第4話 ダンジョンにクリスタルを求めて その1
ぼんやりと幻想的に光るキノコや羽虫、剣山のように立ち並ぶ鍾乳石。
点々と設置されたランタンの明かりに導かれ、一行は洞窟の中を進んでいく。
それぞれのユニットを連れて歩く中、少し離れて先頭を行くのはクラウディア。
探索用ドローンが闇の中を見渡し、彼女自身も暗視機能がついた双眼鏡で索敵を行う。
「この暗闇の中だ。何が襲ってきてもおかしくない。
リンも用心しておけよ」
「うん、いざとなったら【アルテミス】に出てきてもらう」
「バトルは私たちが担当するので、自分の安全を第一にしてくださいね」
前方をステラ、後方をユウに守ってもらいながら進むリン。
設置されたランタンに沿って歩いていくと、やがて真っ暗だった洞窟の内部が明るくなっていき、あたりが緑色に輝き始める。
その光をもたらしているのは、天井や壁から生えた巨大な水晶だった。
「うわ~、めちゃくちゃきれい!
これ全部、緑のクリスタルなの?」
「残念ながら採掘不可のオブジェクトです。
でも、このあたりには取れる水晶もたくさんありますよ」
「ここから奥に進んでいくと、水晶の色は緑から青、そして赤に変わっていくんだ。
無論、先に行けば行くほど危険なモンスターがいるけどな」
「へぇ~、色が付いてるのは分かりやすいね」
初心者や中級者は青までのクリスタルを掘り、腕に自信がある者は最奥まで行って赤いクリスタルを狙う。
どこまで進むのかを、自分で判断できるダンジョンだ。
やがて、前方の索敵をしていたクラウディアが手を上げ、リンに合図を送ってきた。
「このあたりには弱いモンスターしかいないわ。
ユニットを出して採掘してもいいわよ」
「待ってました! それじゃあ、ユニット召喚!」
Cards―――――――――――――
【 タイニーコボルド 】
クラス:コモン★ タイプ:悪魔
攻撃400/防御200
効果:このユニットがバトルによって破棄されたとき、相手プレイヤーに防御力と同数のダメージを与える。
スタックバースト【鉱脈への導き】:瞬間:デッキからカードを1枚ドローする。
――――――――――――――――――
「わぉ~ん!」
リンが召喚したのは、交換交流会で手に入れた人型ユニットのコボルド。
モフモフの獣毛に包まれた犬っぽい幼女が、元気いっぱいにカードから飛び出す。
「よろしくね、コボルドちゃん。
ほら、見て~。きれいな水晶がいっぱいだよ」
「わふぅ~!」
「そっか~、うれしいよね。うんうん」
鉱石が大好きなコボルドは、輝く水晶に覆われた洞窟の様子を見るなり、尻尾をパタパタと振って喜んだ。
その可愛らしさに、リンも顔がゆるんでしまう。
採掘のために呼び出したはずなのだが、頭を撫でる手が止まらない。
「すっかり、お母さんですね。
ここでは色が違うエリアごとに【物資収集】ができますよ」
「おっと! それじゃあ、さっそく。
コボルドちゃん、【物資収集】に行ってもらえるかな?」
「わぉん!」
命じられたコボルドは、水晶に覆われた洞窟の壁に走っていくと、なにやら採取し始めた。
その手にアイテムを持って戻ってくるまで、さほど時間はかからない。
行くときには犬のように4つ足で走ったが、帰りは物を持っているので2本足でトテトテと歩く姿が反則的に可愛らしい。
Tips――――――――――――――
【 じめじめシメジ 】
豊富な水分を蓄えたキノコ。毒はない。
火は通りにくいが、スープに入れると良いダシが出る。
――――――――――――――――――
「あ~、キノコかぁ……でも、可愛いから褒めちゃお。
頑張ったね~、よしよし」
結果など気にしない。
採取してくれたコボルドをデレデレに甘やかしながら、リンはキノコを受け取った。
そんな妹の姿に、兄は呆れかえって苦笑する。
「まったく、完全に親バカだな」
「バカでいいも~ん。
ほ~ら、ユウおじちゃんでちゅよ~」
「わう、わ~う」
「やめろよ! 高校生で叔父になる気はねえっつーの!
それより、あそこで緑のクリスタルが取れそうだぞ」
ユウが指をさした方向を見ると、緑の光がより濃く発せられている水晶の塊があった。
近付いて触ってみたが、木の実を採取したときのように粒子化する様子はない。
「ここでツルハシを使うのかな?
