第3話 地獄の悪魔を超えし者
クリスタルを採掘できるダンジョンは、村からそう遠くはなかった。
街道ほど快適ではないが、人が通れる程度の山道が伸びており、森林の奥にある洞窟へと至る。
ガルド村まで来るプレイヤーの半数以上が、この洞窟を目当てにしているようだ。
ペットを得るためにクリスタルを採掘し、目的を果たしたら好きなことをする。
気ままにカードゲームで遊ぶもよし、ギルドを組んで本格的に探索するもよし。
当然、リンたちは後者であった。
「うわ~、奥のほうは暗そう。洞窟探検なんて初めてだよ」
「出せるユニットの大きさにも制限があるから、私のデッキは不利なのよね」
「あ……そういう問題もあるんだ。
【ダイダロス】とか戦車は大きいから、狭い場所だと使えないんだね」
ぽっかりと口を開けた洞窟は、陽の光を飲み込むかのように暗い。
ところどころにランタンが設置されているものの、どうにか足元が見える程度だ。
まずは入り口で準備を整え、クラウディアが手を腰に当てながらメンバーに確認を取る。
「さて、最初はリンにクリスタルを取ってもらうことが最優先。
もちろん、各自で稼いでもらっても構わないけど、青まではリンに取らせましょう」
「え? みんな、それでいいの?」
「そうですね、青までなら楽に見つかると思いますので」
「まずは強いペットを作ってもらわなきゃ、戦力的に厳しいからな。
とはいえ、★3の赤いクリスタルは貴重品だ。
緑や青なら譲るが、赤は見つけた人が取ることにしよう」
どうやら、経験者の3人はリンを引率してくれるようだ。
生まれてこのかた洞窟など入ったことがないので、サポートしてもらえるのは助かる。
「じゃあ、私は偵察を担当するわ。
ユウとステラは戦闘しつつ、余裕があれば採掘。
リンはとにかく素材集めに専念して」
「了解、いっぱい取るよ!」
各員が意気込んだところで、ユウは盾を持つ【ヘビーナイト】とアタッカーの【好戦的なエルフ】を召喚。
クラウディアは偵察に使えそうなドローンを飛ばした。
そして、ステラは――
「ユニット召喚! 【レライエ】!」
Cards―――――――――――――
【 レライエ 】
クラス:アンコモン★★ タイプ:悪魔
攻撃1700/防御600
効果:このユニットとバトルを行った相手は、次の相手ターン終了時に同数の攻撃ダメージを再び受ける。
スタックバースト【2本撃ち】:瞬間:バトル終了まで、2体のユニットに向かって攻撃できる。
――――――――――――――――――
「フヒヒヒヒヒ」
両手にボウガンを構え、全身に包帯を巻いた長身の悪魔【レライエ】を召喚。
能力は優秀なのだが、相変わらず不気味な見た目だ。
ステラはこのユニットを主軸にするらしく、カードで強化を加えていく。
「ユニット召喚、【土星猫】!」
「なぁ~お」
「「げぇ……っ!」」
魔法陣から召喚されたネコを見た途端、真宮兄妹の声が重なった。
ステラが何をしようとしているのか、もはや言うまでもない。
これから始まるのはハリウッドのホラー映画も裸足で逃げ出すような、VR世界の暗黒儀式である。
「そのネコって……まさか……」
クラウディアも【土星猫】の存在を知っていたようで、何かに気付いたように反応した。
しかし、時すでに遅し。
「【土星猫】、【レライエ】と融合!」
「にゃおん!」
ステラの指示を受けたネコは悪魔の体に飛びつき、ズブズブと潜っていってしまう。
その直後、ガタガタと震えだした【レライエ】は、身の毛もよだつ奇声を上げながら宇宙怪物へと変貌していった。
もともと異様な風貌をした悪魔だったのだが、その両腕がメキメキと裂けて4本に増加。
隙間だらけの黄色い歯が並んでいた口は、サーベルタイガーのように大きく鋭い牙へと生え変わっていく。
「グヒャ……グヒヒヒヒ……キェエエエエエエエエッ!!」
変身が終わった後に立っていたのは、転送実験に失敗してハエと合体した科学者が、4本の腕にボウガンを構えているような怪異だった。
口からダラダラと粘性のよだれを垂らし、両目は包帯の下に隠れているため見えない。
包帯の隙間では腐った死体のような色をした皮膚がただれ、強化された筋組織がむき出しになっている。
「怖すぎだって……」
リンの視線に気付いたのか、ステラはニコッと笑いかけてきた。
地獄の底からやってきた悪魔を、さらなる狂気のクリーチャーに変えたというのに、普段と変わらず微笑む魔女。
そんな友人のおかしさにも、リンはだんだんと慣れを感じ始めていた。
が――震えながら青ざめるクラウディアは、そうではないようだ。
「ね、ねえ……あなたのクラスメイト、なんかおかしいわよ!
あんなグロテスクなもの作っておいて、どうしてニコニコ笑ってるの!?」
「いや、まぁ……ほら。
あれがステラだから、もうどうしようもないかなって」
「ははは……これも個性の尊重ってやつだな」
ステラと一緒にいる限り、毎度のように行われる暗黒儀式なので、そのうちクラウディアも慣れるだろう。
そんな投げやりな空気が漂う中、VR世界の魔女は次のカードを発動させた。
Cards―――――――――――――
【 魔導書『ネクロノミコン』 】
クラス:レア★★★ リンクカード
効果:このカードを装備させるとき、自分のライフを半分まで支払える。
支払ったライフと同数の攻撃ステータスを、装備したユニットに追加する。
――――――――――――――――――
「【レライエ】に【魔導書『ネクロノミコン』】を装備!
私のライフを半分にして、攻撃力を2000増加。
さらに、プロジェクトカード発動!」
Cards―――――――――――――
【 深き闇の者ども 】
クラス:アンコモン★★ プロジェクトカード
【タイプ:悪魔】のユニット1体に与えられている攻撃の強化効果を、防御ステータスにも適応する。
この効果を受けたユニットは、自プレイヤーが使用する他のプロジェクトカード、およびカウンターカードの効果を受けない。
――――――――――――――――――
ステラが得意とする、魔術系カードの多段重ねコンボ。
【土星猫】で攻防を1000ずつ補強し、さらに【魔導書『ネクロノミコン』】で攻撃力を飛躍的に増加。
その効果を防御にも適応させることで、最終的には攻撃力4700の時間差2回攻撃、防御力も4600という強力なユニットが完成した。
しっかりとポーションで回復するステラの隣で、宇宙悪魔が狂気的に笑う。
「グヒャヒャヒャヒャヒャヒャヒャ!!」
「うぷっ……見た目は最悪だけど、なんて性能なの。
ステラと戦ってみたい……でも、あのデッキとは戦いたくない」
「「分かる」」
吐き気を抑えながら語るクラウディアの言葉に、兄妹は同時に頷いた。
ステラには才能があるし、カードを扱う手腕も見事なのだが、できれば味方のままでいてほしい。
そんな感じでトラウマを植え付けられたりしながら、ようやくダンジョン探索の準備が整った。
4人は暗闇が広がる洞窟の中へと、隊列を組んで入っていく。




