第6話 ダンジョンにクリスタルを求めて その3
水晶洞窟の中間地点となる青のエリア。
美しい地底湖が広がる名所だが、ここを通るときには可能な限り物音を立ててはいけない。
このホールは天井が高くなっており、そこに点々と黒い物体がぶら下がっている。
その正体は翼長3mほどもある大型の吸血コウモリ【デスモドゥス】。
青のエリアは彼らの縄張りで、しかも聴覚が非常に鋭い。
少しでも大きな音を立ててしまったが最後、天井から大量のコウモリが押し寄せてくるのだ。
「わ……わわわわわわ、どどど、どうしよう!?
これって、あたしのせい?」
「ヘビが来たのは誰のせいでもありません。
それにしても、この数……逃げるのは厳しそうですね」
「太陽が当たってないだけでステータス2倍って、ほんと反則だよな」
「そうだ! 兄貴、アレ持ってるでしょ、アレ!
フィールドをジャングルに変えるカード」
「無茶言うなっつーの!
ミッドガルドの地形を変えるなんて、できるわけねえだろ!」
そんな話をしている間にも、コウモリたちは威嚇の声を発しながら高度を下げてきた。
壮絶な乱戦が始まるのは、もはや時間の問題だ。
「私がなんとかするわ!
全員離れないで、背中を向けあって円形陣!」
「クラウディア! あれをなんとかする方法があるの?」
「この私が何の対策もなしに来ると思った?
さっきから飛ばしてるドローンを、よく見てみなさい」
そう言われたのでドローンを調べてみると、コンソールに情報が表示される。
リンは探索用の便利アイテムかと思っていたのだが、実際にはしっかりとステータスを備えたユニットだった。
Cards―――――――――――――
【 EMPドローン 】
クラス:コモン★ タイプ:機械
攻撃200/防御200
効果:このユニットがいる限り、フィールド上の情報は所有プレイヤーに可視化される。
スタックバースト【バーストジャマー】:瞬間:2ターンの間、このユニット以外のスタックバーストは全て無効化される。
――――――――――――――――――
「バーストジャマー! そんなものがあるの!?」
数値的には、まったく戦いに向いていないドローン。
しかし、このユニットを召喚したプレイヤーの目には、あらゆる情報が視覚的に表示される。
プレイヤーの周囲をスキャンし、肉眼では見えないものまで感知する効果。
擬態する【水晶ヤモリ】や、音もなく這い寄るクモなども、クラウディアには全て”見えて”いたのだ。
そして、切り札となるのがスタックバースト。
対人戦で使われても脅威だが、この場においては比類なき逆転の一手。
「効果範囲を選べないから、ユニット全部が影響を受けるのよね。
この中でスタックバーストを使いたい人は?」
「大丈夫です。ドローンの効果が切れてから使います」
「俺も【ヘビーナイト】の補強は済ませた。大丈夫だ、やってくれ!」
「じゃあ、私が支援するから、みんなで敵を蹴散らしましょう」
「ク……クラウディア! 今、すっごく輝いてるよ~!」
リンは思わず、頼れるリーダーに抱きつきたくなった。
もちろんクラウディア自身も参戦するらしく、戦闘用のユニットを召喚する。
「ユニット召喚、【ガトリング・タレット】!」
Cards―――――――――――――
【 ガトリング・タレット 】
クラス:アンコモン★★ タイプ:機械
攻撃2400/防御700
効果:このユニットはステータスの強化と弱体を受けない。
スタックバースト【再設置】:瞬間:このユニットがフィールド上から破棄されたときに発動可能。即座に新しい同一個体として復活する。
――――――――――――――――――
ウィイイン、ジャキ、ジャキ、ガション、と。
軽快な機械音を立てて重火器のユニットが現れる。
2400を誇る攻撃力は【好戦的なエルフ】と同じくアンコモン最高値。
自動的に敵を認識して撃つ機械らしく、銃口を上下左右に動かしながら狙いを定めていた。
「ギキィイイイーーーーーーッ!」
「来るわよ! 全員、迎撃用意!
