第16話 鋼鉄の機甲師団 その3
【 リン 】 ライフ:3600
パワード・スピノサウルス
攻撃2000/防御2000
【 クラウディア 】 ライフ:4000
ゴリアテ MkIII
攻撃1500/防御2600
孤高なるスナイパー
攻撃1000/防御700
特徴となる大きな背びれを立て、ワニのような顔で敵を見下ろすスピノサウルス。
リンがこれを手に入れるまで1週間ほどかかったが、当然ながら正攻法では1週間どころか1匹倒すだけでも相当な戦力を要する。
さすがにミッドガルドの野生個体と比べると弱体しているものの、それでも攻防2000。
相手側は戦車【ゴリアテ】が頑強な壁になっているが、こちらにも頼もしいユニットが来てくれた。
Cards―――――――――――――
【 パワード・スピノサウルス 】
クラス:レア★★★ タイプ:水棲
攻撃2000/防御2000
効果:バトル相手のユニットが装備しているリンクカード1枚を破棄する。
スタックバースト【水辺の王者】:永続:自プレイヤーのフィールドにいる【タイプ:水棲】のユニットに攻撃と防御+1000。
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「ガォオオオルルルッ」
窮地に陥ったリンを救うかのように現れた太古の王者は、乾燥した荒野を巨大な足で踏みしめながら威嚇する。
戦況を覆しかねない★3ユニットの登場に、クラウディアは少しだけ眉をひそめた。
「沼地の主、スピノサウルス……厄介な大物が出てきたわね」
「まだ、こっちのターンだよ! リンクカードをセット!
【バイオニック・アーマー】!」
Cards―――――――――――――
【 バイオニック・アーマー 】
クラス:アンコモン★★ リンクカード
効果:装備されているユニットに防御+500。このカードが取り除かれたとき、ターン終了までユニットに攻撃+500。
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ここで防御力をさらに強化。
サイバーな装甲が出現し、全長15mに達するスピノサウルスの巨体を包んでいく。
尻尾から背びれ、手足に至るまでメタリックに補強され、両目は雷鳴のような補強パーツに覆われて光り輝いた。
「グルァオオオオーーーーーーーッ!」
機械装甲を身にまとった大型恐竜。
その背びれは発電板のようにスパークを繰り返し、全身に青白い高圧電流が走る。
防御力2500となった『バイオニック・スピノサウルス』は、リンを守る強力なユニットとして立ちはだかった。
「うはぁ~、大きい~! かっこいい~!
なんかビリビリしてるけど……まだ負けるわけにはいかないよねっ。
あたしはこれでターンエンド!」
【ブリード・ワイバーン】を失った窮地から一点、現在のクラウディアでは突破できない頑丈な壁が完成。
しかし、数々の戦いを経験してきた軍服の少女は、この程度を苦境だとは思わない。
「私のターン、ドロー。
この『鋼鉄のクラウディア』の前で防衛戦なんて、面白いことをするわね。
それなら、本当の守りが――絶対的な防御がどういうものなのか見せてあげるわ」
そう言って、彼女は手札から1枚のカードを取り出した。
リンの脳裏に直感が走り、それこそが例の1枚なのだと察する。
「カードゲームのデッキには、出すカードや戦略……つまりはコンセプトが決められてるの。
あなたは【アルテミス】を主軸にワイバーンなどの代理アタッカーを使うデッキ。
だから、その恐竜に付けたようなリンクカードが多めに入ってる。
魔女のステラは、見るからに魔術デッキを使いそうね」
「(魔術じゃなくて宇宙怪獣の使い手だなんて、言っても信じてもらえないだろうなぁ……)」
「それじゃあ、私のほうが先に出すわよ――★4、スーパーレアカード。
見せあいましょう、お互いのすべてを!
