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第10話 ダンジョンにクリスタルを求めて その7

「あるよ! たしかに、ここが使いどころだけど……

 攻撃力7200の『目標』を指定しないと、このドレイクたちは倒せない」


 今回は初めての洞窟探検。

 何が起こるか分からないため、リンは単純なアルテミス要塞化戦略だけではなく、いつもとは違うカードをデッキに仕込んでいた。

 そのうちの1枚が、例の★3レア最強と呼ばれるプロジェクトカード。


 ただし、ドレイクを一掃するためには、そのHPと同数の7200を叩き出さなければならない。

 2ターン後にはドローンの妨害効果が切れ、再び【アルテミス】のステータスが下限まで引き落とされてしまうからだ。

 さらに、リンにとっては非常に大きな問題が残っている。


「アレを使えば【アルテミス】と、クラウディアのドローンも吹き飛ばされちゃうよね。

 だから、こっちのユニットを全部離脱させた上で発動させなきゃダメ。

 そうなると、ドレイクの攻撃力を高めてぶつけるしか――」


「そんな状態なのに自分が生き残ることよりも、ユニットを巻き込まないことを優先させるの?

 リンには犠牲を出す覚悟というか、冷酷さが足りないわね」


「そんなもの、いらない!

 あたしは楽しむために、このゲームをやってるんだから」


 クラウディアに何と言われようと、リンは自分のユニットを犠牲にしてまで勝つつもりはなかった。

 それはカードゲームのプレイヤーとして致命的な甘え。

 俗に言う『縛り』になってしまうのだが、理由もなく範囲殲滅に自分のユニットを巻き込んでしまえば、以降もそうするのが当たり前になる。

 リンは自分の感覚がゲームに飲み込まれ、麻痺してしまうことを何よりも恐れていた。


「まあ……そういうプレイヤーも私は嫌いじゃないけれど。

 今の状態から、どうやって想いを実現させられるのかしら?」


「うぅ……えっと……それは……」


 ミッドガルドに持ち込めるカードは15枚。

 コボルドと女神で2枚、装備品が10枚。

 よって、まだ使っていないカードは3枚。しかも、1枚は回復用のポーション。


 ドレイクの攻撃力を7200まで高める手段など、最初から持ってきていなかったのだ。

 が、しかし――


「ククククク……わーーーっはっはっはっ!!」


「なに笑ってんの、バカ兄貴?」


「バカなのはお前のほうだ、愚妹よ!

 クラウディアの言葉の意味を、まだ理解できないようだな。

 どれだけいいカードを持っていようと、1人のプレイヤーができることには限界がある。

 それなら、こうすればいいだけだ!」


 ハイテンションに笑うユウは高校生だが、完全に『中学2年生』のスイッチが入っていた。

 おかしなポーズを取りながらカードを手に取り、広範囲プロジェクトを発動させる。


「重力の渦に飲まれよ! 【グラビティ・フィールド】!」


Cards―――――――――――――

【 グラビティ・フィールド 】

 クラス:コモン★ プロジェクトカード

 効果:ターン終了まで、全てのユニットに防御力-200。ゼロ以下にはならない。

――――――――――――――――――


 それが発動した瞬間、薄い闇が周囲に広がり、全てのユニットとモンスターを重力で弱体化した。

 ユウが使用したのは、フィールドの全域に防御力低下の効果を与えるプロジェクト。

 無論、防御ステータスがHPに変換された野生モンスターにも有効である。


「これで目標ラインは7000に下がった!

 ごちゃごちゃ考えるより、人に頼ったほうがいいこともある。

 いつもみたいに情けない声で、助けてぇ~って言えばよかったんだよ、お前は!」


「そんな情けない声、してないっての!

