表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
44/297

第19話 鋼鉄の機甲師団 その6

【 リン 】 ライフ:100

月機武神アルテミス

 攻撃2600/防御2600

 装備:大怪盗のスーツ

パワード・スピノサウルス

 攻撃2000/防御2000


【 クラウディア 】 ライフ:4000

要塞巨兵ダイダロス《ゴリアテ MkIIIと合体》

 攻撃2300/防御6000

孤高なるスナイパー

 攻撃1000/防御700

 バトルを終えた【アルテミス】は、戦車の砲塔から飛び降りてリンの陣営へと戻る。

 空中で体を回転させ、あざやかなムーンサルトを決める姿は、その瞬間だけ世界から切り取ってスロー再生しているかのようだ。


 華麗なアクロバットを披露して戻ってきた女神は、普段と全く違う姿。

 彼女に装備されたリンクカード【大怪盗のスーツ】は、いかにも夜を駆ける怪盗っぽいコスチュームだ。

 プロポーション抜群の身体が密着したスーツに覆われ、腰のあたりはスリットを入れたミニスカートのようになっている。


「ア……【アルテミス】……その格好、ちょっと大胆すぎない?」


 おそれ多くも(けが)れを知らぬ月の神。

 しかし、その御姿を近距離で見ることになったリンは思わず赤面した。

 ステラが黒猫の女神様をプロデュースしていたので、何か可愛い装備品を付けてみたいものだと思い付き、どうにか手に入れてデッキに投入したスーツ。

 カードの絵柄はRPGの盗賊(シーフ)っぽいデザインなのだが、実際に装備させてみると、女性の魅力が全開すぎて目のやり場に困る。


 そんな見た目をしているにも関わらず、女神が敵から奪ったユニット効果は【ダイダロス】と【ゴリアテ】のもの。

 まるで装甲もないのにダメージを反射する能力はもちろん、貫通ダメージ無効化まで備えた完璧な『絶対防御』を盗んできたのだ。

 代わりに本来の効果であるリンクカードの無限装備がなくなり、【バイオニック・アーマー】は外れて消えてしまった。


「ふ、ふふふふ……!

 【アルテミス】の効果を捨ててまで、そんなカードをデッキに入れるなんて。

 その発想力と使いこなす力……あなた本当に始めて2週間の初心者?」


「いやぁ……色々とね。

 成り行きでこうなったというか……」


「本来、そのカードは私のフィールドにいる【孤高なるスナイパー】みたいに、デメリット効果しか持たないユニットが使うもの。

 ★4が使うと本来の強力な効果を捨てるどころか、対戦相手にゆずってしまう危険なカード。

 でも、まさか……合体して装備品を付けられなくなった【ダイダロス】を狙うとはね。

 ワイバーンを失って戦局が傾いたはずなのに、まるで影響が見られない。

 もう一度聞くけど、あなた本当に初心者?」


「は、はい……初心者、です」


「だとすれば、相当なセンスの持ち主ね。

 認めてあげる。その力は賞賛に(あたい)するわ」


 クラウディアから贈られた言葉に、リンは恥ずかしくなってモジモジし始めた。

 この軍服を着た少女は、まさに軍人のような厳しい物言いをするが、認めた相手のことは素直に()めるようだ。


「え、え~と……話しあってるところで悪いんだけど。

 まだ、あたしのターンなんだよね」


「それは失礼したわ。

 どうやら、この戦いは長くなりそうね」


「そのつもりはないよ。

 長期戦になったら、経験の差でクラウディアには勝てない。

 だから――ここで勝負を決めて、あたしが勝つ!」


「へぇ……リンの手札は残り1枚。

 私のフィールドには、防御力6000の【ダイダロス】。

 たった1枚のカードで戦況を(くつがえ)すなんて、よほどのレアカードを持っているのかしら?」


「いや~、それが★1コモンなんだよね。

 私、始めたばかりだから、レアカードなんて2枚しか持ってなくて」


 苦笑しながら自分のフィールドを見るリン。

 そこにいるのは月の女神と古代生物。彼女が持ちうる数少ないレアカードは、全て出払っていた。


「でも、カードゲームをやってるうちに、これだけは分かったよ。

 たしかにレアカードは強力だけど、決闘(デュエル)はいろんなカードの組み合わせで変わっていく。

 コモンやアンコモンでも、勝負の決め手になるときが来るってね」


 そうしてリンは最後の1枚、手札に持ち続けていたカードを頭上に(かか)げて宣言した。


「プロジェクトカード発動! 【マジック・エンハンス】!」


Cards―――――――――――――

【 マジック・エンハンス 】

 クラス:コモン★ プロジェクトカード

 効果:すでに効果を発動しているプロジェクトカードの効果を1ターン延長する。

 このカードは3ターンに1枚のみ使用可。

――――――――――――――――――


「そのカードは……まさか!」


 再び大きな衝撃を受けるクラウディア。

 ★1なので手に入りやすく、汎用性も高いカードであるため、慣れたプレイヤーなら誰もが知っている1枚だ。

 強い効果を持つプロジェクトカードを延長させたり、特殊なコンボのパーツになったりと、色々な局面で使われる。


「これ、本当は【平和的軍事条約】を延長しようと思ってデッキに入れてたんだよね。

 ワイバーンちゃんを育てるために。

 でも、こういう使いかただってできる!

 延長させるのは、もちろん――クラウディアの【愚かなる突撃命令】!!」


 この瞬間、悪夢のような攻撃強制カードは、リンのターンを通り抜けてクラウディアへと引き継がれた。

 それはまさに、戦場で下された愚かな命令が、巡り巡って祖国に被害を及ぼすかのような歴史の縮図。

 ダメージ反射能力を奪った【アルテミス】に向かって、今度はクラウディアが攻撃させられる番だ。


「ダ……【ダイダロス】の次は、私の突撃命令まで持っていくなんて……!」


「こういうのは、あたしよりもステラのほうが得意なんだけど。

 でも……さっきのお返しに、今度はあたしからプレゼントしてあげるよ!

