第21話 楽しいボックス開封
温かい南国に浮かぶ孤島。
ほんの少しでも高波が来たら水没してしまいそうなほど小さいが、VRの世界には自然災害などない。
かろうじて建築が可能な陸地にはログハウスが建てられ、屋根の上で南国の鳥ユニット【トロピカルバード】が羽休めをしていた。
白い砂浜でスヤスヤと昼寝をしているのは、リンが特に可愛がっている飛竜の子供【ブリード・ワイバーン】。
そんな平和な光景の中、突如として興奮に満ちた少女の声が響き渡る。
「おおおお~~~~っ!
こ……このカードは……!」
Cards―――――――――――――
【 兵器工場 】
クラス:アンコモン★★ プロジェクトカード
効果:自プレイヤーのデッキの中からリンクカードを1枚手札に加える。
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31パックも立て続けに開封する儀式を進めていたリンは、★2アンコモンを手にして歓喜の声を上げた。
カードの効果は実にシンプル。
好きな装備品をデッキから1枚調達できるため、彼女の戦略と非常に相性が良い。
「めっちゃいいじゃな~い、これ!」
「ステラちゃんの前で使ったら、同じことされるけどな」
「うぐ……っ!
たしかにハイランダーが相手だとまずいかぁ」
「そこまで気にしなくても大丈夫ですよ。
そのカードはリンのデッキを動かす強力なエンジンになります」
「ハイランダーっていうのは、あくまでもドロー系のカードばかりにならないように、抑止力として設けられた措置。
適度なドローなら問題ないと思うわ」
パックを開封していくリンを囲んで、ユウ、ステラ、クラウディアが言葉を交わす。
初心者がボックスを開ける姿を見るのは、周囲のプレイヤーたちにとっても楽しいことなのだ。
と、そうしているうちに、また新しい1枚を引く。
Cards―――――――――――――
【 前人未到の大密林 】
クラス:アンコモン★★ プロジェクトカード
効果:フィールドをジャングルに変更し、自プレイヤーが所有する【タイプ:動物】のユニット全てに攻撃+300。
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「おお~っ、それ欲しい! 後で交換してくれ!」
リンが初見のプロジェクトカードを手にした直後、魔獣のレアカードを扱うユウが真っ先に声を上げた。
たしかに彼にとっては有益な効果だろう。
「いいけど、ジャングルの王様にでもなるつもり?
その暑苦しい服、絶対合わないと思うな~」
「うるせぇ! 俺の見た目は関係ねえだろ!」
「まあ、兄上様がどうしてもっていうなら?
いい感じのカードを出してくれれば交渉に応じますけど?」
「くっ……1枚のアンコモンで上から目線になりやがって……!
分かった、分かった。用意しておくよ」
お互いに悪態をついているが、決して仲が悪いわけではない。
言いたい放題に言葉をぶつけあう兄妹を見ながら、少し距離を置いたステラとクラウディアは小声で笑う。
「あの2人、いつもあんな感じなの?」
「そうですね、お兄さんの前だとリンは強気になっちゃうみたいです」
「へぇ~、ウチは上も下も女ばかりだけど……
男の兄弟がいたら、ああいう風になってたのかしら」
「あ、ご姉妹がいるんですね。
私は1人っ子なので、ちょっとうらやましいです」
南国のログハウスで、ワイワイと賑やかに進む開封式。
新しく仲間になったクラウディアも、リンやステラと同学年だからか、すぐに打ち解けていた。
そんな中で次にパックから取り出されたのは、見覚えのある1枚。
★1のコモンだが、使われた状況をハッキリと思い出せる。
Cards―――――――――――――
【 パワースレイヴ 】
クラス:コモン★ カウンターカード
効果:1ターンの間、目標のユニット1体に攻撃+200。
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「おお~、これは兄貴が使ってたやつ!」
「効果は低いが、手軽に攻撃力を上げられるカードだ。
実はそれ、相手のユニットにも使えるんだぜ」
「そうなの?」
「自分にしか使えない場合は『自プレイヤーが所有しているユニット』みたいに、ちゃんと効果範囲が書かれてるんです。
何も書いてなければ、相手にも使えるっていう解釈になります」
「なるほど……でも、わざわざ相手の攻撃力を上げるなんて、普通はしないよね?」
「基本的には、そうね。
でも、相手にも使えるっていうことは憶えておくといいわよ。
決闘では何が起こるか分からないし、あらゆる戦略を考えてこそ優秀なプレイヤーといえるわ」
「う~む……たった1枚の★1コモンでも奥が深いなぁ。
ところで、ぜんぜんレアが出ないんですけど!」
ボックスの半分ほどを開けてみたが、レアが出る気配はまるで無し。
有用なアンコモンを手に入れたものの、ボックスを買ったのは交換交流会に持っていけるレアカードを得るためだ。
「欲しいと思っただけで出るなら、苦労はしないんだよなぁ。
無課金プレイじゃ、3ヶ月に1枚くらい手に入ればラッキーだぞ」
「このゲームはレアカードが希少ですからね。
ミッドガルドで★3ユニットが手に入るのは、かなりの緩和になってるんです」
「レアって相当な資産なんだね。
あたしが思っていたより、ずっと――」
と、ここでパックを開けるリンの手に変化が起こった。
【アルテミス】を引いたときほど運命を感じるものではないが、明らかに異質な気配が漂ってくる。
美しい月の女神とは真逆に、危険極まりない雰囲気に満ちた嫌な気配。
ビリビリと感じる悪寒に震えながら、パックの中からカードを引っ張り出してみると――
Cards―――――――――――――
【 全世界終末戦争 】
クラス:レア★★★ プロジェクトカード
効果:発動の際にユニットを1体指定する。
フィールド上に存在する全てのユニットに、指定したユニットの攻撃力と同数のダメージを与える。
この効果はバトル扱いではなく、貫通ダメージも発生しないが、ダメージが防御力に達したユニットは全て破棄される。
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「は……?」
「え……? こ……これって……!」
「な……なん……だと……!」
「そんな……うそでしょ……!?」
カードの効果を読んで理解しようとするリンの周囲で、覗き込んでいた面々が顔色を変えていく。
間違いなく★3のレアカード。
全体的に赤黒いデザインで、ドラゴンや神々を巻き込む核爆発のような絵柄が描かれている。
やがて、リンがその効果を理解したとき、全員の声が絶叫へと変わっていた。
「「「「うわあああああああーーーーーーーっ!!」」」」