 でも……ありがと……助かる」


 さすがに、今回ばかりはユウに頭が上がらなかった。

 1人ではどうにもならないなら、仲間を頼ればいいのだ。


「ふふっ……ようやく分かってくれたみたいね。

 何のために私が20000ポイントも出して、ギルドを作ったと思ってるの」


「「「20000!?」」」


 クラウディアの口から、とんでもない数字を聞かされて驚くメンバーたち。

 リンが自室にしている小島とログハウスを10セットも買えてしまう額だ。

 ガルド村にセーブポイントを(もう)けて、より高度な探検ができるようになるとはいえ、簡単に出せるようなポイントではない。


「私自身、ひとりで探索するのは無理だと思い知った。

 だから仲間を集めることにしたの。

 ギルドのリーダーとして、メンバー同士が助けあうことを強制はしないけど。

 でも――こうしたほうが仲間らしいわよね!」


 ユウに続き、クラウディアもカードを発動させる。

 それは強大な力を持つ、★3レアのカウンターカードだった。


 「【千年帝国の圧政ミレニアム・タイラント】!」


Cards―――――――――――――

【 千年帝国の圧政ミレニアム・タイラント 】

 クラス:レア★★★ カウンターカード

 効果:ターン終了まで、全てのユニットは★1つにつき攻撃+300を得る。

――――――――――――――――――


 レアリティとして設定されている星1つにつき、ユニットの攻撃力を300上昇させる効果。

 ★2アンコモンであれば600、★4スーパーレアなら1200もの瞬間火力を得られる。

 元のユニットが強ければ強いほど効果が高くなるカードであり、それはレアリティという名の階級(ヒエラルキー)を象徴していた。


 これだけの攻撃ステータスを上乗せするものでありながら、効果はフィールド全体。

 【アルテミス】の攻撃力は一気に5700まで上昇したが、【スカーレット・ドレイク】たちも6000に達する。


「クラウディア! こんなすごいカード、まだ持ってたんだ!」


「あなたには、あまり手の内を見せたくなかったんだけど……

 でも、言ったとおりよ。私は仲間が欲しくてギルドを作ったの」


 口調は厳しくストイックなところがあるが、やはりクラウディアは仲間思いだ。

 そして、3人目の支援者。

 魔女の三角帽子を被った友人が、カードを手にニコッと笑う。


「私は何も言われなくても、リンを助けますよ。

 このカードの性質上、他の2人が何を使うのか待つことになりましたけど。

 【カウンターリフレクション】!

 指定するのはクラウディアが使った【千年帝国の圧政ミレニアム・タイラント】!」


Cards―――――――――――――

【 カウンターリフレクション 】

 クラス:レア★★★ カウンターカード

 効果:相手プレイヤーが使用を宣言、または破棄したカウンターカードを指定し、対象と同じ効果のカードとして発動する。

――――――――――――――――――


 リンとの戦いでも使ったことがある、ステラのコピー型カウンター。

 クラウディアが使用したカードを模写し、その効果を2倍に増幅させる。


「わ、私のカードをコピーした!?

 ステラ……あなたとは一度戦ってみたいけど、色々と怖そうね」


「そんなことはないですよ。

 私も2人目の『マスター』と戦ってみたいですし」


 この魔女が只者(ただもの)ではないことは、場数を踏んできたクラウディアですら畏怖するほど理解できていた。

 しかし、実際に戦えば”別の意味”で恐ろしいことになるだろう。

 一方、ドレイクに囲まれたリンたちを見ながら、ユウは眉をひそめる。


「これで【アルテミス】とドレイクは、どっちも6900か。

 惜しいな、目標の7000は目の前なのに」

 

 リンの戦いではよくあることだが、あと100だけ届かない。

 ★3レアカウンターの2倍がけでも、まだ目標に達していないのだ。


 だが、その数値を見たリンは心に勇気を取り戻す。

 彼女の瞳に宿ったのは、どんな敵を相手にしても勝利をあきらめない闘志の光だった。


「ここまで手伝ってもらえたら、もう大丈夫。

 ありがとう、みんな!