ユニット召喚! 【ダイダロス】、起動!」
指先でカードを持ったクラウディアは、腕を横なぎに払う。
直後、カードは化学物質が燃焼するかのようにバチバチと激しく光り輝き、★4特有の召喚演出が始まることを匂わせた。
……が、月の女神と違って天空には何も変化がない。
一体どこから出てくるのかと、リンは周囲を見回していたが、相手のユニットは思わぬ場所から登場した。
「え……地震!?」
屋外にいても感じるほど強烈な地面の揺れ。
そして、鳴り響く警報ブザーと、どこからともなく灯る赤い非常ランプ。
クラウディアは動じることなく、不敵に笑いながら腕を組んで立っている。
やがて、彼女のはるか後方で地面が裂けながら盛り上がった。
人工建造物など何もない荒野の地中から、ビルほどの大きさがあるガレージが隆起してくる。
先ほどから鳴っているブザーとランプは地震警報ではない。
このガレージが出現する合図だったのだ。
ガレージということは当然、何かが内部に格納されている。
ウィイイインと機械的な音を立てて開いていく、10階建てのビルほどありそうな金属製の扉。
その奥から超大型ユニットが歩み出て、1歩ごとに地響きを立てながら前進した。
Cards―――――――――――――
【 要塞巨兵ダイダロス 】
クラス:スーパーレア★★★★ タイプ:機械
攻撃800/防御3400
効果:ガードしたときのみ発動。このユニットの防御が相手ユニットの攻撃を上回っていた場合、差の数値をダメージに変換して相手プレイヤーに与える。
スタックバースト【惑星破壊砲】:瞬間:このユニットの攻撃に防御ステータスを加算する。
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「ロ……ロボットだぁああああーーーーっ!!」
見上げながら驚愕するリンの視点からは、それが巨大なゴリラのように見えた。
全高およそ20m。
4つ足で歩行する機動要塞であり、頭や手足のパーツは類人猿を思わせる。
これまでリンが見てきたユニットの中で飛び抜けて大きく、スピノサウルスですら一回り小さく見えてしまう。
名の由来はギリシャ神話に登場する発明家にして名工。
科学文明の粋を極めた機動要塞は、まさに叡智が具現化した姿であった。
「私のデッキのコンセプトは絶対防御!
【ダイダロス】は、その防御力こそが最大の攻撃。
下手に手を出したら、あなた自身が吹き飛んでしまうわよ」
超大型要塞ユニットを使役するのは、ほんの150cm程度の女子中学生、『鋼鉄のクラウディア』。
ガレージは再び地中に戻っていき、フィールドは何事もなかったかのように夜の荒野へと戻る。
「これが★4……【アルテミス】以外の……!」
圧倒的な迫力にリンはゴクリと喉を鳴らし、こんなものと戦うのかと震え上がる。
しかし、すぐに気持ちを切り替えて戦況を詳しく確認した。
ワイバーンの仇を取るまで、せめて1回でもクラウディアのライフを削って認めさせるまでは、絶対に負けないと決めたのだ。
「(【ダイダロス】の防御力はすごく高いけど、攻撃力は3桁しかない。
でも、あの能力……ガードしたときにダメージを反射する感じ?
あれのせいで、大会予選で戦った人はクラウディアに1ダメージも通せなかったんだ)」
【要塞巨兵ダイダロス】は極端な性能をしており、★4の中では最も攻撃ステータスが低い代わりに、最高の防御ステータスを誇る。
完全に防御特化型という感じだが、ガードするだけで相手プレイヤーにダメージを与えるという効果は、全カードの中でも唯一無二。
まさしくスーパーレアと呼べる能力と、圧倒的な迫力で戦場にそびえ立つ姿は、対峙した者に強烈な畏怖を与える。
「私は、これでターンエンド。
さて……そっちはどう出るかしら、『マスター』?」
「(どうって言われても、【アルテミス】引いてないよ!
しばらくはスピノサウルスに頑張ってもらわなきゃ……)」
こちらも★4を出さなければいけないような流れだが、先ほど手札を交換して体勢を立て直したばかりなので、リンはいっぱいいっぱいだ。
どうにか奇跡を起こした後にドラマチックな展開を求められても、応じるには限度がある。
初心者を何だと思っているんだ。
そう考えながら自分のターンを迎え、デッキからカードを引いたリンだが――
「(あれ? この感じ……まさか!?)」
手に取った瞬間から胸に伝わる、特別な力を秘めたレアカードの気配。
持ち主であるリンが思っていた以上に、月の女神は空気が読めるようだった。




