表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
41/297

第16話 鋼鉄の機甲師団 その3

【 リン 】 ライフ:3600

パワード・スピノサウルス

 攻撃2000/防御2000


【 クラウディア 】 ライフ:4000

ゴリアテ MkIII

 攻撃1500/防御2600

孤高なるスナイパー

 攻撃1000/防御700

 特徴となる大きな背びれを立て、ワニのような顔で敵を見下ろすスピノサウルス。

 リンがこれを手に入れるまで1週間ほどかかったが、当然ながら正攻法では1週間どころか1匹倒すだけでも相当な戦力を要する。


 さすがにミッドガルドの野生個体と比べると弱体しているものの、それでも攻防2000。

 相手側は戦車【ゴリアテ】が頑強な壁になっているが、こちらにも頼もしいユニットが来てくれた。


Cards―――――――――――――

【 パワード・スピノサウルス 】

 クラス:レア★★★ タイプ:水棲

 攻撃2000/防御2000

 効果:バトル相手のユニットが装備しているリンクカード1枚を破棄する。

 スタックバースト【水辺の王者】:永続:自プレイヤーのフィールドにいる【タイプ:水棲】のユニットに攻撃と防御+1000。

――――――――――――――――――


「ガォオオオルルルッ」


 窮地に陥ったリンを救うかのように現れた太古の王者は、乾燥した荒野を巨大な足で踏みしめながら威嚇する。

 戦況を(くつがえ)しかねない★3ユニットの登場に、クラウディアは少しだけ眉をひそめた。


「沼地の主、スピノサウルス……厄介な大物が出てきたわね」


「まだ、こっちのターンだよ! リンクカードをセット!

 【バイオニック・アーマー】!」


Cards―――――――――――――

【 バイオニック・アーマー 】

 クラス:アンコモン★★ リンクカード

 効果:装備されているユニットに防御+500。このカードが取り除かれたとき、ターン終了までユニットに攻撃+500。

――――――――――――――――――


 ここで防御力をさらに強化。

 サイバーな装甲が出現し、全長15mに達するスピノサウルスの巨体を包んでいく。

 尻尾から背びれ、手足に至るまでメタリックに補強され、両目は雷鳴のような補強パーツに覆われて光り輝いた。


「グルァオオオオーーーーーーーッ!」


 機械装甲を身にまとった大型恐竜。

 その背びれは発電板のようにスパークを繰り返し、全身に青白い高圧電流が走る。

 防御力2500となった『バイオニック・スピノサウルス』は、リンを守る強力なユニットとして立ちはだかった。


「うはぁ~、大きい~! かっこいい~!

 なんかビリビリしてるけど……まだ負けるわけにはいかないよねっ。

 あたしはこれでターンエンド!」


 【ブリード・ワイバーン】を失った窮地から一点、現在のクラウディアでは突破できない頑丈な壁が完成。

 しかし、数々の戦いを経験してきた軍服の少女は、この程度を苦境だとは思わない。


「私のターン、ドロー。

 この『鋼鉄(はがね)のクラウディア』の前で防衛戦なんて、面白いことをするわね。

 それなら、本当の守りが――絶対的な防御がどういうものなのか見せてあげるわ」


 そう言って、彼女は手札から1枚のカードを取り出した。

 リンの脳裏に直感が走り、それこそが例の1枚なのだと察する。


「カードゲームのデッキには、出すカードや戦略……つまりはコンセプトが決められてるの。

 あなたは【アルテミス】を主軸にワイバーンなどの代理アタッカーを使うデッキ。

 だから、その恐竜に付けたようなリンクカードが多めに入ってる。

 魔女のステラは、見るからに魔術デッキを使いそうね」


「(魔術じゃなくて宇宙怪獣の使い手だなんて、言っても信じてもらえないだろうなぁ……)」


「それじゃあ、私のほうが先に出すわよ――★4、スーパーレアカード。

 見せあいましょう、お互いのすべてを!