 それから……ありがとう、【アルテミス】。あたしは勝つよ」


 守ってくれた女神に向かってカードを使用すると、【アルテミス】は光の粒子になって消えていく。

 彼女は何も言わず、主人の勝利を信じるかのように戦場から離脱した。

 こうなると、リンとドレイクの間を(さえぎ)るものは何もない。

 接敵したままでは動くこともできず、ターン終了を宣言しようものなら一撃で(ほふ)られるだろう。


「リン! 正気か!?」


「言ったでしょ、私は自分のカードを巻き込まない。

 クラウディアもドローンを戻して!」


「分かったわ。この戦い、見届けさせてもらうわよ」


 クラウディアもユニットを全て離脱させ、ついにドレイク9体だけが残される。

 そのステータス、攻撃力6900、HP7000。

 こちら側には★1のユニットすらいない。


 そんな状況でありながら、リンは1枚のカードを取り出して敵を見据える。

 その表情に恐れはなく、ただひたすらに勝利を確信していた。


「別に大したことじゃないんだよ。あたしが使うのは、たった1枚のコモン。

 でも、このカードは相手にも使える。

 そう教えてくれたのは、みんなだったよね」


「え? じゃあ、あれを持ってきたんですか?」


「そう! 【パワースレイヴ】!」


Cards―――――――――――――

【 パワースレイヴ 】

 クラス:コモン★ カウンターカード

 効果:1ターンの間、目標のユニット1体に攻撃+200。

――――――――――――――――――


 攻撃力を高めるカウンターカードとしては、最もポピュラーな1枚。

 効果は低いものの手に入りやすく、ごくありふれた★1コモン。

 リンはそのカードで仲間の誰かを支援できないものかと思い、こっそりとデッキに入れていた。

 しかし、結果的に自分がピンチに陥ったことで仲間から助けられ、決着をつけるために発動させる。


 自分の正面にいた【スカーレット・ドレイク】1体を目標に、その攻撃力を7100へと到達させたリン。

 今、ここに全ての準備が整った。


「クラウディア、ステラ、バカ兄貴。

 みんな本当にありがとう! いよいよ、アレを使うよ!」


「よっしゃあ、ぶっぱなせ!

 あと、こんな大事なときにバカって言うんじゃねー!」


「私たちは大丈夫です。やってください!」


「OK! それじゃあ……って、何これ?

 あの~、演出効果を行うかどうか、選択肢が出たんだけど」


「あ、そういうのは、だいたい”ON”でいいと思います」


 リンのコンソールに表示されたのは、『このカードには演出効果があります』という説明文だった。

 訳も分からず、ステラの言葉に従ってONを選択。

 そして、ついに最終兵器を使うときがやってくる。


「いっくよーーーーっ!!

 攻撃力7100の【スカーレット・ドレイク】を指定して、プロジェクトカード発動!」


Cards―――――――――――――

【 全世界終末戦争エンド・オブ・ザ・ワールド 】

 クラス:レア★★★ プロジェクトカード

 効果:発動の際にユニットを1体指定する。

 フィールド上に存在する全てのユニットに、指定したユニットの攻撃力と同数のダメージを与える。

 この効果はバトル扱いではなく、貫通ダメージも発生しないが、ダメージが防御力に達したユニットは全て破棄される。

――――――――――――――――――


 そうして、4人は初めて――最強と呼ばれる★3プロジェクトの発動を目にする。

 ごく一部のカードに備わっている演出効果。

 まるでリン自身が高位の魔術師になったかのように、両手を上げてオーラを身にまとう。

 その頭上に小さな光が灯り、彼女の口から知らないはずの言葉が発せられた。


 他のカードでは滅多に見られない演出に、見守る3人は息を()む。

 詠唱。

 そう、リンは魔法の呪文を詠唱しているのだ。


「我を称える(うた)はなく 我を封じる(すべ)もなし

 我は人より産まれ 星をも喰らう厄災なり

 神魔 天地 時の記憶をことごとく

 三千世界を無に還し (しか)して我も共に消えん

 (これ)より先は等しく虚無 我は全てを滅する者なり」


 詠唱が進むに従い、リンの頭上で光が強く、大きく膨らんでいく。

 それと同時にカード発動の目標となった【スカーレット・ドレイク】は、内側から放射するような光に包まれていった。

 抽出された攻撃力7100をダメージに還元し、敵味方の区別なく全域に拡散させる。


「【全世界終末戦争エンド・オブ・ザ・ワールド】ーーーーー!!」


 それはまさしく、核融合のごとく膨大なエネルギーを放つ最終兵器であった。

 拡散する強烈な光に、あらゆるものが飲み込まれていく。


 世界各地の宗教や神話で語られる終末戦争。この世の終わり。

 それらには必ず続きが(しる)されている。

 信心深い者は救われ、あるいは巨大な竜が人々の魂を乗せて飛ぶ。

 いずれも何らかの救いや、厄災が過ぎた後に続く物語が書かれているのだ。


 しかし、人類がもたらす終末に続きなどない。救いもない。

 どれほど名高い神や魔王であろうと、その名を語り継ぐ人類が消えてしまえば共に滅する。

 地球の生命も、35億年にわたる進化の歴史さえも、全てを無に還す完全なる破壊。


「グワァアアアアーーーーー…………ッ」


 閃光の中でリンを囲んでいたドレイクたちが消滅していく。

 水晶洞窟が本来の薄暗さを取り戻したとき、そこにはキラキラとした粒子だけが――

 先ほどまでドレイクだった残滓が漂うのみであった。

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[気になる点] スカーレットドレイクってユニット化したら通常効果どうなるんだろ。
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