第16話 巫女さんと行く大渓谷の旅 その1
13話、15話のソニアのセリフを編集しました。
かなり中二な感じが強くなっています。
その他、ユニットの【タイプ】を改変しましたので、詳しくは活動記録を御覧ください。
ハンググライダーとは、三角形の凧のような飛行物。
通常は両翼を広げると10mほどになり、人の体を水平にぶら下げるためのベルトなどが付いている。
が……しかし、この世界のグライダーは半分以下のサイズしかない。
ほんの3~4m程度の翼で、しかも人間が掴まる三角形の取っ手があるだけ。
サクヤはグライダーを3つ用意してきたようで、1つずつリンたちに贈り物で渡してくれた。
「ああ、大気よ!
このような、か弱き翼で舞うことになろうとは……!」
「いうてもソニアちゃんは、うちらの中で一番ちっさいから浮かびやすいやろ」
「いや~、そういう問題かなぁ?
人間の手で掴んで飛ぶってのが、ほんと怖いよ……」
グライダーは大きな鳥を模した形をしていて、ちょうど鳥の足がある位置に両手で掴まり、自力でぶら下がるようになっている。
ベルトや命綱などはなく、使用者の両手だけで飛行物に掴まるという恐ろしい仕様だ。
「当然、リアルの世界やったら無理やな。
腕がしびれておっこちるし、こないな翼では人間なんて浮かばれへん。
せやけど、ここは天下のVR! 快適なお空の散歩ができるんやで~」
サクヤは笑顔でそう言うが、リンとソニアにとっては無茶振りの極み。
バンジージャンプですら安全を考慮されているというのに、こんな小さな翼に掴まって谷へダイブするのだ。
どうにかならないものかと考えたリンは、ユニットを1体召喚することにした。
「出ておいで! 【ブリード・ワイバーン】!」
「ピヤァ~!」
「おお~、小さき翼の竜! 我が碧眼をも魅了せし姿!」
悩んだ末にリンが連れてきたのは、高所も探索できそうなワイバーン。
小さいながらも飛竜がはばたく姿に、ソニアは目を輝かせた。
「あたしが初めてペットにしたワイバーンちゃん、可愛いでしょ?
せっかくだし、一緒に飛んだら怖さも紛れるかな~と思って」
「なるほど! ならば、わたしも――」
言いながらカードを手にしたソニアは、顔の前を通すように腕を動かし、独自のかっこいいスタイルで詠唱する。
リンから見ても、それは兄よりはるかに完成度が高い決めポーズだった。
「光よ 闇よ 真理よ 栄光よ
虚ろなる世界の盟約に従い 今こそ封印より解き放たん
ユニット召喚――いでよ、【キジャク】!」
Cards―――――――――――――
【 キジャク 】
クラス:コモン★ タイプ:飛行
攻撃200/防御200
効果:このユニットがプロジェクトカードの効果を受けたとき、プロジェクトの効果終了時まで防御+200。
スタックバースト【天啓】:永続:所有プレイヤーがドローしたときに効果を使用可能。引いたカードをデッキに戻してシャッフルし、再び同数のカードを引く。
――――――――――――――――――
「ギィギィ、キキキキ!」
現れたのはカラスに白い羽根を混ぜたような1mほどの鳥。
ソニアがスッと腕を伸ばすと、鳥はその上に降り立って翼を閉じた。
小学生ながら一連の動作は完璧。ユニットとも見事に息が合っている。
「おお~、すごいね!
鳥もソニアちゃんも、かっこいい!」
「そ、それほどでもないのです……」
「今の呪文、もしかして自前なん?
演出アイテムを使うとるようには見えへんかったけど」
「はっ、自前であります!
恥ずかしながら、我がデッキに勇猛を語る配下は少なく――
つまりは力不足なので、せめて召喚ポーズだけでも立派になろうと練習し続けて……
気付けば、月が三度も巡ってしまいました」
「いや~、すごいよ……やるならここまでやれってんだ、バカ兄貴」
中二病も極めれば本物になる。
その可能性を見せつけたのは、わずか10歳の小学生であった。
これに比べたら、兄の中二などファッションだ。本気度が違う。
「それにしても、【キジャク】――カササギとは、また渋いユニットやな」
「我が至上にして究極なるお姉さまが勧めてくれたのです。
この子がいれば、ドローの保険になるからと」
「うん、分かる!
ここ一番っていうときには、強いカードを引きたいもんね」
「スキルが優秀な代わりに戦いは苦手で、ミッドガルドでは完全に探索専門……
ですが、こう見えても聡明なる頭脳の持ち主。
世界に隠されしアーティファクトを見つけてくれるはずです」
ソニアが目を向けると、【キジャク】は応じるようにギィと鳴く。
カササギと名がついているが水鳥ではなく、実際にはカラスの仲間。
東洋では喜鵲と呼ばれることもあり、古来より縁起の良い鳥とされてきた。
「そんじゃ、一緒に飛ぶ子たちを出したことやし、思いっきりダイブしてみよか!