 ユニット召喚! 【ダイダロス】、起動!」


 指先でカードを持ったクラウディアは、腕を横なぎに払う。

 直後、カードは化学物質が燃焼するかのようにバチバチと激しく光り輝き、★4特有の召喚演出が始まることを匂わせた。


 ……が、月の女神と違って天空には何も変化がない。

 一体どこから出てくるのかと、リンは周囲を見回していたが、相手のユニットは思わぬ場所から登場した。


「え……地震!?」


 屋外にいても感じるほど強烈な地面の揺れ。

 そして、鳴り響く警報ブザーと、どこからともなく灯る赤い非常ランプ。

 クラウディアは動じることなく、不敵に笑いながら腕を組んで立っている。


 やがて、彼女のはるか後方で地面が裂けながら盛り上がった。

 人工建造物など何もない荒野の地中から、ビルほどの大きさがあるガレージが隆起してくる。

 先ほどから鳴っているブザーとランプは地震警報ではない。

 このガレージが出現する合図だったのだ。


 ガレージということは当然、何かが内部に格納されている。

 ウィイイインと機械的な音を立てて開いていく、10階建てのビルほどありそうな金属製の扉。

 その奥から超大型ユニットが歩み出て、1歩ごとに地響きを立てながら前進した。


Cards―――――――――――――

【 要塞(ギガンティック)巨兵(・フォートレス)ダイダロス 】

 クラス:スーパーレア★★★★ タイプ:機械

 攻撃800/防御3400

 効果:ガードしたときのみ発動。このユニットの防御が相手ユニットの攻撃を上回っていた場合、差の数値をダメージに変換して相手プレイヤーに与える。

 スタックバースト【惑星破壊砲(プラネット・バスター)】:瞬間:このユニットの攻撃に防御ステータスを加算する。

――――――――――――――――――


「ロ……ロボットだぁああああーーーーっ!!」


 見上げながら驚愕するリンの視点からは、それが巨大なゴリラのように見えた。

 全高およそ20m。

 4つ足で歩行する機動要塞であり、頭や手足のパーツは類人猿を思わせる。

 これまでリンが見てきたユニットの中で飛び抜けて大きく、スピノサウルスですら一回(ひとまわ)り小さく見えてしまう。


 名の由来はギリシャ神話に登場する発明家にして名工。

 科学文明の粋を極めた機動要塞は、まさに叡智(えいち)が具現化した姿であった。


「私のデッキのコンセプトは絶対防御!

 【ダイダロス】は、その防御力こそが最大の攻撃。

 下手に手を出したら、あなた自身が吹き飛んでしまうわよ」


 超大型要塞ユニットを使役するのは、ほんの150cm程度の女子中学生、『鋼鉄(はがね)のクラウディア』。

 ガレージは再び地中に戻っていき、フィールドは何事もなかったかのように夜の荒野へと戻る。


「これが★4……【アルテミス】以外の……!」


 圧倒的な迫力にリンはゴクリと喉を鳴らし、こんなものと戦うのかと震え上がる。

 しかし、すぐに気持ちを切り替えて戦況を詳しく確認した。

 ワイバーンの(かたき)を取るまで、せめて1回でもクラウディアのライフを削って認めさせるまでは、絶対に負けないと決めたのだ。


「(【ダイダロス】の防御力はすごく高いけど、攻撃力は3桁しかない。

 でも、あの能力……ガードしたときにダメージを反射する感じ?

 あれのせいで、大会予選で戦った人はクラウディアに1ダメージも通せなかったんだ)」


 【要塞(ギガンティック)巨兵(・フォートレス)ダイダロス】は極端な性能をしており、★4の中では最も攻撃ステータスが低い代わりに、最高の防御ステータスを誇る。

 完全に防御特化型という感じだが、ガードするだけで相手プレイヤーにダメージを与えるという効果は、全カードの中でも唯一無二。

 まさしくスーパーレアと呼べる能力と、圧倒的な迫力で戦場にそびえ立つ姿は、対峙した者に強烈な畏怖を与える。


「私は、これでターンエンド。

 さて……そっちはどう出るかしら、『マスター』?」


「(どうって言われても、【アルテミス】引いてないよ!

 しばらくはスピノサウルスに頑張ってもらわなきゃ……)」


 こちらも★4を出さなければいけないような流れだが、先ほど手札を交換して体勢を立て直したばかりなので、リンはいっぱいいっぱいだ。

 どうにか奇跡を起こした後にドラマチックな展開を求められても、応じるには限度がある。

 初心者を何だと思っているんだ。


 そう考えながら自分のターンを迎え、デッキからカードを引いたリンだが――


「(あれ? この感じ……まさか!?)」


 手に取った瞬間から胸に伝わる、特別な力を秘めたレアカードの気配。

 持ち主であるリンが思っていた以上に、月の女神は空気が読めるようだった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