私がカードを発動させるまで引きつけて!」
1体が雄叫びを上げた直後、コウモリの群れは一斉に降下。
リンたちはユニットと共に身構え、突っ込んでくる大コウモリの威圧に耐える。
接敵するまで、あと5m、4m、3m――
「スタックバースト発動、【バーストジャマー】!」
クラウディアが手札を使用した瞬間、ドローンは全方位に電流を放射した。
それ自体にダメージはなく、辺り一帯にプラズマフィールドが形成されて光の『もや』が漂う。
効果の範囲内にいるユニットは全てスタックバーストが使えなくなり、コウモリたちのステータスは一気に半減した。
「私も支援します! 音波撹乱!」
Cards―――――――――――――
【 音波撹乱 】
クラス:アンコモン★★ カウンターカード
効果:ターン終了まで、【タイプ:動物】のユニット全ては攻撃宣言ができなくなる。
――――――――――――――――――
ステラがカードが発動すると、彼女を中心にキイイイィンと高音が拡散される。
リンの近くにいたコボルドが慌てて耳をふさぎ、コウモリたちも大混乱を起こしていた。
このカードは超音波を発生させることで、一時的に動物ユニットの聴覚を狂わせる。
「おお~っ、上手い!」
「そっか! こっちには【動物】がいないんだ!」
機転の利いたアシストに感嘆する真宮兄妹。
思わず耳を押さえたコボルドは、犬のように見えるが実は【悪魔】タイプ。
【土星猫】は融合しているため効果を受けず、他のユニットは動物ではない。
よって、このターン。
4人はコウモリに向かって一方的に攻撃できるのだ。
「いくわよ、全員攻撃! 撃て!」
クラウディアの号令のもと、4人はそれぞれのユニットで一斉に攻撃宣言。
月の女神と地獄の悪魔が共に矢を放ち、うろたえるコウモリたちを正確に射抜く。
筋肉エルフは跳躍しながらアッパーで攻撃、設置された重火器タレットも弾丸の雨を降らせた。
4人が扱うユニットは見た目もタイプもバラバラだ。
しかし、今まさにチームとして結束し、コウモリの群れを蹴散らしていく。
【バーストジャマー】の効果が切れる頃には、ほぼ勝敗が決してしまっていた。
「ドローンの効果がなくなりましたね。
【レライエ】、スタックバースト解禁です! 【2本撃ち】!」
「ヒャハハハハハーーーーーッ!!」
ステラの指示に従い、2体の目標に向かって攻撃する【レライエ】。
実際には腕が増えたので2本どころか4本撃ちなのだが、飛び回るコウモリたちを次々と撃ち落とす。
最後の断末魔が響いたとき、飛ぶ力のある敵はいなくなっていた。
「よぉーし、勝ったぁー!」
「いぇ~い、お疲れ!」
勝利を分かちあう4人の声が、お互いの健闘をたたえる。
大ピンチを乗り越えたメンバーたちだったが、大量の敵を倒したことによってチームの意識は高まった。
そして、戦闘後のフィールドには消えずに残っている【デスモドゥス】が1体。
「あ、コウモリが気絶してるわよ!」
「おお~! って、俺じゃないな。
誰が倒したやつだ?」
「私みたいです! やりました!
もらっていいですか?」
「もちろん! っていうか、ステラ以外はカードにできないよね」
気絶したモンスターを獲得する権利は、倒した本人にしか与えられない。
十分な活躍を見せたステラが戦利品を得ることに異論などなく、メンバーからは『おめでとう』の声が贈られる。
そうしてブランクカードに収められたコウモリは、かなり効果が変更されていた。
Cards―――――――――――――
【 デスモドゥス 】
クラス:アンコモン★★ タイプ:動物
攻撃1300/防御1100
効果:このユニットが相手プレイヤーにダメージを与えたとき、2ターンの間、そのポイントと同数の攻撃・防御強化を受ける。
この効果は重ねがけ不可であり、更新された場合は新しい数値に上書きされる。
スタックバースト【闇の徘徊者】:永続:このユニットが他のカードの影響を受けていない場合、攻撃と防御が2倍になる。
――――――――――――――――――
「【デスモドゥス】、捕獲完了です!」
「わあ~、ほんとにおめでとう!」
「かっこいいカードじゃないか、うらやましいぜ!
ユニットになると太陽の影響を受けなくなるんだな」
「さすがに決闘では条件が難しいですからね。
でも、前からこの子が欲しかったんです。
これでまた一歩、魔女らしくなりました」
「たしかに魔女らしいユニットだけど……
ステラはいったい、何を目指してるのかしら」
戦利品を得て、さらにワイワイと盛り上がるメンバーたち。
笑顔が交わされる中、リンはまた新たな喜びを見出していた。
「(そっか……これが”みんなで戦う”ってことなんだ)」
対人戦のカード勝負も面白いが、ペットを飼ったり、ミッドガルドを探検したりと、ラヴィアンローズには色々な楽しさが詰まっている。
今回は初めて行ったチームバトル。
仲間と共に勝利を掴み、その成果を喜びあう。
実体のない仮想空間での冒険だが、友人たちの笑顔は間違いなく本物なのだ。




