第25話 私立モン娘幼稚園
「はっはっは~っ!
見ろ、この超かっこよくて強そうなカードを!」
Cards―――――――――――――
【 バスタービートル 】
クラス:レア★★★ タイプ:昆虫
攻撃2200/防御1800
効果:バトルしたとき、【タイプ:植物】のユニットに対して攻撃力が2倍になる。
スタックバースト【グレートホーン】:瞬間:ターン終了まで、上記効果を全てのタイプに対して適用する。
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「お、おお~……カブトムシかぁ」
リンよりも先に集合場所へ来ていたユウは、入手したばかりのレアカードを見せてきた。
大きな角を振りかざし、翼で羽ばたくカブトムシ型のユニット。
分かりやすいくらい攻撃力で押していくタイプだ。
「『かぁ』って何だよ。
男の憧れ、カブトムシの★3レアだぞ!」
「いや、あたしは男の子じゃないし」
大騒ぎをするほど嫌いじゃないけど、憧れるほど好きでもないというのが、虫に対するリンの価値観だ。
さすがにムカデなどは勘弁してほしいが、カブトムシなら、まあいいか。くらいである。
「見てのとおり植物に対して超強い!
ってことで、植物モンスターが出たら俺に任せてくれ!」
「特効の範囲狭いなぁ……
ミッドガルドにどれくらい植物がいるのかは知らないけど」
「で、お前のほうはどうだったんだ?
愚かな妹のことだから、ショッピングにでも夢中になっているんじゃないかと、兄は心配していたんだが」
「うぐ……っ!
だ、大丈夫、いっぱいトレードしてきたよ!
兄貴なんて鼻の下を伸ばしてびっくりするくらい、きれいなお姉さんとフレンドになったし」
「ほぉ~う?
ちなみに俺は女が言う『可愛い』とか『きれい』は信じない。もう絶対にな!」
「……『もう』?」
過去に何かあったようなことを匂わせる兄の言葉。
それを問いただそうとしたところで、ステラとクラウディアがやってくる。
「おかえり~! 2人とも、どうだった?」
「私のほうは、そこそこ……ですね。
【全世界終末戦争】みたいなカードは、やっぱり出回ってないみたいです。
なので、手の届く範囲で妥協しちゃいました」
「そっか、最終兵器が手に入りやすかったらヤバイもんね……」
「私は、なかなかいい取引ができたわ。
ふふふ……リン、今度戦うときは完全にすり潰してあげる!」
「えぇ~っ、あれ以上に強くなったの!?」
苦笑するステラとは対象的に、クラウディアは胸を張って成果を語る。
それぞれに3時間を過ごし、手持ちのカードに変化があったようだ。
「リンは、どうでした?」
「うん、ばっちり!
探索用のユニットとか、決闘で使えそうな装備品とか、他にも色々!
でねー、さっそくやりたいことがあるんだけど」
■ ■ ■
そして、一行が向かったのは南国の孤島。
マイルームで緑色のクリスタルを取り出したリンは、手に入れたばかりのカード3枚をペット化する。
「よ~し、まずは【タイニーコボルド】ちゃん!」
「わぅ~!」
Pets――――――――――――――
【 タイニーコボルド 】
とても人懐こい犬型の亜人。こう見えても土精であり大地の守り神。
金属元素のCoは、コボルドが魔法をかけた石という言い伝えが名の由来である。
タイニーコボルドは幼く、やんちゃで甘えん坊。
食物は肉であれば種類を問わない。
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最初にカードから出てきたのは、モフモフの獣毛に身を包んだ犬耳の幼女。
すぐさまリンを主人と認識したらしく、尻尾を振って見上げてくる。
「次は【アルルーナ】ちゃん!」
「…………ぷぅ」
Pets――――――――――――――
【 アルルーナ 】
植物系モンスターの子供。マンドラゴラの亜種。
成長個体の『アルラウネ』は森の頂点捕食者であり、人間など養分でしかない。
しかし、子供の頃から育てれば従順で、飼い主を豊かにするという。
日光と水を好み、肉や魚を与えると消化吸収する。
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続いて出てきたのは、緑色をした植物のような幼女。
活発なコボルドとは正反対に、とても静かで動こうとしない。
半分閉じたような目で無表情だが、その目はリンに向けられている。
「そして、そして~、【ネレイス】ちゃん!」
「きゅーい!」
Pets――――――――――――――
【 ネレイス 】
神々の血統である下級女神の子供。
海の恵みを人々に与える一方、いたずら好きで船を惑わせたりもする。
どれだけ水中にいても溺れることはなく、陸の上でも平気。
好物は魚だが、人間とほぼ同じものを食べられる。
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イルカのような声で飛び出したのは、人魚に似た青い肌の幼女。
整った顔立ちで、いずれ神をも惑わす美女になりそうだが、まだまだ幼い。
「わはぁ~っ、みんな可愛い~!
