる。
――――――――――――――――――
かなりのデメリットを持つが、効果の高いカウンターカード。
突っ込んでくる飛行モンスターに対し、ソニアは手札を駆使して防御に徹した。
鋭い鉤爪が金属製のサメを引っかき、ガリガリと火花を発生させながら通り過ぎていく。
『鋼のクラウディア』に比べたら遠く及ばないし、そもそも持っているカードの質が違う。
それでも姉と同じシルフィードの名に恥じぬよう、ソニアは奮然と戦っていた。
「【キラージョー】、反撃なのです!」
「ギキィイイーーーーーッ!」
サメらしく噛み付くのかと思いきや、【キラージョー】は魚雷発射管から誘導魚雷を放つ。
水中ではないにも関わらず、魚雷は追尾ミサイルのごとく飛行モンスターを追いかけて直撃。
着弾の瞬間、ドンッと衝撃波を放ちながら魚雷が爆発したが、その煙の中から【スカイグリード】が飛び出して旋回する。
「さすがにタフですね……ここで【キジャク】に攻撃させても、どうにもならない。
ならば、ユニット召喚! 【分身デコイ】!」
Cards―――――――――――――
【 分身デコイ 】
クラス:コモン★ タイプ:機械
攻撃0/防御0
効果:このユニットは攻撃宣言できない。このユニットがバトルしたとき、貫通ダメージを無効化する。
スタックバースト【コンテージョン・トラップ】:瞬間:このユニットが受けているステータス変化を消去し、バトル相手に移し替える。
――――――――――――――――――
ソニアがそれを召喚した直後、【キラージョー】は2体に分身した。
片方は偽物のデコイであり、攻撃や防御などのステータスをまったく持たない。
ユニットの姿をコピーするという点では、ステラが愛用している【ダークネス・ゲンガー】と同じだが、こちらは完全に囮として使うタイプのようだ。
再び【スカイグリード】にターンが回り、相手は魚雷へのお返しとばかりに突っ込んでくる。
しかし、機械のサメは2体に増えていて、動きもリアルでまったく違いが分からない。
ワシは強靭な鉤爪で敵を引き裂いたが、それはビリビリと布のように破れて消えていく。
「ふふふ、これがわたし! ソニア・シルフィードの戦略!
【キラージョー】、とどめです!」
マントをはためかせ、司令を出しながら腕を振り払うソニア。
再びサメから魚雷が放たれ、ワシを追尾して決定打となるダメージを与える。
空中で爆発が起こり、球状の黒煙が広がる空をバックに、ソニアは『フッ』と余裕の表情でポーズを決めた。
「ソニアちゃーん、後ろ、後ろー。倒した鳥が気絶しとるでー」
「ええっ? 本当でありますか!?」
どうやら、今回はサクヤの冗談ではないらしい。
慌ててソニアが振り返ると、空中で濛々と立ち込める黒煙の中から、力を失った【スカイグリード】がゆっくりと落ちてきた。
「あ、あわわわわわわ、ブランクカード!
け……契約……契約のときの秘文は……!」
「お、落ち着いて、ソニアちゃん!
……って、何見てるの? メモ?」
「たぶんネタ帳やな。かっこよさげな言葉が書き込んである感じの」
「あ~、ウチの兄貴も作ってたわ、それ……」
いかにも年頃の少年少女が作りそうなアイテム、『中二ワード手帳』。
契約時のセリフを確認したソニアは、何事もなかったかのようにブランクカードを取り出して詠唱する。
「我と汝の盟約において ここに漆黒のカードをかざす
虚ろなる世界の住人よ 我に従い 我と共にあらんと欲するならば
今こそしもべとなりて 新たな姿へ転生せよ」
唱え終えたソニアがブランクカードを発動させると、消えかけていたモンスターが粒子と化して吸い込まれる。
そして、新規作成されたカードの絵柄には、彼女が倒した猛禽の姿が描かれていた。
「【スカイグリード】、捕獲完了なのです!」
「おめでとう~! やったね、ソニアちゃん!」
「やりました! 初めて自分の力で手に入れた二ツ星なのです!」
「1体倒しただけで★2を捕獲するなんて、運がええな~。
連れてきた甲斐があって、よかったわ~」
自分だけの力でバトルに勝ち、新たな力を手に入れたソニア。
ミッドガルドの挑戦者なら誰もが通る道だが、幼い少女にとっては非常に大きな一歩であった。