やりかたは簡単、グライダーを掴んで飛び降りるだけ。
ウチが先に行くさかい、見失わんようについてくるんやで」
サクヤは自分のグライダーを手に取ると、躊躇うことなく谷に向かってダイブする。
リンたちはゾッとしたが、不思議なことに小さなグライダーは人間の重さに耐え、気流に乗ってサクヤを空中に浮かせた。
「あ……あたしたちも行こう! いち、にの、さんで飛ぶよ!」
「はっ! ですが、わたしは応仁の乱で飛びたいと思います」
「え? まあ、いいや……いち にの さん!」
「おう にんの らん!」
それぞれにユニットを従え、リンとソニアは同時に飛んだ。
視界いっぱいに底が見えない深淵が広がり、あやうくパニックを起こしかけたが――
「ピャーッ、ピャーウ!」
しっかりとはばたいて隣を飛ぶワイバーンの姿が、恐怖を大幅に和らげてくれた。
今のリンたちは人工の鳥にぶら下がるような状態で、谷の真上を滑空している。
「へぇ~、おかしな感じ……ぶら下がってるのに、あんまり腕が疲れない。
って、わわわわわ、服がめくれる~~~っ!」
リンは探索用の軽装に着替えていたが、空中を吹く風はかなり強い。
着ていたシャツが肋骨のあたりまでめくれて、お腹が丸見え。
ソニアのほうからも、慌ただしい声が聞こえてきた。
「あああ~~~っ、我が漆黒の翼が!
マントがバサバサして、後ろに引っ張られるぅうう~~~っ!」
「なんや、しっかりついてきたみたいやけど、えらい騒ぎやな」
「そういうサクヤ先輩だって、袴が短いから大変なことになってるよ!」
「や~ん、どこ見とんのや! えっち~!」
3人とも、滑空するには問題のある服装だった。
先導するサクヤの袴がヒラヒラしているのは非常に気になるが、ここには女性しかいないので見なかったことにする。
そんな騒ぎの間もグライダーは風に乗って進み、一行を谷の向こう側へと運んでいく。
リンたちの目に映る景色も、真っ黒に裂けた不気味な谷から、少しずつ明るい大地へと変わっていった。
やがて、前方に立ち並ぶ高層ビルのような影。
それらは人工建造物ではなく、そのひとつひとつが切り立った巨大な岩。
大小の滝が流れ落ち、豊かな水で満たされた広大な渓谷に、自然が作り出した岩の塔がいくつもそびえ立つ。
「見えてきたで! あれが今日の目的地、摩天楼渓谷や!」
「うわぁ~……っ」
絶景も絶景。美しい滝が流れる大渓谷を、空中から眺めるという至上の贅沢。
そして、雄大な景色の中を一緒に飛んでいるのは、お気に入りのワイバーン。
「最っ高の眺めだね、ワイバーンちゃん!」
「ピャァ~!」
サクヤの誘導により、高所にある広めの岩場に着陸する3人。
着くまでの間は優雅な空の旅。
そして無事に着いてからも、リンとソニアは興奮しっぱなしだった。
「どや! ええ場所に案内するって言うたやろ?」
「ホントにすごいよ、サクヤ先輩!
これがゲームの世界とか、マジで信じらんない……
みんなで写真撮ろう、写真!」
「それは名案です! お姉さまにも送らないと!」
どこを撮っても最高の1枚になる大自然の中、リンたちは気が済むまで何枚も撮影しまくった。
ひとしきり記念撮影を終えたところで、ようやくここに来た目的を進める。
「さて、今日は渓谷の探索と、ここにおるモンスターの捕獲や。
みんな、ブランクカードと採集道具は持っとるな?」
「「は~~~い!」」
「まったく、遠足かいな。
とりあえず説明するけど、ここには空を飛ぶ以外のルートで来られへん。まさに陸の孤島や。
帰る手段もないから、戻りたいときはミッドガルド自体から出ることになる。
来る方法は憶えたやろけど、忘れ物しても取りに帰れんから注意しとき」
「いっそ、ガルド村じゃなくて、ここにコテージを建てて住みたいよね」
「然り! キャンプみたいで楽しそうなのです!」
「ここで一晩過ごして、VRお泊りもええな。
まあ、今日のところは探索や。準備ができたら出発するで!」
「「は~~~い!」」
今日は落ち着いた雰囲気のメンバーがいないため、3人のテンションは上がりっぱなしである。
そうして、リンとソニアにとって新しい土地での探索が始まったのだった。




