第11話 ダンジョンにクリスタルを求めて その8
「お……おおおおお~~~~っ!!
すげえ~~~~~っ!!」
「やりましたね、リン!」
「これが最強のプロジェクトカード……!
決闘で使われたら、流れがひっくり返りそうね」
たった1枚のカードで★3モンスターの群れが消滅。
ドレイクたちが消え去った後、そこに立つ者はリンのみであった。
3人が駆け寄ると、カードを発動させた本人は居眠りでもしていたかのように、ハッと自我を取り戻す。
「ふぇっ!? あ、あたし……
自分の意志と関係なく動いたり、呪文を唱えたりしてたんですけど!」
「そういう演出効果もあるんです。
この体は私たち自身であっても、実体じゃありませんからね」
「じゃあ、今みたいに勝手に動くこともあるの? 怖っ!」
「嫌なら演出をOFFにすればいいじゃねーか。
まったく、あんなにかっこよかったのに、しまらねえなぁ」
「ま、こっちのほうがリンらしいわね」
助けあってピンチを乗り越え、笑顔を交わす仲間たち。
コウモリ戦に続いて、より一層お互いの絆が深まったのは間違いない。
勝利によって得た報酬も大量だった。
★3モンスターを9体も倒したことで、リンの手元に複数の戦利品が回収される。
「あああ~~~っ、赤いクリスタルもある!」
「ドロップで出たのか! やったな!」
成果は赤いクリスタル1個、青いクリスタル2個、緑のクリスタル4個。
そして、カードが1枚だけ入った『ワンカードパック』5袋。
冒険を始めたばかりの初心者には、十分すぎるほどの大収穫だ。
「これ全部、あたしがもらっちゃっていいの?
みんなで協力して倒したのに」
「私は構いませんよ。結局はリンが倒したモンスターですし」
「同じく異論はないわ。今回はリンを強化するのが最優先。
その目的は達成できたといえるわね。
攻略の鍵になりそうなカードも見られたことだし」
「ま、アレを使わなきゃ勝てないだろうな。ネームドには」
「そうね、今後ネームドと戦うために……ああっ、しまった!」
ハッと何かに気付くクラウディア。
彼女はドローンを使って索敵し、このエリアを徘徊するネームドモンスターの位置を把握していた。
ところが、先ほどリンが無差別殲滅カードを使ったため、巻き込まれないように離脱させたのだ。
「ユニット召喚! 【EMPドローン】!」
クラウディアは慌ててドローンを再召喚し、すぐさまネームドの位置を把握する。
が、その結果を伝える前にズンッと――
なんとなく身に覚えがある地響きを、全員が感じることになった。
「みんな、ごめん……遅かったみたい」
「クラウディア? 遅かったって……まさか!」
「おい! やべえ、やべえぞ~~~~!!」
ズンッ、ズンッと急速に大きくなっていく音と揺れ。
やがて巨大な剣のように突き出た赤いクリスタルの塊が、トンネルの奥から伸びてきた。
続いて明らかになる竜の頭と上半身。はるか先にあるはずだが、その様子をハッキリと視認できる。
水晶洞窟の頂点に君臨するネームドモンスター【赤晶巨竜”ズユューナク”】。
何もかもが馬鹿げているほど桁違い。
推定するしかないが、全長およそ60m。もはや竜というより怪獣である。
その巨体に比べたら【スカーレット・ドレイク】など子供どころか、卵から孵ったばかりの赤ん坊だ。
見た目はドレイクと同じく翼のない4本足。
体の各所に真紅のクリスタルが突き出ており、特に鼻先のものは剣のように鋭く大きい。
【ズユューナク】は卵を盗まれようと、ドレイクが倒されようと、まったく意に介さず歩くのみ。
その一歩が途方もなく大きいため、ただ前に進んでいるだけなのに、あっという間に距離を詰めてくる。
「た、退避! 全員、横穴に退避ーっ!」
「やっぱ、あんなもの倒すなんて無理かも~~~っ!!」
人間と出会った小動物がそうするように、全力で横穴の中へと逃げ込む4人。
たった1回の攻撃で90000ダメージを叩き出す巨竜と戦うには、作戦もカードも足りていなかった。
■ ■ ■
そうして命からがら帰還し、洞窟探検を終えた翌日――
リンのマイルームにはペットが増え、かなり賑やかになっていた。
元々は飛竜の子供である【ブリード・ワイバーン】や南国の鳥【トロピカルバード】が暮らしていた小さな島。
砂浜では人型の植物【アルルーナ】が静かに日光を浴び、元気な【タイニーコボルド】が走り回る。
そんな微笑ましい光景の中、島を囲む海中から姿を現したのは、全長15mの巨体を誇る【パワード・スピノサウルス】。
Tips――――――――――――――
【 パワード・スピノサウルス 】
1億年前の白亜紀末期に生息していた超大型恐竜、スピノサウルスの強化個体。
かつてはマイナーであったが、近年になって研究が進み、一躍人気を得るようになった。
その全身図や生態など、いまだに謎が多く残されている。
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リンが持ち帰った赤いクリスタルから生み出され、水平線まで広がる海を悠々と泳ぐ太古の恐竜。
他のユニットを襲うようなことはなく、その背中には魚人の少女【ネレイス】が乗って遊んでいた。
島の陸地に建てられたログハウスでは、角の生えたウサギ【アルミラージ】が果物をかじっている。
