第24話 充実のラインナップ
仮想世界にフルダイブして大人のお姉さんと出会う。
そんな夢のようなシチュエーションが今、目の前で実現していた。
ふわっとした雰囲気の美しい女性が、ずっと聞いていたくなるような優しい声で話しかけてくる。
対するリンは、ヘビに睨まれたカエルのように汗を流し、緊張でカチカチに固まっていた。
「コモンやアンコモンならたくさん持ってますけど、どういうものをお求めですか?」
「ああっ、え……え~と……あの、アレ。
ミッドガルドに行きまして、ですね!
鉱石を採取できるような子が欲しいなって……」
「なるほど、ミッドガルドの冒険者さんでしたか。
少し待っててくださいね」
こくりと頷いて、女性はコンソールを操作し始める。
その指先から仕草まで何もかもがきれいで、同性ですらボーッと見とれてしまいそうだ。
「この子なんて、どうですか?
ちょっとしたユニーク能力も持ってますよ」
Cards―――――――――――――
【 タイニーコボルド 】
クラス:コモン★ タイプ:悪魔
攻撃400/防御200
効果:このユニットがバトルによって破棄されたとき、相手プレイヤーに防御力と同数のダメージを与える。
スタックバースト【鉱脈への導き】:瞬間:デッキからカードを1枚ドローする。
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女性がトレード候補として提示したのは、小さな女の子が描かれたユニットカード。
コボルドという西洋の妖精で、半獣半人の姿をしている。
見た目はかなり小さな女の子、人間でいえば10歳くらい。
全身がモフモフとした獣毛に覆われ、大きな犬耳と尻尾、そして犬のような足が特徴的だ。
「かっっっっっわ!!」
リンには”そっち方面”の趣味はないというか、現役中学生でそんな嗜好に目覚めていたらヤバイのだが、とにかく可愛いものが大好きだ。
そんな彼女の好みに直球ストライクなカードを提示され、リンは2つ返事でトレードを了承した。
「この子で! ぜひ、この子でお願いします!」
「ふふふ、気に入ってもらえてよかったです。
スタックバーストのぶんも欲しいですか?」
「欲しいですけど……いいんですか?
あたしのほうは出せるカードが少なくて……」
「コモンなので、気にしなくても大丈夫です。
本当に反応が素直ですね。
じゃあ、こっちの子もどうでしょう?」
「ありがとうございます!
って、まだあるの!?」
Cards―――――――――――――
【 アルルーナ 】
クラス:コモン★ タイプ:植物
攻撃200/防御400
効果:このユニットが召喚されたとき、自プレイヤーのライフを200回復させる。4000以上にはならない。
スタックバースト【絡みつくツタ】:瞬間:ターン終了まで、目標のユニット1体の攻撃力を、このユニットの防御力と同じ数値だけ下げる。
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続いて提示されたのは、先程と同じく女の子の姿をした亜人系ユニット。
全身の肌が緑色でツタや葉っぱに覆われ、いずれ美しく咲きそうな花のつぼみが付いている。
一般的にアルラウネと呼ばれる植物モンスターの子供といった感じだ。
「うはぁ~、こっちも可愛いぃ~~~っ!
さっきの子とは、攻撃と防御のステータスが逆みたいですけど」
「あら、冷静に観察してるんですね。
この子たちは同じ時期に追加された『モンスター・フェアリーズ』っていうカードなんです」
「そうなんですか、モンスター・フェアリーズ……
『ズ』っていうことは、他にも?」
「ふふ、抜け目がないですね。
他にも、こんな子がいますよ」
Cards―――――――――――――
【 ネレイス 】
クラス:コモン★ タイプ:水棲
攻撃300/防御300
効果:このユニットは【タイプ:神】として扱うことができる。
スタックバースト【海原への導き】:永続:自プレイヤーのフィールドにいる【タイプ:水棲】のユニット1体に、このユニットのステータスを加算する。
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今度は全身が青く、魚のようなヒレや尻尾が生えた女の子。
海に住む下級女神の一種であり、これも一般的な人魚というよりは水棲モンスターに近い見た目だ。
見せてもらったカードは、どれも名の知られた怪物や精霊だが、まだまだ子供らしい愛くるしさに満ちている。
「ほんとに可愛い~~~~!
しかも、使い方次第では強そう!」
「それぞれタイプが違うので、ミッドガルドの探索で役に立ってくれると思います。
あなたなら大事に使ってくれそうですね」
「はいっ、もちろん大事にします!
えっと……お名前はHALCA……さん?」
「名前の入力にカタカナを使えるのが分からなくて、英字になってしまったんですよ。
あなたはリンちゃんですね」
お互いのアバター名は対戦だけではなく、トレードのときにも表示される。
こんなきれいな人に名前を呼んでもらうと、いよいよ恥ずかしい。
出すカードは適当で良いというのでリンは9枚のコモンを渡し、3種類のユニットを3枚ずつ譲ってもらった。
トレードが終わる頃には少しずつ打ち解け、笑顔を交わせるようになっていく。
「本当にありがとうございます、ハルカさん。
いいカードをもらえて助かりました」
「いえいえ、こちらこそ。
それだけカードが少ないということは、始めたばかりの初心者さんですか?
服はとっても可愛いですけど」
「実はそうなんです、始めてから3週間くらいで……
この服も普通は買えないはずなのに、運良く手に入っちゃった感じでして。
あはは……ぜんぜん実力が追いついてないんですよね」
「そんなことはないと思いますよ。
カードの絵柄だけじゃなくて、ちゃんと効果やステータスまで見る目、そのときは真剣になってましたよね」
「そ、そうですか?
自分では、そんなこと分からないんですけど……」
優しげに笑っているが、ハルカのほうこそ鋭い目を持っているのではないかと、リンは薄々ながらに感じていた。
このゲームのプレイヤーということは、彼女も決闘をたしなんでいるはずだ。
どれほどの腕前なのか気になるが、イベントの時間は刻々と進んでいる。
「ああ~、もうこんな時間!
もっといろんなカードを集めないと!
すみません、バタバタしちゃって」
「頑張ってくださいね。
よかったら、フレンド登録しておきます?」
「ええ~~っ、いいんですか!?」
「ええ、もう少しお話をしてみたいですし。
リンちゃんが好きそうな可愛いカードも、たくさんありますから」
「あわわわわ、あ、あたしのような不束者でよければ……!」
こうして夢のような時間が過ぎ、フレンド登録を交わしたハルカと別れて、リンは次のトレード相手を探し始めた。
彼女の姿は人混みに消えて見えなくなってしまったが、可愛いカードと人脈という収穫を得たことで、俄然やる気にエンジンがかかる。
その後も集合時間になるまで、リンは色々なプレイヤーとトレードを交わして、手持ちのカードを充実させたのだった。




