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第5話 ダンジョンにクリスタルを求めて その2

 順調に緑のクリスタルを採取しながら、クラウディアが率いる一行は洞窟の奥へと向かう。


 このダンジョンに生息しているモンスターは、美しい【水晶ヤモリ】だけではない。

 大きなクモやネズミが現れるたびにリンは悲鳴を上げ、一行はそれらを倒して進んでいく。

 見た目はともかく、この緑水晶のエリアには弱い★1しかいないようだ。


「ひぃ……はぁ……もう疲れたよぉ~」


「いや、お前はほとんど戦ってないだろ。

 敵が出るたびに大騒ぎするから疲れるんじゃねーか」


「そんなこと言われたって、キモイのは無理!

 どうしてステラは平気なんだろ……」


 兄とそんな会話をしてみたが、『ステラだから』以外の答えは出てこなかった。

 視覚的な恐怖への完全耐性というのは、さすがにチートスキルとしかいえない。


「【レライエ】、とどめです!」


「グヒャヒャヒャヒャ!」


 兄妹の視線の先では、まさにステラが戦闘の真っ最中。

 ボウガンを持つ4本腕のゾンビみたいな化け物を使役し、クモ型のモンスターを撃破したところだ。

 大きなクモが長い足をワシャワシャ動かしながらひっくり返っても、魔女は顔色ひとつ変えない。


「ふぅ~、よく頑張りましたね」


「グヒヒ! キヒヒヒヒヒ!」


 見た目は最悪だが、主人に褒められた【レライエ】は喜んでいるらしく、ステラと絆で結ばれているのが見て取れる。

 どんな姿をしていようと、ユニットはユニットなのだろう。

 それを見る周りの人間に耐性がないだけで。


 そんな感じでモンスターとの戦闘が終わって落ち着くと、クラウディアはメンバーたちに向かって声をかける。


「ここから先は、いよいよ青のエリアに入るわ。

 私が拳を上げて合図したら、近くの物陰に隠れて絶対に動かず、音を立てないこと。

 大きな音を立てると、大量のモンスターが押し寄せてくるわよ」


「うえぇ……了解、静かにすればいいんだね」


「この先は本当にヤバイぞ。

 クモとかネズミを見ても、騒いだりするなよ」


 そう言われたが、リンにとっては初めてのダンジョンだ。

 何が出てくるか分からない暗闇にビクビクしながら、仲間と共に洞窟の奥へと進んでいく。

 しばらく歩くと緑の水晶が見えなくなり、代わりに青い光が視界を満たし始めた。


「お……おおお~~~っ!」


 その光景を目にした瞬間、リンは声を抑えながら感動する。

 青のエリアは広大なホール。

 大量の青水晶が床や壁面を覆い尽くして輝き、その間をサラサラと流れる水が地底湖を形成していた。

 もはや何も考えられなくなるほど幻想的な景色を前に、中学生のリンは心を掴まれる。


「きれいな場所ですよね。

 私、ここが大好きなんです」


「うん、分かる。本当にすごい景色……

 このゲームをやっててよかった~ってなるよ」


 ステラと小声で会話しながら、リンは水晶と地底湖の絶景を胸に刻む。

 一行は清らかな水をたたえた地底湖へと進んでいき、エリア内の探索を始めた。


 澄みきった湖は深さが10mほどあるにも関わらず、ハッキリと底まで見渡すことができる。

 名前も知らない銀色の魚が泳ぐ中、採掘ポイントと思われる水晶塊が深いところで光っているのが見えた。


「これって……もしかして、水の中でクリスタルを掘る感じ?」


「あれを取るのは難しいです。

 水中で呼吸ができなくなると、ライフが減って溺れてしまうので……

 底のほうまで行くには特殊な効果が付いた服を着るか、水棲ユニットに手伝ってもらうしかありません」


「あ~、それなら【ネレイス】ちゃんを連れてくるんだった。

 今度来るとき、ここで泳がせてあげようかな。

 水がきれいで気持ちよさそうだし」


 ためしに手で水面をすくってみると、街に住むリンには見たこともないほど冷たくて透明な地下水が、指の間を心地よく流れ落ちた。

 濡れた手を顔に当てるだけでも、ここまで歩いてきた疲れが消えていくようだ。

 しばらく湖の水を楽しんだ後、リンは陸地でクリスタルの採掘ポイントを探し始める。


 が、そのとき――クラウディアが片手の拳を握って突き上げた。


 事前に聞かされていた、隠れて動くなという合図だ。

 それを見たユウとステラは、すぐさま大きな水晶の裏に隠れる。

 リンも慌てて隠れる場所を探し、近くにあった水晶の下でコボルドと一緒にしゃがみ込んだ。


 やがて、バサ、バサ、と聞こえてきたのは、何者かが羽ばたいて着地する音。

 水晶の下に隠れながら、そっと様子を見てみると――


Enemy―――――――――――――

【 デスモドゥス 】

 クラス:アンコモン★★ タイプ:動物

 攻撃2600/HP2200

 効果:このモンスターが相手プレイヤーにダメージを与えたとき、そのポイントと同数のHPを回復する。

 スタックバースト【闇の徘徊者】:永続:このモンスターに太陽の光が当たっていない場合、攻撃と最大HPが2倍になる。

――――――――――――――――――


「キイィ……グルルル……」


 それは成人男性よりも大きな体躯(たいく)の吸血コウモリだった。

 真っ黒な翼を広げて地底湖の近くに舞い降り、這いつくばるように水を飲み始める。


 その顔は実在するコウモリよりもオオカミに近く、足に生えた鉤爪(かぎづめ)は肉食獣のように鋭い。

 かっこいい野性味を感じるモンスターだが、表示されているスタックバーストは目を疑うほど凶悪だ。


「(こんな洞窟の中じゃ太陽の光なんて届かないよ……!

