第6話 運命の1枚
カードゲームを長く続け、実力を身に着けたプレイヤーに体験談を語ってもらうと、高い確率でこんな話が聞ける。
それは、彼らが初めて引いたレアカードの思い出話だ。
よく知らないゲームだったけど、やってみたら良いレアを引けたので、そのまま続けることにした。
最初に引いたレアが気に入ったので、プレイし続けていたら古参になっていた。
そういう『きっかけ』はカードに限らず、ソーシャルゲームなどでも起こりうる。
たった1枚のレアカード。
それがプレイヤーにとっての特異点となり、その人の運命や、手に入れた後の人生を変えてしまうことも珍しくはない。
真宮涼美にとって――今がそのときだった。
「我が名は月の女神アルテミス。運命の導きに従い、あなたを我が主と認めます」
「えぇ……あう、あわわわ、うぇええええっ!?」
「あなたが遥かなる頂、天にも届く高みに至らんと欲するならば――手に取るのです。この力を」
見ているだけで胸がいっぱいになりそうなほど、美貌に恵まれた銀髪の女神。
彼女はサイバーなデザインの武装を身にまとって空中に浮かび、淡く輝く目で契約者を見つめていた。
何が何だか分からないまま、リンは恐る恐る目の前に手を伸ばす。
それで契約が完了したのだろうか。
女神は光の粒子へと変わって姿を消し、リンが伸ばした手の中で1枚のカードになった。
Cards―――――――――――――
【 月機武神アルテミス 】
クラス:スーパーレア★★★★ タイプ:神
攻撃2600/防御2600
効果:リンクカードを何枚でも装備できる。
スタックバースト【超次元射撃】:永続:装備されているリンクカードを1枚破棄するたびに攻撃宣言を追加で1回行う。
――――――――――――――――――
「月機武神……アルテミス……」
所有者となったリンはカードを手の中に収め、そこに書かれているユニットの名を呼ぶ。
光り輝く女神はカードの絵柄へと姿を変え、満月を背にしながら勇ましく弓を構えていた。
「な……な……な……」
やがて、隣から聞こえてきた震えるような兄の声。
いきなり行われたド派手な演出に驚き、リンと同時にひっくり返っていたユウもようやく言葉を取り戻す。
「なんてことをしやがったぁああーーーー!!」
「ええっ!? ちょっ、何?
ほんと、何なの、これ!?」
「何なのじゃねえよ!
スーパーレアだよ、めちゃくちゃすごいレアカード!」
「は……? すごいレアカードって……★4つだし。
まだ上にウルトラとレジェンドがあるんでしょ?」
「ああ~、ええっと、どこから説明すりゃいいのかな。
とりあえず、そのカードがどのくらいすごいのかっていうと……
ほら、周りを見てみろ」
「え……ええええ~~~~っ!?」
あまりのことで気付かなかったが、兄妹は大勢の通行人に囲まれていた。
いきなり光の柱が天を貫いたのだから、人目につくのは当然。今や2人は注目の的である。
「パンパカパーン! おめでとうなのだ~!」
そして、聞き覚えのある声と共に現れたのは、このワールドのマスコットであるコンタロー。
赤いスカーフを首に巻いたキツネのキャラクターが、お祝いのために駆けつけた。
「キミは、この日本ワールドで1628枚目のスーパーレアを引いたのだ!」
「は……はあ……1628枚目」
「とっても貴重なカードだけど、運営のほうで個別登録とセキュリティーガードをするから、安心して使ってほしいのだ。
もし、紛失したり、今のアカウントに入れなくなったりしたら、運営窓口に相談なのだ!」
「わ、分かりました……」
「そして、そのカードを持っている限り、キミは『マスター』の称号を名乗ることができるのだ。
それでは、改めまして――」
どこからともなく、コンタローはパーティー用のクラッカーを取り出し、リンの頭上に向かってパァンと放つ。
「スーパーレア、おめでとうなのだ~!」
「おめでとう!」
「おめでとう、マスター!」
「初心者ローブ着てる女の子がマスターか」
「やっぱり、ビギナーズラックってあるもんだなぁ」
コンタローの後に続くかのように、集まったギャラリーから拍手と祝福の言葉が贈られる。
あまりにも現実離れした出来事の連続で、リンはただ自失呆然とするしかなかった。