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第20話 レアなカードが欲しいです

「レアカード、ですか」


「うん、みんなババーンと派手なのを使ってるでしょ。

 あたしもこう……これだっていうカードが欲しいんだよね」


「★4を使ってるマスターに、そんなことを言われても……」


 中学校の教室で昼食を取りながら、2人の女子生徒が話しあっていた。

 片方は”リン”こと真宮(まみや)涼美(すずみ)

 もう片方は仮想世界で”ステラ”を名乗っている寺田(てらだ)すみれ。

 このところ魔女の姿が目に焼き付いてしまったので混乱しそうになるが、こうしてセーラー服を着た姿のほうが付き合いは長い。


 2人ともVRの世界に住んでいるわけではないので、平日は学校に通っている。

 もともとリアルで面識があった2人は、同じゲームのプレイヤーになったことで、以前よりも仲の良さが増していた。


「ステラは何枚くらい持ってるの、レアカード」


「デッキに入れてないのを含めると20枚ほどですね。

 といっても、ほとんどミッドガルド産ですが」


「ミッドガルドのカードかぁ~、たしかにスピノ親分には助けられたよ。

 あのターンに引けなかったら負けてたもん」


「リプレイ機能で2人の戦いを見ましたけど、かなりの激戦でしたね。

 まさか、あのクラウディアから1本取るなんて」


「特別なルールで勝たせてもらったっていう感じだけどね。

 ステラとの勝負だって、本当は負けてたと思う。

 勝ちらしい勝ちは、ウチの兄貴を倒したときくらいかな……」


 リンは3連勝中だが、ステラとの戦いは相手のプレイミスに助けられ、クラウディアは特殊ルールでの1本勝ち。

 本気を出して実力で勝った決闘(デュエル)が少ないことは、リンの中でも課題になっていた。


「それで、どうしてレアカードが欲しいと思ったんですか?」


「かっこいいから!」


「かっこいい」


「あと、すごく強い!」


「すごく強い」


「えっと……オウムになってない?」


「あはは、つい言葉の勢いに釣られて。

 つまりは急を要したわけじゃなくて、なんとなく気分でレアが欲しくなったんですね」


 そう言ってフルーツ味の牛乳を飲む寺田すみれは、可憐な少女そのものだった。

 言葉遣いは丁寧で、性格は優しく、学力優秀、物腰もおしとやか。

 凶悪な宇宙生物を使役している魔女だと言われても、クラスメイトの9割以上が信じないだろう。


 良いところのお嬢さんのような見た目だが、すみれは意外と世間ズレした感性の持ち主である。

 幽霊や怪物に対する完全恐怖耐性を持って生まれたため、ホラー映画やお化け屋敷では一切怖がらない。

 また、高所も平気で刃物にも抵抗がなく、危機的状況に陥っても天然ボケでスルーするタイプだ。


「前から思ってたんだけど、寺田さんはどうしてカードゲームを始めたの?」


「ウチは両親が共働きで、兄弟もいなくて、マンションはペット禁止で。

 家にいても、ひとりの時間が長くて……

 それでVRの世界で冒険しようと思っていたときに、テレビのCMを見たんです」


「あ~、知ってる! コンタローが出てるヤツでしょ?

 『ラヴィアンローズなのだ~!』って」


「そうそう、それです」


 最初の頃に会ったきりだが、コンタローは日本ワールドを象徴するマスコット。

 丸っこいキツネの姿をしていて、ゲームの内外でキャラクターグッズが販売されていたりする。


「あ……コンタローといえば……」


「といえば?」


「そうです、あのイベントがありました!

 月に一度だけ、カードの交換交流会をやってるんです。

 運営側の公式イベントなので、コンタローも来てくれますよ」


「交換交流会!

 なんだか楽しそうだけど、参加するには交換用のカードが必要だよね?」


「今週末なので、それまでにパックを開けて何か用意するとか……

 一応、コモンやアンコモンを扱ってる人もいますけどね」


「う~む……たしかに、あたしはカードが少ないから、そういう場所があると助かる。

 でも、できればレアを持っていきたいなぁ~」


 レアカードが欲しいので交換用のレアを用意する。

 その時点で本末転倒になりかねないのだが、見聞を広めるというだけでも十分プラスになるだろう。

 好物の『チョコレートとカスタードが半分ずつ入ってるパン』をかじりながら、リンは初めての交換交流会に夢をはせた。



 ■ ■ ■



「というわけで、買っちゃいました!」


「うひゃ~、ボックス買いかよ!」


 その日の夜、リンのマイルームである南の孤島に4人のプレイヤーが集まっていた。

 部屋主のリンに、真っ黒なユウ、魔女のステラ、軍服のクラウディア。

 彼女たちはテーブルの上に置かれたものを見て、期待と苦笑を顔に浮かべている。


「31パック入りのワンボックス。

 一気に155枚もカードが手に入るなら、レアが出なくても今のリンには大きいわね」


「1パックおまけで付いてくるのが、ボックス買いの良いところですよね。

 課金でもしない限り、滅多に買えませんけど」


「まあ、ポイントは6000以上もあったからね。

 これも女神様の恩恵ってことで」


 リンが多額のポイントを支払って買ったのは、カードゲーマーの憧れであるワンボックス。

 いわゆる箱買いであり、1箱に31パックも入っている。


 カードゲームのボックスは、仲間を呼んでワイワイと開けるのが楽しい。

 そんな兄の言葉もあり、リンはフレンドが見守る中で初めてのボックスを開封することにしたのだ。


「よ~し! それじゃあ、開けてみよ~!」

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