 ほとんど無条件でステータス2倍ってこと!?)」


 太陽の光が当たっていないとき、コウモリは非常に強力なスタックバーストを発動できる。

 ただでさえアンコモンのレアリティ補正で2倍になっているのに、バーストを加えるとステータスは合計4倍。

 攻撃力5200、HP4400という、実に厄介なモンスターが出来上がってしまうのだ。


 こうして隠れるようにクラウディアが指示したのは、この大コウモリとの戦闘を避けるためだろう。

 たしかに、こんな相手とはあまり戦いたくない。


「わううぅ……わう、わうっ」


「しっ! コボルドちゃん、静かにして。

 いったいどうしたの……って、うえええええぇ!?」


 一緒に隠れていたコボルドが騒ぎ出し、リンは慌ててなだめようとした。

 が、その直後――なぜ吠えているのかを知るまでもなく、接近してきた危険生物と目があってしまう。


 日本の自然界ではまず見ないであろう、桁外れなサイズの爬虫類。

 その生物が何なのか、誰もが見た瞬間に理解できる。


Enemy―――――――――――――

【 ケイブ・パイソン 】

 クラス:アンコモン★★ タイプ:水棲

 攻撃2600/HP3800

 効果:このモンスターがプレイヤーにダメージを与えたとき、デッキからカードを1枚破棄させる。

 スタックバースト【死の抱擁】:瞬間:通常攻撃の代わりに発動可能。【タイプ:人間】または【タイプ:動物】のユニット1体を破棄する。

――――――――――――――――――


 水辺に生息する大蛇。和名ニシキヘビ。

 現実世界のものとは違い、水晶の洞窟に合わせたアクアブルーの体色をしていて非常に美しいのだが。

 しかし、その姿に見とれている場合ではない。

 全長8mはあろうかという丸太のようなヘビが、長い体をくねらせながら接近してくるのだ。


 こんなものに巻き付かれたら、ひとたまりもない。

 実際にスタックバーストが発動するだけで、【人間】や【動物】タイプのユニットは即死してしまう。

 なぜ即死するのかなど、もはや考えたくもなかった。


「あわわわわわわわ……ここはダメだああぁ!

 みんな、ごめーーーーん!!

 あたしのとこにモンスターが出たーーーーっ!!」


「くそっ、マジかよ! こんなときに!」


 慌てて水晶の下から飛び出すリン。

 入れ替わりでユウが大蛇に向かっていくが、当然ながらコウモリにも気付かれる。


「ギッ! ギキィイイイーーーーッ!」


「仕方ないわね……ユウはヘビ、ステラはコウモリをお願い!

 リンは安全な場所で【アルテミス】を戦えるようにしておいて!」


「「「了解!」」」


 クラウディアの指示を受け、3人はそれぞれに動き出す。

 リンが女神を召喚すると、地下のダンジョンにいるためか演出は簡略化されて登場した。

 このままでも戦えなくはないが、今は仲間に戦闘を任せて準備を整えるべきだろう。


 一方、大蛇と対峙したユウは、防御役となる戦士のユニットを強化する。


「バーストする前に倒してやらぁ!

 【ヘビーナイト】に【超重鋼タワーシールド】を装備。

 【好戦的なエルフ】、ぶちかませ!」


「ぬぉおおおおおおーーーーっ!!」


 自分よりも巨大なヘビに対し、マッチョエルフは勇猛にも素手で殴りかかった。

 その拳は顔面をとらえ、2400というアンコモン最高クラスの攻撃力を叩きつける。


「キシャーーーーーッ!!」


 怒り狂った大蛇は身を縮め、バネのように伸びてユウたちに突撃。それを【ヘビーナイト】が大盾で受け止めた。

 丸太がぶつかってくるような衝撃を、重戦士はどうにか耐えて弾き返す。


「これで終わりだ! エルフ、キメるぞ!」


「フンガーーーーーーーッ!!」


 鍛え上げられたマッスルボディが跳び上がり、まるでプロレスのように右腕の(ひじ)を突き出して落下。

 大蛇にエルボードロップで攻撃するという世にも珍しい光景だが、筋肉エルフの全体重をかけた《ひじ》は、見事に突き刺さってヘビを仕留める。


「【レライエ】、攻撃です!」


「ウヒャヒャヒャ!」


 大コウモリと対峙したステラは【レライエ】を使い、翼で飛び上がろうとしたところをボウガンで射撃。

 4本の腕から繰り出される矢の乱射を避けきれず、敵はあっさりと落下した。


「ギャォオオーーーーーー……ッ」


 粒子になって散りながら、洞窟の中に断末魔を響かせるコウモリ。

 リンは召喚した【アルテミス】に大量のリンクカードを装備させ、ようやく戦闘の準備を整えたところだった。


「よ~し、あたしも戦えるよ!

 ……って、あれ? バトル終わっちゃった?」


「まあ、とりあえずは……な」


「本当の戦いが始まるのは、これからよ。

 リン、大声を出してもいいから上を見てみなさい」


「上……?」


 クラウディアに言われて洞窟の天井を見上げると、そこに広がっていたのは地獄のような光景。

 仲間の断末魔を聞きつけたコウモリが飛来し、群れとなって旋回している。


 その数、およそ10体。

 当然ながら複数いるのでスタックバーストが発動中。

 1体あたり攻撃力5200の凶悪な【デスモドゥス】が、数の暴力といわんばかりに集結しているのだ。


「な……なんじゃこりゃあ~~~~~~!!」


 水晶の洞窟にリンの悲鳴が響いたのは、もはや言うまでもなかった。

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