コボルドちゃんは離れててね~」
「わふ」
所持アイテムの中からツルハシを取り出し、大きく振り上げるリン。
わずかに鉄の質感を帯びているが、女の子でも扱えるほど軽い。
それを思いっきり水晶に打ち下ろすと、コキーンと良い音がしてクリスタルのかけらが転がった。
「おお~、アイテムになった! 緑のクリスタル、ゲット!」
コンソールに『ペット・クリスタル』を入手したことが通知され、水晶の塊から緑の光が消える。
どうやら、1つの水晶から採取できるのは1回だけのようだ。
これまでは貴重品だったクリスタルが、ツルハシを振るうだけであっさり手に入ってしまった。
「沼でスピノサウルスを倒して手に入れたものが、こんなに簡単に取れちゃうなんて……
うれしいけど、ちょっと複雑な気分だね」
「RPGのダンジョンで手に入れた強い装備が、先に進むと店で売ってるアレな」
スピノサウルスがいる沼は、ここに比べたらはるかに入り口の近く。
本来は洞窟まで来ないと採取できないクリスタルを、早い段階で手に入れる場所として沼があるのだ。
もっとも、そのためには攻防6000などという無慈悲な王者を倒さなければならないのだが――
と、そんな会話をしていると、コボルドが何かに反応して犬耳をピンと立てる。
「ううぅ~、がるるる! わう、わう!」
「え? コボルドちゃん、どうしたの?」
「モンスターだ! 水晶に擬態してるから気をつけろ!」
「マジで!? どこ、どこ?」
ユウに言われて周囲を見回したが、光り輝く水晶しか視認できない。
しかし、コボルドには見えているようで、壁のやや高い部分を睨みつけながら吠えている。
リンが同じ場所へ目を向けて、じっくり見てみると――
それは、スルッと水晶の上を這って動き始めた。
Enemy―――――――――――――
【 水晶ヤモリ 】
クラス:コモン★ タイプ:動物
攻撃100/HP500
効果:リンクカードを装備していないユニットから受けるダメージが半分になる。
スタックバースト【擬態】:永続:このモンスターがバトルを行ったとき、3分の1の確率で相手ユニットの攻撃を無効化する。
――――――――――――――――――
「見えた! わぁ~、なんかきれい……」
輝く水晶に擬態できるほど、プリズムのような美しい鱗に覆われたモンスター。
60cmくらいあるので、ヤモリとしてはかなり大きい。
その手足は特殊な構造をしていて、滑りやすいはずの水晶だろうと難なく張り付き、壁や天井を自在に走ることができる。
「リン、俺と代わるか?」
「大丈夫、★1コモンにしては固そうだけど、コボルドちゃんに任せてみるよ。
リンクカードを【タイニーコボルド】に装備!」
Cards―――――――――――――
【 アイアンハンマー 】
クラス:コモン★ リンクカード
効果:装備されているユニットに攻撃+200、防御+200。
――――――――――――――――――
特にこれといった効果はない、ステータスを上昇させるだけの装備品。
金槌を大型にした鈍器、いわゆる戦鎚である。
小さい女の子には不釣り合いな重量だが、コボルドは軽々と持ち上げてみせた。
「よーし! がんばれ、コボルドちゃん!」
「わふ~!」
かくして、大きなハンマーを持った女の子と水晶ヤモリの格闘戦が始まった。
2匹のヤモリが水晶から降りてきて、次々に飛びかかる。
それをハンマーの柄で防ぎ、体をクルッと回転させながら攻撃するコボルド。
重い鈍器の一撃が命中すると、モンスターは粒子になって消えていく。
「いいぞ~! あと1匹!」
戦いを見守りながら応援するリンは、もはや運動会に来た親のようだ。
コボルドが最後の1匹にハンマーを叩きつけて勝利すると、すぐさま頭を撫でて褒めまくる。
主人に褒められたコボルドも尻尾を振り、舌を出して喜びを表現した。
「ああ~、いい子、いい子! よく頑張ったね~」
「わう~! ハッ、ハッ、ハッ」
「リン、大丈夫ですか?」
「あ、ステラ。この子がやっつけてくれたよ。
きれいなモンスターだから、気絶してくれれば良かったんだけどね。
2匹とも消えちゃったみたい」
「【水晶ヤモリ】、きれいで可愛いですよね。
私のルームでも何匹か飼ってます」
「へぇ~、魔女の家には似合いそう!」
「ところで、リン……”それ”もコボルドちゃんに戦わせます?」
「は……?」
急に流れが変わる2人の会話。
ステラが指をさしているのは、明らかにリンの背後だった。
嫌な予感がして振り返ってみると、そこにあったのは8つの目玉。
1mくらいはありそうなクモ型のモンスターが、音もなく背後から忍び寄ろうとしていたのだ。
「うぎゃあああああああああーーーーーーっ!!」
水晶の洞窟にリンの悲鳴が響いたのは、もはや言うまでもなかった。




