表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
49/297

第24話 充実のラインナップ

 仮想世界にフルダイブして大人のお姉さんと出会う。

 そんな夢のようなシチュエーションが今、目の前で実現していた。

 ふわっとした雰囲気の美しい女性が、ずっと聞いていたくなるような優しい声で話しかけてくる。

 対するリンは、ヘビに(にら)まれたカエルのように汗を流し、緊張でカチカチに固まっていた。


「コモンやアンコモンならたくさん持ってますけど、どういうものをお求めですか?」


「ああっ、え……え~と……あの、アレ。

 ミッドガルドに行きまして、ですね!

 鉱石を採取できるような子が欲しいなって……」


「なるほど、ミッドガルドの冒険者さんでしたか。

 少し待っててくださいね」


 こくりと(うなづ)いて、女性はコンソールを操作し始める。

 その指先から仕草まで何もかもがきれいで、同性ですらボーッと見とれてしまいそうだ。


「この子なんて、どうですか?

 ちょっとしたユニーク能力も持ってますよ」


Cards―――――――――――――

【 タイニーコボルド 】

 クラス:コモン★ タイプ:悪魔

 攻撃400/防御200

 効果:このユニットがバトルによって破棄されたとき、相手プレイヤーに防御力と同数のダメージを与える。

 スタックバースト【鉱脈への導き】:瞬間:デッキからカードを1枚ドローする。

――――――――――――――――――


 女性がトレード候補として提示したのは、小さな女の子が描かれたユニットカード。

 コボルドという西洋の妖精で、半獣半人の姿をしている。

 見た目はかなり小さな女の子、人間でいえば10歳くらい。

 全身がモフモフとした獣毛に覆われ、大きな犬耳と尻尾、そして犬のような足が特徴的だ。


「かっっっっっわ!!」


 リンには”そっち方面”の趣味はないというか、現役中学生でそんな嗜好に目覚めていたらヤバイのだが、とにかく可愛いものが大好きだ。

 そんな彼女の好みに直球ストライクなカードを提示され、リンは2つ返事でトレードを了承した。


「この子で! ぜひ、この子でお願いします!」


「ふふふ、気に入ってもらえてよかったです。

 スタックバーストのぶんも欲しいですか?」


「欲しいですけど……いいんですか?

 あたしのほうは出せるカードが少なくて……」


「コモンなので、気にしなくても大丈夫です。

 本当に反応が素直ですね。

 じゃあ、こっちの子もどうでしょう?」


「ありがとうございます!

 って、まだあるの!?」


Cards―――――――――――――

【 アルルーナ 】

 クラス:コモン★ タイプ:植物

 攻撃200/防御400

 効果:このユニットが召喚されたとき、自プレイヤーのライフを200回復させる。4000以上にはならない。

 スタックバースト【絡みつくツタ】:瞬間:ターン終了まで、目標のユニット1体の攻撃力を、このユニットの防御力と同じ数値だけ下げる。

――――――――――――――――――


 続いて提示されたのは、先程と同じく女の子の姿をした亜人系ユニット。

 全身の肌が緑色でツタや葉っぱに覆われ、いずれ美しく咲きそうな花のつぼみが付いている。

 一般的にアルラウネと呼ばれる植物モンスターの子供といった感じだ。


「うはぁ~、こっちも可愛いぃ~~~っ!

 さっきの子とは、攻撃と防御のステータスが逆みたいですけど」


「あら、冷静に観察してるんですね。

 この子たちは同じ時期に追加された『モンスター・フェアリーズ』っていうカードなんです」


「そうなんですか、モンスター・フェアリーズ……

 『ズ』っていうことは、他にも?」


「ふふ、抜け目がないですね。

 他にも、こんな子がいますよ」


Cards―――――――――――――

【 ネレイス 】

 クラス:コモン★ タイプ:水棲

 攻撃300/防御300

 効果:このユニットは【タイプ:神】として扱うことができる。

 スタックバースト【海原への導き】:永続:自プレイヤーのフィールドにいる【タイプ:水棲】のユニット1体に、このユニットのステータスを加算する。

――――――――――――――――――


 今度は全身が青く、魚のようなヒレや尻尾が生えた女の子。

 海に住む下級女神(ニンフ)の一種であり、これも一般的な人魚というよりは水棲モンスターに近い見た目だ。

 見せてもらったカードは、どれも名の知られた怪物や精霊だが、まだまだ子供らしい愛くるしさに満ちている。


「ほんとに可愛い~~~~!

 しかも、使い方次第では強そう!」


「それぞれタイプが違うので、ミッドガルドの探索で役に立ってくれると思います。

 あなたなら大事に使ってくれそうですね」


「はいっ、もちろん大事にします!

 えっと……お名前はHALCA(ハルカ)……さん?」


「名前の入力にカタカナを使えるのが分からなくて、英字になってしまったんですよ。

 あなたはリンちゃんですね」


 お互いのアバター名は対戦だけではなく、トレードのときにも表示される。

 こんなきれいな人に名前を呼んでもらうと、いよいよ恥ずかしい。

 出すカードは適当で良いというのでリンは9枚のコモンを渡し、3種類のユニットを3枚ずつ(ゆず)ってもらった。

 トレードが終わる頃には少しずつ打ち解け、笑顔を交わせるようになっていく。


「本当にありがとうございます、ハルカさん。

 いいカードをもらえて助かりました」


「いえいえ、こちらこそ。

 それだけカードが少ないということは、始めたばかりの初心者さんですか?

 服はとっても可愛いですけど」


「実はそうなんです、始めてから3週間くらいで……

 この服も普通は買えないはずなのに、運良く手に入っちゃった感じでして。

 あはは……ぜんぜん実力が追いついてないんですよね」


「そんなことはないと思いますよ。

 カードの絵柄だけじゃなくて、ちゃんと効果やステータスまで見る目、そのときは真剣になってましたよね」


「そ、そうですか?

 自分では、そんなこと分からないんですけど……」


 優しげに笑っているが、ハルカのほうこそ鋭い目を持っているのではないかと、リンは薄々ながらに感じていた。

 このゲームのプレイヤーということは、彼女も決闘(デュエル)をたしなんでいるはずだ。

 どれほどの腕前なのか気になるが、イベントの時間は刻々と進んでいる。


「ああ~、もうこんな時間!

 もっといろんなカードを集めないと!

 すみません、バタバタしちゃって」


「頑張ってくださいね。

 よかったら、フレンド登録しておきます?」


「ええ~~っ、いいんですか!?」


「ええ、もう少しお話をしてみたいですし。

 リンちゃんが好きそうな可愛いカードも、たくさんありますから」


「あわわわわ、あ、あたしのような不束者(ふつつかもの)でよければ……!」


 こうして夢のような時間が過ぎ、フレンド登録を交わしたハルカと別れて、リンは次のトレード相手を探し始めた。

 彼女の姿は人混みに消えて見えなくなってしまったが、可愛いカードと人脈という収穫を得たことで、俄然(がぜん)やる気にエンジンがかかる。


 その後も集合時間になるまで、リンは色々なプレイヤーとトレードを交わして、手持ちのカードを充実させたのだった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[気になる点] 「うはぁ~、こっちも可愛いぃ~~~っ!  このスタックバースト、さっきの子と系統が似てますね」 この部分なんですけど、アルルーナのスタックバーストがデッキの上のカードの確認から相手モン…
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