これは青いクリスタルからペット化したものだ。
Tips――――――――――――――
【 アルミラージ 】
とある島の伝承に名が残っている角の生えたウサギ。
家畜を襲って食べるなど、非常に獰猛で危険な肉食生物。
ラヴィアンローズにおいては草食性だが、縄張りに踏み込んできた相手には容赦しない。
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「いや~、ほんとウチの子たちも増えたね~」
「ユニットの動物園みたいになってきたな。
俺もあまり人のことは言えないんだが」
「そういえば、兄貴ってどんなルームを作ったの?」
「ただの趣味部屋だ。
好きなユニットとか家具を並べてるだけで、あんまり整理できてないんだよなぁ」
ログハウスに集まっているのは、いつもの4人。
そして、彼らが囲むテーブルの上には例の大きな卵が置いてあった。
さっそくクラウディアが情報を集めてきたらしく、いくつかの資料を見せながら説明を進める。
「卵について調べたんだけど、以前は旧式の水晶洞窟に置かれていたみたいね」
「旧式の、ですか……そういえば、ミッドガルドの数カ所で大きなアップデートがあったそうです」
「俺も聞いたことがある。
ペットシステムが実装されたとき、かなり大がかりなテコ入れがあったらしい。
新機能の【物資収集】と、それを使って拾えるようになったアイテム、ペットの餌になるような食物。
そういったものを実装するついでに、一部の地形やダンジョンに変更があった」
それぞれの知識を語るプレイヤーたち。
こうして真面目な会議が始まると、新参者のリンは『ほえ~……』と聞いていることしかできない。
物寂しさから床にいた【アルミラージ】を抱き上げ、鋭い角に気を付けながら可愛がる。
「ペットシステムの導入に伴うアップデートが入るまで、この卵は水晶洞窟の赤いエリアに配置してあった。
興味本位で触って持ち帰ろうとすると、大量のドレイクに囲まれてゲームオーバー。
いわゆるデストラップね」
クラウディアの調査報告によると、洞窟の最下層である赤のエリアには『赤晶竜の巣』があったという。
そこには卵が配置してあり、うっかり手を出したが最後、ドレイクに襲われてミッドガルドの外へ放り出されるという仕掛けだった。
しかも、ドレイクに負けて外へ出ると、竜の卵だけは所持アイテムの中から消えてしまう。
”生きて洞窟の出入り口を通る”という条件をクリアしない限りは持ち出すことができず、そのためにはドレイクの群れを倒さなければならない。
「卵泥棒に挑戦した人たちもいたみたいだけど、なにしろ場所が場所。
わざわざ洞窟の最深部まで行って負けるような危険を犯すなんて、よほどの野心がないと無理。
挑んだとしても、大抵はドレイクに囲まれて瞬殺ね」
「洞窟の奥から一瞬で帰るために、わざとライフをゼロにする人もいますけど」
「それなら、【ズユューナク】にでも突っ込んでいったほうが早いんだよな」
「そもそも竜の巣があること自体、知らなかった人が多いみたいね。
私も見落としていた情報だったわ」
「私も知りませんでした。
水晶洞窟は人気が高い場所ですけど、みんなの目的はペットクリスタルですから」
「俺なんて、このゲームを始めてなかった時期の話だ。
アップデート前のことを知ってる人は、よほどミッドガルドをやり込んだ古参だと思うぞ」
「キュッ」
そこまで話しあったところで、リンが抱えていたウサギが高い声で鳴いた。
3人は一旦落ち着き、それぞれの飲み物を口にして情報をまとめる。
「リン、退屈させたところで悪い知らせだけど。
残念ながら、この卵は★5じゃないらしいわ。
どうにか卵を持ち帰った人の記録によると、変わった感じのドレイクが生まれるみたい」
「ドレイクが生まれるの!?
それって、カードにできるのかな?」
「そこまでは分からないわね……
持ち帰った成功例が少なすぎて、ほとんど情報が出回ってないの。
さらにアップデートで『赤晶竜の巣』が撤去されて、卵は入手不可になったと思われていたから、よほどの古参じゃなければ存在を知らない。
これはもう、都市伝説を拾ってきたようなものよ」
「都市伝説……」
★5ではないが、これも幻と言っていいほどのレアアイテム。
ペットが【物資収集】で竜の卵を拾ってくることも知られておらず、どんなユニットが、どういった条件で拾ってくるのかも不明。
現状では、おそらくここにしかない貴重品だ。
「じゃあ、孵してみようよ! この卵!」
「それも面白そうなのですが……
問題は『マグマ岩』で温めると書いてあることですね。
文字どおり、危険な溶岩地帯にあるアイテムです」
「ただでさえヤバい火山の、一番ヤバい溶岩地帯だ。
水晶の洞窟とは次元が違う難所だぞ」
「まあ、結果的に★5が手に入るなら、竜の巣だろうと火山だろうと行くけれど。
これについてはネームドモンスターと同じよ。
焦らず、仲間や戦略が整ってからにしましょう」
「あ、それについてなんですが!」
話がまとまりそうになったところで、ステラは満面の笑みでメンバーたちに報告する。
「このギルドに私の知り合いが来てくれることになりました」