これから、よろしくね!」
「わう!」
「ぷぃ」
「きゅ~」
人の言葉は話さないが、リンが言っていることは分かるらしい。
三者三様、タイプや姿がバラバラな子供たちの頭を撫でてあげると、うれしそうな表情で喜んでくれた。
可愛い幼女ユニットに囲まれたリンは、もはやデレデレである。
「おいおい、幼稚園でも始めるつもりか?」
「家族でもいいよ。あたしがママってことで!」
「すまん、それはやめてくれ……
妹に先を越されて独身の叔父になるとか、リアルすぎて笑えん」
兄は半ば呆れ気味だが、女子たちは好評が寄せられる。
「へぇ~、『モンスター・フェアリーズ』。
こうしてペットになった姿を見ると、けっこう可愛いわね」
「人型をペットと呼ぶのは、ちょっと抵抗がありますけど……
でも、ルームの中が賑やかになりましたね。
たしかに幼稚園みたいです」
「えへへ~、こんな子たちと毎日一緒だなんて幸せすぎるよ。
ここはお家だから、みんな好きに遊んでね」
「きゅい!」
リンがそう言うと、真っ先に【ネレイス】がログハウスから飛び出した。
外に広がる大海原を見てキラキラと目を輝かせると、勢いよく水中に飛び込んでいく。
その後に続いたのは、【アルルーナ】だった。
体の下部は完全に植物なのだが、根っこを器用に動かしてウネウネと進む。
やがて太陽の当たる屋外へ出ると落ち着き、そこで静かに日光浴を始めた。
「それぞれ好きな場所があるみたいだね。
ルームを南国のビーチにして良かったかも!
……って、あれ?
コボルドちゃんは行かないの?」
「わう!」
最初に走っていきそうな元気っ子だが、【タイニーコボルド】は尻尾を振って主人を見上げていた。
まるで犬がそうするかのように、飼い主から離れようとしない。
「そっか~、あたしの近くがいいんだね。
可愛いなあ、もう~……ん? んんっ?」
コボルドの体を撫でようとしたリンだが、触れる直前で空中に『PROTECTED』と真っ赤な文字が表示され、手が通り抜けてしまう。
試しに頭を撫でてみると、これは普通にできる。
しかし、首から下に触れようとした途端、そこに何もないかのように手が通り抜けてしまうのだ。
「あれ……あれ? どうして?」
「前にも言ったろ、人型ユニットの体にはプロテクトがかかってるんだ」
「コンプライアンス違反という、大人の事情ですね」
「このゲームは米国製だから、そういうところは厳しいわよ。
フレンド同士でも許されるのはハグまで。
握手とか、手をつないだりはできるけどね」
人間ではないのだが、人の姿に近いユニットはシステムで保護されているらしい。
プレイヤーたちも同様で、海外で一般的な挨拶になっているハグまではOK、キスはNGという線引きがなされていた。
「あ、ああ~、なるほど……握手はできるのかな?」
リンが手を差し出してみると、コボルドはクンクンと匂いを嗅いでから両手で挟むように握ってきた。
手の形状は犬の足を大きくしたような感じだが、物を掴むことはできるようだ。
プニプニとした肉球の感触まで作り込まれていて、とても触り心地がよい。
「よ~しよし、いい子だね~。
こういう子たちが増えると、今のルームじゃ狭くなっちゃうかも」
「一緒に住む子が絡んでくると、ルームの沼はいよいよ深くなりますよ」
「本当に幼稚園みたいになったりしてな。
だが、前にここで話し合ったように、ペットを増やすためにはクリスタルが必要だ。
そのクリスタルはミッドガルドにしかない」
「そして、ミッドガルドにペットを連れて行くと探索を手伝ってくれる。
この全てがつながっていると想定して、これから本格的に攻略していくわよ」
「うん、そうだね。
準備もできたことだし、幻のウルトラレアを目指して頑張ろ~!」
改めてミッドガルド攻略に意気込む4人。
まだ見ぬ秘境でのフィールド探索に、リンは期待で胸を弾ませるのだった。
これにて2章の完結となります!
クラウディアを仲間に加え、新しいユニットも手に入れたところで、いよいよミッドガルドの奥地に挑戦です。
ここで一旦、今まで書いた部分の手直しをしたいと思います。
カード効果や話の展開は変わりませんが、大きな変化になるのがリンの一人称。
「私」のキャラが多くなってしまったので、リンを「あたし」に変えようと思っています。
その他、手を加えた部分は活動報告に記載する予定です。




