第4話 基本ルール
「ん~……ふむ……ふむ……」
その日の夜、ベッドに寝転んでスマートフォンの画面を眺めながら、涼美は情報を集めていた。
まずは公式ホームページへ行き、ルールブックを読み漁る。
実際にプレイしないと分からないことも多いが、特に難しい部分はなく、カードゲームとしてはオーソドックスにまとまっていた。
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●対人戦用基本ルール
事前にデッキを用意し、1対1のプレイヤーで決闘を行う。
バトルフィールドにユニットを配置し、それらを戦わせることで決着を付ける。
【 デッキ 】
下限40枚、上限60枚で構成されたカードの束。
同種同名のカードは3枚まで入れることが可能。
デッキに組み込んだカードはシステムによって自動的にシャッフルされる。
【 ライフ 】
初期値4000。
これがゼロになるか、デッキがなくなった状態でドローを行うと敗北する。
【 ドロー 】
デッキからカードを引くこと。基本的には自分のターン開始時に1枚引く。
特殊な状況でない限り、ドローは必ず行わなければならない。
【 初期手札 】
ゲーム開始時、お互いのプレイヤーは手札が5枚になるようにデッキからカードを引く。
この行動はドロー扱いにならない。
手札にユニットカードが1枚もない場合、全ての手札をデッキに戻して引き直しができる。
【 先攻/後攻 】
ゲームのプログラムにより、先攻と後攻は自動で割り振られる。
先攻の場合、1ターン目のドローと攻撃はできないが、先にカードを使用できるため優位となる。
その差を補うべく、カードには後攻の場合のみ特殊な効果を発揮するものがある。
【 ターン 】
このカードゲームは自分と相手が交互に行動を行う『ターン制』で進行する。
自分のターンでは以下のことができる。
ドローとターンエンド宣言は必ず行わなければならないが、それ以外は任意で選べる。
・ドロー ※必ず最初に行う。
・ユニットの召喚
・プロジェクトカード、リンクカード、カウンターカードの使用
・攻撃
・ターンエンド宣言 ※必ず最後に行う。
相手のターンになると以下の行動しかできなくなり、基本的にガードを行って攻撃を耐えることになる。
・防御
・カウンターカードの使用 ※相手のターンでも使用可。
【 ユニット 】
フィールドに配置されたモンスターや戦士などのキャラクターを指す言葉。
これらを戦わせることが本作の主軸となる。
基本的にユニットは1ターンに1体のみ召喚可能。
各ユニットには【タイプ】、【レアリティ】、【基礎攻撃力/基礎防御力】、【効果】などが設定されている。
【 ユニットの特殊効果 】
全てのユニットは何らかの特殊効果を持っている。
効果の内容や発動のタイミングはカードに記述された文章に準ずる。
【 プロジェクトカード 】
自分のターンのみ使用可能。
1ターンで終わるものから長続きするものまで、効果は多種多様。
効果範囲がとても広く、フィールドにいる複数のユニットに影響することが多い。
【 リンクカード 】
自分のターンのみ使用可能。
ユニットに装備させる武器や防具。
効果時間は永続だが、装備したユニットが倒されると同時に破棄される。
リンクカードはユニット1体につき1枚しか装備できない。
【 カウンターカード 】
いつでも手札から使用可能。
とても便利な半面、効果時間が極めて短い。
【 アタックとガード 】
自分のターン中のみ、ユニットを使って攻撃を宣言することが可能。
攻撃された側は自身が所有するユニットを選んで防御を宣言し、防御できるユニットがいないとプレイヤー自身が直接攻撃を受けてしまう。
ユニットで防御したくない場合はガード宣言せず、プレイヤーがダメージを肩代わりすることもできる。
基本的に攻撃は1ターンにつき1ユニット1回まで可能。
防御側は生存している限り何回でもガードできる。
【 バトルの処理とダメージ 】
『アタック側の攻撃力 - ガード側の防御力 = ダメージ』
この結果がマイナスの場合は防衛成功となり、何も起こらずにバトルが終了する。
攻撃側が上回った場合はガードしたユニットが破棄され、さらに差が貫通ダメージとなって防御側のプレイヤーに与えられる。
アタック側の攻撃力とガード側の防御力が同値の場合、防御側のユニットは破棄となる。
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「なるほど、ユニットを出して攻撃。攻撃された側は防御。
防御よりも攻撃のほうが高いとやられちゃう。
だから、いろんなカードを駆使して、ユニットを強化したり妨害したりって感じかな」
基本の部分は簡単なので、ルールブックを開いても理解不能というわけではなかった。
「ん? 【ユニットの特殊効果】?
講習会で召喚したユニットには、そんなものなかったけど……
チュートリアルだから省いたのかな」
司会進行のウェンズデーも、『今回は説明を省きましたが、もっと色々な戦略性があります』と言っていた。
実際のところ、どんなものなのかは見てみないと分からない。
「とりあえずカードを集めて、色々知っていかないと何も始まらないよね。
っていうか、あたし……なんでこんなにやる気出しちゃってるんだろ?」
スマホを手放した涼美はベッドの上で仰向けになり、天井を見上げながら今日のことを思い返す。
VRの世界は想像以上にすごかった。
あの仮想空間だからこそできる、カードから飛び出したユニット同士の戦い。
もしも、自分がデッキを組んで戦ったら、どんな感じになるだろう。
そう思うだけで胸の奥からワクワクとした気持ちが浮かび上がる。
そして――今の涼美を縛るものは何もない。
「えへへ……よ~し! 遊んじゃおう!」
真宮涼美、中学2年生。
その好奇心は春に芽吹いた草花のごとく、成長期の真っただ中にいた。