 最悪なターンエンドをね!」


 こんな状況でのターンエンドは死刑宣告。

 自分の口でそう言ったクラウディア自身に、逆転の判決が突きつけられた。


「う……くっ……私のターン、ドロー!」


 圧倒的に有利な立場から一転、苦境に立たされたクラウディアはデッキからカードを引く。

 しかし、その瞬間――彼女の目は大きく見開かれ、すぐさま攻撃宣言へと移ってきた。


「【孤高なるスナイパー】、攻撃!」


「ふぇっ!? あわわわわわ、スピノ……

 【アルテミス】でガード!」


 カードを引いた途端に、まるで躊躇(ためら)うことなくアタック宣言。

 明らかに状況を打破する『何か』を引いた顔だ。

 急に判断を迫られて慌てふためいたリンは、一瞬だけスピノサウルスに頼るべきか迷ったが、直感で女神にガードさせる。


 直後、戦場に響く銃声。

 はるか後方のスナイパーから撃ち込まれた銃弾を、片手でバリアを張って受け止める【アルテミス】。

 そこに【ダイダロス】から奪った力が流れ込み、バリアは光り輝きながらグォングォンと音を立ててエネルギーチャージを始める。


「(1ダメージでもいい……通って……お願い!)」


 心臓を握られたかような緊張に耐え、祈りながら戦況を見つめるリン。

 対するクラウディアは真剣な表情のまま動かない。

 やがて膨大なエネルギーが臨界に達し、拡散する衝撃となって弾けた。


「これで! 貫けぇええええ!

 衝撃反射(ガーディアンズ)神器装甲(・リフレククター)ーーーーッ!!」


 前のターンに【ダイダロス】から受けた反射攻撃を、そのまま再現させた女神。

 そもそも、そんな必殺技があるのかすら不明だが、リンは自然と技の名前を叫んでいた。


 フィールドに巻き起こる旋風と、全てを飲み込むような閃光。

 それらが少しずつ収まった後、リンが目を開けると――

 クラウディアは微動だにしないまま、軍帽を吹き飛ばされたこと以外、まったく変化がない様子で同じ場所に立っていた。


「うそ……そんな……!」


『クラウディア、残りライフ2400』


「あ……あれ?」


 呆然とするリンの耳にシステム音声が告げたのは、クラウディアのライフ減少。

 あまりにも堂々としているものだから、てっきり反射ダメージを防ぐものがあるかと思ったのだが、しっかり見直してみても彼女のライフは減っている。


「何か、いいカードを引いたんじゃないの?」


「そんなもの、虚勢(ブラフ)に決まってるでしょ。

 何かあるように見せかけて、判断をミスしてくれたら良かったんだけど。

 ふふっ……それが通用する相手じゃなかったみたいね」


「ええええ~~~っ!?

 まったくもう! ドキドキしたじゃない!

 そんな駆け引き、初心者に向かってする?」


「もう初心者じゃないわよ。

 ジュニアカップの予選では、誰も私を傷つけることができなかった。

 それを成し遂げた以上、あなたは予選に参加するプレイヤー以上に強い」


 爆風で軍帽を吹き飛ばされたクラウディアは、それを拾い上げて被り直すと、静かにコンソールを操作した。

 約束どおり、(いさぎよ)く負けを認めたのだ。


『対戦相手が降参(サレンダー)しました。

 バトルモード終了――勝者、リン』


「いぃ~……やったぁああ~~~!!」


 全てを出し尽くし、カードを1枚も持っていない手を振り上げて、リンは勝鬨(かちどき)をあげる。

 特殊ルールとはいえ、誰もアドバイスや応援の言葉をかけてくれない、たったひとりの戦いを制したのだ。

 今回は学んだことや心境の変化が多く、プレイヤーとして大きく前進したように感じる。


「この程度で喜んでる場合じゃないわよ。

 言っておくけど、大会の本戦は化け物ぞろい。

 私ですら、この戦法をあっさり破られて負けることになった」


「クラウディアですら、あっさり?」


「ええ……この世界の広さを知ることになったわ。

 もしも、リンが今後も強さを――

 より高みを目指すなら、私と行きましょう。ジュニアカップの本戦へ」


「より高みを目指す……」


 その言葉を聞いたとき、リンの脳裏に【アルテミス】をパックから引き当てたときの光景が蘇る。

 たしか、月の女神はこう言ったはずだ。


『あなたが遥かなる(いただき)、天にも届く高みに至らんと欲するならば――手に取るのです。この力を』


 あのときには何が何だか分からず、女神の言葉を理解しないまま手を伸ばしてしまった。

 だが、今なら少しだけ分かるような気がする。

 分かったぶんだけ【アルテミス】やカードたちと深くつながり、まだ見ぬ世界へ進めるような気がする。


「うん、行こう!

 どれだけ強い人たちがいるのか、あたしも見てみたい!」


 まっすぐに答えるリン。

 その向かい側で、クラウディアは初めて優しげな少女の笑みを見せる。

 こんな可愛い顔もできるのかとリンは驚いたが、言うとやめてしまいそうなので、黙っておくことにした。


 かくして顔合わせとなる戦いは終了し、両者は激戦を経た友となる。

 隣のバトルフィールドで【好戦的なエルフ】を召喚したユウと、それをコピーしたステラが過激な筋肉バトルを繰り広げていたことは、まだ知る(よし)もなかった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